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第2章 新天地編
第38話 邪教と聖教1・人は皆、仮面を被っている
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俺は黒鎧の団長ゼロを操り、邪教ゼロの集会所があるという四番街に来ていた。
ハエのたかるトイレの裏から地下に降りる。
着いた先は大部屋となっていた。天井や壁には黒を基調とした禍々しい布が垂れ下がっており、邪教らしい雰囲気が醸し出されている。
他にも、ゼロを模したであろう甲冑、漆黒の逆十字、動物の頭蓋骨などが並べられており、中二心をくすぐるような造りになっていた。
さらに部屋のいたるところで黒いローブを着た者たちが長机を置いて、ゼロに関する薄い本を売っている。
ただの同人誌即売会じゃねぇか!
「おお、邪神ゼロ様だ!」
誰が邪神だよ! 聖騎士団の団長様だぞ!
ワラワラと集まってきた信者を虫の塊を見た時のような軽蔑する目で眺めていると、仮面を被った身長二メートルくらいで筋肉質な大男が視界に入ってきた。
あ、コイツ絶対“シトローン”さんだろ。
近衛兵シトローン。この国の女王マルメロの近衛兵だ。No.8老兵軍師ダークと戦って敗れて以来、ダークを崇拝している。会う度に、ねちっこく弟子入りを志願して来る面倒くさいオッサン。
シトローンがこちらの視線に気付き、近寄ってきた。
「やぁゼロ様、はじめまして。私の名はシャドウ。よろしく、シャシャシャ!」
名前めっちゃダークに影響受けてんじゃねぇか。それになんだよ、その笑い声の“シャシャシャ”って。忍者が手裏剣投げる時しか使わねぇだろ。キャラ付け下手くそかよ。俺が言えた義理じゃねぇけどな!
「よろしくシャドウ殿。ところでどこかで会ったことはないか?」
「まさか。シャシャシャ!」
ああそう……。そういう体でいくのね。仕方ないから合わせてやるか。追求すんのもめんどくせぇし。
「シャドウ殿はなぜゼロ教に?」
お前はダークが好きなはずだろ。
「私はダーク老師推しでダーク教を作ろうとしたのですが、メンバーを五人集められず仕方なく邪教ゼロに入信した次第です。まぁ、聖教ポテトの方でも良かったのですが。シャシャシャ!」
消去法かよ。失礼な奴め。
それより今不穏な文字列があったな。“聖教ポテト”って何だよ。
「ポテトにも宗教があるのか?」
「はい、ゼロ教とは比較にならないほどの規模ですな」
「ちなみにシャドウ殿がそっちに入信しなかった理由は?」
「ポテト殿は大きくて怖いし」
メンタル乙女かよ。ポテトは身長二メートルに設定しているからオメーとリンゴ一個分くらいしか変わんねぇだろ。ビビるなよ。
「あ、まさかそれは!?」
シトローンは何かを発見したのか、突如ゼロから視線を外して近くの怪しい本を手に取った。
「こ、これは“シトローン×ダーク”の本……!」
うげぇ、その組み合わせ誰が得するんだよ。つーかゼロを出さない組み合わせ禁止じゃねぇのか? おい運営、このサークル出禁にしろ!
「まさかこんなレアモノがあるとは。しかし実に惜しい。ここは“ダーク×シトローン”にすべきであったな」
ん? 一緒だろ? と思ったが、名前の位置が逆なのか。そういや位置によって攻めとか受けとかあったな。……うん、どうでもいいわ! 変なこと考えさせんな!
シトローンが中身をパラパラと見始めた。
「……絵は悪くない。ただ、ダーク老師の台詞に所々違和感がある。やはり老師の魅力はまだ世間に浸透していないということか。老師、すみません。私の推し活が足りないばかりにまだ不憫な思いをさせてしまいます。ですがいつの日かダーク教をつくり、貴方を聖騎士団ナンバーワンの座に押し上げて見せます……!」
シトローンは天を仰ぎ、ここには居ないダークを想う。酔ってんじゃねぇぞ。誰かこのマイナーアイドルに入れ込むオッサンどうにかしろよ。
そのあと結局、その薄い本を買っていた。いわく、マイナーな組み合わせを描いてくれたことへの感謝と、次への期待を込めた投資だそうだ。本を描いたサークル主とは目の前で酷評されたにも関わらず、最後には仲良くなっていた。
あはは、無関係なら微笑ましく見れたんだけどな。なまじ知り合いだと色んなことが混ざり合ってモヤモヤするわ。……うん、もう考えないようにしよう。そうしよう。
俺が虚ろな目で思考を停止していると、背後に気配を感じた。
「おやおや、楽しそうじゃのう。わらわも混ぜてくれなのじゃ」
げ、この喋り方と声は。振り返ると仮面をつけた金髪ロングの女。うわぁ、絶対に女王“マルメロ”だろ。
マルメロは十六歳の若さでマルクト王国の女王をやっている。ノジャヒリ語とかいう独自言語というにはお粗末なものを使うやべぇ女王様だ。
「わらわの名前はマル。よろしくなのじゃ」
もっと名前と語尾と一人称ひねれよ。俺が言えた義理じゃねぇけど!
「なんだか女王陛下に似てるな。もしかして本人か?」
「よく言われるのじゃ。だがよく考えてみよ。女王がそのままの喋りで、なおかつ邪教に入ると思うかの?」
そうだけどさぁ……。そこをあえてやってますよ、って感じだろうなぁ。ドヤ顔してそうなのが仮面の下に透けて見えるわ。こいつがトップって、いつかこの国滅びるよな。夜逃げの準備はしておこう。
「さて、わらわも本を買うのじゃ」
彼女はキョロキョロ眺めた後、“ゼロ×マルメロ”本を手に取った。邪神と女王の同人なんてよく書こうと思ったな。国や時代によっては即死刑ものだろ。
「うーむ、竿役がゼロかぁ」
竿役言うな! つーかお前を題材にした卑猥な本だぞ! 怒れよ!
「ま、汚いオッサンのシトローンよりはマシかのう」
フッ、所詮は青臭いガキだな。竿役は汚ければ汚いほどいいと言うのに。イケメンとのイチャコラが見たいなら少女漫画でも見ときな、お嬢ちゃん。でもまぁシトローンが嫌なのは全面同意だわ。
マルメロが中身をパラパラとめくり始めた。が、すぐに動きが止まる。
「む! これはダメじゃ! ゼロの竿がデカ過ぎる! ヤツは間違いなく粗チンじゃぞ! 解釈違いなのじゃ!」
誰が粗チンじゃあ! 邪教に入信しといて神をバカにしてんじゃねぇぞ! つーか女王が使っていい言葉じゃねぇだろ! もっとロイヤルな言葉を使え! ロイヤル語彙!
その時だった。足音が響き、部屋に白い装束を着たもの達が駆け込んできた。
「なんだなんだぁ!?」
周囲がざわつく。
「我らは聖教ポテトの信徒である! 大人しくしろ!」
うわぁ。めんどくせぇ展開になりそう。
ハエのたかるトイレの裏から地下に降りる。
着いた先は大部屋となっていた。天井や壁には黒を基調とした禍々しい布が垂れ下がっており、邪教らしい雰囲気が醸し出されている。
他にも、ゼロを模したであろう甲冑、漆黒の逆十字、動物の頭蓋骨などが並べられており、中二心をくすぐるような造りになっていた。
さらに部屋のいたるところで黒いローブを着た者たちが長机を置いて、ゼロに関する薄い本を売っている。
ただの同人誌即売会じゃねぇか!
「おお、邪神ゼロ様だ!」
誰が邪神だよ! 聖騎士団の団長様だぞ!
ワラワラと集まってきた信者を虫の塊を見た時のような軽蔑する目で眺めていると、仮面を被った身長二メートルくらいで筋肉質な大男が視界に入ってきた。
あ、コイツ絶対“シトローン”さんだろ。
近衛兵シトローン。この国の女王マルメロの近衛兵だ。No.8老兵軍師ダークと戦って敗れて以来、ダークを崇拝している。会う度に、ねちっこく弟子入りを志願して来る面倒くさいオッサン。
シトローンがこちらの視線に気付き、近寄ってきた。
「やぁゼロ様、はじめまして。私の名はシャドウ。よろしく、シャシャシャ!」
名前めっちゃダークに影響受けてんじゃねぇか。それになんだよ、その笑い声の“シャシャシャ”って。忍者が手裏剣投げる時しか使わねぇだろ。キャラ付け下手くそかよ。俺が言えた義理じゃねぇけどな!
「よろしくシャドウ殿。ところでどこかで会ったことはないか?」
「まさか。シャシャシャ!」
ああそう……。そういう体でいくのね。仕方ないから合わせてやるか。追求すんのもめんどくせぇし。
「シャドウ殿はなぜゼロ教に?」
お前はダークが好きなはずだろ。
「私はダーク老師推しでダーク教を作ろうとしたのですが、メンバーを五人集められず仕方なく邪教ゼロに入信した次第です。まぁ、聖教ポテトの方でも良かったのですが。シャシャシャ!」
消去法かよ。失礼な奴め。
それより今不穏な文字列があったな。“聖教ポテト”って何だよ。
「ポテトにも宗教があるのか?」
「はい、ゼロ教とは比較にならないほどの規模ですな」
「ちなみにシャドウ殿がそっちに入信しなかった理由は?」
「ポテト殿は大きくて怖いし」
メンタル乙女かよ。ポテトは身長二メートルに設定しているからオメーとリンゴ一個分くらいしか変わんねぇだろ。ビビるなよ。
「あ、まさかそれは!?」
シトローンは何かを発見したのか、突如ゼロから視線を外して近くの怪しい本を手に取った。
「こ、これは“シトローン×ダーク”の本……!」
うげぇ、その組み合わせ誰が得するんだよ。つーかゼロを出さない組み合わせ禁止じゃねぇのか? おい運営、このサークル出禁にしろ!
「まさかこんなレアモノがあるとは。しかし実に惜しい。ここは“ダーク×シトローン”にすべきであったな」
ん? 一緒だろ? と思ったが、名前の位置が逆なのか。そういや位置によって攻めとか受けとかあったな。……うん、どうでもいいわ! 変なこと考えさせんな!
シトローンが中身をパラパラと見始めた。
「……絵は悪くない。ただ、ダーク老師の台詞に所々違和感がある。やはり老師の魅力はまだ世間に浸透していないということか。老師、すみません。私の推し活が足りないばかりにまだ不憫な思いをさせてしまいます。ですがいつの日かダーク教をつくり、貴方を聖騎士団ナンバーワンの座に押し上げて見せます……!」
シトローンは天を仰ぎ、ここには居ないダークを想う。酔ってんじゃねぇぞ。誰かこのマイナーアイドルに入れ込むオッサンどうにかしろよ。
そのあと結局、その薄い本を買っていた。いわく、マイナーな組み合わせを描いてくれたことへの感謝と、次への期待を込めた投資だそうだ。本を描いたサークル主とは目の前で酷評されたにも関わらず、最後には仲良くなっていた。
あはは、無関係なら微笑ましく見れたんだけどな。なまじ知り合いだと色んなことが混ざり合ってモヤモヤするわ。……うん、もう考えないようにしよう。そうしよう。
俺が虚ろな目で思考を停止していると、背後に気配を感じた。
「おやおや、楽しそうじゃのう。わらわも混ぜてくれなのじゃ」
げ、この喋り方と声は。振り返ると仮面をつけた金髪ロングの女。うわぁ、絶対に女王“マルメロ”だろ。
マルメロは十六歳の若さでマルクト王国の女王をやっている。ノジャヒリ語とかいう独自言語というにはお粗末なものを使うやべぇ女王様だ。
「わらわの名前はマル。よろしくなのじゃ」
もっと名前と語尾と一人称ひねれよ。俺が言えた義理じゃねぇけど!
「なんだか女王陛下に似てるな。もしかして本人か?」
「よく言われるのじゃ。だがよく考えてみよ。女王がそのままの喋りで、なおかつ邪教に入ると思うかの?」
そうだけどさぁ……。そこをあえてやってますよ、って感じだろうなぁ。ドヤ顔してそうなのが仮面の下に透けて見えるわ。こいつがトップって、いつかこの国滅びるよな。夜逃げの準備はしておこう。
「さて、わらわも本を買うのじゃ」
彼女はキョロキョロ眺めた後、“ゼロ×マルメロ”本を手に取った。邪神と女王の同人なんてよく書こうと思ったな。国や時代によっては即死刑ものだろ。
「うーむ、竿役がゼロかぁ」
竿役言うな! つーかお前を題材にした卑猥な本だぞ! 怒れよ!
「ま、汚いオッサンのシトローンよりはマシかのう」
フッ、所詮は青臭いガキだな。竿役は汚ければ汚いほどいいと言うのに。イケメンとのイチャコラが見たいなら少女漫画でも見ときな、お嬢ちゃん。でもまぁシトローンが嫌なのは全面同意だわ。
マルメロが中身をパラパラとめくり始めた。が、すぐに動きが止まる。
「む! これはダメじゃ! ゼロの竿がデカ過ぎる! ヤツは間違いなく粗チンじゃぞ! 解釈違いなのじゃ!」
誰が粗チンじゃあ! 邪教に入信しといて神をバカにしてんじゃねぇぞ! つーか女王が使っていい言葉じゃねぇだろ! もっとロイヤルな言葉を使え! ロイヤル語彙!
その時だった。足音が響き、部屋に白い装束を着たもの達が駆け込んできた。
「なんだなんだぁ!?」
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