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第2章 新天地編
第37話 庶民派ゼロさんの憂鬱
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巨大ダンゴムシとの激闘を終えて神樹セフィロトの根元へ帰還した鎧兵達。
「クローザ殿ー、開けてくれでごわすー!」
騎士団No.4茶色鎧で恰幅のいい“ドロダンゴ”を操作して幹に手を振った。
少しして幹の上部が開いたかと思うと、短髪赤毛日焼け肌の女クローザ二十歳がひょっこりと顔を出した。彼女は神樹の北側の門番兼巨獣加工屋だ。牛頭巨獣ミノタウロスを倒した時に色々と助けてくれた。
クローザがこちらを見下ろしている。ちらりと見える八重歯がかわいい。
「開けて欲しいか?」
「頼むでごわす!」
彼女は土色鎧のドロダンゴがお気に入りのようで、いつもちょっかいを出してくる。
「じゃあ三回回ってワンと言え」
「くるくるくる、にゃん!」
「ちょっとひねり入れてんじゃねぇよ」
万年中二病であり天邪鬼な俺は、人とは違うことをしたくなるお年頃なのだ。そういうのは学生時代に卒業しとけよ俺。
とにかく神樹の中に入れてくれた。中は巨大な空洞で、樹上に上がるための昇降機がある。うーん、ハイテクだねぇ。
「ちゃんと全員いるかー? 一、二、三……」
クローザが団員の数を確認し始めた。
数えるのは辞めてくれ、やられて数が減ったのバレちゃう。と言いたいが、俺本体の警備と敵の位置を伝達する係を除いて、出撃した時と同じ九十五体いるので問題ない。
ダンゴムシに破壊されてやられた鎧兵は本体の元に戻っているのに何故そんな芸当ができるかと言うと、結論から述べれば“ストック”を使ったのだ。
俺は鎧兵を同時に五百体召喚できるようになった訳だが、さすがに新しく四百体を引き連れて入国は無理があるだろう。友達ができたんですー、や、実は隠し子がいたんですー、なんて言い訳は通るまい。
なので余った兵は周囲の森の中に隠すことにした。その際、同じデザインの兵を五体ずつ作成したのである。それが初めに述べたストックだ。これで一体につき残機五。いつでも死ねます。
「チッ、全員いるな」
「舌打ちは良くないでごわす」
ともかくエレベーターで上に上がった騎士団を自動操作に切り替えて帰路に着かせた。
「ふー、終わった終わった」
俺本体は最近買った革のソファに身を沈めた。
俺のいる屋敷は女王の別邸を借りていたものだが、ミノタウロス討伐の褒賞として正式に俺のものになったのだ。
ということで貰ってすぐにリフォームしたんだよね。まず、壁をぶっ壊して広い部屋を三つほど繋げた。そして出来た新たな大部屋の真ん中にベッドとソファを置いた。これで完成。
リフォームの達人もひっくり返りそうな前衛住宅だ。まぁ仕方ないよね。下手に家具を置くと鎧兵を召喚した時にぐちゃぐちゃになるし。
部屋は柔道や剣道が出来そうなくらい広く、ど真ん中にベッドとソファがポツンとあるだけ。衣食住ってその人間の個性が出るよな。個性出過ぎだろ。
そして次の日。
疲労0の俺は黒鎧の団長ゼロを操作して庶民の畑仕事の手伝いをしていた。今やほとんどの国民が聖騎士団を仲間として認めてくれていて仲良しだ。
雑談をしながら平和に作業をしていると、平民っぽい女の子が走って近寄って来た。
「あ、あのこれ……!」
「えっ?」
ゼロに手紙を渡し、女の子は恥ずかしがりながら去っていった。
あの反応……もしかして、ラブレター!? ゼロさんにモテ期きたぁ!
しかし、ウキウキで裏を見ると——“ポテトさんへ”と書かれていた。おい。またかよ。薄々気付いてはいたけどさ。
騎士団No.99クリーム色の鎧のポテトは一部の国民から絶大な支持を受けている。まず見た目が派手で、身長は2メートルあり、体中にドリルが付いていて見るものを圧倒する。
武器も回天聖槍という穂先が回転する白い槍を使っていてロマンが溢れるものだ。ただし、歯医者さんの使うドリルと同じ音がするので、子供が聞くと泣いちゃうと思う。
見た目だけでなく、ポテトは実績もある。暴動を止めるきっかけになったり、演説で一部の国民をまとめたりなどなど。戦闘面でも最後の方まで生き残って、キーパーソンになったり、敵にトドメを刺したりといいとこ取りが多い。
それは助かっているのでいいが、万年中二病の俺的にはゼロさんを推していきたい。No.0に漆黒の鎧、死神が使うような長柄の鎌、そして百人の不死身な騎士団をまとめる団長。このカッコよさが理解できないとはマルクト国民のおバカ! ふんだ、もう知らない!
「ゼロさんや、こっちの草も刈ってくれんか?」
「あ、お任せください!」
死神が持つような長柄の鎌を水平に振るった。
「おお! 相変わらず見事だのー」
はぁ……これは草刈り器じゃないんだけどなぁ。
ゼロさんってよくよく考えたらあんまり活躍してないよな。騎士団ナンバーの若いやつの宿命で、大体一番に突撃して踏まれて砕けた炭みたいになっちゃうんだよ。何とか活躍させられねぇかなー。
「ラララー! ゼロ様、こんにちは!」
急に黒髪ロングの女性が歌いながら現れた。
「あ、シラユッキさん。こんにちは」
彼女は二十五歳の綺麗な女性だ。リンゴ農家をやっていて、最近仲良くなった新キャラである。
「リンゴ持ってきましたわー。よろしければお食べになってくださいなー」
「これはありがたい。シラユッキさんのリンゴは格別です」
「そう言って貰えると嬉しいですわ。ところで、そろそろお顔を拝見したいなー、なんて」
シラユッキさんは何かと顔を見たがる。まぁ分かる。隠されると見たくなるものだ。でも中身は空っぽだからな、見せられません。
「いや、それは騎士団の掟で出来ない。我々は容姿、年齢、性別、出身等で判断されないよう経歴を隠し、兜を脱がないようにしている」
嘘です。本当は顔がないだけ。まぁ、性別や年代は鎧の起伏や所作で分かるようにしてるけどね。
「フフフー、じゃあお顔を見せてくれたら何でも致しますわー」
う、何でも、か。男は美女のその魔法の言葉に弱いが、しかしだな。
少し話はズレるが、最近、もっぱらの悩みが“顔を晒したい願望”が強くなっているということ。誰かに本当の自分を見てもらいたい、認めてもらいたいと考えている。要は承認欲求的なものだ。
相談相手が欲しいというのもある。俺の魔法ワンオペを知ってもらえば何か使用方法に関して革新的なアイデアが得られるかもしれないし、間違いを訂正してもらえるかも知れない。だが。
「魅力的な提案だが、やはり出来ない」
俺が調べた限りこの世界に魔法はない。巨獣の死体を加工すれば似たようなものは出来るが、それはどちらかと言うと科学に近い。
俺の魔法ワンオペはノーリスクで何の素材も消費せず使用できるオンリーワンの存在。
その魔法を知られるということは相手に心臓を握らせることと同義。脅しの道具にされたり、上下関係を生んでしまう可能性を孕んでいて危険だ。まだ一年も共に過ごして居ないここの人間に教えることはできない。ただし、巨乳の女の子に迫られたら抗える自信はない。意志弱すぎんだろ俺!
「フフフー、そうですよね。無理言って申し訳ないですわー」
その時、シラユッキさんの背後から執事がゾロゾロやってきた。執事が一匹、執事が二匹、執事が三匹、ダメだ眠くなってきた。執事は結局七匹、じゃなかった七人いた。
「お嬢様、そろそろお時間です」
「あら、仕方ないですわー」
彼女は平民らしいがパトロンが多いらしい。貴族達が彼女の作るリンゴを気に入っていて、定期的に送って貰うかわりに様々な援助をして貰っているらしい。
「いつも思っていたのだが、なぜこんなに執事が?」
その俺の問いに目を輝かせるシラユッキさん。
「フフフー、それはですねぇ……たくさんの執事に囲まれて過ごすのが夢だったのですわー!」
ただの執事マニアだった。この国、ヤベェやつしかいねぇな。
そしてシラユッキさんを見送り、畑作業に戻る。しかし作業をしていたのもつかの間、突然、黒いフードを被った成人の男が現れた。
「ハァハァ、ぜ、ゼロ様……! その地獄の鎌で私の首を刎ねてください!」
えっ、こわっ。変質者? 変質者なんて俺だけで充分なんですけどー? 誰が変質者だよ。
「……は?」
俺が呆気に取られていると、後ろから来た別の黒ローブの者達が男を取り押さえた。
「こいつめ! 神との無断接触は規定違反だぞ!」
神? どういうことだ?
「お前達は何者だ?」
「これは失礼致しました。我々はゼロ様を陰ながら信奉している“邪教ゼロ”の一員です」
はぁ? つーか邪教って自分から名乗るものなの?
「なんだそれは? セフィロト教以外の宗教を信仰してはならないはずでは?」
セフィロト教とは神樹セフィロトを神として奉るマルクト王国の宗教だ。表面上は国民全てが入信している。
「いえ、神樹セフィロト様はお優しく、掛け持ちも許されています」
部活かよ。人数が足りない部とか掛け持ちしてる人いたよな。
「宗教ってそんな簡単に作れるものなのか?」
「五人いれば申請できます」
だから部活かよ。そんな簡単に許すなよ。どうなってんだこの国。
「不安なら仮入信できます」
部活かよ! 仮入部じゃあるまいし!
「しかも困ったら顧問がアドバイスしてくれます」
部活かよ! 役に立たない顧問も多いよな!
「他に特徴として集会所の隅には生殖器の落書きがあったりします」
部室かよ! 必ずと言っていいほど生殖器の落書きあるよな!
ここまで聞いて俺はため息をついた。アホらしすぎる。
「私にそのような宗教は必要ない。今すぐ解散してもらおう」
「それは出来ません。我々のことがいずれ必要になる時が来るでしょう」
いやこねぇよ! つーか、普通信奉する神の言うこと聞くだろ! 素直に解散しろよ!
「ゼロ様、大きな声では言えませんが、ポテト暗殺の際には是非お声かけを」
やめろ! 同一人物だぞ!
「それからダーク老人にもご注意を。一人でブツブツと意味ありげなことを呟いていたのを目撃した者が多数おります」
ダークとは騎士団No.8の老人型の黒鎧兵だ。ブツブツと意味ありげなことを呟き、裏切りそうな雰囲気があるのが特徴。もちろん俺なので裏切らない。
しかし新興宗教かー。悪いとは言わないけどあんまりいいイメージもないな。潰すとはいかないまでも管理しとく必要がありそうだ。
「集会所があるようだが、そこに案内してもらえるか? 神として挨拶しておきたい」
「おお! それは信徒達も喜ばれるでしょう! ささ、こちらへ。集会所は四番街の厠の裏にございます」
もっとマシなとこに作れよ。
「あ、それと内部は酸っぱい臭いがするのでご注意ください」
ぶ・し・つ・か・YO!
「クローザ殿ー、開けてくれでごわすー!」
騎士団No.4茶色鎧で恰幅のいい“ドロダンゴ”を操作して幹に手を振った。
少しして幹の上部が開いたかと思うと、短髪赤毛日焼け肌の女クローザ二十歳がひょっこりと顔を出した。彼女は神樹の北側の門番兼巨獣加工屋だ。牛頭巨獣ミノタウロスを倒した時に色々と助けてくれた。
クローザがこちらを見下ろしている。ちらりと見える八重歯がかわいい。
「開けて欲しいか?」
「頼むでごわす!」
彼女は土色鎧のドロダンゴがお気に入りのようで、いつもちょっかいを出してくる。
「じゃあ三回回ってワンと言え」
「くるくるくる、にゃん!」
「ちょっとひねり入れてんじゃねぇよ」
万年中二病であり天邪鬼な俺は、人とは違うことをしたくなるお年頃なのだ。そういうのは学生時代に卒業しとけよ俺。
とにかく神樹の中に入れてくれた。中は巨大な空洞で、樹上に上がるための昇降機がある。うーん、ハイテクだねぇ。
「ちゃんと全員いるかー? 一、二、三……」
クローザが団員の数を確認し始めた。
数えるのは辞めてくれ、やられて数が減ったのバレちゃう。と言いたいが、俺本体の警備と敵の位置を伝達する係を除いて、出撃した時と同じ九十五体いるので問題ない。
ダンゴムシに破壊されてやられた鎧兵は本体の元に戻っているのに何故そんな芸当ができるかと言うと、結論から述べれば“ストック”を使ったのだ。
俺は鎧兵を同時に五百体召喚できるようになった訳だが、さすがに新しく四百体を引き連れて入国は無理があるだろう。友達ができたんですー、や、実は隠し子がいたんですー、なんて言い訳は通るまい。
なので余った兵は周囲の森の中に隠すことにした。その際、同じデザインの兵を五体ずつ作成したのである。それが初めに述べたストックだ。これで一体につき残機五。いつでも死ねます。
「チッ、全員いるな」
「舌打ちは良くないでごわす」
ともかくエレベーターで上に上がった騎士団を自動操作に切り替えて帰路に着かせた。
「ふー、終わった終わった」
俺本体は最近買った革のソファに身を沈めた。
俺のいる屋敷は女王の別邸を借りていたものだが、ミノタウロス討伐の褒賞として正式に俺のものになったのだ。
ということで貰ってすぐにリフォームしたんだよね。まず、壁をぶっ壊して広い部屋を三つほど繋げた。そして出来た新たな大部屋の真ん中にベッドとソファを置いた。これで完成。
リフォームの達人もひっくり返りそうな前衛住宅だ。まぁ仕方ないよね。下手に家具を置くと鎧兵を召喚した時にぐちゃぐちゃになるし。
部屋は柔道や剣道が出来そうなくらい広く、ど真ん中にベッドとソファがポツンとあるだけ。衣食住ってその人間の個性が出るよな。個性出過ぎだろ。
そして次の日。
疲労0の俺は黒鎧の団長ゼロを操作して庶民の畑仕事の手伝いをしていた。今やほとんどの国民が聖騎士団を仲間として認めてくれていて仲良しだ。
雑談をしながら平和に作業をしていると、平民っぽい女の子が走って近寄って来た。
「あ、あのこれ……!」
「えっ?」
ゼロに手紙を渡し、女の子は恥ずかしがりながら去っていった。
あの反応……もしかして、ラブレター!? ゼロさんにモテ期きたぁ!
しかし、ウキウキで裏を見ると——“ポテトさんへ”と書かれていた。おい。またかよ。薄々気付いてはいたけどさ。
騎士団No.99クリーム色の鎧のポテトは一部の国民から絶大な支持を受けている。まず見た目が派手で、身長は2メートルあり、体中にドリルが付いていて見るものを圧倒する。
武器も回天聖槍という穂先が回転する白い槍を使っていてロマンが溢れるものだ。ただし、歯医者さんの使うドリルと同じ音がするので、子供が聞くと泣いちゃうと思う。
見た目だけでなく、ポテトは実績もある。暴動を止めるきっかけになったり、演説で一部の国民をまとめたりなどなど。戦闘面でも最後の方まで生き残って、キーパーソンになったり、敵にトドメを刺したりといいとこ取りが多い。
それは助かっているのでいいが、万年中二病の俺的にはゼロさんを推していきたい。No.0に漆黒の鎧、死神が使うような長柄の鎌、そして百人の不死身な騎士団をまとめる団長。このカッコよさが理解できないとはマルクト国民のおバカ! ふんだ、もう知らない!
「ゼロさんや、こっちの草も刈ってくれんか?」
「あ、お任せください!」
死神が持つような長柄の鎌を水平に振るった。
「おお! 相変わらず見事だのー」
はぁ……これは草刈り器じゃないんだけどなぁ。
ゼロさんってよくよく考えたらあんまり活躍してないよな。騎士団ナンバーの若いやつの宿命で、大体一番に突撃して踏まれて砕けた炭みたいになっちゃうんだよ。何とか活躍させられねぇかなー。
「ラララー! ゼロ様、こんにちは!」
急に黒髪ロングの女性が歌いながら現れた。
「あ、シラユッキさん。こんにちは」
彼女は二十五歳の綺麗な女性だ。リンゴ農家をやっていて、最近仲良くなった新キャラである。
「リンゴ持ってきましたわー。よろしければお食べになってくださいなー」
「これはありがたい。シラユッキさんのリンゴは格別です」
「そう言って貰えると嬉しいですわ。ところで、そろそろお顔を拝見したいなー、なんて」
シラユッキさんは何かと顔を見たがる。まぁ分かる。隠されると見たくなるものだ。でも中身は空っぽだからな、見せられません。
「いや、それは騎士団の掟で出来ない。我々は容姿、年齢、性別、出身等で判断されないよう経歴を隠し、兜を脱がないようにしている」
嘘です。本当は顔がないだけ。まぁ、性別や年代は鎧の起伏や所作で分かるようにしてるけどね。
「フフフー、じゃあお顔を見せてくれたら何でも致しますわー」
う、何でも、か。男は美女のその魔法の言葉に弱いが、しかしだな。
少し話はズレるが、最近、もっぱらの悩みが“顔を晒したい願望”が強くなっているということ。誰かに本当の自分を見てもらいたい、認めてもらいたいと考えている。要は承認欲求的なものだ。
相談相手が欲しいというのもある。俺の魔法ワンオペを知ってもらえば何か使用方法に関して革新的なアイデアが得られるかもしれないし、間違いを訂正してもらえるかも知れない。だが。
「魅力的な提案だが、やはり出来ない」
俺が調べた限りこの世界に魔法はない。巨獣の死体を加工すれば似たようなものは出来るが、それはどちらかと言うと科学に近い。
俺の魔法ワンオペはノーリスクで何の素材も消費せず使用できるオンリーワンの存在。
その魔法を知られるということは相手に心臓を握らせることと同義。脅しの道具にされたり、上下関係を生んでしまう可能性を孕んでいて危険だ。まだ一年も共に過ごして居ないここの人間に教えることはできない。ただし、巨乳の女の子に迫られたら抗える自信はない。意志弱すぎんだろ俺!
「フフフー、そうですよね。無理言って申し訳ないですわー」
その時、シラユッキさんの背後から執事がゾロゾロやってきた。執事が一匹、執事が二匹、執事が三匹、ダメだ眠くなってきた。執事は結局七匹、じゃなかった七人いた。
「お嬢様、そろそろお時間です」
「あら、仕方ないですわー」
彼女は平民らしいがパトロンが多いらしい。貴族達が彼女の作るリンゴを気に入っていて、定期的に送って貰うかわりに様々な援助をして貰っているらしい。
「いつも思っていたのだが、なぜこんなに執事が?」
その俺の問いに目を輝かせるシラユッキさん。
「フフフー、それはですねぇ……たくさんの執事に囲まれて過ごすのが夢だったのですわー!」
ただの執事マニアだった。この国、ヤベェやつしかいねぇな。
そしてシラユッキさんを見送り、畑作業に戻る。しかし作業をしていたのもつかの間、突然、黒いフードを被った成人の男が現れた。
「ハァハァ、ぜ、ゼロ様……! その地獄の鎌で私の首を刎ねてください!」
えっ、こわっ。変質者? 変質者なんて俺だけで充分なんですけどー? 誰が変質者だよ。
「……は?」
俺が呆気に取られていると、後ろから来た別の黒ローブの者達が男を取り押さえた。
「こいつめ! 神との無断接触は規定違反だぞ!」
神? どういうことだ?
「お前達は何者だ?」
「これは失礼致しました。我々はゼロ様を陰ながら信奉している“邪教ゼロ”の一員です」
はぁ? つーか邪教って自分から名乗るものなの?
「なんだそれは? セフィロト教以外の宗教を信仰してはならないはずでは?」
セフィロト教とは神樹セフィロトを神として奉るマルクト王国の宗教だ。表面上は国民全てが入信している。
「いえ、神樹セフィロト様はお優しく、掛け持ちも許されています」
部活かよ。人数が足りない部とか掛け持ちしてる人いたよな。
「宗教ってそんな簡単に作れるものなのか?」
「五人いれば申請できます」
だから部活かよ。そんな簡単に許すなよ。どうなってんだこの国。
「不安なら仮入信できます」
部活かよ! 仮入部じゃあるまいし!
「しかも困ったら顧問がアドバイスしてくれます」
部活かよ! 役に立たない顧問も多いよな!
「他に特徴として集会所の隅には生殖器の落書きがあったりします」
部室かよ! 必ずと言っていいほど生殖器の落書きあるよな!
ここまで聞いて俺はため息をついた。アホらしすぎる。
「私にそのような宗教は必要ない。今すぐ解散してもらおう」
「それは出来ません。我々のことがいずれ必要になる時が来るでしょう」
いやこねぇよ! つーか、普通信奉する神の言うこと聞くだろ! 素直に解散しろよ!
「ゼロ様、大きな声では言えませんが、ポテト暗殺の際には是非お声かけを」
やめろ! 同一人物だぞ!
「それからダーク老人にもご注意を。一人でブツブツと意味ありげなことを呟いていたのを目撃した者が多数おります」
ダークとは騎士団No.8の老人型の黒鎧兵だ。ブツブツと意味ありげなことを呟き、裏切りそうな雰囲気があるのが特徴。もちろん俺なので裏切らない。
しかし新興宗教かー。悪いとは言わないけどあんまりいいイメージもないな。潰すとはいかないまでも管理しとく必要がありそうだ。
「集会所があるようだが、そこに案内してもらえるか? 神として挨拶しておきたい」
「おお! それは信徒達も喜ばれるでしょう! ささ、こちらへ。集会所は四番街の厠の裏にございます」
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「あ、それと内部は酸っぱい臭いがするのでご注意ください」
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