上 下
27 / 99
第1章 誕生編

第27話 一人百役の利点6・踊り子トマティナ再び

しおりを挟む
 占い師クズヨさんをあしらった後、俺は騎士団No.1のファイアを酒場の踊り子トマティナの元へ向かわせていた。

 なぜファイアかというと、彼女は『情熱の感じられない男に興味はないのさ』と言っていたので、情熱から火を連想し、ファイアへとたどり着いたのだ。

 安直かも知れないが他に思いつかないので仕方ない。それに赤い鎧と赤いドレスで色的に相性がいいかなー、なんて考えもある。まぁ、嫌われていたら逆効果だが、その時は兵を変えればいい。

 ファイアが王都内の東にある一番人気らしい酒場にたどり着いた。しかし、扉は閉じられており営業準備をしている気配もない。ま、今は大変な時だし当然といえば当然か。飲食店というよりは娯楽施設に近い気がするし、酒が絡むとトラブルの元になるしなぁ。

 じゃあトマティナの家に直接行ってみるか。クローザに聞いておいてよかった。

 と、きびすを返した瞬間、酒場の裏辺りから音がした。気になってそちらに回ると、少し広めな空間で地味なエプロンドレスを着た女性が踊っていた。トマティナだ。ラッキー。今日は腰まであるロングの茶髪を一つに纏めてポニーテールにしている。

「よっ! 踊りの練習か?」

 気さくなファイアらしく軽めな挨拶をしてみた。トマティナはこちらに気付くと、露骨に嫌な顔をしてため息を吐いた。

「……昼間のホタルを見に来るなんて無粋な人さね」

 ひぇ、何そのお洒落な言い回し。何て返せばいいのよ。……ま、まぁ適当でいいか! ファイアとかいうバカ設定のやつで来て良かった。

「オレは無粋を擬人化したようなもんだからな!」

「もう来ないでって言ったでしょ」

「それはエアロにだろ? オレは言われてねーし」

「空気の読めない人さね」

「よく言われる。数少ないオレの良いところだぜ」

「それで何の用? 私の花でも散らしにきたの」

 何それ、イヤらしい。まぁでもどうせ死ぬならって開き直った行動をとる奴も出てくるよな。そんなこと俺がさせねぇけど。

「はぁ? 意味わかんねぇ。そういうの興味ねぇよ。つーかお願いがあんだよ。これ見てくれ」

 取り出した小袋を渡す。トマティナは中身を見て顔をしかめる。

「贈り物にしては人を選ぶさね」

「アンタ香水とか作れるんだろ? これと同じ匂いのもの大量に作ってくれよ」

「これを使えば巨獣を倒せるの?」

「その前段階で使うんだ。偶発的なことを排除するためのものなんだよ」

「そう……お金を貰えるならやってみるさね」

 あんまり乗り気じゃないな。ちょっと媚び売ってみるか。

「それとさ、踊り教えてくれよ。勝利を引き寄せそうなやつ!」

「ご機嫌取りのつもり?」

 ぎくっ。鋭いなぁ。こういうIQ高そうでミステリアスな女性と付き合いないから困り物だわ。クズヨさんが恋しい。彼女なら雑に扱っても許されるのに。でも頑張る。

「あん? 何でオレがオマエのご機嫌取らなきゃなんねぇんだ。オレは勝つためなら何でもやるってだけだ」

「本当、素直な人。……鎧は脱げないの?」

「掟だ。悪いね」

「じゃあ教えてあげない。大人しく帰りなさいな」

 クッ、負けないぞ。

「ふーん、そんじゃ聖騎士団の名のもとにここで勝手に踊るもんね」

 ファイアさん、ちょっとヤバいやつになるの巻。

 いきなり踊り始めるファイア。タコさんウインナーのようにクネクネ、カニカマのようにゴロゴロ、エビせんべいのようにのっぺりしたりした。

 なぜタコ、カニ、エビそのものじゃないかって? フッ、ありきたりなダンスは踊らない。それがこのダンスプロデューサーSHIRO ARIZUKAの流儀だからよ。

 さーて、トマティナの反応はどうかなー? キラッキラした目で見てくれてるだろうなー?

「…………」

 トマティナが白い目で見ていた。

 ですよね。

 だがしかし! 俺は演劇サークルで軽蔑の眼差しには慣れている。この程度の逆境、今まで俺の超演技力で跳ね返してきた。ほとんど失敗してたけど!

 とにもかくにも俺は踊り続ける。それはもう狂ったように。羞恥心? そんなものはとうの昔に捨ててきた! 恐怖心? そんなものはステップ踏んだら忘れるYO! チェケラ!

「……ッ」

 そして遂に彼女の口元が緩み始めた。隠すように手で押さえて後ろを向いたが、肩が震えていて笑いをこらえているのが分かる。

「……もう辞めて。教えてあげるから」

 勝ったぜ。後は土下座しかなかったから助かったぜ。

「むしろオレが教えようか?」

「フフ、辞めとくわ。酒場の売り上げが落ちそうだもの」

 失礼な。タコさんウインナー踊りかわいいだろ。

 彼女に数歩近づく。あ、そうだ。

「体に触れない方がいいんだよな」

 彼女はダンスに命を懸けており、ケガを避けるため体の接触を嫌うのだ。危ない危ない。触れたらゲームオーバーだもんな。って、一発当たったら死ぬシューティングゲームかよ。

「驚いた、少しは気遣いできるのね」

「おう、たまにはな!」

 そして、二人きりのダンスタイムが始まった。まず、彼女が正面に立ち、踊る。それをファイアがマネをする。徐々に難しくなるけれど、報酬に彼女の笑顔があるから苦にはならない。

 ミュージカル映画の導入のようで、今にも歌い出してラブロマンスが始まりそうな、幸福に満ちた空間。ただあんまり調子に乗って激しい動きをするのは自重しないとね。コケて頭が取れたらホラー映画に早変わりだから。

「へぇ、普通に踊れるのね」

「へへ、体を動かすことに関しては自信があるんだ。頭はてんでダメだけどな」

 トマティナがわずかに口端を上げて笑う。美人だなぁ。

「あなた名前は?」

「ファイアだよ。カッコいいだろ?」

「素敵ね。熱くて、素直で、あなたにピッタリ」

 うん、炎からイメージしてつくったキャラだからね。

「んでこれが勝利の踊りなのか?」

「いいえ、ただの基本のステップよ。おバカさん」

「おい」

 おどけて舌を出す彼女。

「別にそんなの無くても勝てると思うさね。女の勘だけど」

「いいね。女神の感覚に賭けてみるか。……んじゃそろそろ帰るぜ。例の件頼んだぞ」

 ちょっとキザ過ぎるか? さらにキザなセリフを思い付いた俺は振り返った。

「あとさ、オレは昼間のホタルも好きだぜ。だってカッコいいじゃん」

 トマティナは目を一瞬見開いて薄く笑った。

「……罪な人」

「?」

「何でもないわ。全部終わったら、エアロさん連れてきて。謝りたいの」

「なんだ気にしてたのか」

「あの時は踊り終わった直後で気が大きくなっていたさね。それと聖騎士団が急に現れたと聞いて受け入れられない気持ちがずっとあったの。それで二つが重なって、体に触れられたことで、ついカッとなっちゃった」

「うさん臭いもんな聖騎士団って」

 国民からしたらいきなり家にザビエルが住み着くようなもんだよな。何だよそのたとえ。

「でもあなたと話して少し好きになったわ。本当に私が大人気おとなげなかった」

 ほんの少しまぶたを下げて、反省の色を示している。何をしても大人びていて絵になるなぁ。

「そういやオマエ何歳だ?」

 我ながらガサツな質問。ファイアだしいいか。

「はぁ、繊細さに欠けるさね。まぁファイアらしいけれど。いいわ教えてあげる、十八よ。あとお前じゃなくてトマティナね」

 ええ、年下なのぉ? 大人び過ぎだろー? 最近の異世界女子怖いんですけどー?

「へぇ、マナティ結構若いんだな」

「誰がマナティよ。若さなんてどうでもいいでしょう? 人の価値は年齢じゃ決まらないわ」

 それ近衛兵シトローンさんに言ってやってくれ。

「全部終わったら今度こそダンス教えてくれよな」

「天国で、かしら?」

「まさか。聖騎士団アインに負けはねぇよ」

 嘘です。一度ボコボコにされました。これは俺と俺だけの秘密だよ。俺しかいねぇ。

 そしてトマティナに別れを告げて帰路に着いた。

 これで抱えている問題のほとんどが解決した。後はみんなに頼んでおいたものが完成するのを待つだけ。決戦の時は近い。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

無能スキルと言われ追放されたが実は防御無視の最強スキルだった

さくらはい
ファンタジー
 主人公の不動颯太は勇者としてクラスメイト達と共に異世界に召喚された。だが、【アスポート】という使えないスキルを獲得してしまったばかりに、一人だけ城を追放されてしまった。この【アスポート】は対象物を1mだけ瞬間移動させるという単純な効果を持つが、実はどんな物質でも一撃で破壊できる攻撃特化超火力スキルだったのだ―― 【不定期更新】 1話あたり2000~3000文字くらいで短めです。 性的な表現はありませんが、ややグロテスクな表現や過激な思想が含まれます。 良ければ感想ください。誤字脱字誤用報告も歓迎です。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~

雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

いらないスキル買い取ります!スキル「買取」で異世界最強!

町島航太
ファンタジー
 ひょんな事から異世界に召喚された木村哲郎は、救世主として期待されたが、手に入れたスキルはまさかの「買取」。  ハズレと看做され、城を追い出された哲郎だったが、スキル「買取」は他人のスキルを買い取れるという優れ物であった。

異世界に転生した俺は元の世界に帰りたい……て思ってたけど気が付いたら世界最強になってました

ゆーき@書籍発売中
ファンタジー
ゲームが好きな俺、荒木優斗はある日、元クラスメイトの桜井幸太によって殺されてしまう。しかし、神のおかげで世界最高の力を持って別世界に転生することになる。ただ、神の未来視でも逮捕されないとでている桜井を逮捕させてあげるために元の世界に戻ることを決意する。元の世界に戻るため、〈転移〉の魔法を求めて異世界を無双する。ただ案外異世界ライフが楽しくてちょくちょくそのことを忘れてしまうが…… なろう、カクヨムでも投稿しています。

処理中です...