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第1章 誕生編
第20話 決意
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「う、痛ってぇ……」
俺は二足歩行で牛顔の巨獣、仮称牛魔王にやられた後、何も片付けないまま床で寝てしまっていた。お陰で体が痛い。
兵隊をこっそり戻さないとなぁ。一旦、気付かれないように神樹から降ろして表から帰還させる。という体裁を整えなければならない。あーめんどくせー。
それと牛魔王の対策も考えないと。最近巨獣が付近に増えたのはアイツのせいだろうな。牛魔王がいるせいで木の巨獣ドリアードが移動して、それをエサにするオークも移動、スライムも水が無いからオークにくっ付いてきたってわけだ。
牛魔王を殺せば全て万事解決だろうけど、あんなのどうやって倒すんだ。百体の兵なんてアイツにとったら蟻を百匹踏み潰すくらい簡単だろう。
となるとやっぱり本体が行って物量攻撃で戦うしかない。でももし本体が見つかったら——。
「ダメだな。何にも考えたくない」
とりあえず目の前の作業を義務的にやっておこう。
真夜中、神樹から鎧兵を密かに降ろしていく。枝先は高位の聖職者しか立ち入れないので見つかることはないだろう。そして半分ほど降ろした頃には朝日が昇っていた。少し数は少ないが後は誤魔化せるはず。前も行けたしな。
「あー疲れた疲れた。さて、どうすっかなぁ」
作業を終えても牛魔王の対策は思いつかなかった。情報を集めないと。女王か近衛兵シトローンに聞けば何か分かるかもしれない。
でも……何のためにやるんだ?
国民のため? たった一ヶ月ちょっと交流しただけじゃないか。よく考えたら何の義理もないよな。
俺がやらなくて国が滅んだらどうする? 旅行で一回行った国がニュースで滅んだって聞いても悲しくなるのなんてその一日くらいだろ。それと同じですぐにどうでもよくなるよな。
それに雨だって降るかもしれないし、どっか違う川から補給出来るかもしれないじゃないか。俺がやらなくてもどうにかなるだろ。
そうだよな! よし、逃げよう! 逃亡したと思われたら後味悪いし、戦死したことにしよう。明日最後の特攻をかけると言って、そのまま帰らなければいい。迫真の演技をすればみんな信じるだろう。演技力だけはあるからな。
その後は知ったこっちゃない。情報を遮断して観測しなければ、国が滅びたか滅びてないか両方の状態が存在する。シュレーディンガーの猫ならぬシュレーディンガーのマルクト王国だ。うーん、俺天才。将来はノーベル賞受賞者だな! うん、間違いない! よーし、脱出準備だ!
「トンカツー、また居眠り?」
急な少女の声にドキッ、とした。モニターを見ると、門の前に金髪三つ編みの少女がいた。なんだムギッコか。こんな時に。俺は今から国際指名手配犯になるんだから邪魔すんなよ。
「寝てないトン」
「うそだぁ」
純真無垢な笑顔が心に刺さる。——ああ、嫌だ嫌だ。
「今日ね、お水あんまり飲まなかったよ。みんな頑張ってるからあたしも頑張ったの。えらい?」
——ああ、逃げたい。戦いたくない。
「えらいえらい。トンカツよりずっと凄いトン」
——クズに徹したいのに、何で俺は、クズになりきれないんだ。
「えへへ。お母さん言ってたよ。トンカツ達が絶対神樹さまを元気にしてくれるって。だからそれまでみんなでガマンして頑張ろうって」
——全部全部投げ捨てて何事もなかったように平穏に過ごせるバカならよかったのに。
なのになんで、この笑顔を守りたいなんて思ってしまうんだよ。逃げちゃダメなんだ、戦わなくちゃダメなんだって思っちゃうんだよ。
「任せるトン! このトンカツが修行の成果を見せてやるトン! シュッシュッ!」
虚空に正拳突き! 体を動かせ! ネガティブになるな! 本体も正拳突きだ!
「あはは! すごいすごーい!」
俺がみんなを守るんだ! 誰かが死ぬとしたら俺が牛魔王と相討ちになった時だけだ! そうだろ!?
「全部終わったらみんなで遊ぶトン!」
「本当!? わーい!」
ぴょんぴょん飛び跳ねて全身で喜びを表現している。素直っていいなぁ。
「ありがとうムギッコ」
「んー? なにがー?」
お前がいなかったら悪魔のような選択をするところだった。
「ちょっと疲れてて、でもムギッコのお陰で元気がみなぎってきたトン」
「よく分かんないけどよかったねー! そだ、こっそりパン持ってきたよ。あたしの分だけど、よかったら食べて!」
布に包まれた丸いパンを受け取った。ムギッコに目をやると指を咥えてジッと見ている。分かりやすいなー。
「今は胸がいっぱいで食べられないトン。ムギッコが食べてくれトン」
「だめだめ! 食べないと強くなれないよ?」
「じゃあ半分こにするトン。それで許して欲しいトン」
「もー、仕方ないなぁ。今回だけだよ?」
俺は半分に千切って少し大きい方をムギッコに渡した。彼女はリスのようにパンを口いっぱいに頬張って嬉しそうに食べている。よく見るとカワイイなぁ。娘にしたい。
「あ、そうだ。さっきみんなでお外に出てたでしょー?」
げ、見られてた……?
「な、何のことだがわからないトン」
「みんなで行列作って……おしっこしてたでしょ!!」
ズコー。
「いけないんだよ! 神樹さまが怒るんだから!」
「い、いや、違うトン。あれは、ちょっと涼んでただけだトン。お願いだからみんなには内緒にしといて欲しいトン」
「分かった! お母さんにだけ言っとく!」
おいこらガキ。
それはさておき時間がない。すぐに行動しないと。もう迷わない。必ず牛魔王を倒してやる!
俺は二足歩行で牛顔の巨獣、仮称牛魔王にやられた後、何も片付けないまま床で寝てしまっていた。お陰で体が痛い。
兵隊をこっそり戻さないとなぁ。一旦、気付かれないように神樹から降ろして表から帰還させる。という体裁を整えなければならない。あーめんどくせー。
それと牛魔王の対策も考えないと。最近巨獣が付近に増えたのはアイツのせいだろうな。牛魔王がいるせいで木の巨獣ドリアードが移動して、それをエサにするオークも移動、スライムも水が無いからオークにくっ付いてきたってわけだ。
牛魔王を殺せば全て万事解決だろうけど、あんなのどうやって倒すんだ。百体の兵なんてアイツにとったら蟻を百匹踏み潰すくらい簡単だろう。
となるとやっぱり本体が行って物量攻撃で戦うしかない。でももし本体が見つかったら——。
「ダメだな。何にも考えたくない」
とりあえず目の前の作業を義務的にやっておこう。
真夜中、神樹から鎧兵を密かに降ろしていく。枝先は高位の聖職者しか立ち入れないので見つかることはないだろう。そして半分ほど降ろした頃には朝日が昇っていた。少し数は少ないが後は誤魔化せるはず。前も行けたしな。
「あー疲れた疲れた。さて、どうすっかなぁ」
作業を終えても牛魔王の対策は思いつかなかった。情報を集めないと。女王か近衛兵シトローンに聞けば何か分かるかもしれない。
でも……何のためにやるんだ?
国民のため? たった一ヶ月ちょっと交流しただけじゃないか。よく考えたら何の義理もないよな。
俺がやらなくて国が滅んだらどうする? 旅行で一回行った国がニュースで滅んだって聞いても悲しくなるのなんてその一日くらいだろ。それと同じですぐにどうでもよくなるよな。
それに雨だって降るかもしれないし、どっか違う川から補給出来るかもしれないじゃないか。俺がやらなくてもどうにかなるだろ。
そうだよな! よし、逃げよう! 逃亡したと思われたら後味悪いし、戦死したことにしよう。明日最後の特攻をかけると言って、そのまま帰らなければいい。迫真の演技をすればみんな信じるだろう。演技力だけはあるからな。
その後は知ったこっちゃない。情報を遮断して観測しなければ、国が滅びたか滅びてないか両方の状態が存在する。シュレーディンガーの猫ならぬシュレーディンガーのマルクト王国だ。うーん、俺天才。将来はノーベル賞受賞者だな! うん、間違いない! よーし、脱出準備だ!
「トンカツー、また居眠り?」
急な少女の声にドキッ、とした。モニターを見ると、門の前に金髪三つ編みの少女がいた。なんだムギッコか。こんな時に。俺は今から国際指名手配犯になるんだから邪魔すんなよ。
「寝てないトン」
「うそだぁ」
純真無垢な笑顔が心に刺さる。——ああ、嫌だ嫌だ。
「今日ね、お水あんまり飲まなかったよ。みんな頑張ってるからあたしも頑張ったの。えらい?」
——ああ、逃げたい。戦いたくない。
「えらいえらい。トンカツよりずっと凄いトン」
——クズに徹したいのに、何で俺は、クズになりきれないんだ。
「えへへ。お母さん言ってたよ。トンカツ達が絶対神樹さまを元気にしてくれるって。だからそれまでみんなでガマンして頑張ろうって」
——全部全部投げ捨てて何事もなかったように平穏に過ごせるバカならよかったのに。
なのになんで、この笑顔を守りたいなんて思ってしまうんだよ。逃げちゃダメなんだ、戦わなくちゃダメなんだって思っちゃうんだよ。
「任せるトン! このトンカツが修行の成果を見せてやるトン! シュッシュッ!」
虚空に正拳突き! 体を動かせ! ネガティブになるな! 本体も正拳突きだ!
「あはは! すごいすごーい!」
俺がみんなを守るんだ! 誰かが死ぬとしたら俺が牛魔王と相討ちになった時だけだ! そうだろ!?
「全部終わったらみんなで遊ぶトン!」
「本当!? わーい!」
ぴょんぴょん飛び跳ねて全身で喜びを表現している。素直っていいなぁ。
「ありがとうムギッコ」
「んー? なにがー?」
お前がいなかったら悪魔のような選択をするところだった。
「ちょっと疲れてて、でもムギッコのお陰で元気がみなぎってきたトン」
「よく分かんないけどよかったねー! そだ、こっそりパン持ってきたよ。あたしの分だけど、よかったら食べて!」
布に包まれた丸いパンを受け取った。ムギッコに目をやると指を咥えてジッと見ている。分かりやすいなー。
「今は胸がいっぱいで食べられないトン。ムギッコが食べてくれトン」
「だめだめ! 食べないと強くなれないよ?」
「じゃあ半分こにするトン。それで許して欲しいトン」
「もー、仕方ないなぁ。今回だけだよ?」
俺は半分に千切って少し大きい方をムギッコに渡した。彼女はリスのようにパンを口いっぱいに頬張って嬉しそうに食べている。よく見るとカワイイなぁ。娘にしたい。
「あ、そうだ。さっきみんなでお外に出てたでしょー?」
げ、見られてた……?
「な、何のことだがわからないトン」
「みんなで行列作って……おしっこしてたでしょ!!」
ズコー。
「いけないんだよ! 神樹さまが怒るんだから!」
「い、いや、違うトン。あれは、ちょっと涼んでただけだトン。お願いだからみんなには内緒にしといて欲しいトン」
「分かった! お母さんにだけ言っとく!」
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