9 / 99
第1章 誕生編
第9話 勘違いな日常2・修道女ナナバ
しおりを挟む
女型鎧兵が貧民街に行っている一方、ゴリラっぽい鎧兵の騎士団No.17“ウホホイ”は、街の北東にある修道院に来ていた。
「まぁ! ウホホイさん! 来てくださったのね!」
ウホホイに気付いた修道女“ナナバ”が駆け寄ってきた。二十代後半ぐらいでタレ目。癖っ毛っぽい金髪がバナナのように跳ねてシスター服からはみ出している。
彼女とはちょっとした知り合いで、まだマルクト王国に入国が許可されず宙ぶらりんな状態だった頃、水や食料、薬草酒などを無償で分けてくれたのだ。
「ウホウホホホウホ!」
いきなり何言ってんだ俺、と初見なら誰もが思うだろう。ウホホイは激しい戦闘の末、脳の言語野をやられて上手く言葉を喋れなくなった、という設定なのだ。なんでそんな設定にしたの俺。
「まぁ! またモンスターを倒してきたのね! 凄いわぁ!」
何で通じるんだよ。
「ウッホーウホウホウッホッホッー」
この前のお礼に薬草酒の代金持ってきました。
「あらぁ、そんなのいいのに。困った時はお互い様でしょう?」
「ウッホホウッホホウッウッホー」
そうはいきません。修道院に恩を返さねば神に嫌われてしまいます。
「うふふ、義理堅いのね。でもやっぱり受け取れないわ。百人もいれば色々と物入りでしょう? そちらに使ってあげてくださいな。きっと神様もお許しになりますわ」
うーん、一人分でいいから駄々余りなんだよなー。
「ウホホイウホホイウッウッウッー」
では修道院へのお布施ということにするのはどうでしょう。
「そんな本当に気になさらなくても……でも、これ以上断るのは野暮ですわね。はい、ではありがたく頂戴します」
うんうん、良かった良かった。それともう一度だけ言っておこうか……なんで通じるんだよ!
ウホウホ言ってると何というか、人として何かが失われていく気がするウホ。
「あ、そうだわ! この前、品種改良して収穫時期を早めたバナナが採れたのですわ。それ良かったら持っていってくださいな」
へぇ、品種改良とか出来るのか。凄い技術が進んでいるんだなぁ。異世界の癖に。コラ、偏見は辞めなさい俺!
そうこうしている内にナナバさんがいそいそと修道院に入っていった。
数分後。
「お待たせしましたわ。どうぞ味見してみてくださいな」
地球にあるのとそっくりの美味そうな黄色いバナナの束。しかし、味見は困った。鎧兵は飲食出来ないのだ。一応、口の部分から鎧の中に入れることは可能だが、消化や転移はさせられないので歩いているうちに内部でバナナシェイクが完成してしまうだろう。
「あ、そうよね。気付かなくてごめんなさい」
うん? 何がだろう?
彼女はバナナを一本、房からむしり取り、皮を剥いて頬張った。
「うん、美味しいわね。もちろん毒はないわ」
毒味か。ありがたい。彼女も俺が聖騎士団に強行指名されて危うい立場にいることを理解してくれているのだろう。
「ウホホホ、ウホ」
せっかくだし一本食べます。皮ごと。
こんな事もあろうかと鎧の内側にポケット的なものを作っておいたからバナナ一本くらいは保存できるはず。
「良かったわ。って、えっ、皮ごと?」
「ウホ」
大丈夫です。
「そう、じゃあ。はい、あーん」
ナナバさんが口元にバナナを持ってくる。あーんって。子供じゃあるまいし。クールでナイスガイな俺はそんな幼稚な事はしない……と言いたいが、ここはさ、ほら、なんか、えっとそうそう! 仲良くしないといけないから! 仕方なくやりますか! いやーホントはやりたくないんだけどなー! ということでいただきまーす!
口の部分を開き、素早く丸呑みした。口内に甘さが広がる……訳はないが心が満たされていく気がする。そして。
美味しいよママぁ! ……ハッ、俺は何を言っているんだ。俺は硬派な男。普段は絶対そんな事口にしない。しかし、男というものはナナバさんのように母性の溢れる女性を前にすると幼児退行してしまうことがあるのだ。当社調べ。
もう一度言うが俺は硬派な男。もう二度とママなどと戯れ言を口にすることはないだろう。
「美味しい?」
「ウホウホ!」
「良かったぁ。そうだわ、お水も欲しいわよね」
この国の水は神樹から湧く。煮沸しなくても飲める素晴らしき水だ。俺の屋敷の周りにも湧いていて助かっている。しかし、液体はマズイ。鎧の隙間からお漏らししちゃう。
「あら、ここもなの」
水を取りに行くべく振り返ったナナバさん。しかし、水場にはゴルフカップくらいの穴が開いているだけで何も湧いていない。
「最近、水が湧かないことが増えたのよね。どうしたのかしら」
そういえば俺の屋敷の水場も湧かないことがあった。節水的なことかと思ったがどうやら違うらしい。ともかくちょうどいいので水は断った。
その後、少し談笑し、帰ろうとした時。
「お待ちになって」
こちらに向けるように空中で十字を切るナナバさん。
「神樹セフィロトのご加護がありますように」
神樹セフィロト。このマルクト王国を支える大樹の名だ。そしてその名を冠したセフィロト教という宗教があり、この国の大多数が入信している。当然ナナバさんも信徒の一人。俺の聖騎士団はそれらを保護するのが役割のひとつだ。以上、俺用のまとめでした。覚えられて偉いぞ俺!
「ウホウホ」
ありがとうございます。
と、ナナバさんに向けて頭を下げると、近付いて来た彼女に頭を撫でられた。
「うふふ、いい子いい子。気をつけてね」
ママぁ!
「まぁ! ウホホイさん! 来てくださったのね!」
ウホホイに気付いた修道女“ナナバ”が駆け寄ってきた。二十代後半ぐらいでタレ目。癖っ毛っぽい金髪がバナナのように跳ねてシスター服からはみ出している。
彼女とはちょっとした知り合いで、まだマルクト王国に入国が許可されず宙ぶらりんな状態だった頃、水や食料、薬草酒などを無償で分けてくれたのだ。
「ウホウホホホウホ!」
いきなり何言ってんだ俺、と初見なら誰もが思うだろう。ウホホイは激しい戦闘の末、脳の言語野をやられて上手く言葉を喋れなくなった、という設定なのだ。なんでそんな設定にしたの俺。
「まぁ! またモンスターを倒してきたのね! 凄いわぁ!」
何で通じるんだよ。
「ウッホーウホウホウッホッホッー」
この前のお礼に薬草酒の代金持ってきました。
「あらぁ、そんなのいいのに。困った時はお互い様でしょう?」
「ウッホホウッホホウッウッホー」
そうはいきません。修道院に恩を返さねば神に嫌われてしまいます。
「うふふ、義理堅いのね。でもやっぱり受け取れないわ。百人もいれば色々と物入りでしょう? そちらに使ってあげてくださいな。きっと神様もお許しになりますわ」
うーん、一人分でいいから駄々余りなんだよなー。
「ウホホイウホホイウッウッウッー」
では修道院へのお布施ということにするのはどうでしょう。
「そんな本当に気になさらなくても……でも、これ以上断るのは野暮ですわね。はい、ではありがたく頂戴します」
うんうん、良かった良かった。それともう一度だけ言っておこうか……なんで通じるんだよ!
ウホウホ言ってると何というか、人として何かが失われていく気がするウホ。
「あ、そうだわ! この前、品種改良して収穫時期を早めたバナナが採れたのですわ。それ良かったら持っていってくださいな」
へぇ、品種改良とか出来るのか。凄い技術が進んでいるんだなぁ。異世界の癖に。コラ、偏見は辞めなさい俺!
そうこうしている内にナナバさんがいそいそと修道院に入っていった。
数分後。
「お待たせしましたわ。どうぞ味見してみてくださいな」
地球にあるのとそっくりの美味そうな黄色いバナナの束。しかし、味見は困った。鎧兵は飲食出来ないのだ。一応、口の部分から鎧の中に入れることは可能だが、消化や転移はさせられないので歩いているうちに内部でバナナシェイクが完成してしまうだろう。
「あ、そうよね。気付かなくてごめんなさい」
うん? 何がだろう?
彼女はバナナを一本、房からむしり取り、皮を剥いて頬張った。
「うん、美味しいわね。もちろん毒はないわ」
毒味か。ありがたい。彼女も俺が聖騎士団に強行指名されて危うい立場にいることを理解してくれているのだろう。
「ウホホホ、ウホ」
せっかくだし一本食べます。皮ごと。
こんな事もあろうかと鎧の内側にポケット的なものを作っておいたからバナナ一本くらいは保存できるはず。
「良かったわ。って、えっ、皮ごと?」
「ウホ」
大丈夫です。
「そう、じゃあ。はい、あーん」
ナナバさんが口元にバナナを持ってくる。あーんって。子供じゃあるまいし。クールでナイスガイな俺はそんな幼稚な事はしない……と言いたいが、ここはさ、ほら、なんか、えっとそうそう! 仲良くしないといけないから! 仕方なくやりますか! いやーホントはやりたくないんだけどなー! ということでいただきまーす!
口の部分を開き、素早く丸呑みした。口内に甘さが広がる……訳はないが心が満たされていく気がする。そして。
美味しいよママぁ! ……ハッ、俺は何を言っているんだ。俺は硬派な男。普段は絶対そんな事口にしない。しかし、男というものはナナバさんのように母性の溢れる女性を前にすると幼児退行してしまうことがあるのだ。当社調べ。
もう一度言うが俺は硬派な男。もう二度とママなどと戯れ言を口にすることはないだろう。
「美味しい?」
「ウホウホ!」
「良かったぁ。そうだわ、お水も欲しいわよね」
この国の水は神樹から湧く。煮沸しなくても飲める素晴らしき水だ。俺の屋敷の周りにも湧いていて助かっている。しかし、液体はマズイ。鎧の隙間からお漏らししちゃう。
「あら、ここもなの」
水を取りに行くべく振り返ったナナバさん。しかし、水場にはゴルフカップくらいの穴が開いているだけで何も湧いていない。
「最近、水が湧かないことが増えたのよね。どうしたのかしら」
そういえば俺の屋敷の水場も湧かないことがあった。節水的なことかと思ったがどうやら違うらしい。ともかくちょうどいいので水は断った。
その後、少し談笑し、帰ろうとした時。
「お待ちになって」
こちらに向けるように空中で十字を切るナナバさん。
「神樹セフィロトのご加護がありますように」
神樹セフィロト。このマルクト王国を支える大樹の名だ。そしてその名を冠したセフィロト教という宗教があり、この国の大多数が入信している。当然ナナバさんも信徒の一人。俺の聖騎士団はそれらを保護するのが役割のひとつだ。以上、俺用のまとめでした。覚えられて偉いぞ俺!
「ウホウホ」
ありがとうございます。
と、ナナバさんに向けて頭を下げると、近付いて来た彼女に頭を撫でられた。
「うふふ、いい子いい子。気をつけてね」
ママぁ!
0
お気に入りに追加
59
あなたにおすすめの小説
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~
雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。
せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
いらないスキル買い取ります!スキル「買取」で異世界最強!
町島航太
ファンタジー
ひょんな事から異世界に召喚された木村哲郎は、救世主として期待されたが、手に入れたスキルはまさかの「買取」。
ハズレと看做され、城を追い出された哲郎だったが、スキル「買取」は他人のスキルを買い取れるという優れ物であった。
異世界に転移した僕、外れスキルだと思っていた【互換】と【HP100】の組み合わせで最強になる
名無し
ファンタジー
突如、異世界へと召喚された来栖海翔。自分以外にも転移してきた者たちが数百人おり、神父と召喚士から並ぶように指示されてスキルを付与されるが、それはいずれもパッとしなさそうな【互換】と【HP100】という二つのスキルだった。召喚士から外れ認定され、当たりスキル持ちの右列ではなく、外れスキル持ちの左列のほうに並ばされる来栖。だが、それらは組み合わせることによって最強のスキルとなるものであり、来栖は何もない状態から見る見る成り上がっていくことになる。
クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される
こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる
初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。
なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています
こちらの作品も宜しければお願いします
[イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる