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第1章 誕生編
第2話 聖騎士団アイン
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小国が入るほどの大樹の上に建国されたマルクト王国の玉座の間。
有塚しろの率いる“騎士団アイン”は巨獣オークを討伐したことで一時的に入国を許可されていた。
現在、騎士団No.0の“ゼロ”のみ玉座の前に跪いている。ゼロは騎士団アインを統率する団長だ。漆黒で重厚な鎧兜を着込み、死神のような柄の長い大鎌を使う。カリスマ性があり、他の団員から尊敬されている。という設定。
もちろん操作しているのは大卒フリーター二十三歳凡人の俺である。誰が凡人だよ。
「まさか本当にオークを倒したというのか……? 一人の犠牲も出さずに……?」
周囲に集まっている貴族達が騒いでいる。驚くのも無理はない。この世界では全てのモンスターが山のように巨大で人間では歯が立たない。
それをたった百人の騎士団で討伐し、更には一人の死者も出していないのだから余程のアホウでもない限り開いた口が塞がらなくなることだろう。
ちなみにこの世界では何故か日本語が通じる。カタカナ語もオッケー。よく分からないが平行世界的なものなのかも知れない。うーん、素晴らしき世界。
「顔を上げよ、ゼロ」
慎重に頭を上げる。ゼロの中身は空っぽで、俺本体が城の中庭に待機している他の団員に紛れて操作中なのだが、これがちょっと難しい。
首が取れようものならバッドエンド一直線。首を寝違えただけなんです。じゃ許されないわな。いや、ギリ行けるか? 行けねぇよ。
まぁ人間に殴られたくらいじゃ取れないから杞憂だと思うけど、一応細心の注意を払わないとね。
頭をロボットや人形に思われないようヌルヌルと動かして、豪華な椅子に着座した女王“マルメロ”を見上げる。胸元まで伸びた長い金髪で毛先がカールしている。澄んだ青い瞳。年齢は十代後半くらい。どう見ても王としては若すぎるような。
「言いつけ通り巨獣を倒してきたようじゃな。やりおるの。のじゃのじゃ、うふふ」
マルメロが納得したように喉を鳴らした。五頭も倒したんだからな、そろそろここで暮らすの認めてくれよ。
……うん、その前に気になる一文あったね。『のじゃのじゃ、うふふ』って何だよ。あらあら、うふふの亜種かよ。気になるけど聞けそうな雰囲気じゃねぇよな。仕方ない、次行こう次!
「では約束通りお主らを国の聖騎士団として迎え入れよう」
やったぜ。って、“聖”騎士団ってなんだ。ただの騎士団でいいんだが。というか国の片隅に住まわせてくれれば文句ないんだけど。森で巨獣に追い回されるのだけは勘弁願いたいから。
「な、聖騎士団だと!? 女王陛下は気でも狂ったか……!」
脇で事の成り行きを眺めていた貴族達が騒ぎ出す。
俺は鎧の特殊能力、というにはしょっぱい力である集音機能を強めて周囲の声を拾う。要は聞き耳を立てる的なことだ。
「鎧兜も脱がぬ不逞の輩を受け入れるだけでも馬鹿げているというのに、由緒ある聖騎士団の称号を与えるなど言語道断だ」
「教皇聖下の許可も得たということか? いや、まさかな」
「やはり、王にするには若過ぎた。無能もここまで行くと笑えぬわ」
「人形でも置いておいた方がマシであるな」
女王と俺に対する悪口皮肉と罵詈雑言の嵐。当然、黄色い声援は無し。言いたい放題だな。ともかく聖騎士団ってのは誰もが貰える称号ではないらしい。
マルメロを観察してみる。苦労皺ひとつない綺麗な肌。王というより深窓の令嬢って感じだ。どう見ても操り人形だよな。誰か悪い大人的な奴が裏で糸を引いているはず。やだー怖ーい。
女王の隣にいる、俺から向かって左の四十代くらいで鎧を着た背の高い近衛兵らしきオッサンか、それとも右の首元に蛇の刺青が見えている三十代くらいの宰相っぽい長髪の男か。それとも他にいるのかな。
「静粛に! 静粛に!」
蛇のタトゥーの男が声を張り上げ、ギャラリーを宥めた。うーん遠くまでよく通るイケボだ。俺もそうなりたかったなぁ。ふん、今は加工できるから気にしてないし! そう、気にしてないし!
と、内心遊んでいると、場が静まり返り、女王が口を開く。
「式典は後日執り行う。それまでは妾の別邸で羽を休めるといい」
「寛大なお心遣いに感謝いたします女王陛下(CV.俺)」
厄介そうな役職を与えられたが、何はともあれここに住めるのは大きい。しばらくやっかみはあるだろうが少しずつ認めさせていけばいい。最悪の場合、逃亡すればいいしな。
それにどんな問題が起きても対処できる自信がある。何せ俺には誰にも言っていない最大の秘密、“魔法ワンオペ”があるのだから。
俺は鎧の下の口端を歪めニヤリと笑い、心の中で呟いた。
すまない民よ。その聖騎士団、実は全員俺なんだ。
有塚しろの率いる“騎士団アイン”は巨獣オークを討伐したことで一時的に入国を許可されていた。
現在、騎士団No.0の“ゼロ”のみ玉座の前に跪いている。ゼロは騎士団アインを統率する団長だ。漆黒で重厚な鎧兜を着込み、死神のような柄の長い大鎌を使う。カリスマ性があり、他の団員から尊敬されている。という設定。
もちろん操作しているのは大卒フリーター二十三歳凡人の俺である。誰が凡人だよ。
「まさか本当にオークを倒したというのか……? 一人の犠牲も出さずに……?」
周囲に集まっている貴族達が騒いでいる。驚くのも無理はない。この世界では全てのモンスターが山のように巨大で人間では歯が立たない。
それをたった百人の騎士団で討伐し、更には一人の死者も出していないのだから余程のアホウでもない限り開いた口が塞がらなくなることだろう。
ちなみにこの世界では何故か日本語が通じる。カタカナ語もオッケー。よく分からないが平行世界的なものなのかも知れない。うーん、素晴らしき世界。
「顔を上げよ、ゼロ」
慎重に頭を上げる。ゼロの中身は空っぽで、俺本体が城の中庭に待機している他の団員に紛れて操作中なのだが、これがちょっと難しい。
首が取れようものならバッドエンド一直線。首を寝違えただけなんです。じゃ許されないわな。いや、ギリ行けるか? 行けねぇよ。
まぁ人間に殴られたくらいじゃ取れないから杞憂だと思うけど、一応細心の注意を払わないとね。
頭をロボットや人形に思われないようヌルヌルと動かして、豪華な椅子に着座した女王“マルメロ”を見上げる。胸元まで伸びた長い金髪で毛先がカールしている。澄んだ青い瞳。年齢は十代後半くらい。どう見ても王としては若すぎるような。
「言いつけ通り巨獣を倒してきたようじゃな。やりおるの。のじゃのじゃ、うふふ」
マルメロが納得したように喉を鳴らした。五頭も倒したんだからな、そろそろここで暮らすの認めてくれよ。
……うん、その前に気になる一文あったね。『のじゃのじゃ、うふふ』って何だよ。あらあら、うふふの亜種かよ。気になるけど聞けそうな雰囲気じゃねぇよな。仕方ない、次行こう次!
「では約束通りお主らを国の聖騎士団として迎え入れよう」
やったぜ。って、“聖”騎士団ってなんだ。ただの騎士団でいいんだが。というか国の片隅に住まわせてくれれば文句ないんだけど。森で巨獣に追い回されるのだけは勘弁願いたいから。
「な、聖騎士団だと!? 女王陛下は気でも狂ったか……!」
脇で事の成り行きを眺めていた貴族達が騒ぎ出す。
俺は鎧の特殊能力、というにはしょっぱい力である集音機能を強めて周囲の声を拾う。要は聞き耳を立てる的なことだ。
「鎧兜も脱がぬ不逞の輩を受け入れるだけでも馬鹿げているというのに、由緒ある聖騎士団の称号を与えるなど言語道断だ」
「教皇聖下の許可も得たということか? いや、まさかな」
「やはり、王にするには若過ぎた。無能もここまで行くと笑えぬわ」
「人形でも置いておいた方がマシであるな」
女王と俺に対する悪口皮肉と罵詈雑言の嵐。当然、黄色い声援は無し。言いたい放題だな。ともかく聖騎士団ってのは誰もが貰える称号ではないらしい。
マルメロを観察してみる。苦労皺ひとつない綺麗な肌。王というより深窓の令嬢って感じだ。どう見ても操り人形だよな。誰か悪い大人的な奴が裏で糸を引いているはず。やだー怖ーい。
女王の隣にいる、俺から向かって左の四十代くらいで鎧を着た背の高い近衛兵らしきオッサンか、それとも右の首元に蛇の刺青が見えている三十代くらいの宰相っぽい長髪の男か。それとも他にいるのかな。
「静粛に! 静粛に!」
蛇のタトゥーの男が声を張り上げ、ギャラリーを宥めた。うーん遠くまでよく通るイケボだ。俺もそうなりたかったなぁ。ふん、今は加工できるから気にしてないし! そう、気にしてないし!
と、内心遊んでいると、場が静まり返り、女王が口を開く。
「式典は後日執り行う。それまでは妾の別邸で羽を休めるといい」
「寛大なお心遣いに感謝いたします女王陛下(CV.俺)」
厄介そうな役職を与えられたが、何はともあれここに住めるのは大きい。しばらくやっかみはあるだろうが少しずつ認めさせていけばいい。最悪の場合、逃亡すればいいしな。
それにどんな問題が起きても対処できる自信がある。何せ俺には誰にも言っていない最大の秘密、“魔法ワンオペ”があるのだから。
俺は鎧の下の口端を歪めニヤリと笑い、心の中で呟いた。
すまない民よ。その聖騎士団、実は全員俺なんだ。
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