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すまない魔王。その四天王、実は全員俺なんだ
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ここは魔王城。玉座に座る女魔王が貧乏ゆすりをしてイラついていた。
そこに四天王一の美男子にして最強の男と自他共に認める俺こと、イエメンがやってきた。
「お呼びでしょうか。魔王様」
「うん、アンタと同じ四天王のジョーっているじゃん?」
四天王最弱の男だ。実はそいつの正体は俺である。付け加えると残り二人の四天王も俺である。昔はきっちり四人いたのだが、魔王のパワハラ、給料未払い、なんかムカつくなどの理由でみんな辞めていったのだ。
「アイツさぁ、冷蔵庫の麦茶一口分だけ残してやがったのよ」
魔王の癖に実に庶民的な悩みである。こういうみみっちいことを気にするカリスマ性の無さも四天王が辞めていった原因の一つだ。
ただ、麦茶の件は俺が悪いのも確かだ。きっちり飲み干して新しい麦茶を作っておくべきだったのだが、コップ一杯分注いだところで魔王から呼び出しをくらい、そのままにしてしまったのだ。結論、魔王も悪い。
「それはそれは。後で厳しく言っておきます」
「あとさぁ、トイレのペーパー少しだけ残してやがったのよ。麦茶もそうだけど普通次の人のこと考えて交換しておくよね?」
魔王の癖に実に庶民的な悩みである。ただ、トイレットペーパーの件は俺が悪いのも確かだ。トイレを済ませた後、急な敵襲で変える暇が無かったのだ。帰ってからやろうと思っていたが忘れていた。
しかし、その一回だけのはずなのであまり責めないで欲しかった。それにペーパー補充をしているのは俺なのでいいだろう。結論、魔王が言うな。
「あとさぁ!」
まだあるのか。今度は魔王らしい悩みであって貰いたい。が。
「水道の蛇口固く閉めすぎ! ジャムの蓋も! 女子も使うってこと考えて欲しいわ!」
魔王が女子って。ジャムの蓋も開けられない魔王って。……もう何も言うまい。その後も愚痴が延々と続いた。
「ふぅ、話したらスッキリしちゃった。聞いてくれてありがと」
素敵な笑顔。顔だけはいいので、初対面の男なら絆されただろうが俺は騙せない。鞭で百回叩いた後に飴玉一個与えたところで許されるわけではないのだ。
そんな感じなのに、なぜ俺が四天王やっているかというと二つ理由がある。一つは、給料を四人分貰えるからだ。もう一つは——とその前に魔王が喋り出した。
「あ、そうだ。シロちゃん呼んでくれる?」
シロとは四天王の紅一点女幹部だ。もちろん俺である。
俺はやれやれと思いながら麦茶とトイレの点検をして時間を潰した後、シロに化けて魔王の玉座に戻った。
「お呼びかしら魔王様?(裏声)」
「あ、シロぉ! 聞いてよー、さっきさぁイエメンと結構話しちゃったの!」
女魔王は顔を赤らめてモジモジしている。
察しのいい有識者ならお分かりだろう。そう、四天王随一の美男子イエメンに恋をしているのだ。
「へぇ、なにを話したんですの?」
「ジョーの悪口よ。イエメンったらとても楽しそうに聞いてくれたわ」
いつ俺が楽しそうな顔をしたのか。恋は盲目を変に発揮したようだ。今度コンタクトレンズを薦めてみよう。
「はぁ、魔王様。悪口陰口はダメですわ。察しのいい人は『どこかで自分の悪口も言われているのでは』と思うもの。そういう方は恋愛対象から外されてしまいますわ」
「え、なんで? 言うわけないじゃん!」
イエメンだけな。他三人の四天王に対してはローテーションで陰口言いやがって。
「仲良くなり、距離も近くなれば相手の嫌なところが見えてくるものですわ。そうなれば普段の陰口が自然と口をついてしまいますわ。聡明な方ならそこまで読んで身を引くと思いますの」
「うーん、そうかなぁ? イエメンって何かちょっとバカっぽいし大丈夫じゃない?」
コラ、誰がバカだ。
「あ、でも、し、下ネタ的なことも話したよ! これは仲が進展したと言ってもいいんじゃない?」
下ネタ……ああトイレットペーパーの下りか。下ネタって程でもないような。
「バカですわね。下品なネタは諸刃の剣。嫌いな殿方も多いですわ。むしろ距離が開いた可能性の方が高いと思いますの」
下ネタには大きく分けて二種類ある。茶色かピンクかだ。ピンクの方ならまだいいが、茶色だと恋愛に発展しにくそうではある。そもそもどちらの方向性だろうと下ネタ自体に引いてしまう男もいるわけで、仲良くなっていないならかなり博打な話題になってしまうだろう。結論、魔王はバカ……じゃなかったズレている。
「ぶーぶー」
魔王は頬を膨らませて抗議している。リアクションだけ可愛い。
その時だった。頭に矢が刺さったたぬき型モンスター、ポンポコポン(派遣社員)が入ってきた。
「魔王様、勇者がすぐそこまで来ているポン!」
「えっ嘘でしょ!? ちょっと待ってよ! この前届いた勇者からのお中元には来週の日曜日に来るって書いてあったんだけど!?」
どこの世界に敵に攻撃時間を教える勇者がいるのか。お中元が爆弾じゃなかっただけありがたく思え。
「とりあえずポンポコポン、あんた時間稼ぎなさい!」
「分かりましたポン! その前にトイレ行くポン!」
もう戻って来ないだろう。派遣社員には荷が重い。
「どうしよどうしよ、あ、そうだ! シャトー呼んで!」
魔王の掛け声にすぐさまシロと入れ替わりで駆けつける。四天王の頭脳、メガネ老人風のシャトーだ。もちろん俺である。
「お呼びですかな魔王様」
「勇者が来てんのよ! すぐそこまで! 何か策ない!?」
「諦めて勇者に投降するのが適切でしょうな」
妥当であろう。この内部崩壊した組織では勝てそうもない。
「やだやだ! あの勇者なんか濃いめの顔で毛深くて生理的に無理なんだもん!」
「左様でございますか……」
理由が私的過ぎる。薄めのイケメンなら許される感やめろ。
「もう! こうなったら仕方ない! 四天王全員集合よ! それなら勝てるはずよ!」
ついに来たか。
「残念ですが、集まれませんな」
「仲が悪いんだっけ!? そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!!」
……こうなったら仕方ない。真実を話すとしようか。
「すまない魔王。その四天王、実は全員俺なんだ」
「……えっ? 何言って——」
俺が自分の顔に触れた瞬間、四天王最弱の男ジョーの顔に変わった。
「な、な!?」
「オデ、ウソツイテタ、ゴメン」
「いや喋り方は普通でいいでしょ! あーもう、そんなことどうでもよくて、えっと待って……し、シロもアンタなの?」
「はい。シロも、俺なんですわよ(裏声)」
顔が女幹部シロに変わる。体はシャトーなので違和感がすごいだろう。
「う、うそーん! 待って、待って。この前さ、女子モンスター同士でパジャマパーティーしたじゃん? あれもアンタだったわけ?」
「もちのろんでございます」
「え、え、じゃあ一緒にお風呂入ったのもアンタ?」
「乳首しか見てないので大丈夫です」
「バカタレ。見られたくないとこベストスリーに入るんですけど?」
「色はシャケおにぎりだったので自慢していいですよ」
「待って、何でおにぎりにしたの? 外側のノリの部分か内側のシャケの部分で天と地ほどの差があるんですけど? てかオニギリの時点で外側の可能性大なんですけど?」
「ご飯かもしれませんよ? ニチャア」
「ニチャアじゃないよ! まず謝りなさいよ!」
「それはできません。腐っても悪の組織の幹部ですから」
「うわ、それずるくない? じゃんけんでいうならグーチョキパー同時に出してハイ無敵ーってやってるようなもんじゃん」
「パードゥン?」
「何でこんなやつ幹部にしたんだろ」
あきれる魔王。ちょっとバカにし過ぎたな。日頃の鬱憤が溜まっていたからついやってしまった。謝らないけど。
「あ、そうだ……ってことはイエメンもあんたなの?」
「はい」
「……じ、じゃあ私がアンタをす、好きだってこと……」
「はい存じております」
「いやああああああ! 忘れてぇぇぇ!」
顔を両手で抑えて耳まで真っ赤になった魔王。リアクションだけ可愛い。
直後、遠くから爆発音が聞こえる。
「あ! こんなことしてる場合じゃないわ! 勇者来ちゃうじゃん!」
「それならご安心を。実は勇者の正体も——」
「えっ、この流れ、まさかまさか!?」
「四天王である俺の変身した姿——」
「キタキタキタ!?」
「ではございません」
「おいコラ、何でタメたの? ちょっと安心して旅行のプラン考え始めてたわ」
その時、矢の刺さったキツネ型モンスター、コンココーン(パート清掃員)が入ってきた。
「報告! 勇者一行がまもなく玉座の間に到着しますコン!! 私はトイレに行くので! それでは!」
もう戻ってこないだろう。パートには荷が重い。
「ヤバいヤバい! こうなったら私と協力して倒そう! 二人なら何とかなるよ!」
「いいですが、俺は完全に変身するまで八分かかりますよ」
「おっそ! カップ麺二個作れるわ!」
「いや、同時に作ればいくらでも作れますよ。それに魔王様の理論だと五分タイプの物なら二個は作れません」
「そんなとこ掘り下げるな! バカ!」
扉のすぐ近くで戦闘音が聞こえる。
「も、もう終わりよー! 毛むくじゃらの勇者にのし掛かられてあんなことやこんなことされてしまうんだわー!」
勇者はそんなことしない。
「安心してください。まだ最後の手段があります。……四天王とは、一部の界隈では五人いると相場が決まっているもの」
「はぁ?」
俺が四天王をやっているもう一つの理由。それは——。
俺の体が床に溶けていく。
「すまない魔王。この魔王城、実は全身俺なんだ」
「はい?」
実は日本から異世界転生していた俺は、『生まれ変わったら大きな家に住みたいなぁ』とか考えていたせいか魔王城に生まれ変わっていたのだ。
しばらく魔王の様子を窺っていただけだったが、四天王が出ていったのをきっかけに手伝うことにしたのである。
要するに四天王をやっているもう一つの理由は、ほぼ動けないからである。
「気付きませんでしたか? 四天王の名前ですが、ジョーは漢字というものに直すと“城”、シロも同じく城、シャトーはフランス語で城、そしてイエメンも漢字に直すとイエメンとなります。つまり、俺が魔王城である伏線だったのでございます」
「イエメンだけ無理あるでしょ! 伏線に謝りなさいよ!」
そして、ついに勇者が現れた。
「見つけたぞ魔王! 覚悟せい! ガハハ!」
「いやぁ! 熊みたいで生理的に無理ぃ!」
確かに毛むくじゃらで勇者というより山賊のようだ。偏見だが、あんなことやこんなことをしそう。
「やれやれ、仕方ない」
なんか強そうだし奥の手を使うことにする。必殺! 落とし穴!
「ぬわ!? なんだぁ!?」
勇者は地下のマグマ溜まりに沈んでいった。まぁこれでも死なないだろう。勇者だし。どこかの町に飛ばされて手持ちのお金が半分になるだけじゃないか? 知らないけど。
「魔王様、玉座に座ってシートベルトをしてください」
「えっ、シートベルト? あ、これね。分かった」
「それではしっかり掴まってください。魔王城、発進!!」
「え、きゃああああ!」
勇者がそのままマグマから出てくる可能性も考慮して、俺は城をロケットのように変形させて飛んで逃げた。
◇
勇者から逃げた俺達は、とりあえず魔王城らしく毒の沼の真ん中に着陸していた。
魔王は、何かを悟ったような顔をして窓の外を眺めていた。
「ねぇ、イエメン。一つ聞いていい? 何で初めから空を飛ばなかったの」
「せっかく作った麦茶が溢れてしまうので」
また文句を言われたくないからな。
「あはは、魔王の命より麦茶かぁ……倫理観おかしくない?」
「そりゃあ悪の四天王ですから」
「もういいわ!! それよりアンタ、私の裸見たんだから責任取りなさいよね!」
唐突なツンデレ感。
「責任とは?」
「わ、私と一緒に世界征服するのよ! まずアンタが結婚式場に変身して式挙げて、お揃いの服着て、歯ブラシ、マグカップも揃えて、子供をバスケのチーム作れるくらいこさえるのよ!」
重い。サッカーでもなく、野球でもなくバスケというのが冗談を飛び越えてギリギリ出来そうなのが生々しくて重い。
「給料は今まで通り出るんですか」
「そ、そりゃあ一緒に暮らすんだし、世界征服できた暁には世界の半分あげちゃおっかな。きゃ、言っちゃった」
相変わらずリアクションだけ可愛い。まぁ、もう少しだけ付き合ってやるか。どうせ魔王城だから離れられないし。
「仕方ないな。もう少し金を搾取してからトンズラしますか」
「おいこら」
その後、勇者に負けたのは言うまでもない。
そこに四天王一の美男子にして最強の男と自他共に認める俺こと、イエメンがやってきた。
「お呼びでしょうか。魔王様」
「うん、アンタと同じ四天王のジョーっているじゃん?」
四天王最弱の男だ。実はそいつの正体は俺である。付け加えると残り二人の四天王も俺である。昔はきっちり四人いたのだが、魔王のパワハラ、給料未払い、なんかムカつくなどの理由でみんな辞めていったのだ。
「アイツさぁ、冷蔵庫の麦茶一口分だけ残してやがったのよ」
魔王の癖に実に庶民的な悩みである。こういうみみっちいことを気にするカリスマ性の無さも四天王が辞めていった原因の一つだ。
ただ、麦茶の件は俺が悪いのも確かだ。きっちり飲み干して新しい麦茶を作っておくべきだったのだが、コップ一杯分注いだところで魔王から呼び出しをくらい、そのままにしてしまったのだ。結論、魔王も悪い。
「それはそれは。後で厳しく言っておきます」
「あとさぁ、トイレのペーパー少しだけ残してやがったのよ。麦茶もそうだけど普通次の人のこと考えて交換しておくよね?」
魔王の癖に実に庶民的な悩みである。ただ、トイレットペーパーの件は俺が悪いのも確かだ。トイレを済ませた後、急な敵襲で変える暇が無かったのだ。帰ってからやろうと思っていたが忘れていた。
しかし、その一回だけのはずなのであまり責めないで欲しかった。それにペーパー補充をしているのは俺なのでいいだろう。結論、魔王が言うな。
「あとさぁ!」
まだあるのか。今度は魔王らしい悩みであって貰いたい。が。
「水道の蛇口固く閉めすぎ! ジャムの蓋も! 女子も使うってこと考えて欲しいわ!」
魔王が女子って。ジャムの蓋も開けられない魔王って。……もう何も言うまい。その後も愚痴が延々と続いた。
「ふぅ、話したらスッキリしちゃった。聞いてくれてありがと」
素敵な笑顔。顔だけはいいので、初対面の男なら絆されただろうが俺は騙せない。鞭で百回叩いた後に飴玉一個与えたところで許されるわけではないのだ。
そんな感じなのに、なぜ俺が四天王やっているかというと二つ理由がある。一つは、給料を四人分貰えるからだ。もう一つは——とその前に魔王が喋り出した。
「あ、そうだ。シロちゃん呼んでくれる?」
シロとは四天王の紅一点女幹部だ。もちろん俺である。
俺はやれやれと思いながら麦茶とトイレの点検をして時間を潰した後、シロに化けて魔王の玉座に戻った。
「お呼びかしら魔王様?(裏声)」
「あ、シロぉ! 聞いてよー、さっきさぁイエメンと結構話しちゃったの!」
女魔王は顔を赤らめてモジモジしている。
察しのいい有識者ならお分かりだろう。そう、四天王随一の美男子イエメンに恋をしているのだ。
「へぇ、なにを話したんですの?」
「ジョーの悪口よ。イエメンったらとても楽しそうに聞いてくれたわ」
いつ俺が楽しそうな顔をしたのか。恋は盲目を変に発揮したようだ。今度コンタクトレンズを薦めてみよう。
「はぁ、魔王様。悪口陰口はダメですわ。察しのいい人は『どこかで自分の悪口も言われているのでは』と思うもの。そういう方は恋愛対象から外されてしまいますわ」
「え、なんで? 言うわけないじゃん!」
イエメンだけな。他三人の四天王に対してはローテーションで陰口言いやがって。
「仲良くなり、距離も近くなれば相手の嫌なところが見えてくるものですわ。そうなれば普段の陰口が自然と口をついてしまいますわ。聡明な方ならそこまで読んで身を引くと思いますの」
「うーん、そうかなぁ? イエメンって何かちょっとバカっぽいし大丈夫じゃない?」
コラ、誰がバカだ。
「あ、でも、し、下ネタ的なことも話したよ! これは仲が進展したと言ってもいいんじゃない?」
下ネタ……ああトイレットペーパーの下りか。下ネタって程でもないような。
「バカですわね。下品なネタは諸刃の剣。嫌いな殿方も多いですわ。むしろ距離が開いた可能性の方が高いと思いますの」
下ネタには大きく分けて二種類ある。茶色かピンクかだ。ピンクの方ならまだいいが、茶色だと恋愛に発展しにくそうではある。そもそもどちらの方向性だろうと下ネタ自体に引いてしまう男もいるわけで、仲良くなっていないならかなり博打な話題になってしまうだろう。結論、魔王はバカ……じゃなかったズレている。
「ぶーぶー」
魔王は頬を膨らませて抗議している。リアクションだけ可愛い。
その時だった。頭に矢が刺さったたぬき型モンスター、ポンポコポン(派遣社員)が入ってきた。
「魔王様、勇者がすぐそこまで来ているポン!」
「えっ嘘でしょ!? ちょっと待ってよ! この前届いた勇者からのお中元には来週の日曜日に来るって書いてあったんだけど!?」
どこの世界に敵に攻撃時間を教える勇者がいるのか。お中元が爆弾じゃなかっただけありがたく思え。
「とりあえずポンポコポン、あんた時間稼ぎなさい!」
「分かりましたポン! その前にトイレ行くポン!」
もう戻って来ないだろう。派遣社員には荷が重い。
「どうしよどうしよ、あ、そうだ! シャトー呼んで!」
魔王の掛け声にすぐさまシロと入れ替わりで駆けつける。四天王の頭脳、メガネ老人風のシャトーだ。もちろん俺である。
「お呼びですかな魔王様」
「勇者が来てんのよ! すぐそこまで! 何か策ない!?」
「諦めて勇者に投降するのが適切でしょうな」
妥当であろう。この内部崩壊した組織では勝てそうもない。
「やだやだ! あの勇者なんか濃いめの顔で毛深くて生理的に無理なんだもん!」
「左様でございますか……」
理由が私的過ぎる。薄めのイケメンなら許される感やめろ。
「もう! こうなったら仕方ない! 四天王全員集合よ! それなら勝てるはずよ!」
ついに来たか。
「残念ですが、集まれませんな」
「仲が悪いんだっけ!? そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!!」
……こうなったら仕方ない。真実を話すとしようか。
「すまない魔王。その四天王、実は全員俺なんだ」
「……えっ? 何言って——」
俺が自分の顔に触れた瞬間、四天王最弱の男ジョーの顔に変わった。
「な、な!?」
「オデ、ウソツイテタ、ゴメン」
「いや喋り方は普通でいいでしょ! あーもう、そんなことどうでもよくて、えっと待って……し、シロもアンタなの?」
「はい。シロも、俺なんですわよ(裏声)」
顔が女幹部シロに変わる。体はシャトーなので違和感がすごいだろう。
「う、うそーん! 待って、待って。この前さ、女子モンスター同士でパジャマパーティーしたじゃん? あれもアンタだったわけ?」
「もちのろんでございます」
「え、え、じゃあ一緒にお風呂入ったのもアンタ?」
「乳首しか見てないので大丈夫です」
「バカタレ。見られたくないとこベストスリーに入るんですけど?」
「色はシャケおにぎりだったので自慢していいですよ」
「待って、何でおにぎりにしたの? 外側のノリの部分か内側のシャケの部分で天と地ほどの差があるんですけど? てかオニギリの時点で外側の可能性大なんですけど?」
「ご飯かもしれませんよ? ニチャア」
「ニチャアじゃないよ! まず謝りなさいよ!」
「それはできません。腐っても悪の組織の幹部ですから」
「うわ、それずるくない? じゃんけんでいうならグーチョキパー同時に出してハイ無敵ーってやってるようなもんじゃん」
「パードゥン?」
「何でこんなやつ幹部にしたんだろ」
あきれる魔王。ちょっとバカにし過ぎたな。日頃の鬱憤が溜まっていたからついやってしまった。謝らないけど。
「あ、そうだ……ってことはイエメンもあんたなの?」
「はい」
「……じ、じゃあ私がアンタをす、好きだってこと……」
「はい存じております」
「いやああああああ! 忘れてぇぇぇ!」
顔を両手で抑えて耳まで真っ赤になった魔王。リアクションだけ可愛い。
直後、遠くから爆発音が聞こえる。
「あ! こんなことしてる場合じゃないわ! 勇者来ちゃうじゃん!」
「それならご安心を。実は勇者の正体も——」
「えっ、この流れ、まさかまさか!?」
「四天王である俺の変身した姿——」
「キタキタキタ!?」
「ではございません」
「おいコラ、何でタメたの? ちょっと安心して旅行のプラン考え始めてたわ」
その時、矢の刺さったキツネ型モンスター、コンココーン(パート清掃員)が入ってきた。
「報告! 勇者一行がまもなく玉座の間に到着しますコン!! 私はトイレに行くので! それでは!」
もう戻ってこないだろう。パートには荷が重い。
「ヤバいヤバい! こうなったら私と協力して倒そう! 二人なら何とかなるよ!」
「いいですが、俺は完全に変身するまで八分かかりますよ」
「おっそ! カップ麺二個作れるわ!」
「いや、同時に作ればいくらでも作れますよ。それに魔王様の理論だと五分タイプの物なら二個は作れません」
「そんなとこ掘り下げるな! バカ!」
扉のすぐ近くで戦闘音が聞こえる。
「も、もう終わりよー! 毛むくじゃらの勇者にのし掛かられてあんなことやこんなことされてしまうんだわー!」
勇者はそんなことしない。
「安心してください。まだ最後の手段があります。……四天王とは、一部の界隈では五人いると相場が決まっているもの」
「はぁ?」
俺が四天王をやっているもう一つの理由。それは——。
俺の体が床に溶けていく。
「すまない魔王。この魔王城、実は全身俺なんだ」
「はい?」
実は日本から異世界転生していた俺は、『生まれ変わったら大きな家に住みたいなぁ』とか考えていたせいか魔王城に生まれ変わっていたのだ。
しばらく魔王の様子を窺っていただけだったが、四天王が出ていったのをきっかけに手伝うことにしたのである。
要するに四天王をやっているもう一つの理由は、ほぼ動けないからである。
「気付きませんでしたか? 四天王の名前ですが、ジョーは漢字というものに直すと“城”、シロも同じく城、シャトーはフランス語で城、そしてイエメンも漢字に直すとイエメンとなります。つまり、俺が魔王城である伏線だったのでございます」
「イエメンだけ無理あるでしょ! 伏線に謝りなさいよ!」
そして、ついに勇者が現れた。
「見つけたぞ魔王! 覚悟せい! ガハハ!」
「いやぁ! 熊みたいで生理的に無理ぃ!」
確かに毛むくじゃらで勇者というより山賊のようだ。偏見だが、あんなことやこんなことをしそう。
「やれやれ、仕方ない」
なんか強そうだし奥の手を使うことにする。必殺! 落とし穴!
「ぬわ!? なんだぁ!?」
勇者は地下のマグマ溜まりに沈んでいった。まぁこれでも死なないだろう。勇者だし。どこかの町に飛ばされて手持ちのお金が半分になるだけじゃないか? 知らないけど。
「魔王様、玉座に座ってシートベルトをしてください」
「えっ、シートベルト? あ、これね。分かった」
「それではしっかり掴まってください。魔王城、発進!!」
「え、きゃああああ!」
勇者がそのままマグマから出てくる可能性も考慮して、俺は城をロケットのように変形させて飛んで逃げた。
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勇者から逃げた俺達は、とりあえず魔王城らしく毒の沼の真ん中に着陸していた。
魔王は、何かを悟ったような顔をして窓の外を眺めていた。
「ねぇ、イエメン。一つ聞いていい? 何で初めから空を飛ばなかったの」
「せっかく作った麦茶が溢れてしまうので」
また文句を言われたくないからな。
「あはは、魔王の命より麦茶かぁ……倫理観おかしくない?」
「そりゃあ悪の四天王ですから」
「もういいわ!! それよりアンタ、私の裸見たんだから責任取りなさいよね!」
唐突なツンデレ感。
「責任とは?」
「わ、私と一緒に世界征服するのよ! まずアンタが結婚式場に変身して式挙げて、お揃いの服着て、歯ブラシ、マグカップも揃えて、子供をバスケのチーム作れるくらいこさえるのよ!」
重い。サッカーでもなく、野球でもなくバスケというのが冗談を飛び越えてギリギリ出来そうなのが生々しくて重い。
「給料は今まで通り出るんですか」
「そ、そりゃあ一緒に暮らすんだし、世界征服できた暁には世界の半分あげちゃおっかな。きゃ、言っちゃった」
相変わらずリアクションだけ可愛い。まぁ、もう少しだけ付き合ってやるか。どうせ魔王城だから離れられないし。
「仕方ないな。もう少し金を搾取してからトンズラしますか」
「おいこら」
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