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おまけ10 元侯爵令息の末路2

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カリブラもそのことくらい知っているはずなのに、無神経なことを口にしてしまう。


「母上、父上はどうされたのです?」

「っ!?」 


カリブラは父親がいないことに文句を口にした。その言葉と態度にマキナは、激情をあらわにした。


「お、お前は何を言っているのですか!? お前とソルティアのせいであの人は体調が悪化して臥せっているくらい分かっているでしょう!? 外出もできないほど苦しんでいるのにお前のためにこんなところに来れるはずがないくらい理解しなさい! ああ、お前の頭ではそんなこともわからないでしょうね! なにせお前はとんでもなくバカで愚かで考えなしなのですから!」


怒りと憎しみと悲しみと嘆き、あらゆる負の感情を顔に出したマキナは、早口でまくしたてるようにカリブラに罵倒を浴びせる。その姿に部屋にいる誰もが驚く。

無論、カリブラはその最たるものだ。


「…………」


カリブラは何も言えなかった。父親が臥せっていることを失念していたことに母親に怒鳴られるまで気づかなかったこともそうだが、それ以上に母親にここまで罵倒されたのは初めてだったのだ。


(母上が……僕に……?)


今まで何度も叱られたことがあるのだが、ここまで怒りをぶつけられることなど無かったのに。そこまで思ってカリブラは嫌な予感がした。


(母上の様子だと……まさか……!)


見たこともないほどの激情を見せたマキナの様子から、カリブラは自分は助からないか助けてもらえない可能性を考えた。だがそれでも、自分は助かると信じたいカリブラはその考えをすぐに打ち消した。


(だ、大丈夫だ……仮にも僕は嫡男なんだ。可愛い息子を母上がいくら厳しくても切り捨てるはずがない!)


母は自分を見捨てない。カリブラがそんな都合のいい考え方に切り替えるのは、どこまでも自分のことしか考えられないからだ。自分で勝手に解釈して都合の良い方に物事を考える思考がカリブラの特徴であり、カリブラの最大の短所なのかもしれない。

世の中、ましてや貴族の世界で、そんな甘いはずがないというのに。


「静粛に、これより緊急臨時貴族裁判を行う」

「「「「「っ!?」」」」」


カリブラと取り巻きたちは目を丸くする。緊急臨時貴族裁判だというのに王太子エーム・タースグバと老齢の裁判官が現れたのだ。老齢の裁判官は見るからにベテラン、そう思ったカリブラに再び不安が襲う。


(な、何故王太子殿下が現れるんだ!? それも、あんないかにもベテランですって感じの裁判官を連れてくるなんて!? なんでだよ!?)


珍しくカリブラの予想は正しかった。王太子とともに現れた裁判官はタードル・ブレーブというこの国で高名な裁判官だった。どんな裁判でも真面目に取り組み、一切の容赦もしないし、ましてや賄賂などが全く通じないことで有名であり、王太子の信頼も厚い。

マキナはおろか取り巻きの親達もそれに気づいているようで、真っ青な顔が土気色に変わり始めた。そんな者たちの顔色の変化も気にすることなく裁判が続く。カリブラたちが圧倒的に不利になる形で。


「それでは、グラファイト公爵家から提出された証拠をお見せしよう」

「「「「「っっ!!??」」」」」


グラファイト公爵家、つまりハラドからもたらされた証拠だと分かったカリブラは歯噛みする。なにせ『あの時』ハラドはカリブラのすぐ後ろに現れたのだから。


(畜生! ハラドのやつめ! 証拠を手に入れるために保健室に隠れていやがったんだな! なんて陰湿なことをしてくれたんだ! そもそも、どんな証拠をつかんだってんだ!?)


ハラドへの逆恨みに等しい憎悪を滾らせながらもこれから見せられる証拠に不安に陥るカリブラ。そして、その証拠というのはただでさえ不利なカリブラを地獄に落とす決め手となるものだった。
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