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第29話 公爵家の屋敷

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学園でカリブラが恥をかいて翌日。ちょうど学園の休みだった。アスーナはグラファイト公爵家の屋敷に招かれた。婚約者としての責務でもあるのだが、なんでもハラドから大事な話があるというのだ。

招かれたアスーナはハラドと彼の飼っている白い犬ポッピーに出迎えられて嬉しい気持ちだった。大きな白い犬ポッピーと戯れた後で、アスーナとハラドは本題に入った。


「――アスーナ、昨日のことは手紙で知ったよ。その時に君のそばにいてやれなくて本当にすまなかった。こんなに早くカリブラに迫られるようなことになるとは流石に予想していなかった。いや、言い訳にもならないな……」

「お気になさらないでください。ハラド様は公爵家のお方であり、第一王子エーム殿下の側近なのです。四六時中私のそばにいる事ができないことは理解しています。万が一私の身に危険が迫ったときのために『陰』を付けさせていただいていますし」


ハラドは公爵令息にして王族の側近という立場にあった。そのため他の貴族令息よりも多忙で学園にいないこともあったりするのだ。そんな悪いタイミングにカリブラがアスーナの元へ来たと知ったハラドは申し訳ない気持ちで仕方がない。たとえアスーナに『陰』がついていてもだ。


「しかし、婚約者としてあるまじき失態だ。殿下には『婚約者ができたのならそっちを優先しな』と言われていたのに……」

「――? 殿下の側近なのに私を優先しろと言われたのですか? 伯爵令嬢でしかない私よりも王族のお方のほうが大事ではないですか?」


アスーナは首をかしげる。本気で疑問に思ったようだが、ハラドはそんな彼女に戸惑う。なんだか自己肯定感が低くみているような気がした。


「いや、それは……身分的にはそうかもしれないが、婚約者だって大事にするべきじゃないか」

「それもそうですね。殿下の側近なのですから婚約者を大事にしないという噂が広がれば外聞も良くないですからね」

「いや、そういうことではなく……」


アスーナは何気もなしに『自分のことは大事にしなくてもいい』と口に出すが、ハラドとしてはそんなわけにはいかなかった。アスーナの心情的に『大事にされなくても平気のまま』でいては、不安要素でしかないのだ。


(思っていたよりもカリブラと婚約していた弊害が残っているな。俺ももっと積極的にアスーナと接していかなければいけない。やっと理想の相手を見つけたんだし、彼女と距離を積めないと)

「俺は初めて婚約者ができたわけだけど、君を蔑ろにするつもりは一切ないよ。殿下からも許可をもらって明日から学園に復帰することになったからね」

「え? 私のために無理をなさらなくてもいいのですよ。すでに『陰』をつけさせて頂いているのですし蔑ろにされているとは思っていません」

「俺はカリブラとは違うんだよ。俺自身初めて婚約をしたけど決して君を蔑ろになんかしないさ。可能な限り一緒にいたいと思ってる」

「私なんかとですか? 平々凡々とした顔でろくに特徴もない私と?」

「…………」
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