20 / 71
第20話 婚約の重み
しおりを挟む
「我が娘に以前から好意を持っていたと?」
「そうですね。あのカリブラと婚約していたので言えなかったのですが、貴族令嬢の模範と言われるアスーナ嬢には以前から関心を抱いていたのです。婚約者がいる女性に婚約目的で声をかけるわけにはいきませんでしたが、今日絶好のチャンスを取ったわけです」
「ふむ……」
ノゲムスの目線ではハラドが嘘をついているようには見えない。アスーナに好意を抱いているという熱意も確かに伝わってくる。父親としては娘が正当な評価をされるのは嬉しいし、何よりもカリブラとは違って婚約の重みを理解しているようだ。
(……カリブラよりはずっとマシだな。あの男とはもう少し早く婚約解消するべきだった。ただ、今度は公爵家ともなるとかえってアスーナに負担になるやもしれんが……)
グラファイト公爵家に悪い噂は聞いたこともない。だが、公爵家とは王家に次ぐ上級貴族だ。強い立場というだけで敵を作るのが貴族社会。婚約破棄した伯爵令嬢のアスーナが公爵家に嫁ぐ身としてはギリギリ及第点というところだろう。つまり、それだけでアスーナの敵も増えるということだ。
その中には、アスーナと婚約破棄したカリブラもありえるだろう。むしろカリブラの性格上、敵対してくることは間違いないとノゲムスは確信した。
(公爵令息ハラド・グラファイト……カリブラよりも強い立場にいるが……)
「ハラド殿、もしも公爵家に嫁いでアスーナの立場が悪くなればどうされる? 言っては何だがカリブラ殿の性格上、あとから何かするやもしれませぬぞ?」
「俺はアスーナ嬢を婚約者として責任を持ちます。カリブラが今更何を言ってきても公爵家が後ろ盾になって守ることもできますのでご安心ください」
「カリブラ殿だけではない。公爵家に嫁ぐというだけでアスーナの敵は増えるでしょう。それは貴殿がよくおわかりのはず。必然的にアスーナにも負担がかかるでしょう。そこはどうお考えで?」
アスーナに負担がかかるだろうとまで言われるとハラドは笑顔を止めて真剣な顔つきに変わった。ハラドもその言葉の意味がよく分かるのだ。自身もそういう経験をしてきたゆえに。
「確かにアスーナ嬢に精神面で負担をかけるでしょう。他の貴族からも圧力をかけられる。おこぼれを狙った忖度や嫉妬からくる嫌がらせとかがそうだろう……それがどれだけ精神的に嫌なものであるかも考えもしないで……」
「ハラド様……」
「俺はその苦痛を身をもって経験しています。だからこそ、アスーナ嬢がそうなった時は俺がどんな時があっても味方になります!」
「!」
「苦しんでいるときも慰め、寄り添って力になります! 愛犬ポッピーが俺にそうしてくれたように!」
「「「「…………ええっっ!!?? 愛犬!?」」」」
ハラドの口から思いもよらぬ言葉が聞こえた。こんなシリアスな話の中で『愛犬』というのだ。伯爵家当主ノゲムスも嫡男リボールも執事のチャーリーも肝心のアスーナも予想できなかった。
「そうですね。あのカリブラと婚約していたので言えなかったのですが、貴族令嬢の模範と言われるアスーナ嬢には以前から関心を抱いていたのです。婚約者がいる女性に婚約目的で声をかけるわけにはいきませんでしたが、今日絶好のチャンスを取ったわけです」
「ふむ……」
ノゲムスの目線ではハラドが嘘をついているようには見えない。アスーナに好意を抱いているという熱意も確かに伝わってくる。父親としては娘が正当な評価をされるのは嬉しいし、何よりもカリブラとは違って婚約の重みを理解しているようだ。
(……カリブラよりはずっとマシだな。あの男とはもう少し早く婚約解消するべきだった。ただ、今度は公爵家ともなるとかえってアスーナに負担になるやもしれんが……)
グラファイト公爵家に悪い噂は聞いたこともない。だが、公爵家とは王家に次ぐ上級貴族だ。強い立場というだけで敵を作るのが貴族社会。婚約破棄した伯爵令嬢のアスーナが公爵家に嫁ぐ身としてはギリギリ及第点というところだろう。つまり、それだけでアスーナの敵も増えるということだ。
その中には、アスーナと婚約破棄したカリブラもありえるだろう。むしろカリブラの性格上、敵対してくることは間違いないとノゲムスは確信した。
(公爵令息ハラド・グラファイト……カリブラよりも強い立場にいるが……)
「ハラド殿、もしも公爵家に嫁いでアスーナの立場が悪くなればどうされる? 言っては何だがカリブラ殿の性格上、あとから何かするやもしれませぬぞ?」
「俺はアスーナ嬢を婚約者として責任を持ちます。カリブラが今更何を言ってきても公爵家が後ろ盾になって守ることもできますのでご安心ください」
「カリブラ殿だけではない。公爵家に嫁ぐというだけでアスーナの敵は増えるでしょう。それは貴殿がよくおわかりのはず。必然的にアスーナにも負担がかかるでしょう。そこはどうお考えで?」
アスーナに負担がかかるだろうとまで言われるとハラドは笑顔を止めて真剣な顔つきに変わった。ハラドもその言葉の意味がよく分かるのだ。自身もそういう経験をしてきたゆえに。
「確かにアスーナ嬢に精神面で負担をかけるでしょう。他の貴族からも圧力をかけられる。おこぼれを狙った忖度や嫉妬からくる嫌がらせとかがそうだろう……それがどれだけ精神的に嫌なものであるかも考えもしないで……」
「ハラド様……」
「俺はその苦痛を身をもって経験しています。だからこそ、アスーナ嬢がそうなった時は俺がどんな時があっても味方になります!」
「!」
「苦しんでいるときも慰め、寄り添って力になります! 愛犬ポッピーが俺にそうしてくれたように!」
「「「「…………ええっっ!!?? 愛犬!?」」」」
ハラドの口から思いもよらぬ言葉が聞こえた。こんなシリアスな話の中で『愛犬』というのだ。伯爵家当主ノゲムスも嫡男リボールも執事のチャーリーも肝心のアスーナも予想できなかった。
22
お気に入りに追加
2,297
あなたにおすすめの小説

思い出してしまったのです
月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。
妹のルルだけが特別なのはどうして?
婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの?
でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。
愛されないのは当然です。
だって私は…。
悪役令嬢は永眠しました
詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」
長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。
だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。
ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」
*思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

二人のお貴族様から見染められた平民の私。それと嫉妬を隠そうともしない令嬢。
田太 優
恋愛
試験の成績が優秀だったため学園への入学が認められた平民の私。
貴族が多く通う中、なぜかとある貴族の令息に見染められ婚約者になってしまった。
拒否することもできず、都合よく扱われても何も言えない関係。
でもそこに救いの手を差し伸べてくれた人がいた。

その言葉はそのまま返されたもの
基本二度寝
恋愛
己の人生は既に決まっている。
親の望む令嬢を伴侶に迎え、子を成し、後継者を育てる。
ただそれだけのつまらぬ人生。
ならば、結婚までは好きに過ごしていいだろう?と、思った。
侯爵子息アリストには幼馴染がいる。
幼馴染が、出産に耐えられるほど身体が丈夫であったならアリストは彼女を伴侶にしたかった。
可愛らしく、淑やかな幼馴染が愛おしい。
それが叶うなら子がなくても、と思うのだが、父はそれを認めない。
父の選んだ伯爵令嬢が婚約者になった。
幼馴染のような愛らしさも、優しさもない。
平凡な容姿。口うるさい貴族令嬢。
うんざりだ。
幼馴染はずっと屋敷の中で育てられた為、外の事を知らない。
彼女のために、華やかな舞踏会を見せたかった。
比較的若い者があつまるような、気楽なものならば、多少の粗相も多目に見てもらえるだろう。
アリストは幼馴染のテイラーに己の色のドレスを贈り夜会に出席した。
まさか、自分のエスコートもなしにアリストの婚約者が参加しているとは露ほどにも思わず…。


裏庭係の私、いつの間にか偉い人に気に入られていたようです
ルーシャオ
恋愛
宮廷メイドのエイダは、先輩メイドに頼まれ王城裏庭を掃除した——のだが、それが悪かった。「一体全体何をしているのだ! お前はクビだ!」「すみません、すみません!」なんと貴重な薬草や香木があることを知らず、草むしりや剪定をしてしまったのだ。そこへ、薬師のデ・ヴァレスの取りなしのおかげで何とか「裏庭の管理人」として首が繋がった。そこからエイダは学び始め、薬草の知識を増やしていく。その真面目さを買われて、薬師のデ・ヴァレスを通じてリュドミラ王太后に面会することに。そして、お見合いを勧められるのである。一方で、エイダを嵌めた先輩メイドたちは——?

婚約者の幼馴染って、つまりは赤の他人でしょう?そんなにその人が大切なら、自分のお金で養えよ。貴方との婚約、破棄してあげるから、他
猿喰 森繁
恋愛
完結した短編まとめました。
大体1万文字以内なので、空いた時間に気楽に読んでもらえると嬉しいです。
婚約破棄された公爵令嬢は虐げられた国から出ていくことにしました~国から追い出されたのでよその国で竜騎士を目指します~
ヒンメル
ファンタジー
マグナス王国の公爵令嬢マチルダ・スチュアートは他国出身の母の容姿そっくりなためかこの国でうとまれ一人浮いた存在だった。
そんなマチルダが王家主催の夜会にて婚約者である王太子から婚約破棄を告げられ、国外退去を命じられる。
自分と同じ容姿を持つ者のいるであろう国に行けば、目立つこともなく、穏やかに暮らせるのではないかと思うのだった。
マチルダの母の祖国ドラガニアを目指す旅が今始まる――
※文章を書く練習をしています。誤字脱字や表現のおかしい所などがあったら優しく教えてやってください。
※第二章まで完結してます。現在、最終章について考え中です(第二章が考えていた話から離れてしまいました(^_^;))
書くスピードが亀より遅いので、お待たせしてすみませんm(__)m
※小説家になろう様にも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる