46 / 71
第46話 勝ち負け
しおりを挟む
「アスーナが囮になるっていうのは危険だと私もハラド様も反対だったけど、どうしても自分にしかできないっていうから私も協力したのですよ、カリブラ様~? アスーナにここまでさせるなんて~……本当に最低な男」
「さ、最低……!」
「アスーナが囮になってでもカリブラを懲らしめたいと言い出した以上、俺も根負けして万全の準備を整えたわけだ。カリブラ、お前という害虫をぶっ潰すためにな」
「――っっ!!??」
バニアもハラドも冷たい目にカリブラを睨みながら言う。最低だの害虫だのと言われるが、もはやカリブラには怒る気力も失われていた。
「な、なんで……なんでそこまで手の込んだことを……お、お前たちは、そこまで僕を……?」
「なんで? それは貴方が最低で害虫で、醜くて見苦しくてくだらないからですよ。もう何度も苦言を呈してきましたが貴方は何も反省しないで人のせいにするばかり。そんな貴方の思い通りになるなんてまっぴら御免ですから」
「あ、アスーナ……」
カリブラは絶望した。アスーナの目がハラドやバニアのように冷たいものに変わったのだ。目に映るカリブラの全てを全否定するような冷徹な目に。
ようやくカリブラも悟った。アスーナが自分にはどうにもできないし頼れないことも。
「そ、そんな……僕は、アスーナになんかに……見放されるというのか……アスーナに、負けたというのか……?」
「そうですね。私の勝ちですね」
「…………」
カリブラは膝から崩れ落ちて、涙を流す。アスーナも初めて見るような惨めな姿をさらすカリブラだったが、そんな彼に同情するものはこの場にいない。憐れむなどもってのほか、自業自得だった。
「もういいだろう。近衛兵、カリブラ達を取り押さえろ」
ハラドの合図で、隠れて待機していた兵士たちが現れる。彼らは王家から派遣された近衛兵であり、ハラドのために王太子エーム・タースグバが派遣したのだ。そして、カリブラと取り巻きたちはあっという間に身柄を拘束されていく。
「カリブラ様、これから貴方はハラド様が呼んでくださった近衛兵の方々に連行されて詳しい話をしてもらいますが、一ついいですか?」
「……なんだよ、もうすきにしろよ……」
全てを諦めたカリブラはアスーナに問われても振り向きもしない。アスーナはそんなカリブラの態度も気にすることなく気になっていたことを問う。
「貴方はソルティアが怪我をしたのは事実だと言っていました。あの子に何があったのですか?」
「…………殴った」
「?」
「殴ったんだ……。そしたら泣き叫んで部屋に閉じこもったんだ……。そしたら、そのまま出なくなったから、静かになって、そのままにしてるんだ……」
「――っ!」
「母上も父上も、女性を殴るなんて最低だとか……でも、静かになったのなら――ぶっ!?」
カリブラは話の途中で殴られた。ただ、それはアスーナではない。アスーナが殴るのを制して、ハラドがカリブラを殴ったのだ。
「――は、ハラド様?」
「アスーナ、君がその手を汚す必要はないよ。そもそも、俺は君の手がこの男に触れるなんて嫌だからね」
「ハラド様……!」
「さ、最低……!」
「アスーナが囮になってでもカリブラを懲らしめたいと言い出した以上、俺も根負けして万全の準備を整えたわけだ。カリブラ、お前という害虫をぶっ潰すためにな」
「――っっ!!??」
バニアもハラドも冷たい目にカリブラを睨みながら言う。最低だの害虫だのと言われるが、もはやカリブラには怒る気力も失われていた。
「な、なんで……なんでそこまで手の込んだことを……お、お前たちは、そこまで僕を……?」
「なんで? それは貴方が最低で害虫で、醜くて見苦しくてくだらないからですよ。もう何度も苦言を呈してきましたが貴方は何も反省しないで人のせいにするばかり。そんな貴方の思い通りになるなんてまっぴら御免ですから」
「あ、アスーナ……」
カリブラは絶望した。アスーナの目がハラドやバニアのように冷たいものに変わったのだ。目に映るカリブラの全てを全否定するような冷徹な目に。
ようやくカリブラも悟った。アスーナが自分にはどうにもできないし頼れないことも。
「そ、そんな……僕は、アスーナになんかに……見放されるというのか……アスーナに、負けたというのか……?」
「そうですね。私の勝ちですね」
「…………」
カリブラは膝から崩れ落ちて、涙を流す。アスーナも初めて見るような惨めな姿をさらすカリブラだったが、そんな彼に同情するものはこの場にいない。憐れむなどもってのほか、自業自得だった。
「もういいだろう。近衛兵、カリブラ達を取り押さえろ」
ハラドの合図で、隠れて待機していた兵士たちが現れる。彼らは王家から派遣された近衛兵であり、ハラドのために王太子エーム・タースグバが派遣したのだ。そして、カリブラと取り巻きたちはあっという間に身柄を拘束されていく。
「カリブラ様、これから貴方はハラド様が呼んでくださった近衛兵の方々に連行されて詳しい話をしてもらいますが、一ついいですか?」
「……なんだよ、もうすきにしろよ……」
全てを諦めたカリブラはアスーナに問われても振り向きもしない。アスーナはそんなカリブラの態度も気にすることなく気になっていたことを問う。
「貴方はソルティアが怪我をしたのは事実だと言っていました。あの子に何があったのですか?」
「…………殴った」
「?」
「殴ったんだ……。そしたら泣き叫んで部屋に閉じこもったんだ……。そしたら、そのまま出なくなったから、静かになって、そのままにしてるんだ……」
「――っ!」
「母上も父上も、女性を殴るなんて最低だとか……でも、静かになったのなら――ぶっ!?」
カリブラは話の途中で殴られた。ただ、それはアスーナではない。アスーナが殴るのを制して、ハラドがカリブラを殴ったのだ。
「――は、ハラド様?」
「アスーナ、君がその手を汚す必要はないよ。そもそも、俺は君の手がこの男に触れるなんて嫌だからね」
「ハラド様……!」
7
お気に入りに追加
2,299
あなたにおすすめの小説

【完結】あなたのいない世界、うふふ。
やまぐちこはる
恋愛
17歳のヨヌク子爵家令嬢アニエラは栗毛に栗色の瞳の穏やかな令嬢だった。近衛騎士で伯爵家三男、かつ騎士爵を賜るトーソルド・ロイリーと幼少から婚約しており、成人とともに政略的な結婚をした。
しかしトーソルドには恋人がおり、結婚式のあと、初夜を迎える前に出たまま戻ることもなく、一人ロイリー騎士爵家を切り盛りするはめになる。
とはいえ、アニエラにはさほどの不満はない。結婚前だって殆ど会うこともなかったのだから。
===========
感想は一件づつ個別のお返事ができなくなっておりますが、有り難く拝読しております。
4万文字ほどの作品で、最終話まで予約投稿済です。お楽しみいただけましたら幸いでございます。

義理姉がかわいそうと言われましても、私には関係の無い事です
渡辺 佐倉
恋愛
マーガレットは政略で伯爵家に嫁いだ。
愛の無い結婚であったがお互いに尊重し合って結婚生活をおくっていければいいと思っていたが、伯爵である夫はことあるごとに、離婚して実家である伯爵家に帰ってきているマーガレットにとっての義姉達を優先ばかりする。
そんな生活に耐えかねたマーガレットは…
結末は見方によって色々系だと思います。
なろうにも同じものを掲載しています。

虐げられた第一王女は隣国王室の至宝となる
珊瑚
恋愛
王族女性に聖なる力を持って産まれる者がいるイングステン王国。『聖女』と呼ばれるその王族女性は、『神獣』を操る事が出来るという。生まれた時から可愛がられる双子の妹とは違い、忌み嫌われてきた王女・セレナが追放された先は隣国・アバーヴェルド帝国。そこで彼女は才能を開花させ、大切に庇護される。一方、セレナを追放した後のイングステン王国では国土が荒れ始めて……
ゆっくり更新になるかと思います。
ですが、最後までプロットを完成させておりますので意地でも完結させますのでそこについては御安心下さいm(_ _)m

平民の娘だから婚約者を譲れって? 別にいいですけど本当によろしいのですか?
和泉 凪紗
恋愛
「お父様。私、アルフレッド様と結婚したいです。お姉様より私の方がお似合いだと思いませんか?」
腹違いの妹のマリアは私の婚約者と結婚したいそうだ。私は平民の娘だから譲るのが当然らしい。
マリアと義母は私のことを『平民の娘』だといつも見下し、嫌がらせばかり。
婚約者には何の思い入れもないので別にいいですけど、本当によろしいのですか?

お妃様に魔力を奪われ城から追い出された魔法使いですが…愚か者達と縁が切れて幸せです。
coco
恋愛
妃に逆恨みされ、魔力を奪われ城から追い出された魔法使いの私。
でも…それによって愚か者達と縁が切れ、私は清々してます─!
【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った
五色ひわ
恋愛
辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。アメリアは真実を確かめるため、3年ぶりに王都へと旅立った。
※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

拝啓、婚約破棄して従妹と結婚をなされたかつての婚約者様へ、私が豚だったのはもう一年も前の事ですよ?
北城らんまる
恋愛
ランドム子爵家のご令嬢ロゼッティは、ある日婚約破棄されてしまう。それはロゼッティ自身が地味で、不細工で、太っていたから。彼は新しい婚約者として、叔父の娘であるノエルと結婚すると言い始めた。
ロゼッティはこれを機に、叔父家族に乗っ取られてしまったランドム家を出ることを決意する。
豚と呼ばれるほど太っていたのは一年も前の話。かつて交流のあった侯爵の家に温かく迎えられ、ロゼッティは幸せに暮らす。
一方、婚約者や叔父家族は破滅へと向かっていた──
※なろうにも投稿済
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる