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第6章 一週間編
二日目
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アゼルの事件から二日目。アゼルは北の塔に入れられていた。皇族のための牢屋に入ったのだ。
「……僕がこの塔に入る日が本当に来るとはな。いや、当然か」
「現実になってほしいとは誰も思っていなかったよ。少なくとも私はな」
この男、アゼル・ヒルディアは帝国の第一皇子。彼が幽閉された理由は反逆者のウルクスに利用されて数々の罪を犯したからだ。その被害者には実の妹もいる。牢屋の外にいる彼女がそうだ。
「子供の頃に悪いことをすれば北の塔に入れられる。そう父と母から聞かされてきた。実の兄が入ることになるのは悲しいがな……」
「皮肉かい、リオル」
「間違いを正さなければ、私が入っていたかもしれないと思うとな……」
彼女はリオル・ヒルディア。帝国の第一皇女であり、皇帝毒殺未遂の冤罪を掛けられた被害者だった。しかし、彼女は無実を証明し一連の事件の解決に成功したのだ。多くの部下たちと二人の外国人の手を借りる形で。
そんなリオルが護衛も付けずにここに居るのは、あらためて二人きりで話がしたいと思っていたからだ。
「僕の知っていることはすべて話したよ。まだ気になることでもあるのか?」
「兄上が嘘をついていないことは分かるし、必要な情報は十分聞いた」
昨日、アゼルの事件から一日目のことだ。取り調べでアゼルは全てを白状した。周りに不満を持っていたためにウルクスと手を結んだこと、毒盛りと冤罪のことも素直にしゃべったのだ。その様子は大人しくて、アゼルを知る誰もが驚くほどだった。
「ただ、もう少し話がしたいと思ったからさ。兄と妹という関係でな。もう会う時間が限られてくるのだろうし……」
「……そうか」
アゼルがここに入ったのは、正式に裁かれたからではなかった。ウルクス率いるクロズク達に操られ、挙句には得体のしれない生物に体を乗っ取られていたのだ。たった一日二日で安全性が保障できるはずがないとして、北の塔に入れられただけなのだ。ここなら万が一暴れられても困らないのだ。
しかし、正式な裁きが下れば結果次第で違ってくる。国を混乱させた罪は重い。高い可能性があるのは、死ぬまでここで暮らすか、あるいは……。
「下手したら死罪だな。限られるどころか最後の別れになるかもしれない」
「それは父上が決めることだ。だが、私が助命すればいくらかは……」
「それは止めてくれよ。お前の経歴に泥を塗るだけだからさ」
「なっ!?」
リオルは驚いた。アゼルの罰は重いものになるのは間違いない。そこで彼女は、自分がアゼルの助命を訴えれば皇帝も刑を幾らか軽減してくれるかもしれないと考えていた。それなのにアゼルのほうがそれを望まないなどと思ってもいなかったのだ。
「……僕がこの塔に入る日が本当に来るとはな。いや、当然か」
「現実になってほしいとは誰も思っていなかったよ。少なくとも私はな」
この男、アゼル・ヒルディアは帝国の第一皇子。彼が幽閉された理由は反逆者のウルクスに利用されて数々の罪を犯したからだ。その被害者には実の妹もいる。牢屋の外にいる彼女がそうだ。
「子供の頃に悪いことをすれば北の塔に入れられる。そう父と母から聞かされてきた。実の兄が入ることになるのは悲しいがな……」
「皮肉かい、リオル」
「間違いを正さなければ、私が入っていたかもしれないと思うとな……」
彼女はリオル・ヒルディア。帝国の第一皇女であり、皇帝毒殺未遂の冤罪を掛けられた被害者だった。しかし、彼女は無実を証明し一連の事件の解決に成功したのだ。多くの部下たちと二人の外国人の手を借りる形で。
そんなリオルが護衛も付けずにここに居るのは、あらためて二人きりで話がしたいと思っていたからだ。
「僕の知っていることはすべて話したよ。まだ気になることでもあるのか?」
「兄上が嘘をついていないことは分かるし、必要な情報は十分聞いた」
昨日、アゼルの事件から一日目のことだ。取り調べでアゼルは全てを白状した。周りに不満を持っていたためにウルクスと手を結んだこと、毒盛りと冤罪のことも素直にしゃべったのだ。その様子は大人しくて、アゼルを知る誰もが驚くほどだった。
「ただ、もう少し話がしたいと思ったからさ。兄と妹という関係でな。もう会う時間が限られてくるのだろうし……」
「……そうか」
アゼルがここに入ったのは、正式に裁かれたからではなかった。ウルクス率いるクロズク達に操られ、挙句には得体のしれない生物に体を乗っ取られていたのだ。たった一日二日で安全性が保障できるはずがないとして、北の塔に入れられただけなのだ。ここなら万が一暴れられても困らないのだ。
しかし、正式な裁きが下れば結果次第で違ってくる。国を混乱させた罪は重い。高い可能性があるのは、死ぬまでここで暮らすか、あるいは……。
「下手したら死罪だな。限られるどころか最後の別れになるかもしれない」
「それは父上が決めることだ。だが、私が助命すればいくらかは……」
「それは止めてくれよ。お前の経歴に泥を塗るだけだからさ」
「なっ!?」
リオルは驚いた。アゼルの罰は重いものになるのは間違いない。そこで彼女は、自分がアゼルの助命を訴えれば皇帝も刑を幾らか軽減してくれるかもしれないと考えていた。それなのにアゼルのほうがそれを望まないなどと思ってもいなかったのだ。
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