ローグ・ナイト ~復讐者の研究記録~

mimiaizu

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第5章 外国編

心の叫び1

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「い、嫌だああああああ! 早く引きはがしてくれよ!」

 アゼルは再び、ギャアギャアと喚き散らす。ただ、今は腕を振り回すこともできている。さっきまで体の自由が無かったはずだったが……。

(ほう、腕が動かせるようになったか。背中のやつの支配が弱まったってわけか)

 ローグが寄生生物を見てみると、タコの眼が目を細めていた。アゼルのことを嫌がり始めたのだろう。このままうまくいけば勝手に離れるかもしれない。

(まだ油断はできない。触手が動いているうちはな)

 アゼルから生えた――具体的にはアゼルの体を突き破って出てきた触手は、今もリオルをはじめとする騎士や兵士と戦っている。勢いは衰えていない。これを収めるためには寄生生物をアゼルからはがして倒すのが一番いい手だ。

 だが、ローグはそれをするわけにはいかない

(もっとも、アゼルごと寄生生物を殺してしまえば早く済むが、それだと俺が困る。帝国と友好的な関係、最低でも利用し合える関係を築きたいからな)

 アゼルは助ける。助けようとしなければならない。たとえ失敗しても、その過程をリオルたちに確認してもらわなければならないのだ。そのために、ローグは努力を惜しまない。

「アゼル、よく聞いてくれ。こいつを引き離すにはお前自身の協力が必要なんだ!」
「な、何だよ。何をすればいいんだ! さっさと答えろ、何でも言え!」
「おい、兄上!」

 助けられる側のアゼルは、助ける側のローグに対して偉そうにしている。ローグはイラっとくるし、リオルはそんな兄に呆れて注意する。リオルは戦いの最中だというのに。

「……まず、お前自身がこいつを拒絶する強い意志が必要だ。どんな苦痛にも負けない強い心ってわけだ」
「つ、強い心だと?」
「そうだ。おそらく、お前がここまで寄生されたのは心が弱かったからだ。こいつは相手の心が弱いほどうまく寄生できるんだ。アゼル、お前には精神的に弱った時があるだろう。その時に付け込まれたのさ」
「そ、そんな……!」
「思い当たることがるだろ? クロズクの接触とか」
「!」
「やはりな」

 アゼルは「精神的に弱った時」「クロズクの接触」という単語に反応した。それをローグは見逃さなかった。リオルもアゼルの反応をみていた。どうやら、ローグやみんなの予想した通りだったようだ。

「クロズクに何をされたかは後で聞くとしよう。今はこいつを何とかする」
「僕の心が弱いのに、どうしようっていうのさ……」
「何?」
「僕が弱いのは分かるよ。だからもう終わりじゃないか」

 アゼルはさっきまでの調子とは逆に静かになった。しかも、ネガティブな調子になってしまった。これではどうしようもない。心が弱いいう指摘に思うところがあるのだろうか。そんな兄にリオルが怒りを飛ばす。

「兄上、諦めるな!」
「アゼル、気をしっかり持てよ。俺達も手伝うからさ」
「何を言うんだよ、お前たちに何ができるんだよ。僕の心を強くすることができるっていうのか?」
「気をしっかり持て、兄上! やれることはある!」
「ああ、それは……」
「ふざけるな! お前らに僕の気持ちなんかこれっぽっちも分からないだろ!」

 アゼルは動かせるようになった腕でローグを殴ろうとした。――その腕はローグに掴まれてしまったが、アゼルは目に怒りを宿してローグとリオルを交互に見る。

「お前らには分かるのか? 周りのみんなに口だけはもてはやされる一方で、裏では妹たちに比べられて陰口叩かれる日々を送る人生。それがどんなにつらかったか! そして、それを誰とも共有できもしないし、誰にも打ち明けられる人がいない。それがどんなに寂しかったか分かるのか! 分かるわけないだろう! しかも、そんな思いをしなくちゃいけない理由が僕自身にあるんだ! そんなことを僕自身が理解してるから苦しんできたんだ! それなのに、そんな自分が嫌で憎くても変えられないんだ! それなのに、今更どうやって助けるって言うんだよ! 今まで誰も僕を見なかったくせに、思い上がるなぁ!」
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