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第5章 外国編
VS異形アゼル2(皇女の心中)
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「はああああああっ!」
ザンッ! ザンッ! ザンッ!
「ウオオオオウッ!」
アゼルとの戦い。正確には変わり果てたアゼルを止めるための戦いだ。リオルは剣を振るって触手を切ったり、攻撃を防いだりしている。ローグをアゼルの元へ導くためだ。実の兄を救うため……。
(どうしてこんなことになってしまったんだろう……)
迫りくる触手。それが兄の手によるものだというのが悔しく感じる。だが、それは何も怒りや憎悪ではない。
(正直、兄上のことは嫌いだった……だけど……)
リオルはこんな厳しい戦いの中で、アゼルに対して悲しい思いを抱いていたのだ。彼女としてはそう思わずにはいられなかった。
(私は、兄上と殺し合いなどしたくなかったのに……)
リオルはアゼルのことが嫌いだった。幼い頃から、アゼルはリオルの髪と目の色を自分たちと違うという理由で、リオルのことをいじめていた。しかも、周囲を巻き込む形で。だから、アゼルもまたリオルを嫌っていたのだ。
周りの人は、立場の都合で二人の間に割って入ることはなかった。それを知っていたリオルは悔しくて、アゼルに屈することが無くなるために見返そうと思って必死で強くなる努力を続けた。兄にも、周りにも、多くの人に認めてもらうために。
最終的に、リオルは誰よりも強くなり、多くの人々に信頼され、アゼルよりも帝国に必要とされる人物となった。一方、アゼルのほうはたいして強くもないうえに、これまでの傲慢ぶりから人々から軽蔑されてさえいた。アゼルのほうもそれを分かっているようで、リオルに対しては控えめになっていた。
リオルは、その事実に、アゼルの現状に――憂いていた。
(今思い返せば、兄上の性格は母親の第一王妃アリアドネ様が原因だ。あのお方がもっと教育に力を注いでくだされば、兄上はまともな皇子になれただろうに……)
第一王妃アリアドネ。彼女こそ元凶だったのではないかとリオルは思うようになっていた。アリアドネは自分の子供の中でアゼルのことしか考えておらず、かなり溺愛していた。アゼルのわがままを気にせず、自由にさせて育てていたのだ。アゼルの性格の悪さはそのせいなのは間違いないだろう。
リオルとしては、アゼルを、周りの多くの人を見返せればよかったのだ。認められたかったというのが彼女の夢なのだ。決して、兄のアゼルを陥れることが目的ではなかった。むしろ、アゼルにも強くなってほしいとすら思っていたほどだ。だからこそ、リオルはアゼルに対して全く別の悔しさを感じていた。何故、ここまで歪んでしまったのかと。
(別に私は、兄上が私よりも強くてもよかった。ただ、見返して、認めてほしかったんだ。それなのに、弱くて傲慢なだけになってしまうなんて……)
アゼルは何も努力をしなかったわけではなかった。皇帝である父に憧れて、自身も強くなりたいと夢見ていたはずだった。母親の第一王妃アリアドネが死ぬまでは。母親が死んだあの日からアゼルは堕落していった。
(やはり、第一王妃アリアドネ様の教育がいけなかったんだ。そうでなければ、こんなことにならずに……兄上が怪物なんかにならずに済んだのに!)
アゼルに対する思いが、今は亡き第一王妃アリアドネへの怒りに変わったその時、触手がリオルの顔のすぐ隣を横切った。
「!」
すんでのところで貫かれるところだった。肝を冷やしたリオルは、思考が冷静になる。
(いや、それを言うなら私達はどうだ? 私も、サーラも、父上さえも、兄上を避けるようになったではないか)
アリアドネが死んでアゼルは暴走した。皇帝はそんなアゼルを三日間牢獄に閉じ込めた。その日から皇帝はアゼルとの接し方が分からなくなったと思う。リオルもサーラもこれまでの行いから、アゼルとの距離は遠いままだった。第二王妃でリオルの母のアネーシャだけは拒まれてもアゼルのことを気にかけていた。……そして、そのアネーシャも今はいない。戦死してしまった。
(私達も母上のように接していればよかったのではないか? でなければ、こんな悲しい戦いなど起こらなかったのに……悲しい?)
リオルは、あんなに嫌っていたアゼルを本気で悲しんでいる自分に気が付いて少し驚いた。この気持ちは母や仲間の兵士を失った気持ちに似ていたのだ。
(……何だ。嫌い合っていても結局は私達は兄妹なんだな。それなのに、兄上の結末を他者に委ねるなんて。強くなったと思ったのに、私はまだ弱いじゃないか)
兄のもとに向かうローグは部外者だ。更にこちらに寝返ったかもしれないが敵国出身だ。だが、この中でアゼルを救える可能性があるのは彼だけなのだ。だからこそ、任せるしかない。それをリオルはふがいなく思う。
(……反省だけなら後にしよう。そんな場合ではない)
「兄上! あなたの相手は私がなろう! ローグはそのまま兄上の元へ行け! 時間は稼いでやる!」
リオルは思考を止めて戦いにだけ集中する。厳しい現実が今も続いているのだ。
(たとえどんな結末になっても受け入れえやる。今は戦うのみだ!)
ザンッ! ザンッ! ザンッ!
「ウオオオオウッ!」
アゼルとの戦い。正確には変わり果てたアゼルを止めるための戦いだ。リオルは剣を振るって触手を切ったり、攻撃を防いだりしている。ローグをアゼルの元へ導くためだ。実の兄を救うため……。
(どうしてこんなことになってしまったんだろう……)
迫りくる触手。それが兄の手によるものだというのが悔しく感じる。だが、それは何も怒りや憎悪ではない。
(正直、兄上のことは嫌いだった……だけど……)
リオルはこんな厳しい戦いの中で、アゼルに対して悲しい思いを抱いていたのだ。彼女としてはそう思わずにはいられなかった。
(私は、兄上と殺し合いなどしたくなかったのに……)
リオルはアゼルのことが嫌いだった。幼い頃から、アゼルはリオルの髪と目の色を自分たちと違うという理由で、リオルのことをいじめていた。しかも、周囲を巻き込む形で。だから、アゼルもまたリオルを嫌っていたのだ。
周りの人は、立場の都合で二人の間に割って入ることはなかった。それを知っていたリオルは悔しくて、アゼルに屈することが無くなるために見返そうと思って必死で強くなる努力を続けた。兄にも、周りにも、多くの人に認めてもらうために。
最終的に、リオルは誰よりも強くなり、多くの人々に信頼され、アゼルよりも帝国に必要とされる人物となった。一方、アゼルのほうはたいして強くもないうえに、これまでの傲慢ぶりから人々から軽蔑されてさえいた。アゼルのほうもそれを分かっているようで、リオルに対しては控えめになっていた。
リオルは、その事実に、アゼルの現状に――憂いていた。
(今思い返せば、兄上の性格は母親の第一王妃アリアドネ様が原因だ。あのお方がもっと教育に力を注いでくだされば、兄上はまともな皇子になれただろうに……)
第一王妃アリアドネ。彼女こそ元凶だったのではないかとリオルは思うようになっていた。アリアドネは自分の子供の中でアゼルのことしか考えておらず、かなり溺愛していた。アゼルのわがままを気にせず、自由にさせて育てていたのだ。アゼルの性格の悪さはそのせいなのは間違いないだろう。
リオルとしては、アゼルを、周りの多くの人を見返せればよかったのだ。認められたかったというのが彼女の夢なのだ。決して、兄のアゼルを陥れることが目的ではなかった。むしろ、アゼルにも強くなってほしいとすら思っていたほどだ。だからこそ、リオルはアゼルに対して全く別の悔しさを感じていた。何故、ここまで歪んでしまったのかと。
(別に私は、兄上が私よりも強くてもよかった。ただ、見返して、認めてほしかったんだ。それなのに、弱くて傲慢なだけになってしまうなんて……)
アゼルは何も努力をしなかったわけではなかった。皇帝である父に憧れて、自身も強くなりたいと夢見ていたはずだった。母親の第一王妃アリアドネが死ぬまでは。母親が死んだあの日からアゼルは堕落していった。
(やはり、第一王妃アリアドネ様の教育がいけなかったんだ。そうでなければ、こんなことにならずに……兄上が怪物なんかにならずに済んだのに!)
アゼルに対する思いが、今は亡き第一王妃アリアドネへの怒りに変わったその時、触手がリオルの顔のすぐ隣を横切った。
「!」
すんでのところで貫かれるところだった。肝を冷やしたリオルは、思考が冷静になる。
(いや、それを言うなら私達はどうだ? 私も、サーラも、父上さえも、兄上を避けるようになったではないか)
アリアドネが死んでアゼルは暴走した。皇帝はそんなアゼルを三日間牢獄に閉じ込めた。その日から皇帝はアゼルとの接し方が分からなくなったと思う。リオルもサーラもこれまでの行いから、アゼルとの距離は遠いままだった。第二王妃でリオルの母のアネーシャだけは拒まれてもアゼルのことを気にかけていた。……そして、そのアネーシャも今はいない。戦死してしまった。
(私達も母上のように接していればよかったのではないか? でなければ、こんな悲しい戦いなど起こらなかったのに……悲しい?)
リオルは、あんなに嫌っていたアゼルを本気で悲しんでいる自分に気が付いて少し驚いた。この気持ちは母や仲間の兵士を失った気持ちに似ていたのだ。
(……何だ。嫌い合っていても結局は私達は兄妹なんだな。それなのに、兄上の結末を他者に委ねるなんて。強くなったと思ったのに、私はまだ弱いじゃないか)
兄のもとに向かうローグは部外者だ。更にこちらに寝返ったかもしれないが敵国出身だ。だが、この中でアゼルを救える可能性があるのは彼だけなのだ。だからこそ、任せるしかない。それをリオルはふがいなく思う。
(……反省だけなら後にしよう。そんな場合ではない)
「兄上! あなたの相手は私がなろう! ローグはそのまま兄上の元へ行け! 時間は稼いでやる!」
リオルは思考を止めて戦いにだけ集中する。厳しい現実が今も続いているのだ。
(たとえどんな結末になっても受け入れえやる。今は戦うのみだ!)
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