上 下
176 / 252
第5章 外国編

姉妹の再会

しおりを挟む
 幸いにも窓のカギはかかっていなかったため、すんなり入ることができた。割らずに済んだのだ。

「鍵開いててよかったね」
「静かにしろよ」
「む? あれは……」

 リオルは部屋に入ってすぐにベッドに腰掛ける人物に目が入った。それは金髪に青い瞳をした少女だった。少女の顔をはっきり見たリオルは目を大きく見開いて名前を口にした。

「サーラ!」
「……?」

 少女の正体は第二皇女サーラで間違いないようだ。リオルはすぐにそばに駆け寄った。サーラの安否を確認するためだろう。もっともローグとしてはもっと慎重にしてほしいところだった。

(おいおい、奴らの言ってたことを聞いてなかったのか? 俺抜きでうかつに近づくなよ。気持ちは分からなくもないが……)

 ローグがそんな風に思うのも無理はなかった。何しろ、少し前に捕まえた連中から無理矢理聞いた話によれば、第二皇女サーラと第一皇子アゼルはクロズクの長・ウルクスに何かしらの精神的干渉を受けたらしい。『心を縛る』と言っていたが、精神的干渉ならローグも魔法で幾らかはできるので、何かできると思ったのだが……。

(この第一皇女様なら、まずこういう行動をするよなあ)

 リオルはすぐにサーラのそばに来てしまうのだ。警戒もろくにしないで。何かあった時はどうするのだろうか。何事もなければ、姉妹の感動の再会になるだろうが……。

「サーラ! 無事だったのか!? どこか具合が悪くなってないか!?」
「……はい、姉さま」
「今、何が起こっているか聞かせてくれ。私がいない間に起こったこと全てだ」
「……はい、姉さま」
「……え?」

 どうやら、そうもいかないらしい。久々の姉妹の再会にもかかわらず、妹の反応は淡々としている。

「お、おい、サーラ、返事だけか? もっと他に何か言うことがあるじゃないか?」
「……はい、姉さま」
「なっ!? 何を言ってるんだ!?」
「……はい、姉さま」
「っ!」

 ローグとミーラから見てもおかしいと見えるほど、第二皇女サーラの様子はおかしくなっていた。

「どうしたんだサーラ! しっかりしろ! しっかりしろ!」
「……はい、姉さま」
「目を覚ませ! お前はそんな奴じゃないはずだ!」
「……はい、姉さま」

 リオルはサーラの肩をしっかり掴んで呼びかけるが、サーラは同じ返事を繰り返すだけだった。「……はい、姉さま」としか答えない。そんな様子を見かねたミーラは心配してローグに縋る。

「あれって、おかしくなってるよね? 私でもわかるよ」
「まあ、結構前に干渉されてたんだろうな」
「もう手遅れなの?」
「それは試してみてからだ」

 ミーラに聞かれたローグは、二人の皇女の間に割って入る。

「サーラ! サーラ! しっかりしてくれ!」
「リオさん、確認させてほしい」
「ローグ! 何だ、こんな時に!?」
「妹さんはいつもこんな感じじゃないよな?」
「当たり前だ! サーラはとても聡明な子なんだ! 可愛らしい容姿と心優しい心を持ち、父上すら驚かせるほどの頭の良さから政治の舞台に立つことを許されたんだぞ! それを……!」
「ストップ! 言い方が悪かったな」

 リオルは妹の長所を語るが、ローグは何も自慢話を聞きたいのではない。

「いつからこんな感じ……変になったんだ?」
「父上が病に倒れた後、正確には兄上の自己主張が激しくなった後だ。おそらくその時から……くそ! もっと心配して国中の医者に見せればよかった!」
 
 リオルは悔しそうに俯く。握った手から血が流れている。爪が食い込んで傷つけているようだ。自分だけではなく妹にまで危害が及んだことが何よりも悔しいのだろう。その様子を見てローグは打算的な考えが浮かぶ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

召喚アラサー女~ 自由に生きています!

マツユキ
ファンタジー
異世界に召喚された海藤美奈子32才。召喚されたものの、牢屋行きとなってしまう。 牢から出た美奈子は、冒険者となる。助け、助けられながら信頼できる仲間を得て行く美奈子。地球で大好きだった事もしつつ、異世界でも自由に生きる美奈子 信頼できる仲間と共に、異世界で奮闘する。 初めは一人だった美奈子のの周りには、いつの間にか仲間が集まって行き、家が村に、村が街にとどんどんと大きくなっていくのだった *** 異世界でも元の世界で出来ていた事をやっています。苦手、または気に入らないと言うかたは読まれない方が良いかと思います かなりの無茶振りと、作者の妄想で出来たあり得ない魔法や設定が出てきます。こちらも抵抗のある方は読まれない方が良いかと思います

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

(完結)足手まといだと言われパーティーをクビになった補助魔法師だけど、足手まといになった覚えは無い!

ちゃむふー
ファンタジー
今までこのパーティーで上手くやってきたと思っていた。 なのに突然のパーティークビ宣言!! 確かに俺は直接の攻撃タイプでは無い。 補助魔法師だ。 俺のお陰で皆の攻撃力防御力回復力は約3倍にはなっていた筈だ。 足手まといだから今日でパーティーはクビ?? そんな理由認められない!!! 俺がいなくなったら攻撃力も防御力も回復力も3分の1になるからな?? 分かってるのか? 俺を追い出した事、絶対後悔するからな!!! ファンタジー初心者です。 温かい目で見てください(*'▽'*) 一万文字以下の短編の予定です!

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

処理中です...