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前日譚

11.テラー ―日記―

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今日は私とウオッチさんの休暇日です。もちろん、休みが重なるようにシフトを組んでもらって、その休みすら返上して、二人でレフトン殿下と会いに行きました。二週間前に会った喫茶店で待ち合わせです。

「お久しぶりです、レフトン殿下」

「よお、ミルナさん。それと、後ろのおっさんが……」

「はい。長年ソノーザ家に仕えてきました。ウオッチ・オッチャーと申します。レフトン殿下、お会いできて光栄です」

平民の喫茶店で貴族の礼を丁寧に完璧に行うウオッチさん。って、目立つのでやめてください!

「……マジか」

「はい、マジです」

「本当に来ちゃったのか……」

流石のレフトン殿下も、引きつった笑みを浮かべるのでした。





流石に喫茶店では人が多すぎるということで、レフトン殿下に連れられて、聞かれたくない会話をするのにうってつけの場所に移動しました。

……場所は、前世で言うキャバクラと言う感じのお店です。そんな場所で個室を借りて、三人でお菓子と飲み物だけを頼んで話し合いをしました。……仮にも王子様がキャバクラに通うなんて。

「……そうか。あんたはソノーザ公爵の悪事についていけなくなったのか」

「はい。旦那様の所業はもう救いようがありませんので、思い切って悪事を暴露しようと計画しているのです」

「そんな人なので家族にもろくに関心を抱きません。ただ、サエナリアお嬢様も奥様と妹君に虐げられる日々を過ごしてきたのに、そのうえソノーザ家と運命を共にするようなこと等あってはならないのです。だからお嬢様だけでも救われないかと殿下の協力を求めたのです」

「……………」

レフトン殿下は真剣にウオッチさんの話を聞いてくださっています。ソノーザ公爵を断罪したいけど、サエナリアお嬢様まで巻き込むのは本意ではない。私達二人の思いをレフトン殿下はしっかりと感じてくださっているでしょうか?

「……コーヒーミルク入りお持ちしました」

「! おう、サンキュー」

ここで店員さんが頼んでいない『コーヒーミルク入り』を持って来ました。これは……!

「……分かった! レフトン・フォン・ウィンドウの名においてあんたたちを信用するよ!」

「本当ですか!?」

やりました! 『コーヒーミルク入り』は隠れて聞いているライト・サイクロスからの『OK』の合図。レフトン殿下が信頼する側近の少年が信じていいと判断してくれたのです!

「ああ。あのクソ公爵をこのままにしてはおけねえ。確かにサエナリアさんを不幸にするってのは気分が悪いしな。ただでさえ兄貴にいいようにされてんのに……」

やったー! 最高のジョーカーをゲットしました! って、今なんて言いました? いいようにされて?

「カーズ殿下がどうしたのですか? お嬢様とは婚約者という間柄ですが?」

「ああ、気を悪くするんだろうが、兄のカーズは学園で成績優秀ということになってんだが、実際はサエナリアさんにフォローしてもらっているんだ。特にお勉強の方をな」

「ええ!? そんな、お嬢様はそんなことを一言も……」

「サエナリアさんは優しい人だろ? だから笑って勉強も見ててくれてんだ。王族として情けない限りだ」

ええー!? カーズクズのパターンか! おのれぇ、私のお嬢様をよくもこき使いやがって……!

「ミルナさん、落ち着きなさい。殿下の前ですよ」

「いや、いいんだ。そしりなら今受けようじゃねえか。それだけお嬢様のことを思ってんだろ?」

「そうです! お嬢さまは私の推しですから!」

その通り! 前世のゲームの推しはサエナリア・ヴァン・ソノーザただ一人です!

「お、おお、そうか……そいつは、」

「お待ちしました。ホワイトチョコになります」

「「「!」」」

私がサエナリアお嬢様のことで語ろうとしたその時、定員さんがまた頼んでいない『ホワイトチョコ』を持って来ました。あれ? こんなのはゲームにありませんでした。どういうこと?

「わ、わりい、ちょっとお花を摘んでくる……」

そう言って、レフトン殿下は一旦席を後にしました。





戻ってきたレフトン殿下は何事もなかったかのような顔をしていました。ただ、その手に何か本簿ようなものを持っていましたが。

「殿下、それは?」

「ああ、あんたたちの計画を役立てる切り札みたいなもんさ。執事さんよ、あんたならこの名をよく知ってるはずだぜ」

レフトン殿下は持ってきたものをよく見せました。それは日記帳です。ご丁寧に誰の日記か書かれていました。その名を見た瞬間、ウオッチさんは震えだしました。恐怖? いや、驚きすぎて?

「こ、これは……! この名は!」

「ああ、あんたの主の弟の日記だよ」

「「!?」」

弟? ああ、フィリップス・ヴァン・ソノーザのことですか! 確かすでに故人でしたが、ゲームのシナリオ次第で物語に大きな影響を及ぼした男! そのお方の恐怖の日記ですね。

「あ、あのお方の日記が、残っていようとは!」

「元の持ち主はすでに故人だがな。こいつをうまく活用できるならいい感じにソノーザ家を暴けるはずだぜ」

そう言って、レフトン殿下は日記を開いた。そこには若かりし頃のソノーザ公爵、ベーリュ・ヴァン・ソノーザの悪行が記されていた。それは、この私ですら恐怖を感じさせる内容だった。





屋敷に戻った私は、例の日記を物置に隠しました。来るべき計画実行の日に備えて。すべてはサエナリアお嬢様のために。
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