7 / 40
前日譚
7.マネー ―貯金―
しおりを挟む
部屋を物置にされたお嬢様の心を何とか慰めるのに成功しました。ですが、まだ油断できません。
お嬢様に必要なのは居場所です。それは単なる家とか屋敷、帰る場所というわけではありません。傷ついた心の拠り所こそが必要なのです。そのためにはまず自由ですね。
善良な心を失って悪役令嬢に成り下がることのないようにするためには、やっぱり心の拠り所が必須。そこで私自身がお嬢様の拠り所になって差し上げるのです。
そのためにも落ち込みそうになればお嬢様を元気づけ、本の趣味などを共有し、何度もご相談にのって差し上げて、信頼関係を築いていくのです。
そして、最初の作戦は成功しました。他の使用人たちが可哀想な目を向けていても、お嬢様は物置が部屋だということを不遇に思わなくなりました。しかも、私にも本を読ませてくださるほど信頼してくださるようになりました。
………本当によかったです。私の貯金を崩したかいがありました。おかげで、私の懐が寂しくなりましたけど。
ですが、それだけでは足りません。お嬢様は学園に通う身。もうすぐ三年生になります。その頃にヒロインのマリナ・メイ・ミークが転入するはずです。突然訳アリで入ってきた彼女のことを誰もが興味を示す。それに乗っかって、お嬢様にマリナと友達になってもらいます。
悪役令嬢と敵対することがゲームのヒロインの役目ですが、悪役令嬢の方から味方になればヒロインの役目は果たされないでしょう。お嬢様にヒロインたるマリナと仲良くなってもらえば、都合の悪いイベントは回避できますし、何よりヒロインゆえに善良な彼女なら学園での拠り所になってもらえるでしょう。ゲームのヒロインは確か友達も多くできるはずでしたしね。
だからこそ、今は私が信頼関係を築かないと。今だけは。
◇
数日後、お嬢様に変化が起こりました。何でも、貴族じゃなくて平民として暮らしていきたいというようになったのです。これはチャンスです。平民に関する本も物置に置いたかいがありました。
「お嬢様。貴族が平民になった後は苦難の道です。平民になるとまず最初にお金が自由に使えなくなってしまいます。貴族ならば領地経営などでお金を集める手段などはいくらでもありますが平民だとそうはいきません。平民はお金を手にするために仕事を探さなければならず、仕事によっては得るお金もばらつきがあります。貴族の生き方よりも家や周りの目を気にすることは少ないですが、とても苦労される生き方です。それでも、平民の生き方に憧れるのであれば、学園や王都の図書館に足を運んで平民について詳しく学ばれることをお勧めいたします」
私の語る平民。それは私が経験したことでもある。没落して貴族から平民になったのが私。お嬢様がその事実を知れば説得力があると思われるでしょうね。まだ言えませんけど。
お嬢様は私からいつもと違う雰囲気を感じたそうです。この後もたくさんの質問をされたので私は全て正直に答えました。長所と短所、楽しみと苦難、対人関係のあり方まで。
その後日、お嬢様は早速、図書館で平民の生活や仕事に関する本をよく読むようになりました。私のおすすめした仕事等を自分の目で知るためでしょう。
お嬢様は本当に賢い人ですから、すぐに御理解されるでしょうね。できれば、お金のことを率先して学んでほしいです。平民になって侍女として働く私の貯金がお嬢様のために使われただけに。
お嬢様に必要なのは居場所です。それは単なる家とか屋敷、帰る場所というわけではありません。傷ついた心の拠り所こそが必要なのです。そのためにはまず自由ですね。
善良な心を失って悪役令嬢に成り下がることのないようにするためには、やっぱり心の拠り所が必須。そこで私自身がお嬢様の拠り所になって差し上げるのです。
そのためにも落ち込みそうになればお嬢様を元気づけ、本の趣味などを共有し、何度もご相談にのって差し上げて、信頼関係を築いていくのです。
そして、最初の作戦は成功しました。他の使用人たちが可哀想な目を向けていても、お嬢様は物置が部屋だということを不遇に思わなくなりました。しかも、私にも本を読ませてくださるほど信頼してくださるようになりました。
………本当によかったです。私の貯金を崩したかいがありました。おかげで、私の懐が寂しくなりましたけど。
ですが、それだけでは足りません。お嬢様は学園に通う身。もうすぐ三年生になります。その頃にヒロインのマリナ・メイ・ミークが転入するはずです。突然訳アリで入ってきた彼女のことを誰もが興味を示す。それに乗っかって、お嬢様にマリナと友達になってもらいます。
悪役令嬢と敵対することがゲームのヒロインの役目ですが、悪役令嬢の方から味方になればヒロインの役目は果たされないでしょう。お嬢様にヒロインたるマリナと仲良くなってもらえば、都合の悪いイベントは回避できますし、何よりヒロインゆえに善良な彼女なら学園での拠り所になってもらえるでしょう。ゲームのヒロインは確か友達も多くできるはずでしたしね。
だからこそ、今は私が信頼関係を築かないと。今だけは。
◇
数日後、お嬢様に変化が起こりました。何でも、貴族じゃなくて平民として暮らしていきたいというようになったのです。これはチャンスです。平民に関する本も物置に置いたかいがありました。
「お嬢様。貴族が平民になった後は苦難の道です。平民になるとまず最初にお金が自由に使えなくなってしまいます。貴族ならば領地経営などでお金を集める手段などはいくらでもありますが平民だとそうはいきません。平民はお金を手にするために仕事を探さなければならず、仕事によっては得るお金もばらつきがあります。貴族の生き方よりも家や周りの目を気にすることは少ないですが、とても苦労される生き方です。それでも、平民の生き方に憧れるのであれば、学園や王都の図書館に足を運んで平民について詳しく学ばれることをお勧めいたします」
私の語る平民。それは私が経験したことでもある。没落して貴族から平民になったのが私。お嬢様がその事実を知れば説得力があると思われるでしょうね。まだ言えませんけど。
お嬢様は私からいつもと違う雰囲気を感じたそうです。この後もたくさんの質問をされたので私は全て正直に答えました。長所と短所、楽しみと苦難、対人関係のあり方まで。
その後日、お嬢様は早速、図書館で平民の生活や仕事に関する本をよく読むようになりました。私のおすすめした仕事等を自分の目で知るためでしょう。
お嬢様は本当に賢い人ですから、すぐに御理解されるでしょうね。できれば、お金のことを率先して学んでほしいです。平民になって侍女として働く私の貯金がお嬢様のために使われただけに。
0
お気に入りに追加
225
あなたにおすすめの小説

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。

【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。
樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」
大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。
はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!!
私の必死の努力を返してー!!
乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。
気付けば物語が始まる学園への入学式の日。
私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!!
私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ!
所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。
でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!!
攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢!
必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!!
やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!!
必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。
※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。
※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。

成り上がり令嬢暴走日記!
笹乃笹世
恋愛
異世界転生キタコレー!
と、テンションアゲアゲのリアーヌだったが、なんとその世界は乙女ゲームの舞台となった世界だった⁉︎
えっあの『ギフト』⁉︎
えっ物語のスタートは来年⁉︎
……ってことはつまり、攻略対象たちと同じ学園ライフを送れる……⁉︎
これも全て、ある日突然、貴族になってくれた両親のおかげねっ!
ーー……でもあのゲームに『リアーヌ・ボスハウト』なんてキャラが出てた記憶ないから……きっとキャラデザも無いようなモブ令嬢なんだろうな……
これは、ある日突然、貴族の仲間入りを果たしてしまった元日本人が、大好きなゲームの世界で元日本人かつ庶民ムーブをぶちかまし、知らず知らずのうちに周りの人間も巻き込んで騒動を起こしていく物語であるーー
果たしてリアーヌはこの世界で幸せになれるのか?
周りの人間たちは無事でいられるのかーー⁉︎

婚約破棄ですか。ゲームみたいに上手くはいきませんよ?
ゆるり
恋愛
公爵令嬢スカーレットは婚約者を紹介された時に前世を思い出した。そして、この世界が前世での乙女ゲームの世界に似ていることに気付く。シナリオなんて気にせず生きていくことを決めたが、学園にヒロイン気取りの少女が入学してきたことで、スカーレットの運命が変わっていく。全6話予定

悪役令嬢の慟哭
浜柔
ファンタジー
前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。
だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。
※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。
※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。
「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。
「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。
悪役令嬢はモブ化した
F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。
しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す!
領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。
「……なんなのこれは。意味がわからないわ」
乙女ゲームのシナリオはこわい。
*注*誰にも前世の記憶はありません。
ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。
性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。
作者の趣味100%でダンジョンが出ました。

【完結】王太子殿下が幼馴染を溺愛するので、あえて応援することにしました。
かとるり
恋愛
王太子のオースティンが愛するのは婚約者のティファニーではなく、幼馴染のリアンだった。
ティファニーは何度も傷つき、一つの結論に達する。
二人が結ばれるよう、あえて応援する、と。

公爵令嬢は薬師を目指す~悪役令嬢ってなんですの?~【短編版】
ゆうの
ファンタジー
公爵令嬢、ミネルヴァ・メディシスは時折夢に見る。「治癒の神力を授かることができなかった落ちこぼれのミネルヴァ・メディシス」が、婚約者である第一王子殿下と恋に落ちた男爵令嬢に毒を盛り、断罪される夢を。
――しかし、夢から覚めたミネルヴァは、そのたびに、思うのだ。「医者の家系《メディシス》に生まれた自分がよりによって誰かに毒を盛るなんて真似をするはずがないのに」と。
これは、「治癒の神力」を授かれなかったミネルヴァが、それでもメディシスの人間たろうと努力した、その先の話。
※ 様子見で(一応)短編として投稿します。反響次第では長編化しようかと(「その後」を含めて書きたいエピソードは山ほどある)。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる