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番外編
公爵夫人②
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「……どうやら言ってやらねば分からんようだな。皆、お前と違って真面目にルールを守っている、それだけだ。お前はここに来てからもう三か月になるというのに、いつまでたってもろくに決められたことを何一つ守ろうとしないだろう」
「……くっ」
な、何よ……その『ここの決まり』というのが異常なほどきついから守れないんじゃない! 少しでも遅れれば罰、少しでも仕事を間違えれば罰、神へのお祈り中に無駄な動きがあれば罰、その他にも……ああもう、多すぎるわ!
思い切って、私は鬼婆に口答えしてやる!
「し、仕方ないでしょ! ここの決まりごとが多すぎるし厳しすぎるのよ! こんなの高貴な貴族だった私ができるはずないじゃないのよ! こんなのをうまくこなせるあんたたちの方がどうかしてるのよ!」
「どうかしているのはお前の方だ。ここには元とはいえ高位貴族だった者もいる。そういう者も努力すればできるものなのだぞ」
「なっ、嘘よ!? デタラメ言うな!」
ここには高位貴族もいるというの!? それって私だけじゃないの!?
「はぁ、他者を見習えばと思ったのだがなあ。ここまで性根がくさっているとはな。……おい、この者の朝食は下げていいぞ。乳牛のエサにでもしてくれ」
「はああ? 牛のエサぁ?」
私の貴重な朝食が牛のエサ? 一日に朝食と夕食の二食しかない貴重な食事の時間まで失われるというの? 叩いたり殴られるだけでも酷いのに食べ物を取り上げられるというの?
「な、何で……? 野菜しかないけど、貴重な食事なのに……?」
「ああ、お前の言い分が酷すぎるのでな。まあ、でも牛乳くらいは飲むことを許してやる。朝食をもらえる牛たちからのお礼だと思うのだな。牛たちに感謝するがいい」
「う、牛に、感謝……」
とんでもない発言だ。思わず声すら震える。私の食事が犠牲になったのに『牛に感謝しろ』と言うのだ。牛乳を搾りだすだけで食べるためのお肉にならない下等生物に感謝だなんて……。
「ここまで酷いのは久しぶりだな。これは長くなるか、また死ぬな」
目の前の婆は、私を人とすら見ていないんだ。罪人と言う理由で私を下等生物と同等にしか見ないんだ。私はずっとこの婆のことを冷酷無慈悲な老婆と思っていたけど違った。もはや冷酷無慈悲すら生温い、悪魔だ。とても神に祈る存在じゃないわ。
「独房に戻れ。仕事には遅れるなよ。それと誰かに朝食を分けてもらえると思うな。そんな者はいないからな」
老婆はそれだけ言うと去っていった。私は絶望して仕方なく自分の独房に戻るしかない。朝食を食べたいけどもうもらえないことは分かっている。あの老婆がそういったのと、誰も分けてくれないことを理解しているからだ。他の連中が私に冷たいことは、ここに来てから今日までしっかり学んでいるから。
「……どうしてこんなことに」
……もう何度目か分からないな。こんなことをつぶやくのは。本当にどうしてこんな目に遭うのだろう? 私はただ姉よりも幸せになりたかっただけなのに……。
「どうして、どうしてよ? どうして私は幸せになれないのよ?」
そんな思いを口からこぼしても、涙を流しても誰も答えてはくれない。私の納得できる答えをくれない。お姉さまもあの人も……。
「……くっ」
な、何よ……その『ここの決まり』というのが異常なほどきついから守れないんじゃない! 少しでも遅れれば罰、少しでも仕事を間違えれば罰、神へのお祈り中に無駄な動きがあれば罰、その他にも……ああもう、多すぎるわ!
思い切って、私は鬼婆に口答えしてやる!
「し、仕方ないでしょ! ここの決まりごとが多すぎるし厳しすぎるのよ! こんなの高貴な貴族だった私ができるはずないじゃないのよ! こんなのをうまくこなせるあんたたちの方がどうかしてるのよ!」
「どうかしているのはお前の方だ。ここには元とはいえ高位貴族だった者もいる。そういう者も努力すればできるものなのだぞ」
「なっ、嘘よ!? デタラメ言うな!」
ここには高位貴族もいるというの!? それって私だけじゃないの!?
「はぁ、他者を見習えばと思ったのだがなあ。ここまで性根がくさっているとはな。……おい、この者の朝食は下げていいぞ。乳牛のエサにでもしてくれ」
「はああ? 牛のエサぁ?」
私の貴重な朝食が牛のエサ? 一日に朝食と夕食の二食しかない貴重な食事の時間まで失われるというの? 叩いたり殴られるだけでも酷いのに食べ物を取り上げられるというの?
「な、何で……? 野菜しかないけど、貴重な食事なのに……?」
「ああ、お前の言い分が酷すぎるのでな。まあ、でも牛乳くらいは飲むことを許してやる。朝食をもらえる牛たちからのお礼だと思うのだな。牛たちに感謝するがいい」
「う、牛に、感謝……」
とんでもない発言だ。思わず声すら震える。私の食事が犠牲になったのに『牛に感謝しろ』と言うのだ。牛乳を搾りだすだけで食べるためのお肉にならない下等生物に感謝だなんて……。
「ここまで酷いのは久しぶりだな。これは長くなるか、また死ぬな」
目の前の婆は、私を人とすら見ていないんだ。罪人と言う理由で私を下等生物と同等にしか見ないんだ。私はずっとこの婆のことを冷酷無慈悲な老婆と思っていたけど違った。もはや冷酷無慈悲すら生温い、悪魔だ。とても神に祈る存在じゃないわ。
「独房に戻れ。仕事には遅れるなよ。それと誰かに朝食を分けてもらえると思うな。そんな者はいないからな」
老婆はそれだけ言うと去っていった。私は絶望して仕方なく自分の独房に戻るしかない。朝食を食べたいけどもうもらえないことは分かっている。あの老婆がそういったのと、誰も分けてくれないことを理解しているからだ。他の連中が私に冷たいことは、ここに来てから今日までしっかり学んでいるから。
「……どうしてこんなことに」
……もう何度目か分からないな。こんなことをつぶやくのは。本当にどうしてこんな目に遭うのだろう? 私はただ姉よりも幸せになりたかっただけなのに……。
「どうして、どうしてよ? どうして私は幸せになれないのよ?」
そんな思いを口からこぼしても、涙を流しても誰も答えてはくれない。私の納得できる答えをくれない。お姉さまもあの人も……。
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