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番外編
悪徳公爵①
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……何故こんなことに。民衆に公開される形で処刑されに行く私はベーリュ・ヴァン・ソノーザ。ソノーザ公爵家の当主だ。
……いや、当主だった。ソノーザ公爵家も取り潰しにされてしまったからな。すべてを失い、そして今は己の命すら失われようとしている。具体的に言えば、首と胴体が分断されるのだ。本当に何でこうなったのだろう?
そんなことを思っている間にも、わざわざ見物に来た平民どもが野次を飛ばす。やかましいくらいにな。
「人殺しの悪徳貴族!」
「地獄に落ちろ!」
「死ね外道!」
「最低最悪野郎!」
「私達の人生を滅茶苦茶にして!」
……憎しみと侮蔑を込めて飛ばされる言葉を甘んじて受けるしかない。その全てが否定できないのは事実だからだ。それだけの罪を犯してきた自覚はある。今更ながら後悔する思いだ。
ああ、そうだ。私は多くの人々を己の野心のためだけに犠牲にしてきた。そのツケが回ってきたのだ。もう何も取り返すことはできない。惨めに石を投げつけられるこの痛みも文句は言わない。それ以上の痛みを多くの者たちに与えてきたのだからな。
そう言えば、レフトン殿下にも『罪を数えろ』などと言われたものだな。あの時もらった鉄拳は相当な衝撃を受けたものだ。この際、もう人生の最後なのだから、殿下の言う通りできる限りだが私の罪とやらを数えてみようか。私の過去を思い返しながら。
◇
もう何十年も前の話。私が出世欲を抱くきっかけは、当時のソノーザ家の立場が悪くなったのがきっかけだった。伯爵だった両親の事業が失敗したせいで伯爵なのにソノーザ家は一気に落ち目になったのだ。
若い頃の私は優秀だったこともあってソノーザ家の状況が悪いことをいち早く理解した。だからこそ学園でうまく活躍して成り上がろうと考えたものだ。学園は子供を使った貴族同士の代理戦争の戦場であり、生徒の成績や功績は親の評価と同じ、コネを持ったり敵対するにはうってつけの場所なのだから。
「これから、俺がソノーザ家を立て直す戦いが始まるんだ」
ソノーザ家が出世して成り上がる、それこそが私の夢にだった。学園の入学を機に成り上がる野心を抱いたのだ。
「任せてくれ父上。俺は必ずや成功してみせる!」
だが、現実は甘くはなかった。貴族とはプライドが高い者が多い、それゆえに他の貴族に関する情報は常に把握したがるものなのだ。特に落ち目になった上級貴族の情報は。当時のソノーザ家のこと等、多くの生徒の耳に入っていた。そのせいで私はよく馬鹿にされたのだ。
「くそっ、父上のせいで! 母上のせいで!」
侯爵令嬢や公爵令息に媚びを売ろうとしても笑われて避けられる。他の伯爵令嬢令息からもいい目で見られなくて学園で居場所を築けなかった。そんな日々が数か月続いた。その不遇を両親のせいにしてイライラしていたのだった。
「ベーリュ兄様、お父様お母様をそんな風に言うものではないわ」
「! イゴナ……」
そればかりか、屋敷でも居場所がなくなっていた。両親は負い目があるせいで私のことを強く咎めないし、弟のフィリップスは理解しているようだが面倒ごとを避けたかったらしく無言を貫く、妹のイゴナは全く理解してくれない。
「ちっ」
家族はあてにならない。そう判断した私は学園のトップにうまく取り入ろうと決めた。すなわち、生徒会というわけだ。その頃の生徒会には王太子が加わっていた。そこと繋がりを持てれば……。
……そういえば、この時だったな。どんなことでも、どんな手段も選ばないでいこうと決めたのは。
「父上、母上、フィリップス、イゴナ。俺は明後日から初心に戻って学園に臨む。今まで冷たく当たってすまなかった。これから心を入れ替えていくから許してくれ」
私はその後で家族にそう宣言したのだった。もう生温い手段ではいかず、卑怯でも非道な手も使うと心に誓いながら。野心だけを心の支えとして入れ替えると決めたのはな。
……いや、当主だった。ソノーザ公爵家も取り潰しにされてしまったからな。すべてを失い、そして今は己の命すら失われようとしている。具体的に言えば、首と胴体が分断されるのだ。本当に何でこうなったのだろう?
そんなことを思っている間にも、わざわざ見物に来た平民どもが野次を飛ばす。やかましいくらいにな。
「人殺しの悪徳貴族!」
「地獄に落ちろ!」
「死ね外道!」
「最低最悪野郎!」
「私達の人生を滅茶苦茶にして!」
……憎しみと侮蔑を込めて飛ばされる言葉を甘んじて受けるしかない。その全てが否定できないのは事実だからだ。それだけの罪を犯してきた自覚はある。今更ながら後悔する思いだ。
ああ、そうだ。私は多くの人々を己の野心のためだけに犠牲にしてきた。そのツケが回ってきたのだ。もう何も取り返すことはできない。惨めに石を投げつけられるこの痛みも文句は言わない。それ以上の痛みを多くの者たちに与えてきたのだからな。
そう言えば、レフトン殿下にも『罪を数えろ』などと言われたものだな。あの時もらった鉄拳は相当な衝撃を受けたものだ。この際、もう人生の最後なのだから、殿下の言う通りできる限りだが私の罪とやらを数えてみようか。私の過去を思い返しながら。
◇
もう何十年も前の話。私が出世欲を抱くきっかけは、当時のソノーザ家の立場が悪くなったのがきっかけだった。伯爵だった両親の事業が失敗したせいで伯爵なのにソノーザ家は一気に落ち目になったのだ。
若い頃の私は優秀だったこともあってソノーザ家の状況が悪いことをいち早く理解した。だからこそ学園でうまく活躍して成り上がろうと考えたものだ。学園は子供を使った貴族同士の代理戦争の戦場であり、生徒の成績や功績は親の評価と同じ、コネを持ったり敵対するにはうってつけの場所なのだから。
「これから、俺がソノーザ家を立て直す戦いが始まるんだ」
ソノーザ家が出世して成り上がる、それこそが私の夢にだった。学園の入学を機に成り上がる野心を抱いたのだ。
「任せてくれ父上。俺は必ずや成功してみせる!」
だが、現実は甘くはなかった。貴族とはプライドが高い者が多い、それゆえに他の貴族に関する情報は常に把握したがるものなのだ。特に落ち目になった上級貴族の情報は。当時のソノーザ家のこと等、多くの生徒の耳に入っていた。そのせいで私はよく馬鹿にされたのだ。
「くそっ、父上のせいで! 母上のせいで!」
侯爵令嬢や公爵令息に媚びを売ろうとしても笑われて避けられる。他の伯爵令嬢令息からもいい目で見られなくて学園で居場所を築けなかった。そんな日々が数か月続いた。その不遇を両親のせいにしてイライラしていたのだった。
「ベーリュ兄様、お父様お母様をそんな風に言うものではないわ」
「! イゴナ……」
そればかりか、屋敷でも居場所がなくなっていた。両親は負い目があるせいで私のことを強く咎めないし、弟のフィリップスは理解しているようだが面倒ごとを避けたかったらしく無言を貫く、妹のイゴナは全く理解してくれない。
「ちっ」
家族はあてにならない。そう判断した私は学園のトップにうまく取り入ろうと決めた。すなわち、生徒会というわけだ。その頃の生徒会には王太子が加わっていた。そこと繋がりを持てれば……。
……そういえば、この時だったな。どんなことでも、どんな手段も選ばないでいこうと決めたのは。
「父上、母上、フィリップス、イゴナ。俺は明後日から初心に戻って学園に臨む。今まで冷たく当たってすまなかった。これから心を入れ替えていくから許してくれ」
私はその後で家族にそう宣言したのだった。もう生温い手段ではいかず、卑怯でも非道な手も使うと心に誓いながら。野心だけを心の支えとして入れ替えると決めたのはな。
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