3 / 18
3.
しおりを挟む
にらみ合うタヒナとクワイエット・ソース。
「形勢逆転ってわけね、でも戦わない理由にはならない!」
虎の姿から元の獣人の姿に戻されたクワイエット・ソースは多くの魔力を失ったが、それでもなお立ち向かおうと神経を集中させる。
「やはり、大元帥ね。こっちも負けないわよ!」
対するタヒナもまた残った魔力を肉体強化と剣に集中する。第二ラウンドの開始準備は互いに整ったのだ。
そんな時だった。巨大な黒い豹が現れたのは。
「そこまでだあああああ!!」
「えっ、何!?」
「あれはイラス!」
クワイエット・ソースが口にした通り、巨大な黒豹はイラス・ティスィティが変身した姿だった。そして、そのままの姿で二人の間に入ると、タヒナに向かって咆哮を浴びせる。
「ぐおおおおおおおおおおっ!!」
「きゃああああ!」
魔力の込められた咆哮は衝撃波を放つ。その衝撃でタヒナは吹っ飛ばされてしまった。
「イラス、どうしてここに!? まさか、私を助けるためにここまで来てくれたの!」
嬉しそうにとろけた笑顔で喜ぶクワイエット・ソース。彼女とイラス・ティスィティは恋人同士なのだ。
「ああ、もうじきここにはヤバい勇者が三人も来る。君の軍も撤退させたから後は僕達が撤退するだけだ。急ごう」
「ええ!? 私と二人で戦うんじゃ……?」
「ダメだ! 新米勇者とやらに出くわしたんだが、そいつがとんでもない実力者だった。もうすでにストレングも撤退を余儀なくされている。悔しいがここはもう……」
「そう、分かったわ。でも――」
クワイエット・ソースは後方を睨む。その先にいるのは、先ほどまで戦っていた女勇者がいるのだ。彼女との決着はついていない。それが心残りだった。
「ここは諦めよう。いずれまたチャンスはあるさ」
「……そうね、いきましょう」
悔しくて歯噛みするクワイエット・ソースは、巨大な黒豹の姿のイラス・ティスィティの背中にまたがった。そして、後ろを向いて得意の音魔法を発動する。
「もう追手が来てるみたい。音魔法『倍嗚鈴(バイオリン)』!」
放たれた音魔法は、人類連合の追手と思われる者達の足止めになった。こうして二人の大元帥は撤退したのであった。
◇
「大丈夫ですか!? グリン軍曹さん!」
「このバカが! 先走りおって!」
「おお、ブラク二等兵にレド伍長。お前達も無事であったか! いやあ、魔王軍大元帥の攻撃はものすごいものだったであります!」
「クックックッ、このイエロウ曹長を忘れんなよな~。いい道具を貸してやったから助かったんだぜ~」
「ぶ、ブル兵長もいるよ!? 忘れないで!?」
クワイエット・ソースを追っていた人類連合軍の一小隊。彼らはクワイエット・ソースの攻撃を正面から食らったが、奇跡的に助かっていた。
「おのれ~、ここで大元帥を打ち倒せれば我らの出世は間違いなかったのに……」
「だから無茶だって言ったんですよ軍曹さんよぉ」
「もっと武器と武具を備えておればよかったのだ! 計画がずさんだ!」
「俺様に言ってくれりゃ良かったのによ~」
「い、いや、大元帥相手に僕ら五人だけはちょっと……」
その場で愚痴り合う呑気な小隊。彼らはこの後、他の部隊と合流して何の成果も残さずに本隊に戻っていくのであった。
「形勢逆転ってわけね、でも戦わない理由にはならない!」
虎の姿から元の獣人の姿に戻されたクワイエット・ソースは多くの魔力を失ったが、それでもなお立ち向かおうと神経を集中させる。
「やはり、大元帥ね。こっちも負けないわよ!」
対するタヒナもまた残った魔力を肉体強化と剣に集中する。第二ラウンドの開始準備は互いに整ったのだ。
そんな時だった。巨大な黒い豹が現れたのは。
「そこまでだあああああ!!」
「えっ、何!?」
「あれはイラス!」
クワイエット・ソースが口にした通り、巨大な黒豹はイラス・ティスィティが変身した姿だった。そして、そのままの姿で二人の間に入ると、タヒナに向かって咆哮を浴びせる。
「ぐおおおおおおおおおおっ!!」
「きゃああああ!」
魔力の込められた咆哮は衝撃波を放つ。その衝撃でタヒナは吹っ飛ばされてしまった。
「イラス、どうしてここに!? まさか、私を助けるためにここまで来てくれたの!」
嬉しそうにとろけた笑顔で喜ぶクワイエット・ソース。彼女とイラス・ティスィティは恋人同士なのだ。
「ああ、もうじきここにはヤバい勇者が三人も来る。君の軍も撤退させたから後は僕達が撤退するだけだ。急ごう」
「ええ!? 私と二人で戦うんじゃ……?」
「ダメだ! 新米勇者とやらに出くわしたんだが、そいつがとんでもない実力者だった。もうすでにストレングも撤退を余儀なくされている。悔しいがここはもう……」
「そう、分かったわ。でも――」
クワイエット・ソースは後方を睨む。その先にいるのは、先ほどまで戦っていた女勇者がいるのだ。彼女との決着はついていない。それが心残りだった。
「ここは諦めよう。いずれまたチャンスはあるさ」
「……そうね、いきましょう」
悔しくて歯噛みするクワイエット・ソースは、巨大な黒豹の姿のイラス・ティスィティの背中にまたがった。そして、後ろを向いて得意の音魔法を発動する。
「もう追手が来てるみたい。音魔法『倍嗚鈴(バイオリン)』!」
放たれた音魔法は、人類連合の追手と思われる者達の足止めになった。こうして二人の大元帥は撤退したのであった。
◇
「大丈夫ですか!? グリン軍曹さん!」
「このバカが! 先走りおって!」
「おお、ブラク二等兵にレド伍長。お前達も無事であったか! いやあ、魔王軍大元帥の攻撃はものすごいものだったであります!」
「クックックッ、このイエロウ曹長を忘れんなよな~。いい道具を貸してやったから助かったんだぜ~」
「ぶ、ブル兵長もいるよ!? 忘れないで!?」
クワイエット・ソースを追っていた人類連合軍の一小隊。彼らはクワイエット・ソースの攻撃を正面から食らったが、奇跡的に助かっていた。
「おのれ~、ここで大元帥を打ち倒せれば我らの出世は間違いなかったのに……」
「だから無茶だって言ったんですよ軍曹さんよぉ」
「もっと武器と武具を備えておればよかったのだ! 計画がずさんだ!」
「俺様に言ってくれりゃ良かったのによ~」
「い、いや、大元帥相手に僕ら五人だけはちょっと……」
その場で愚痴り合う呑気な小隊。彼らはこの後、他の部隊と合流して何の成果も残さずに本隊に戻っていくのであった。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
◆完結◆修学旅行……からの異世界転移!不易流行少年少女長編ファンタジー『3年2組 ボクらのクエスト』《全7章》
カワカツ
ファンタジー
修学旅行中のバスが異世界に転落!?
単身目覚めた少年は「友との再会・元世界へ帰る道」をさがす旅に歩み出すが……
構想8年・執筆3年超の長編ファンタジー!
※1話5分程度。
※各章トップに表紙イラストを挿入しています(自作低クオリティ笑)。
〜以下、あらすじ〜
市立南町中学校3年生は卒業前の『思い出作り』を楽しみにしつつ修学旅行出発の日を迎えた。
しかし、賀川篤樹(かがわあつき)が乗る3年2組の観光バスが交通事故に遭い数十mの崖から転落してしまう。
車外に投げ出された篤樹は事故現場の崖下ではなく見たことも無い森に囲まれた草原で意識を取り戻した。
助けを求めて叫ぶ篤樹の前に現れたのは『腐れトロル』と呼ばれる怪物。明らかな殺意をもって追いかけて来る腐れトロルから逃れるために森の中へと駆け込んだ篤樹……しかしついに追い詰められ絶対絶命のピンチを迎えた時、エシャーと名乗る少女に助けられる。
特徴的な尖った耳を持つエシャーは『ルエルフ』と呼ばれるエルフ亜種族の少女であり、彼女達の村は外界と隔絶された別空間に存在する事を教えられる。
『ルー』と呼ばれる古代魔法と『カギジュ』と呼ばれる人造魔法、そして『サーガ』と呼ばれる魔物が存在する異世界に迷い込んだことを知った篤樹は、エシャーと共にルエルフ村を出ることに。
外界で出会った『王室文化法暦省』のエリート職員エルグレド、エルフ族の女性レイラという心強い協力者に助けられ、篤樹は元の世界に戻るための道を探す旅を始める。
中学3年生の自分が持っている知識や常識・情報では理解出来ない異世界の旅の中、ここに『飛ばされて来た』のは自分一人だけではない事を知った篤樹は、他の同級生達との再会に期待を寄せるが……
不易流行の本格長編王道ファンタジー作品!
筆者推奨の作品イメージ歌<乃木坂46『夜明けまで強がらなくていい』2019>を聴きながら映像化イメージを膨らませつつお読み下さい!
※本作品は「小説家になろう」「エブリスタ」「カクヨム」にも投稿しています。各サイト読者様の励ましを糧についに完結です。
※少年少女文庫・児童文学を念頭に置いた年齢制限不要な表現・描写の異世界転移ファンタジー作品です。
貞操逆転世界に転生したのに…男女比一対一って…
美鈴
ファンタジー
俺は隼 豊和(はやぶさ とよかず)。年齢は15歳。今年から高校生になるんだけど、何を隠そう俺には前世の記憶があるんだ。前世の記憶があるということは亡くなって生まれ変わったという事なんだろうけど、生まれ変わった世界はなんと貞操逆転世界だった。これはモテると喜んだのも束の間…その世界の男女比の差は全く無く、男性が優遇される世界ではなかった…寧ろ…。とにかく他にも色々とおかしい、そんな世界で俺にどうしろと!?また誰とも付き合えないのかっ!?そんなお話です…。
※カクヨム様にも投稿しております。内容は異なります。
※イラストはAI生成です
性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。
狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。
街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。
彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)
世界最強の勇者は伯爵家の三男に転生し、落ちこぼれと疎まれるが、無自覚に無双する
平山和人
ファンタジー
世界最強の勇者と称えられる勇者アベルは、新たな人生を歩むべく今の人生を捨て、伯爵家の三男に転生する。
しかしアベルは忌み子と疎まれており、優秀な双子の兄たちと比べられ、学校や屋敷の人たちからは落ちこぼれと蔑まれる散々な日々を送っていた。
だが、彼らは知らなかったアベルが最強の勇者であり、自分たちとは遥かにレベルが違うから真の実力がわからないことに。
そんなことも知らずにアベルは自覚なく最強の力を振るい、世界中を驚かせるのであった。
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
クラス転移、異世界に召喚された俺の特典が外れスキル『危険察知』だったけどあらゆる危険を回避して成り上がります
まるせい
ファンタジー
クラスごと集団転移させられた主人公の鈴木は、クラスメイトと違い訓練をしてもスキルが発現しなかった。
そんな中、召喚されたサントブルム王国で【召喚者】と【王候補】が協力をし、王選を戦う儀式が始まる。
選定の儀にて王候補を選ぶ鈴木だったがここで初めてスキルが発動し、数合わせの王族を選んでしまうことになる。
あらゆる危険を『危険察知』で切り抜けツンデレ王女やメイドとイチャイチャ生活。
鈴木のハーレム生活が始まる!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる