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番外編6.ワカマリナの末路/母の末路
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(ワカマリナ視点)
糞尿処理施設という地獄で働かされて二週間が経過した頃、わたくしとお母様が呼ばれました。
「お前達に会いたいという人がいる。今日は普段着を着ていいぞ」
「「…………?」」
何事かと思いましたが、言われた通り普段着に着替えます。この地獄に来る前に来ていたボロい服を……。
「わたくしの……手……」
着替える時、わたくしの手がマメだらけになっていることに気づきました。体もやせ細って……当然のことですわ。ここでの仕事は過酷そのもの。鼻が曲がりそうな臭気の中でスコップを動かして運ぶの繰り返し、文句を言えば叩かれるし、印象が悪くなれば食事は減らされる。そんな中で一々体の状態を気にする余裕などありませんでした。もうわたくしの心は麻痺していたのですね……。
着替え終わったわたくしたち。その前に現れたのは、この前の娼館の店長でした。
「貴女はこの前の! ということは……!」
「ほう、こんな感じになったか。娘の方はマシになったね。体型が痩せてるし、顔もまともになったね」
お母様も驚いてなにかに気づきました。娼館の店長はまじまじとわたくしたちを眺めた後、言いました。
「よし、娘さんだけをうちに連れて行こう。母親の方はいらないや」
「え? それは……まさか、ここから出るってことで……?」
「そうだね。娘一人だけでいい。まあ、ましな顔になったしね」
「本当ですか!」
わたくしにチャンスが降ってきました! この地獄から抜け出せるというのです!
「待ってください! 私はどうなるのですか!?」
ん? お母様は『いらない』と言われています。だから、ここに残るのでしょう?
「あんたはいらないよ。老けた女なんて使いようがないじゃんよ」
「そんな! 私はワカマリナの母親なのですよ! ……ねえ、ワカマリナ、貴女からもお願いしてくれるわよね? お母様が一緒じゃなきゃ嫌でしょ? ね?」
「お母様……」
……わたくしは呆れました。まさかお母様がこんなに卑しい姿をわたくしに見せるなんて思ってもいませんでした。自分に魅力がないから娘に縋るなんて、こんな母親がいたらわたくしの評価が下がりますわ。わたくしの未来のためにも、お母様にはここにいてもらうと笑顔で言いましょう。
「お母様、お母様にはここで働いてお金を稼いで借金と慰謝料を払ってください。わたくしは自分を見出してくれるこの人に一人で付いていきますので、お母様はここで頑張ってください!」
笑顔で言ってお願いしました。しかし、お母様は……
「ふ、ふざけんじゃないわよ! 自分だけ外に出ようと思うだなんて何考えてんのよ! そもそもお前のせいでカネに困ったんじゃないのよ! 良くもそんな残酷なことを母親に言えるわね! この親不孝者! 疫病神!」
どうやらわたくしの真心は伝わらなかったようで騒ぎ出してしまいました。お母様は心が荒みきっていたのですね。
「そんじゃ、娘さんの方は一緒に行こうか。それじゃあ、そっちのババアはよろしく」
お母様の方を振り返ると恐ろしい形相でこっちに手を伸ばし羽交い締めにされる姿がありました。
「ま、待ってよ! 私もそっちに連れてって~!」
扉が閉じました。お母様とお別れになりましたが不思議と悲しみがこみ上げません。当然ですわ。あのような恐ろしい人だったのだから情もわきません。
これがお母様との最後の別れになりました。自分のことしか考えられなくなった母の末路は、地獄の中から出られない。わたくしの人生の足を引っ張ったお母様、地獄の中で反省してくださいね。
◇
(フミーナ視点)
……なんで? どうして? わたしのワカマリナが、わたしをみすてたの?
ここから、いっしょにでていくんじゃなかったの?
ふたりで……いっしょに……
「おい、ぼさっとしてないで仕事に戻るぞ」
……後ろから男に引っ張られて仕事に戻される。いつもの臭くて仕方のない仕事に戻される。
そして、現実に戻される。
今日から、マシな生活になると思ったのに!
「ううう、うわああああああああああああ」
私は泣きわめいた。いい年して子供のように大泣きを始めた。
私がこんな仕事を真面目にしてきたのは、ワカマリナがいれば抜け出せると思っていたからだ。ワカマリナが仕事をして痩せてくれれば、娼館で使えるくらいにはなると思っていた。だから、あの子に無理矢理でも仕事をさせてきたのに、その結果がこれか!
「こんなのあんまりよおおおおおおおおお」
◇
フミーナは、この仕事を始めてから半年後に体調不良で死亡した。
糞尿処理施設という地獄で働かされて二週間が経過した頃、わたくしとお母様が呼ばれました。
「お前達に会いたいという人がいる。今日は普段着を着ていいぞ」
「「…………?」」
何事かと思いましたが、言われた通り普段着に着替えます。この地獄に来る前に来ていたボロい服を……。
「わたくしの……手……」
着替える時、わたくしの手がマメだらけになっていることに気づきました。体もやせ細って……当然のことですわ。ここでの仕事は過酷そのもの。鼻が曲がりそうな臭気の中でスコップを動かして運ぶの繰り返し、文句を言えば叩かれるし、印象が悪くなれば食事は減らされる。そんな中で一々体の状態を気にする余裕などありませんでした。もうわたくしの心は麻痺していたのですね……。
着替え終わったわたくしたち。その前に現れたのは、この前の娼館の店長でした。
「貴女はこの前の! ということは……!」
「ほう、こんな感じになったか。娘の方はマシになったね。体型が痩せてるし、顔もまともになったね」
お母様も驚いてなにかに気づきました。娼館の店長はまじまじとわたくしたちを眺めた後、言いました。
「よし、娘さんだけをうちに連れて行こう。母親の方はいらないや」
「え? それは……まさか、ここから出るってことで……?」
「そうだね。娘一人だけでいい。まあ、ましな顔になったしね」
「本当ですか!」
わたくしにチャンスが降ってきました! この地獄から抜け出せるというのです!
「待ってください! 私はどうなるのですか!?」
ん? お母様は『いらない』と言われています。だから、ここに残るのでしょう?
「あんたはいらないよ。老けた女なんて使いようがないじゃんよ」
「そんな! 私はワカマリナの母親なのですよ! ……ねえ、ワカマリナ、貴女からもお願いしてくれるわよね? お母様が一緒じゃなきゃ嫌でしょ? ね?」
「お母様……」
……わたくしは呆れました。まさかお母様がこんなに卑しい姿をわたくしに見せるなんて思ってもいませんでした。自分に魅力がないから娘に縋るなんて、こんな母親がいたらわたくしの評価が下がりますわ。わたくしの未来のためにも、お母様にはここにいてもらうと笑顔で言いましょう。
「お母様、お母様にはここで働いてお金を稼いで借金と慰謝料を払ってください。わたくしは自分を見出してくれるこの人に一人で付いていきますので、お母様はここで頑張ってください!」
笑顔で言ってお願いしました。しかし、お母様は……
「ふ、ふざけんじゃないわよ! 自分だけ外に出ようと思うだなんて何考えてんのよ! そもそもお前のせいでカネに困ったんじゃないのよ! 良くもそんな残酷なことを母親に言えるわね! この親不孝者! 疫病神!」
どうやらわたくしの真心は伝わらなかったようで騒ぎ出してしまいました。お母様は心が荒みきっていたのですね。
「そんじゃ、娘さんの方は一緒に行こうか。それじゃあ、そっちのババアはよろしく」
お母様の方を振り返ると恐ろしい形相でこっちに手を伸ばし羽交い締めにされる姿がありました。
「ま、待ってよ! 私もそっちに連れてって~!」
扉が閉じました。お母様とお別れになりましたが不思議と悲しみがこみ上げません。当然ですわ。あのような恐ろしい人だったのだから情もわきません。
これがお母様との最後の別れになりました。自分のことしか考えられなくなった母の末路は、地獄の中から出られない。わたくしの人生の足を引っ張ったお母様、地獄の中で反省してくださいね。
◇
(フミーナ視点)
……なんで? どうして? わたしのワカマリナが、わたしをみすてたの?
ここから、いっしょにでていくんじゃなかったの?
ふたりで……いっしょに……
「おい、ぼさっとしてないで仕事に戻るぞ」
……後ろから男に引っ張られて仕事に戻される。いつもの臭くて仕方のない仕事に戻される。
そして、現実に戻される。
今日から、マシな生活になると思ったのに!
「ううう、うわああああああああああああ」
私は泣きわめいた。いい年して子供のように大泣きを始めた。
私がこんな仕事を真面目にしてきたのは、ワカマリナがいれば抜け出せると思っていたからだ。ワカマリナが仕事をして痩せてくれれば、娼館で使えるくらいにはなると思っていた。だから、あの子に無理矢理でも仕事をさせてきたのに、その結果がこれか!
「こんなのあんまりよおおおおおおおおお」
◇
フミーナは、この仕事を始めてから半年後に体調不良で死亡した。
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