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212.熱/薬物

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テールの戦いを見ていたアキエーサたちは目を丸くしていた。というよりも戦いどころか蹂躙としか言いようがなかった。クァズを過激と言っていいほど殴り潰したのだ。見る人の九割くらいは恐怖すら感じさせるだろう。実際、ショウとフィルは戦慄を覚えていた。

「て、テールさんが強いのは知ってたけど……すごすぎやしないか? 細身マッチョだとは思ったけど、実は服の下は筋骨隆々だったりするんじゃね?」

「そ、それもあるけど、クァズの体が弱すぎる気がするね。痛覚が麻痺していたみたいだし、何らかの薬物の副作用とかかな?」

ショウとフィルはテールとクァズに対して疑問を感じ、それぞれ推察する。だがこの二人と違って、アキエーサのテールを見る目は輝いていた。

「テール様……なんてたくましい……。あの異常者に臆することなく、立ち向かうなんて……!」

「「アッキー!?」」

アキエーサのテールを眺める顔が熱く見える。ショウとフィルは初めて見るかもしれないアキエーサの熱っぽい女の顔に驚いた。

「あ、あのアッキーが……普通の恋する女の子みたいに……あんな過激なものを見てそれ!?」

「まあ、いくら天才的な頭脳でしっかりした性格でも、年若い女性だしね……。しかし、あれはちょっと……」

アキエーサが珍しい雰囲気を醸し出している間に、テールが合流してきた。

「アキエーサ、終わったよ」

「テール様」

「「……」」

アキエーサとテールが深く抱きしめ合う。ショウとフィルがすぐ側にいるのに。それを忘れたかのように人目をはばからず抱きしめあった。ショウとフィルは少し距離をおいて、小声で会話する。

「あ~……アタシら何か邪魔みたいだな。アタシは空気読んで二人から見えない範囲で護衛するから、フィルはクァズを調べてくれよ。なにか分かるかもしれねえし」

「そうだね。……あんなのを見せられるとねえ」

ショウはアキエーサから見えない位置で護衛、フィルはクァズの調査ということで役割分担した。主であるアキエーサとその婚約者のテールのことを思ってのことだ。それに、クァズのことも放っておくわけにもいかなかったのだ。

「まあ、後で二人をからかってやろうや。お熱いお二人さんをな」

「ふふふ、そうだね。珍しいものも見れたしね」

ショウとフィルは苦笑してから、互いに決めた役割を果たすべく行動した。



この後、駆けつけた兵士たちにクァズは気絶したまま連行された。アキエーサたちも周囲の危険性を考えて王宮のルカスと合流、情報共有して事件の黒幕を突き止めることとなった。





クァズをざっくり調べたフィルによると、クァズはいくつかの薬物を投与されていた。精神を不安定にさせたり、痛覚を麻痺させたり、自白しやすくする効果をもたらす薬物を投与されていたらしい。特に酷いのが遅効性の身体能力の低下の効果を持つ薬物だとか。

「隣国で拷問のときに使われた薬物で、身体能力の高い相手に使われていたみたいだね。すでに使用禁止にされているはずだから裏のルートで入手したと見るべきだ」

「ってことは高位貴族が関係してるってわけか。どっかの公爵家とか?」

「それくらいの相手でなければ、そんな薬物は手に入れられないよ。だとすれば……」

「そういうことだよな」

フィルがある程度特定した頃には、すでに容疑者が浮かんでいた。
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