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172.慟哭する国王/役立たず
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王宮では国王と大臣たち、それに後から合流したルカス・イムラン侯爵とジノン・ベスクイン公爵が話し合っていた。一連の事件のことで情報共有と打開策などを話し合っているのだ。襲撃犯の正体等については合流したショウとフィルの情報で判明したのだが、それはただでさえ頭を悩ませていた国王を更に苦しめるものだった。
「イムラン侯爵、ベスクイン公爵、本当にすまなかった! まさか、我が愚息が他国の者にそそのかされてそなたたちの娘を誘拐しようなどと企てるとは……ましてや、ダブール商会の情報を他国に売るなどと言う売国行為まで、まさかここまで愚かな男だったとは……! なんということだ……!」
「陛下、我らの娘は無事ですので……」
国王は愚息アクサンがどうなったのか、何をしようとしていたのか、それらを詳しく聞いてアクサンに激しい怒りと悲しみを抱いた。とても頭の悪い息子だとは国王も父親として分かってはいたが、あまりにも度が過ぎた犯罪行為に絶望した。愚行だけでなく道徳の欠いた非道な行いにも手を出そうとしていたのだから当然だ。それと同時に、憎悪に近い怒りを己に抱いた。
「私が、私が間違っていた! 愚かだったのだ! 初めてできた子供ゆえに過ぎた愛情を抱いた結果がこれか! 王族の立場を利用して理不尽かつ傲慢な悪になり下がり、国を売るような禁忌を犯し……ああああああああ!!」
国王は最後まで言いつくす前に感情が爆発した。人前にもかかわらず王冠が落ちることも構わず頭を掻きむしり、慟哭した。その姿は『王』ではなく、子を嘆く『父』の姿だった。
……己の子を嘆く悲しき父親。そんな言葉が似あうような姿だった。その場にいる全員がそう思った。
「国王陛下! 落ち着いてください! 今は後悔している場合ではありません!」
「そうです! 我が国に起こっている問題の解決が優先でしょう!」
「しかし、しかし!」
側近の大臣たちが頭を抱えて慟哭する国王を諫める。それでも悩み苦しみ取り乱す国王だったが、古くからの友人二人が予想外の言葉をかける。
「……国王陛下……どうかお聞きください」
「……イムラン侯爵……」
「陛下、無礼を承知で申し上げます。どうか陛下は思う存分悩み後悔してください」
「「「「「ええっ!?」」」」」
「陛下、私も侯爵と同意見です。今は陛下には悔い改める時間の方が重要だと申し上げます」
「……ベスクイン公爵……そなたたち……?」
大臣たちも、国王も、他の部下たちも驚かされた。大貴族とはいえ国王に『後悔すること』『悔い改めること』の方が重要だなどと言いだしたのだ。冷静に問題に対処しなければならないこんな時に限ってだ。
「こ、侯爵、何をおっしゃるのです!?」
「言いたいことは分かります。ですが、今は陛下には落ち着いていただくほうがいい。そのためにも一度、アクサン殿下のことは王としてではなく父親として考えて悩んでいただきたい。そうすれば、この件について十分頭が冷えるでしょう」
「今の陛下は御子息アクサン殿下のことで冷静に考えることはできますまい。十分お考え下さった後でこの件に向き合われるべきでしょう。その間は我々だけで対処すればいい。そう思いませんか?」
「「「「「…………」」」」」
大臣たちは唖然とした。侯爵と公爵の言い分を要約すれば、『国王陛下は息子のことが絡んだせいで今は役に立たないから蚊帳の外にいてもらおう』ということだ。いくら上級貴族と言えども無礼すぎる言い分だ。オブラートに言っているようで、『国王は役立たずだから一人で悩め』と言っているようなものだ。
「イムラン侯爵、ベスクイン公爵、本当にすまなかった! まさか、我が愚息が他国の者にそそのかされてそなたたちの娘を誘拐しようなどと企てるとは……ましてや、ダブール商会の情報を他国に売るなどと言う売国行為まで、まさかここまで愚かな男だったとは……! なんということだ……!」
「陛下、我らの娘は無事ですので……」
国王は愚息アクサンがどうなったのか、何をしようとしていたのか、それらを詳しく聞いてアクサンに激しい怒りと悲しみを抱いた。とても頭の悪い息子だとは国王も父親として分かってはいたが、あまりにも度が過ぎた犯罪行為に絶望した。愚行だけでなく道徳の欠いた非道な行いにも手を出そうとしていたのだから当然だ。それと同時に、憎悪に近い怒りを己に抱いた。
「私が、私が間違っていた! 愚かだったのだ! 初めてできた子供ゆえに過ぎた愛情を抱いた結果がこれか! 王族の立場を利用して理不尽かつ傲慢な悪になり下がり、国を売るような禁忌を犯し……ああああああああ!!」
国王は最後まで言いつくす前に感情が爆発した。人前にもかかわらず王冠が落ちることも構わず頭を掻きむしり、慟哭した。その姿は『王』ではなく、子を嘆く『父』の姿だった。
……己の子を嘆く悲しき父親。そんな言葉が似あうような姿だった。その場にいる全員がそう思った。
「国王陛下! 落ち着いてください! 今は後悔している場合ではありません!」
「そうです! 我が国に起こっている問題の解決が優先でしょう!」
「しかし、しかし!」
側近の大臣たちが頭を抱えて慟哭する国王を諫める。それでも悩み苦しみ取り乱す国王だったが、古くからの友人二人が予想外の言葉をかける。
「……国王陛下……どうかお聞きください」
「……イムラン侯爵……」
「陛下、無礼を承知で申し上げます。どうか陛下は思う存分悩み後悔してください」
「「「「「ええっ!?」」」」」
「陛下、私も侯爵と同意見です。今は陛下には悔い改める時間の方が重要だと申し上げます」
「……ベスクイン公爵……そなたたち……?」
大臣たちも、国王も、他の部下たちも驚かされた。大貴族とはいえ国王に『後悔すること』『悔い改めること』の方が重要だなどと言いだしたのだ。冷静に問題に対処しなければならないこんな時に限ってだ。
「こ、侯爵、何をおっしゃるのです!?」
「言いたいことは分かります。ですが、今は陛下には落ち着いていただくほうがいい。そのためにも一度、アクサン殿下のことは王としてではなく父親として考えて悩んでいただきたい。そうすれば、この件について十分頭が冷えるでしょう」
「今の陛下は御子息アクサン殿下のことで冷静に考えることはできますまい。十分お考え下さった後でこの件に向き合われるべきでしょう。その間は我々だけで対処すればいい。そう思いませんか?」
「「「「「…………」」」」」
大臣たちは唖然とした。侯爵と公爵の言い分を要約すれば、『国王陛下は息子のことが絡んだせいで今は役に立たないから蚊帳の外にいてもらおう』ということだ。いくら上級貴族と言えども無礼すぎる言い分だ。オブラートに言っているようで、『国王は役立たずだから一人で悩め』と言っているようなものだ。
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