上 下
165 / 229

165.クァズ視点/裏帳簿

しおりを挟む
(クァズ視点)


悔しがっている場合じゃない。金庫は開けたのだから、僕は金と必要な書類、それに父上が無くしたら困るであろう物を持ち運べる限り持ち去らなければならない。例えば、この裏帳簿とかいいかもしれない。


「……父上も僕と似たようなもんじゃないか」


裏帳簿。簡単に言えば不正な金を使ったという証拠だ。こんなものがあるってことは、国に治めるお金を誤魔化して私的に使ったというわけだ。……なんだ、父上もろくのことしてないじゃないか。


「王太子の調査……? 人を雇って王家の弱みを探っていたのか?」


王太子を調査して王家の弱みを探る。何だこれは? 確かに今の王太子アクサンは相当馬鹿だが、こんなことをしていたとバレると痛いだろうな。父上は謀反を起こすつもりだったのか? 何のために?


「だけど、これは利用させてもらえるな」


今更、父上の目論んでいたこと等どうでもいい。今は僕の望む未来が叶えればいい。どれだけだ。だからこの書類は取引相手にくれてやるんだ。


「……もう、いいかな」


もうここには用はない。必要な分だけの金と物資。それに取引にしてはおつりが来そうな重要な書類も手に入った。後は侵入されたとバレないように去るだけだ。


こうして僕は、かつて住んでいた屋敷に不法侵入し、使用人の誰にもバレずに、父上の書斎に入って金と書類を手に入れて去っていったのだ。






クァズがジューンズ侯爵の屋敷に侵入してから三日後。

「どういうことだこれは!?」

ジューンズ侯爵は久しぶりに屋敷に戻って自身の書斎に入ったとたんに驚愕した。何故なら、明らかに金庫の位置がずれていたのだ。嫌な予感がして金庫の中を開けてみれば、顔を青褪めることになった。

「な、ない! 書類に裏帳簿、それに金が一部無くなっているではないか!」

侯爵が屋敷に戻ったのは、明後日の王太子主催のパーティーに出席する準備を整えるためだった。本心では行きたくないのだが断るのも悪いので渋々だが行く決断をして屋敷に戻ったのだ。そうしたら、このありさまだ。屋敷に残った者達からは『特に異常はありませんでした』などと言われたばかりだというのに。

「……な、何ということだ。あんなものを盗まれたのだとしたら……」

金庫の中にしまっていた書類には、王家に知られてはマズい内容が記載されていたのだ。それは王太子アクサンの目に余る行動はもちろん、今の国王やその親類に至るまで勝手に探りを入れて弱みを探し続けていたことまでを記された書類。決して王族やその派閥に与する貴族に知られたくはないものであった。

「いや、裏帳簿まで……」

それだけではない。ジューンズ侯爵家の裏の帳簿まで失われてしまった。それもまた、ジューンズ侯爵家を失墜させるには十分すぎる代物。そんなものまで無くなってしまった事実に侯爵は頭を抱えるしかない。

「な、何故こんな時にこのような……明後日のパーティーに出席どころの話ではない……」

明後日のパーティーは欠席しよう。その空いた時間を盗まれた書類と裏帳簿のために充てるのだ。侯爵はそれだけはすぐに決断できた。だてに『侯爵』ほどの思い身分でいるわけではないのだ。

「おのれぇ……どこの馬鹿がやったかは知らんが何としてでもみつっけ出さねば我が家は終わりだ……!」

侯爵はすぐに行動に出る。王宮にパーティーを欠席するように伝え、信頼できる側近を集めて怪しいものを片っ端から調べさせようとした。屋敷にいた者達から、己を恨む者まで全て調べ上げ始めたのだ。

勿論、追放したクァズのことまで。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~

tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!! 壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは??? 一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

いじめられ続けた挙げ句、三回も婚約破棄された悪役令嬢は微笑みながら言った「女神の顔も三度まで」と

鳳ナナ
恋愛
伯爵令嬢アムネジアはいじめられていた。 令嬢から。子息から。婚約者の王子から。 それでも彼女はただ微笑を浮かべて、一切の抵抗をしなかった。 そんなある日、三回目の婚約破棄を宣言されたアムネジアは、閉じていた目を見開いて言った。 「――女神の顔も三度まで、という言葉をご存知ですか?」 その言葉を皮切りに、ついにアムネジアは本性を現し、夜会は女達の修羅場と化した。 「ああ、気持ち悪い」 「お黙りなさい! この泥棒猫が!」 「言いましたよね? 助けてやる代わりに、友達料金を払えって」 飛び交う罵倒に乱れ飛ぶワイングラス。 謀略渦巻く宮廷の中で、咲き誇るは一輪の悪の華。 ――出てくる令嬢、全員悪人。 ※小説家になろう様でも掲載しております。

舞台装置は壊れました。

ひづき
恋愛
公爵令嬢は予定通り婚約者から破棄を言い渡された。 婚約者の隣に平民上がりの聖女がいることも予定通り。 『お前は未来の国王と王妃を舞台に押し上げるための装置に過ぎん。それをゆめゆめ忘れるな』 全てはセイレーンの父と王妃の書いた台本の筋書き通り─── ※一部過激な単語や設定があるため、R15(保険)とさせて頂きます 2020/10/30 お気に入り登録者数50超え、ありがとうございます(((o(*゚▽゚*)o))) 2020/11/08 舞台装置は壊れました。の続編に当たる『不確定要素は壊れました。』を公開したので、そちらも宜しくお願いします。

【完結】選ばれなかった王女は、手紙を残して消えることにした。

曽根原ツタ
恋愛
「お姉様、私はヴィンス様と愛し合っているの。だから邪魔者は――消えてくれない?」 「分かったわ」 「えっ……」 男が生まれない王家の第一王女ノルティマは、次の女王になるべく全てを犠牲にして教育を受けていた。 毎日奴隷のように働かされた挙句、将来王配として彼女を支えるはずだった婚約者ヴィンスは──妹と想いあっていた。 裏切りを知ったノルティマは、手紙を残して王宮を去ることに。 何もかも諦めて、崖から湖に飛び降りたとき──救いの手を差し伸べる男が現れて……? ★小説家になろう様で先行更新中

お父様お母様、お久しぶりです。あの時わたしを捨ててくださりありがとうございます

柚木ゆず
恋愛
 ヤニックお父様、ジネットお母様。お久しぶりです。  わたしはアヴァザール伯爵家の長女エマとして生まれ、6歳のころ貴方がたによって隣国に捨てられてしまいましたよね?  当時のわたしにとってお二人は大事な家族で、だからとても辛かった。寂しくて悲しくて、捨てられたわたしは絶望のどん底に落ちていました。  でも。  今は、捨てられてよかったと思っています。  だって、その出来事によってわたしは――。大切な人達と出会い、大好きな人と出逢うことができたのですから。

悪役令嬢の去った後、残された物は

たぬまる
恋愛
公爵令嬢シルビアが誕生パーティーで断罪され追放される。 シルビアは喜び去って行き 残された者達に不幸が降り注ぐ 気分転換に短編を書いてみました。

平凡令嬢は婚約者を完璧な妹に譲ることにした

カレイ
恋愛
 「平凡なお前ではなくカレンが姉だったらどんなに良かったか」  それが両親の口癖でした。  ええ、ええ、確かに私は容姿も学力も裁縫もダンスも全て人並み程度のただの凡人です。体は弱いが何でも器用にこなす美しい妹と比べるとその差は歴然。  ただ少しばかり先に生まれただけなのに、王太子の婚約者にもなってしまうし。彼も妹の方が良かったといつも嘆いております。  ですから私決めました!  王太子の婚約者という席を妹に譲ることを。  

処理中です...