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161.クァズ視点/合鍵

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(クァズ視点)

僕は追い出される前に『合鍵』だけは隠し持っていた。ジューンズ家の屋敷の合鍵だ。これを使えば屋敷の門を開けられる。


「……遂にこれを使う時が来たのか」


これはいざという時に備えて父上に返さなかったんだ。例えば、生活が苦しくなった時に金が必要になるなら、この合鍵を使って夜中に屋敷に忍び込み、金を含め必要な物を持ち去る。衣服や食べ物、それにお金に還元できる宝石などなど。


……悪く言えば。いや単純に泥棒だけどね。


「……父上は、僕が何を言おうとも助けてくれない」


父上は僕をためらうことなく家から追放した。血の繋がった実の息子なのに、少し金遣いが荒かっただけで追い出しやがった。………まあ、確かに公爵家や周りの貴族に迷惑をかけたことは認めるけど、それで家から追放なんてあんまりだ。婚約した相手のことだって些細なミスなのに……!


「息子の僕をこんな目に遭わせる父上は、自分のことしか……家のことしか考えていないんだ……!」


僕は苦しくなって、追い出された後も何とか再会して追放を無かったことにしてもらおうと訴えたのに、無視したり部下に叩きのめさせたり……つらかった。挙句には、僕の命までも軽んじるような発言まで……もう人間の所業じゃない。最低最悪だ!


追放しても……息子なんだから、助けてくれてもいいじゃないか! 畜生!


「だから、奪ってやるんだ……!」


馬車に乗ってボロボロになる僕を嘲笑うような男だった父上、そんな男に頼ろうとは思わないし、頼りたいとも思わない。僕の方からもあんな父上と親子だなんて願い下げだね。だけど、やられっぱなしじゃ僕の気が済まないんだ。何か違う形でやり返してやりたいとう気持ちが疼く。


しかし、僕ができることは限られている。それは、この合鍵を使って屋敷に侵入して必要な金と物資を奪うことだけだ。それに、それだけでも結構困難だ。


「……武器は必須になるのかな。仮にも侯爵家なんだし」


ジューンズ家は侯爵。つまり、それだけ格のある家ということだ。屋敷の警備も厳しいことだろう。下手をすれば使用人と鉢合わせしてしまう可能性も高い。万が一見つかってしまえば、今度こそ命を……そう思うと身震いしてしまう。


「……使用人共は僕に容赦しないだろうな。変装もしなきゃな」


屋敷にいた頃の僕は、使用人共を見下していた。都合のいい奴隷のように思って、そのように扱っていたんだ。使用人なんて、敗者の生き方だとすら思っていただけに存外に扱っていた。あまりに度が過ぎる悪戯をすると父上に注意されたこともあったが、使用人共を軽んじることを止めなかった。


ただ、それでも侍女を女と見て手を出すことまではしなかった。僕は貴族の女性しか見ないし、平民出身であろう侍女なんか対象にしなかった。侍女のほとんどが僕より年上だったし。……それでも時折、いい目で見られなかったような気もするけどな。


……今思えば、僕は屋敷で嫌われるようなことばかりしていたのかもしれない。いや、ていうか、僕は酷すぎやしないだろうか? 何だか、屋敷に忍び込むことが怖くなったぞ。やっぱり、武器は必須、変装は必要なことだな。


実行するとなると、失敗は命取りになる。だから念入りに計画を立てなければならない。今までの僕は後先考え無しで計画性のない行動が目立っていた。それで失敗してきた。女遊びも婚約者も……ワカマリナのことだってそうだ。あの女がくっついて来なければ僕は……!


「ワカマリナ……あいつだけは許せない!」
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