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156.ボス戦/決着

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女用心棒ショウ・トゥアーロとならず者のリーダー格コックロ・チーズの対決が始まった。その戦いでショウに少し誤算が生じた。彼女が思ったよりもコックロに剣士の実力があったのだ。ある程度の軽口を叩く余裕を見せられないくらいには。

「ふんっ!」

コックロは大柄な体格だ。そのうえ見るからに鍛えられてきた強靭な肉体をもっている。両腕で大剣を持ち、ショウに向かって振り下ろす。

「ふっ!」

ショウは、決して遅くはない早さで振り下ろされる大剣を素早くかわしていく。彼女もまた鍛えてきたが筋力に関してはコックロに及ばない。だが、身のこなしや動体視力は賞の方が上だった。

「へえ、結構早いな」

「もっと早くしてやるよぉ!」

「おっ!?」

連続で振るわれる大剣、コックロの言葉通り、その振り下ろす早さが少しずつ早くなっていくのをショウは感じる。それに雑に振るっているわけではないこともあって、剣の技量も少なからず感じられた。どうやら、ショウの見立てからするとコックロには剣士としての経験があるようだった。

「がはははは! どうだ見たか! この俺様は若い頃から鍛えられた強者なんだ! テメエごときに負けるような無様は晒しはせん!」

「若い頃、なるほど………」

コックロは若くはない。見たところ三十代後半か四十くらいの年齢が妥当だろう。それで若い頃から鍛えてきたというのであれば、その強さは賞も納得できる。ただ、詳しいこと等ショウは確かめるようなことはしない。

「へっ、戦いはこうでなくっちゃな………」

「おいおい、何笑ってやがんだ!」

しかし、ショウは負ける気はしなかった。むしろ、笑顔を浮かべ始めた。

「楽しくなってきたんだよ! おらぁ!」

「っ!?」

ショウがコックロの体剣を跳ね返したと同時に、彼女の動きが早くなった。

「な、何っ!?」

いや、動きが早くなっただけではない。彼女の振るう剣の圧が重くなり、それでいて隙が一切見えないのだ。まるで、これが本当の実力だと言わんばかりに見せつけるではないか。

「て、テメエ! さっきは手を抜いていたとでもいうのか!?」

「お楽しみはとっておくもんだろうがぁ!」

「くっ! どぅっ!?」

ショウの剣がコックロの左の頬を掠めた。コックロが少しだが流血したのだ。つまり、初めて傷をつけられたのだ。

「こ、この俺が、こんな女に………あっ!?」

二十代にもならない小娘に傷つけられた正垣をコックロは感じ怒りすら生じたが、それが好きを造った。

「はあああああああ!」

「んなっ!? このっ……! く、くうっ!」

そして、更に傷をつけられていく。右の手の甲、左肩、右耳、左肘、右肩、左腕………。文字通り、コックロは切り刻まれていったのだ。それに対してショウは傷一つ付けられていない。少し息を切らしているだけ。

「ぶ、ぶぁ、馬鹿な………こ、この俺様が………!」

気づけば、多くの傷口からの出血と、体力の消耗により、コックロは限界まで来ていた。それでも気力を振り絞ってショウを睨みながら立ち続けていたが、それだけしかできない。

「残念だが、無様な負け様を晒すことになったようだな。コックなんたら」

「お、俺様はコックロ………チ………」

「名前は聞いてねえよ。はぁっ!」

ショウの剣が振るわれて、コックロの大剣が弾かれた。彼の剣はそのまま床に転がった。それと同時に、コックロも倒れてしまった。

「アタシの勝ち! まっ、楽しかったよ!」

「…………」

決着はついた。ショウの勝利に終わった。
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