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119.テール視点/俺の役目
しおりを挟む(テール視点)
俺が先に怒り狂えばよかったかもしれない。そう思うほど、イムラン侯爵の行動は衝撃的だった。あんなに男らしく、それでいて大人の雰囲気を見せるイムラン侯爵が、あれほど大胆な行動に出るなんて……俺の方が先にやりたかった。
イムラン侯爵は、イカゾノス伯爵夫妻がアキエーサに助けを呼ぶなどという恥知らず極まりない行動に出た時に誰よりも早く怒りを露わにして、兵士たちをかき分けて胸ぐらを掴める距離まで迫った。
何度も思うが俺も同じように行動したかったけど、隣にいるアキエーサを振り返れば様子がおかしくなっていてそれどころではなくなった。アキエーサのことが第一だ。彼女のことが心配になった俺は、元凶のイカゾノス伯爵夫妻に怒りをぶつけるよりも愛する女性の傍を離れないほうが大事だと悟ったんだ。
「アキエーサ! しっかりしろ! 大丈夫だ! 俺がついてる!」
「……て、テール様? 私、今、何を、聞いたんです?」
「!」
あんな奴らに掌を返されるように助けを壊れたことがよほどのショック、いや拒絶反応だったのだろうか。目が虚ろで、震えながら何を聞いたのか確認まで取ろうとしている。……それほどあいつらにひどい思いをさせられたんだな。もしくはトラウマの類なのか?
どうやら、奴らに怒鳴り散らすのは俺の役目じゃないようだ。俺の役目、俺がするべきなのは、アキエーサの手を握って傍にいることだ!
「アキエーサ……何も聞く必要はない。君の親はイムラン侯爵だけだ。君が今誰かを助ける必要はない」
「テール様……?」
「今の君はアキエーサ・イムラン侯爵令嬢なんだろ? イカなんたら伯爵なんかもう関係ないんだ」
「そうですわアキエーサ様。もう王宮に留まる必要はありません。この場から去ってしまいましょう」
公爵令嬢エリザ様もアキエーサを心配してくれて、優しく微笑みかけてくれる。それに、気づけばベスクイン公爵もアキエーサの視界にクズ伯爵夫妻が入らないように移動してくれた。要するに大柄な体格を利用してアキエーサの視界を遮るわけだ。
「アキエーサ、君にはどこぞの伯爵なんか必要はない。ここに君を大切にしてくれる人だけがいる。そうだろ? だからもう、悪い人たちの声なんか聞かなくていいんだ。安心してくれ」
「……………………」
アキエーサの目から光が戻ってきたように見える。体の震えも止まった。そして、手を握る俺に笑顔を見せてくれた。
「ありがとうございます……テール様」
「! アキエーサ……」
「それに……エリザ様も……」
「それほどではありませんよ、アキエーサ様も私を助けてくださいましたから……」
どうやら、アキエーサは落ち着いたようだ。後は、イムラン侯爵の方だけど……。
「「「「っ!?」」」」
突然、向こうでバキッという人が人を殴るような生々しい音が聞こえた。振り返ると、兵士たちに支えられたイカゾノス伯爵が白目向いて気絶していた。それに、イムラン侯爵が戻ってくる。気のせいかスッキリした顔なのは、もしや……?
「イムラン侯爵……?」
「何でもない。イカゾノス伯爵がバカやってたもんで大人しくしてもらっただけだ。何も問題はない」
……弟である男を他人のように言い放つ。どうやら、イムラン侯爵はイカゾノス伯爵を『兄弟』として見なくなったことだけは分かる。遂に、伯爵は娘だけでなく兄すら失ったということか。
この後、俺達は王宮を出た後で解散した。それぞれの屋敷に戻って今後のことを相談するわけだ。
俺が先に怒り狂えばよかったかもしれない。そう思うほど、イムラン侯爵の行動は衝撃的だった。あんなに男らしく、それでいて大人の雰囲気を見せるイムラン侯爵が、あれほど大胆な行動に出るなんて……俺の方が先にやりたかった。
イムラン侯爵は、イカゾノス伯爵夫妻がアキエーサに助けを呼ぶなどという恥知らず極まりない行動に出た時に誰よりも早く怒りを露わにして、兵士たちをかき分けて胸ぐらを掴める距離まで迫った。
何度も思うが俺も同じように行動したかったけど、隣にいるアキエーサを振り返れば様子がおかしくなっていてそれどころではなくなった。アキエーサのことが第一だ。彼女のことが心配になった俺は、元凶のイカゾノス伯爵夫妻に怒りをぶつけるよりも愛する女性の傍を離れないほうが大事だと悟ったんだ。
「アキエーサ! しっかりしろ! 大丈夫だ! 俺がついてる!」
「……て、テール様? 私、今、何を、聞いたんです?」
「!」
あんな奴らに掌を返されるように助けを壊れたことがよほどのショック、いや拒絶反応だったのだろうか。目が虚ろで、震えながら何を聞いたのか確認まで取ろうとしている。……それほどあいつらにひどい思いをさせられたんだな。もしくはトラウマの類なのか?
どうやら、奴らに怒鳴り散らすのは俺の役目じゃないようだ。俺の役目、俺がするべきなのは、アキエーサの手を握って傍にいることだ!
「アキエーサ……何も聞く必要はない。君の親はイムラン侯爵だけだ。君が今誰かを助ける必要はない」
「テール様……?」
「今の君はアキエーサ・イムラン侯爵令嬢なんだろ? イカなんたら伯爵なんかもう関係ないんだ」
「そうですわアキエーサ様。もう王宮に留まる必要はありません。この場から去ってしまいましょう」
公爵令嬢エリザ様もアキエーサを心配してくれて、優しく微笑みかけてくれる。それに、気づけばベスクイン公爵もアキエーサの視界にクズ伯爵夫妻が入らないように移動してくれた。要するに大柄な体格を利用してアキエーサの視界を遮るわけだ。
「アキエーサ、君にはどこぞの伯爵なんか必要はない。ここに君を大切にしてくれる人だけがいる。そうだろ? だからもう、悪い人たちの声なんか聞かなくていいんだ。安心してくれ」
「……………………」
アキエーサの目から光が戻ってきたように見える。体の震えも止まった。そして、手を握る俺に笑顔を見せてくれた。
「ありがとうございます……テール様」
「! アキエーサ……」
「それに……エリザ様も……」
「それほどではありませんよ、アキエーサ様も私を助けてくださいましたから……」
どうやら、アキエーサは落ち着いたようだ。後は、イムラン侯爵の方だけど……。
「「「「っ!?」」」」
突然、向こうでバキッという人が人を殴るような生々しい音が聞こえた。振り返ると、兵士たちに支えられたイカゾノス伯爵が白目向いて気絶していた。それに、イムラン侯爵が戻ってくる。気のせいかスッキリした顔なのは、もしや……?
「イムラン侯爵……?」
「何でもない。イカゾノス伯爵がバカやってたもんで大人しくしてもらっただけだ。何も問題はない」
……弟である男を他人のように言い放つ。どうやら、イムラン侯爵はイカゾノス伯爵を『兄弟』として見なくなったことだけは分かる。遂に、伯爵は娘だけでなく兄すら失ったということか。
この後、俺達は王宮を出た後で解散した。それぞれの屋敷に戻って今後のことを相談するわけだ。
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