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114.貴族として/誇らしくて

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「公爵は自分の娘が危機にさらされて、それを我らが助けたと思っておいでだが、実際は違う。ワカマリナが命を奪おうとしていたのは、ここに居るアキエーサなのです。むしろ、エリザ嬢は巻き込まれてしまっただけ、我らが礼を言われることはありません」

「その通りです、ベスクイン公爵。私の妹のワカマリナは、パーティーがの失敗やアクサン殿下の心が離れたことで気に病み、その原因を私だと判断してあのような凶行に出たのです。エリザ様はたまたま私と話していただけで……それにワカマリナは私のことだけを狙っていたから……私のせいで危険な目に遭ったと言えます。本当に申し訳ありませんでした」

ルカスとアキエーサの言うことはすべて事実だ。確かにワカマリナはアキエーサを狙っていて、エリザのことは眼中にもなかったようだった。それはつまり、アキエーサはエリザを助けたというよりも、エリザを巻き込んだと捕らえる方が正しいだろう。それをよく理解しているであろうアキエーサはジノンに対して頭を下げて謝罪するほかなかった。

この状況を複雑そうに見守るテールは、ジノンがどう出るか分からなくて不安だった。ジノン・ベスクイン公爵は親馬鹿という噂は耳にしている分、娘が危険にさらされた原因の全てを許さないかもしれない。そういう予想もできるため、テールはいざという時のために覚悟を決めていた。

ただ、肝心の娘思いの公爵は、ルカスとアキエーサから事実を聞いても寛容な態度だった。

「……アキエーサ嬢、頭をお上げください。ワカマリナ嬢のことは私や娘にも責任があるのです。そもそも、アクサン殿下を追い詰めるために芝居を打つという作戦は、娘が思いついたことでした。それに全面的に協力すると言ったのは、この私なのです。貴方方は協力してくださったわけであり、その責任の全てを負う必要はないのですよ」

「公爵……」

「そ、そんな……ですが……」

予想よりも寛容な態度を見せられて動揺するアキエーサだったが、そこへエリザも会話に入ってきた。

「アキエーサ様、父の言う通りです。アキエーサ様のせいではありませんわ。本当に悪いのは、実の姉を亡き者にしようとしたワカマリナ様ではありませんか」

エリザは、兵士たちに連れていかれるワカマリナの方に目線を向ける。そのめはいつになく厳しく鋭かった。そしてそれは、彼女の父であるジノンも同じだった。

「皆さま、娘の言う通りです。ワカマリナ嬢の愚行は許されることではありませんが、そんなワカマリナ嬢に怯まずに向き合おうとしたアキエーサ嬢は何一つ咎められることはありません。もちろん、ナイフを持ったワカマリナ嬢を力ずくで止めた侯爵とテール殿も同じことです」

「公爵……」

「ベスクイン公爵……」

アキエーサ達を振り返るジノンの目はとても優しいものだった。それでいて、どこか敬意を含んでもいた。ジノンなりにアキエーサ達を高く評価しているからこそ、貴族として敬意を抱いているのだろう。

「凶器を振り回す悪に立ち向かうこと事態、生半可な覚悟でできることではない。それでも、皆様はやってのけました。皆さまのような勇気ある方々を『娘を巻き込んだ』などと咎めるほど、私は愚行は致しません。それに皆様は正直に事実を教えてくださいました。都合の悪いことまで包み隠さずに堂々とできる、貴方方こそが貴族の見本だと私は思います」

「「「……!」」」

貴族の見本、そこまで言われてアキエーサもルカスもテールも心が温まる思いだった。多分、これは『誇らしさ』なのだ。貴族として、人として、格上にあたるであろうジノン・ベスクイン公爵にそこまで高く評価されたのだと思うと誇らしくて仕方がなかったのだ。

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