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65.次期王太子妃/……あれ?

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「皆さん! ご静粛に! これより、王太子アクサン・フーシャ殿下と次期王太子妃ワカマリナ・イカゾノスがおなりになられます!」

「「「「「っ!」」」」」

パーティーの主催者側の使用人がそう叫ぶ。すると、招待客のほぼ全員が、会話を切り上げて、食事する手を止めて、視線を一点に集中した。その中にはアキエーサとテール、ルカスにリーベエとフミーナもいた。





「…………」

「アキエーサ、大丈夫か?」

「はい。大丈夫です」

怪訝な顔をするアキエーサのことを心配するテール。ワカマリナが現れると思うと、アキエーサもどこか複雑な気持ちになる。イカゾノス家にいた頃に虐げられ蔑ろにされた経験から。どうしても不快感を抱いてしまうのだ。

「安心しろアキエーサ、俺がついてる!」

「ありがとうございますテール様。そうですね、たとえ王太子妃だろうとワカマリナ相手に怖気づくことはありません」

テールの頼もしい言葉を聞いてアキエーサは笑みを浮かべる。テールはすっかりアキエーサの心の支えになれているのだ。

「それにしても、あの使用人の方はどこか悲痛な気持ちが込められているような声で叫んでいるような気がしたのは気のせいでしょうか?」

「そう言えば……なんかやけくそって感じな気もしないではないな。例の二人に問題でも生じたか?」

アキエーサに言われてテールも気になった。実際、この二人が感じたことは間違っていない。叫ぶように宣言した使用人は確かに自棄になっていたのだ。そして、その原因は王太子の婚約者の方にあったのだ。





「ワカマリナが出てくるのか……」

「やっと、やっと、顔を見れるのね……!」

リーベエとフミーナはやっと可愛がってきたワカマリナと再会できると思うと感情的にならざるを得なかった。ただ、リーベエの場合はフミーナのように素直に喜べなかった。そんなリーベエの心中はルカスに筒抜けでもある。

「何だリーベエよ。溺愛してきたほうの娘の顔を拝めるってのに、何やら複雑な顔をしてんなぁ」

「な、何を言うんだ兄上は……! 私は別に、」

「別に気にすることもないだろうよ。たとえワカマリナがどう考えても王族の伴侶にふさわしくなくて破滅する未来しか見えなくてもだ。もう少し気楽にしないか? 義理の息子になるかもしれない男が主催者のパーティーを楽しもうじゃないか。先月に見たことあるような気もするけどなぁ」

「…………っ!」

ルカスはニヤニヤしながら、的確にリーベエの気にしていることをついてくる。先月のパーティーに出たことがあるリーベエも気付いていたのだ。王太子アクサンが主催のこのパーティーが失敗であることを。

このパーティーの仕様の全てが先月のものと同じであり、それを知る者からすれば適当でいい加減な行為にしか見えない。それだけでもアクサンの王太子の立場が絶望的だ。つまりは、ワカマリナとその親であるリーベエとフミーナの立場も悪くなるだろう。ただでさえ、金の問題で貴族の間でイカゾノス家の立場が危ういというのに。

「あ、兄上には関係ないだろ! そんな話はもう終わったんだから、ほっといてくれ!」

「なんだよ、つれないなぁ」

「あなた! ワカマリナがもうすぐ現れるわよ!」

フミーナにせかされてリーベエとルカスが前を向くと、ぎこちない動きで引きつった顔の王太子アクサンが現れるのが見えた。そして、その後ろから一人の女性が現れるようだ。おそらく、その女性こそがワカマリナのはずだ。

だが、ワカマリナのことを知る者は皆、不思議に思った。





「「……あれ?」」

アキエーサとテールは思わず「あれ?」と思って口にしてしまった。アキエーサの場合は、長い間見てきた義妹が体形的に変化したことに気付くのに一瞬遅れたから。テールの場合は、聞いていた情報よりもふくよかな姿を不思議に思ったから。





「「「……あれ?」」」

ルカスにリーベエとフミーナも同時に「あれ?」と思った。リーベエとフミーナは自分たちがよく知る可愛い娘とは思えぬ姿に間抜けな声を出した。ルカスは一度きりしか見たことがなかったワカマリナのことを「こんなデブだったかな?」と不思議そうに思った。
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