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46.涙/思い

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リーベエとフミーナが去った後、イムラン侯爵家の屋敷ではルカスとアキエーサが残った。アキエーサは見えなくなるまでリーベエとフミーナが乗った馬車を眺め続けていた。

「終わったな」

「はい……。終わりましたね……」

両親の乗った馬車すら視界から見えなくなった。その途端、アキエーサは突然膝から崩れ落ちた。

「アキエーサ!?」

「こ、これで……あの屋敷から、一家から……解放……解放されました……うっ、ひっく……」

ルカスは驚いた。アキエーサの目から涙が溢れていたのだ。嬉し涙とも悲しみの涙とも捉えられるような泣きかただったが、ルカスは困惑もせずに妙に納得した。

「そうか……もうリーベエもフミーナも見えなくなったしな。気が抜けて力も抜けたんだろうな」

「………伯父様………。でも、なんで………私………泣いて………」

アキエーサ自身、何故涙が溢れてくるのか分からなかった。ただ、分かるっているのは、頭の中に様々な感情が激情として沸き上がってくることだけ。それをどう表現するべきなのかすらも整理できない。泣きながらも困惑するばかり。

そんなアキエーサを、ルカスは諭すように、もしくは幼子をあやすように、優しい言葉をかける。

「アキエーサ。今は泣いていい。気がすむまで泣きなさい。今のお前はイカゾノス家と、リーベエ達と縁が切れたのだ。だからこそ泣いていいんだ」

「え………?」

泣いていい。そんな言葉の意味が分からずに困惑を深めるアキエーサ。ルカスを見ると優しい顔でこんな答えをもらった。

「フミーナはともかく、リーベエはお前が生まれたときから父親だったんだ。それにイカゾノス家はお前が生まれた家であることは間違いない。たとえ、辛い思いでの方が多かったとしても、お前自身と深く関わりのあった存在なのは間違いない」

「………………」

「それらと決別したんだ。それは重い決断であり、後悔がないとはいえ、家族の縁が切ることに思うところがないはずがない。きっとお前は、それを無意識に感じ取っているんだろうな、だからこその涙だ」

「………っ!」

アキエーサは目を見開いた。ルカスに言われてみて確かにそうだと思えたのだ。かつての自分の居場所だったのはイカゾノス家だが、それは過去の話でしかない。しかし、アキエーサにとっては今も軽い存在と言うわけではないのだ。

冷たい父と、今は亡き母と、イカゾノス家の屋敷で暮らしていたのも決して間違いではない。たとえ、アキエーサの母が『家に囚われないで、あなたが本当に幸せになれる道を進みなさい』と言ってくれたとしても。

「あ……あ。……」

正直、ルカスの言葉こそが自分が涙を流す理由の答えだ。アキエーサは素直にそう思った。自分は決して後悔しない選択を取ったとアキエーサは涙を流しながら強く思う。

だからこそ、そう思いながら素直に泣くことにした。新たな家族になったルカスに見守られながら。
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