上 下
21 / 229

21.夫婦喧嘩/ルカス視点

しおりを挟む
「鞭打ちなど冗談じゃない! お前はアキエーサにそんなことまでしていたのか!? そんなことまで私は許容した覚えはないぞ!」

珍しくアキエーサのために怒りを露わにするリーベエ。だが、フミーナはそんなことは気にもしない。

「いいじゃない! どうせアキエーサがもう婚約なんかできるはずないし!」

「良くないわ! お前、なんてことしてくれたんだ! あれでも顔はいいしスタイルもいい方なんだぞ! それを親であるお前が傷つけたとなれば我が家の評判に関わるではないか!」

リーベエの言うことはもっともだ。自分のことも棚に上げているとはいえ、親に身を傷つけられたとなれば貴族社会では醜聞もいいところだと理解できる。しかし、フミーナはそれでもワカマリナのことが可愛いらしい。前妻の子供と自分が産んだ子供、どちらが可愛いかは分かり切ったことだ。

「はあ!? それが何よ! ワカマリナがいるからいいでしょ!」

「あれだけ不祥事を起こした娘だぞ! アキエーサの方が我が家のためになるわ!」

「何ですって!? あなたまで私やワカマリナのことを馬鹿にするの!?」

「実際馬鹿だろ! 散財ばかりしおって! 頭悪すぎるわ!」

ワカマリナのことで、リーベエとフミーナは遂に夫婦喧嘩を起こしてしまった。屋敷の中で繰り広げられる喧嘩は多くの使用人達の耳にも聞こえたため、何事かと思われた。それは持っている王家の使者も同じだったことには屋敷にいる者達には気付かない。だが、このままではいけないと思う者もいたのが幸いだった。

「旦那様、奥様! 今、言い争っている場合ではありませんぞ!」

「「はぁ、はぁ……」」

執事に大声で言われて喧嘩する二人はハッとなって静まった。お互いににらみ合うリーベエとフミーナだったが、確かにこんなことをしている場合ではないのだ。

「……とりあえず王宮からは私が対応する。お前は待っておれ」

「……分かったわよ、ふん!」

リーベエは使者を招くため、フミーナは自室に戻って待つため、それぞれ逆方向に歩いていった。その様子を冷めた目で眺める執事は深くため息をついたことに、誰も気づくことは無かった。





(ルカス視点)


今になってようやくワカマリナが問題児だと分かったようだな。ただ、リーベエは思い知ったようだがフミーナの方は凝りてないかもしれんな。


「……イムラン侯爵。ここまで聞こえてきた声は、もしや……」

「そうですね。イカゾノス伯爵夫妻、我が愚弟とその妻の口喧嘩の声です。王家の使者に対し、聞くに堪えないものを耳に入れてしまい申し訳ありません」


今、俺はとある目的でイカゾノス家の屋敷にきたところ、王家の使者の方々と偶然鉢合わせしたのだ。王家が出てくるとなれば話が長くなるのは必然と思い、出直していこうと思ったところ、あの馬鹿共の夫婦喧嘩が始まったのだ。リーベエの実の兄として情けない。兄の立場もあるため、俺は王家の使者に対して謝罪せねばなるまい。


「い、いえ……イムラン侯爵が謝罪することではありません。我々が来ていることはイカゾノス伯爵もご存じですから、すぐに収まるでしょう……」

「そう願いたいものですな。では伯爵が迎えに出る前に私は日を改めて出直すとしましょう。私がいると伯爵も落ち着けないでしょうし」

「? 侯爵も伯爵に用事があったのですか?」

「ええ、まあ大したことではないので王家の使者の皆様のお邪魔にならないように失礼いたします」


……やれやれ、遂に王家まで動き出したか。アキエーサは大変な義妹を持ったものだ。


それに、王家も大変な王子を産んでしまったものだな。はぁ、しっかりした子供が苦労する世の中は本当につらい!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

舞台装置は壊れました。

ひづき
恋愛
公爵令嬢は予定通り婚約者から破棄を言い渡された。 婚約者の隣に平民上がりの聖女がいることも予定通り。 『お前は未来の国王と王妃を舞台に押し上げるための装置に過ぎん。それをゆめゆめ忘れるな』 全てはセイレーンの父と王妃の書いた台本の筋書き通り─── ※一部過激な単語や設定があるため、R15(保険)とさせて頂きます 2020/10/30 お気に入り登録者数50超え、ありがとうございます(((o(*゚▽゚*)o))) 2020/11/08 舞台装置は壊れました。の続編に当たる『不確定要素は壊れました。』を公開したので、そちらも宜しくお願いします。

【完結】選ばれなかった王女は、手紙を残して消えることにした。

曽根原ツタ
恋愛
「お姉様、私はヴィンス様と愛し合っているの。だから邪魔者は――消えてくれない?」 「分かったわ」 「えっ……」 男が生まれない王家の第一王女ノルティマは、次の女王になるべく全てを犠牲にして教育を受けていた。 毎日奴隷のように働かされた挙句、将来王配として彼女を支えるはずだった婚約者ヴィンスは──妹と想いあっていた。 裏切りを知ったノルティマは、手紙を残して王宮を去ることに。 何もかも諦めて、崖から湖に飛び降りたとき──救いの手を差し伸べる男が現れて……? ★小説家になろう様で先行更新中

お父様お母様、お久しぶりです。あの時わたしを捨ててくださりありがとうございます

柚木ゆず
恋愛
 ヤニックお父様、ジネットお母様。お久しぶりです。  わたしはアヴァザール伯爵家の長女エマとして生まれ、6歳のころ貴方がたによって隣国に捨てられてしまいましたよね?  当時のわたしにとってお二人は大事な家族で、だからとても辛かった。寂しくて悲しくて、捨てられたわたしは絶望のどん底に落ちていました。  でも。  今は、捨てられてよかったと思っています。  だって、その出来事によってわたしは――。大切な人達と出会い、大好きな人と出逢うことができたのですから。

悪役令嬢の去った後、残された物は

たぬまる
恋愛
公爵令嬢シルビアが誕生パーティーで断罪され追放される。 シルビアは喜び去って行き 残された者達に不幸が降り注ぐ 気分転換に短編を書いてみました。

平凡令嬢は婚約者を完璧な妹に譲ることにした

カレイ
恋愛
 「平凡なお前ではなくカレンが姉だったらどんなに良かったか」  それが両親の口癖でした。  ええ、ええ、確かに私は容姿も学力も裁縫もダンスも全て人並み程度のただの凡人です。体は弱いが何でも器用にこなす美しい妹と比べるとその差は歴然。  ただ少しばかり先に生まれただけなのに、王太子の婚約者にもなってしまうし。彼も妹の方が良かったといつも嘆いております。  ですから私決めました!  王太子の婚約者という席を妹に譲ることを。  

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

妹がいなくなった

アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。 メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。 お父様とお母様の泣き声が聞こえる。 「うるさくて寝ていられないわ」 妹は我が家の宝。 お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。 妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?

親からの寵愛を受けて育った妹は、私の婚約者が欲しいみたいですよ?

久遠りも
恋愛
妹は、私と違って親に溺愛されて育った。 そのせいで、妹は我儘で...何でも私のものを取るようになった。 私は大人になり、妹とは縁を切って、婚約者と幸せに暮らしていた。 だが、久しぶりに会った妹が、次は私の婚約者が欲しい!と言い出して...? ※誤字脱字等あればご指摘ください。 ※ゆるゆる設定です。

処理中です...