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一週間後、リリィとジェシカは王都のレストラン『ノーバディーズ・パーフェクト』でくつろいでいた。つい最近開店したばかりのレストランであり、上級貴族に人気の話題の店だった。


「ここの紅茶もいいわね」

「同感です、お嬢様」


優雅に紅茶を楽しむリリィとジェシカ。二人の会話は二日前の裁判が話題になる。


「ティレックス伯爵は……いえ、今は男爵ですか。今度は伯爵から男爵と、これまた随分降格しましたね」

「ええ、ただでさえ名ばかりの地位と爵位だったのに男爵にまで落ちるとなるともう表舞台にも言われても出ないでしょうね。マグーマ様に関しては人前にも出られないでしょうし」

「あれくらいしないと懲りないでしょうからいい気味ですよ」

「それもそうね。自分の弟たちを都合よく利用するような性根ですもの。ジェシカはよくやったわ」

「お褒めにいただき光栄です」


捕らえられたマグーマとアノマは肉体的にも精神的にも疲弊していたため、一切の抵抗もなく連行されていった。特にマグーマの精神状態は酷くなっており、ハゲにされるという痛ましい姿になったこともあり、「どうして、どうして」とうわごとのように呟いていたそうだ。


「第三王子トップス殿下が無事で済んだから良かったけど、傷ひとつでもついていれば死刑か終身刑だったあの二人は結構悪運に強いのかしらね」

「私としては第三王子が無事だったからと言って男爵に降格で済まされたことが不服ですが……」


マグーマとアノマは男爵の地位にまで降格された。それも、一代限りの男爵家として。つまり、二人に子供ができても爵位は継承されることなく平民として終わるということだ。


「仕方ないわよ。裁判のタイミングで国王陛下と王妃様が帰ってきたんだし、あのお二方ならばそういう甘い処罰を下しても仕方ないわ」

「……いなくていい時に戻ってくるとは神経を疑います」


裁判のタイミングで国王と王妃が視察から戻ってきたことで、裁判の責任者が国王と王妃ということになり、マグーマとアノマは死刑にも終身刑にもならずに済んでしまった。これには多くの貴族が反対したが、第二王子にして王太子トライセラが長期休暇中であり、 第三王子トップスが兄の助命を訴えたこともあり、何より国王夫妻が息子の死を望まなかったことで、マグーマとアノマは男爵に降格で済んだのだ。


「でも、こういうタイミングでこそ戻ってきたのかもしれないわね。息子たちが大変なときだから駆けつけたんじゃない?」

「我が子可愛さに……ですか。だからといって、男爵に落とす程度は些か甘いと言わざるをえません」

「はたから見ればそうでしょうけど、マグーマ様たちがこれから生きていってもいいことがあると思えるかしら? むしろ生地獄じゃない?」

「……まあ、男爵があの姿では……」


今のマグーマの姿は以前の面影が見えないほど変えられていた。ジェシカの剣術によって全身に切り傷が残り、更には髪の毛と眉の毛を落とされてしまっていた。ハゲ頭の眉無し、そんな姿を好き好んで人前に晒す気になれないだろう。実際、裁判の時にマグーマの姿を見た貴族の中には吹き出して笑った者が何人もいた。笑い声を聞いてしまったマグーマの顔には絶望しかなかった。もはやマグーマには王太子に返り咲くどころか王都に戻る気力はないだろう。

アノマにしても同じだ。マグーマほどではないにしろ、彼女も全身に切り傷が残っているし、ジェシカのことが恐ろしくてトラウマが強く残っていた。挙げ句には、夫が惨めな姿になって嘲笑の的となってしまった以上、彼女も王都に戻ろうとは思わないだろう。

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