上 下
10 / 18

10.

しおりを挟む
ジェシカの口に出したことは聞いたものによっては不敬とみなされるが、それに関してコーク・ローチは何も言わない。似たような気持ちを抱いていたからだ。


(それについては断然同意する! 国の乱れはあのお二人のせいだ!)

「マグーマ・ティレックス伯爵のことについても殿下と手紙のやり取りをしていたことが判明しています。しかも、その内容の殆どが『王太子の座を返せ』とか『立場を交換しよう』などというばかり。そんな内容の手紙がほぼ毎日届いていたようです」

「……マグーマ様も変わらないのね。心を入れ替えてくだされば良かったのに。むしろ心労で苦しむ弟にそんな手紙を毎日よこすだなんて」

「本当に性根が腐っています。自業自得で王太子から外されたくせに何を言ってるのやら」

「それにつきましては私も同じように思っています。いっそのこと伯爵から男爵に降格すればいいのです。王家から除籍されたくせに未練たらしく実の弟に縋るとは情けない限りです」


コーク・ローチはここで素直なことを口にした。マグーマの悪口くらいならば言ってもいいだろうと思ったのだ。それ以上に迷惑ばかりかけるマグーマには本心から嫌悪していた。


「つまり、現時点で推測できる真相としましては、過剰な労働で疲れ果てたトライセラ殿下が正常な判断ができなくなったために、マグーマ・ティレックス伯爵の手紙の通りの行動に出てしまったということです」

「苦労人の弟が弱っているところにつけ込んでろくでなしの兄が復権を目論んだことで昨日のパーティーが……」

「王家の出自であるにも関わらず兄弟でなんとも醜くて嘆かわしいことか……」


リリィもジェシカも呆れ果てた。それと同時にトライセラには深く同情する。


「……そのとおりですな。せめて国王陛下があの場にいてくだされば……!」

「甘い判断を下すでしょう。言ってはなんですが国王陛下も王妃様も能天気と言わざるをえませんから」

「………」


確かに、兄は欲深くて醜くい。弟は苦労しすぎて嘆かわしい。その親は能天気というのだから、昨日の出来事は起こりうることだったのだとも言える。あの場にいなかった第三王子はまだ幼い。それを思うと、誰もが国も未来を不安に思うしか無い。


そんな時だった。機能のことで話している最中に一人の騎士が入ってきたのは。


「えっ、何?」


突然現れた騎士にリリィは困惑することはない。以前にも似たようなことがあったせいか慣れていた。ただ、傍に控えるジェシカと騎士の隊長格のコーク・ローチは不穏な気配を感じていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

婚約破棄って、貴方誰ですか?

やノゆ
恋愛
ーーーその優秀さを認められ、隣国への特別留学生として名門魔法学校に出向く事になった、パール・カクルックは、学園で行われた歓迎パーティーで突然婚約破棄を言い渡される。 何故かドヤ顔のその男のとなりには、同じく勝ち誇ったような顔の少女がいて、パールは思わず口にした。 「いや、婚約破棄って、貴方誰ですか?」

このままだと身の危険を感じるので大人しい令嬢を演じるのをやめます!

夢見 歩
恋愛
「きゃあァァァァァァっ!!!!!」 自分の体が宙に浮くのと同時に、背後から大きな叫び声が聞こえた。 私は「なんで貴方が叫んでるのよ」と頭の中で考えながらも、身体が地面に近づいていくのを感じて衝撃に備えて目を瞑った。 覚悟はしていたものの衝撃はとても強くて息が詰まるような感覚に陥り、痛みに耐えきれず意識を失った。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ この物語は内気な婚約者を演じていた令嬢が苛烈な本性を現し、自分らしさを曝け出す成長を描いたものである。

精女には選ばれなかったので追放されました。~えっ?そもそも儀式の場所が間違ってる?~

京月
恋愛
 精霊の加護を持って人々を救う精女に私は…選ばれませんでした。  両親に見捨てられ途方に暮れていた私の目の前に大精霊が現れた。  えっ?そもそも儀式の場所が間違っている?

魔力無しの聖女に何の御用ですか?〜義妹達に国を追い出されて婚約者にも見捨てられる戻ってこい?自由気ままな生活が気に入ったので断固拒否します〜

まつおいおり
恋愛
毎日毎日、国のトラブル解決に追われるミレイ・ノーザン、水の魔法を失敗して道を浸水させてしまったのを何とかして欲しいとか、火の魔道具が暴走して火事を消火してほしいとか、このガルシア国はほぼ全ての事柄に魔法や魔道具を使っている、そっちの方が効率的だからだ、しかしだからこそそういった魔力の揉め事が後を絶たない………彼女は八光聖女の一人、退魔の剣の振るい手、この剣はあらゆる魔力を吸収し、霧散させる、………なので義妹達にあらゆる国の魔力トラブル処理を任せられていた、ある日、彼女は八光聖女をクビにされ、さらに婚約者も取られ、トドメに国外追放………あてもなく彷徨う、ひょんなことからハルバートという男に助けられ、何でも屋『ブレーメンズ』に所属、舞い込む依頼、忙しくもやり甲斐のある日々………一方、義妹達はガルシア国の魔力トラブルを処理が上手く出来ず、今更私を連れ戻そうとするが、はいそうですかと聞くわけがない。

完璧令嬢が仮面を外す時

編端みどり
恋愛
※本編完結、番外編を更新中です。 冷たいけど完璧。それが王太子の婚約者であるマーガレットの評価。 ある日、婚約者の王太子に好きな人ができたから婚約を解消して欲しいと頼まれたマーガレットは、神妙に頷きながら内心ガッツポーズをしていた。 王太子は優しすぎて、マーガレットの好みではなかったからだ。 婚約を解消するには長い道のりが必要だが、自分を愛してくれない男と結婚するより良い。そう思っていたマーガレットに、身内枠だと思っていた男がストレートに告白してきた。 実はマーガレットは、恋愛小説が大好きだった。憧れていたが自分には無関係だと思っていた甘いシチュエーションにキャパオーバーするマーガレットと、意地悪そうな笑みを浮かべながら微笑む男。 彼はマーガレットの知らない所で、様々な策を練っていた。 マーガレットは彼の仕掛けた策を解明できるのか? 全24話 ※話数の番号ずれてました。教えて頂きありがとうございます! ※アルファポリス様と、カクヨム様に投稿しています。

金の亡者は出て行けって、良いですけど私の物は全部持っていきますよ?え?国の財産がなくなる?それ元々私の物なんですが。

銀杏鹿
恋愛
「出て行けスミス!お前のような金のことにしか興味のない女はもううんざりだ!」  私、エヴァ・スミスはある日突然婚約者のモーケンにそう言い渡された。 「貴女のような金の亡者はこの国の恥です!」  とかいう清廉な聖女サマが新しいお相手なら、まあ仕方ないので出ていくことにしました。  なので、私の財産を全て持っていこうと思うのです。  え?どのくらいあるかって?  ──この国の全てです。この国の破綻した財政は全て私の個人資産で賄っていたので、彼らの着てる服、王宮のものも、教会のものも、所有権は私にあります。貸していただけです。  とまあ、資産を持ってさっさと国を出て海を渡ると、なんと結婚相手を探している五人の王子から求婚されてしまいました。  しきたりで、いち早く相応しい花嫁を捕まえたものが皇帝になるそうで。それで、私に。  将来のリスクと今後のキャリアを考えても、帝国の王宮は魅力的……なのですが。  どうやら五人のお相手は女性を殆ど相手したことないらしく……一体どう出てくるのか、全く予想がつきません。  私自身経験豊富というわけでもないのですが、まあ、お手並み拝見といきましょうか?  あ、なんか元いた王国は大変なことなってるらしいです、頑張って下さい。 ◆◆◆◆◆◆◆◆ 需要が有れば続きます。

パーティー中に婚約破棄された私ですが、実は国王陛下の娘だったようです〜理不尽に婚約破棄した伯爵令息に陛下の雷が落ちました〜

雪島 由
恋愛
生まれた時から家族も帰る場所もお金も何もかもがない環境で生まれたセラは幸運なことにメイドを務めていた伯爵家の息子と婚約を交わしていた。 だが、貴族が集まるパーティーで高らかに宣言されたのは婚約破棄。 平民ごときでは釣り合わないらしい。 笑い者にされ、生まれた環境を馬鹿にされたセラが言い返そうとした時。パーティー会場に聞こえた声は国王陛下のもの。 何故かその声からは怒りが溢れて出ていた。

魔力ゼロと判明した途端、婚約破棄されて両親から勘当を言い渡されました。でも実は世界最高レベルの魔力総量だったみたいです

ひじり
恋愛
生まれつき、ノアは魔力がゼロだった。 侯爵位を授かるアルゴール家の長女として厳しく育てられてきた。 アルゴールの血筋の者は、誰もが高い魔力量を持っていたが、何故かノアだけは歳を重ねても魔力量がゼロから増えることは無く、故にノアの両親はそれをひた隠しにしてきた。 同じく侯爵位のホルストン家の嫡男モルドアとの婚約が決まるが、両親から魔力ゼロのことは絶対に伏せておくように命じられた。 しかし婚約相手に嘘を吐くことが出来なかったノアは、自分の魔力量がゼロであることをモルドアに打ち明け、受け入れてもらおうと考えた。 だが、秘密を打ち明けた途端、モルドアは冷酷に言い捨てる。 「悪いけど、きみとの婚約は破棄させてもらう」 元々、これは政略的な婚約であった。 アルゴール家は、王家との繋がりを持つホルストン家との関係を強固とする為に。 逆にホルストン家は、高い魔力を持つアルゴール家の血を欲し、地位を盤石のものとする為に。 だからこれは当然の結果だ。魔力がゼロのノアには、何の価値もない。 婚約を破棄されたことを両親に伝えると、モルドアの時と同じように冷たい視線をぶつけられ、一言。 「失せろ、この出来損ないが」 両親から勘当を言い渡されたノアだが、己の境遇に悲観はしなかった。 魔力ゼロのノアが両親にも秘密にしていた将来の夢、それは賢者になることだった。 政略結婚の呪縛から解き放たれたことに感謝し、ノアは単身、王都へと乗り込むことに。 だが、冒険者になってからも差別が続く。 魔力ゼロと知れると、誰もパーティーに入れてはくれない。ようやく入れてもらえたパーティーでは、荷物持ちとしてこき使われる始末だ。 そして冒険者になってから僅か半年、ノアはクビを宣告される。 心を折られて涙を流すノアのもとに、冒険者登録を終えたばかりのロイルが手を差し伸べ、仲間になってほしいと告げられる。 ロイルの話によると、ノアは魔力がゼロなのではなく、眠っているだけらしい。 魔力に触れることが出来るロイルの力で、ノアは自分の体の奥底に眠っていた魔力を呼び覚ます。 その日、ノアは初めて魔法を使うことが出来た。しかもその威力は通常の比ではない。 何故ならば、ノアの体に眠っている魔力の総量は、世界最高レベルのものだったから。 これは、魔力ゼロの出来損ないと呼ばれた女賢者ノアと、元王族の魔眼使いロイルが紡ぐ、少し過激な恋物語である。

処理中です...