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「新たな王太子……それは我が兄マグーマ・ティレックス伯爵がなればいいんだ!」
「はぁっ!?」
「「「「「っ!!??」」」」」
マグーマ・ティレックス伯爵とは、トライセラの実の兄であり前の王太子だった男のことだ。かつては第一王子マグーマ・ツインローズだったのだが、不定や国外逃亡などという不祥事を起こして王家から除籍され、任された領地にちなんで今の名前になったのだ。その際、なるはずだった侯爵から伯爵に降格もしていた。
そもそも、マグーマはこのパーティーに呼ばれてもいなかったはずだったのだが、トライセラの宣言の直後に待ってましたと言わんばかりに一人の男がどこからか堂々と姿を表した。
「よくぞ言った! 我が弟よ!」
「「「「「あ、あれは!!??」」」」」
突如現れたその男の姿を見た誰もが驚きのあまり動揺を隠せなかった。何しろ、その男は極めて悪い意味で有名で人々の記憶に強く残っているのだから。特にリリィとジェシカは嫌悪感すら感じてもいた。
「お嬢様、あの男は……!」
「ええ、マグーマ……ティレックス伯爵そのひとね……」
リリィとジェシカを含め多くの貴族が察したように、現れた男の正体はマグーマ・ティレックス伯爵だった。コアトルもその事実に気づいて怒鳴るように声を上げた。
「マグーマでん……いえ、マグーマ・ティレックス伯爵!? 何故貴方がここにいるのです! 貴方はこのパーティーに呼ばれていないはずでしょう!」
「いいや、呼ばれていたさ。我が弟にして今の王太子にな」
「!?」
涼しい顔で『今の王太子』に呼ばれたというマグーマの言葉を聞いて、コアトルはトライセラを振り返ると聞きたくなかったことを聞かされた。
「その通り、私が密かに呼び出したんだ」
「で、殿下!? 何故にございますか!? マグーマ・ティレックス伯爵を呼ぶことはないと決めてあったでしょう!? 挙げ句に王太子の座を譲るなどと!」
「ああ、完全に私の独断だ。これも……王太子から降ろされるきっかけの一つになるかな……ははは……」
「そんな……殿下……」
コアトルは絶句した。トライセラが王太子になってから前にもまして大変な思いをしていたことは分かっていたつもりだった。だがまさか、失脚した兄を独断で呼び出して王太子の座を明け渡そうとするなど考えるとまでは思ってもいなかった。
「なりませぬ! なりませぬぞ! 今更、兄君を王太子に戻すなどあってはなりませぬ! そもそも、兄君は王位継承権を剥奪されて王家から除籍されておりまする!」
「それならば私の権限で王家に戻し、王位継承権を復活させればいいのだよ。兄上と弟のわたしの立場をまるごと入れ替えるんだ!」
「何を馬鹿なことをおっしゃるのですか! 正気に戻ってください!」
「はぁっ!?」
「「「「「っ!!??」」」」」
マグーマ・ティレックス伯爵とは、トライセラの実の兄であり前の王太子だった男のことだ。かつては第一王子マグーマ・ツインローズだったのだが、不定や国外逃亡などという不祥事を起こして王家から除籍され、任された領地にちなんで今の名前になったのだ。その際、なるはずだった侯爵から伯爵に降格もしていた。
そもそも、マグーマはこのパーティーに呼ばれてもいなかったはずだったのだが、トライセラの宣言の直後に待ってましたと言わんばかりに一人の男がどこからか堂々と姿を表した。
「よくぞ言った! 我が弟よ!」
「「「「「あ、あれは!!??」」」」」
突如現れたその男の姿を見た誰もが驚きのあまり動揺を隠せなかった。何しろ、その男は極めて悪い意味で有名で人々の記憶に強く残っているのだから。特にリリィとジェシカは嫌悪感すら感じてもいた。
「お嬢様、あの男は……!」
「ええ、マグーマ……ティレックス伯爵そのひとね……」
リリィとジェシカを含め多くの貴族が察したように、現れた男の正体はマグーマ・ティレックス伯爵だった。コアトルもその事実に気づいて怒鳴るように声を上げた。
「マグーマでん……いえ、マグーマ・ティレックス伯爵!? 何故貴方がここにいるのです! 貴方はこのパーティーに呼ばれていないはずでしょう!」
「いいや、呼ばれていたさ。我が弟にして今の王太子にな」
「!?」
涼しい顔で『今の王太子』に呼ばれたというマグーマの言葉を聞いて、コアトルはトライセラを振り返ると聞きたくなかったことを聞かされた。
「その通り、私が密かに呼び出したんだ」
「で、殿下!? 何故にございますか!? マグーマ・ティレックス伯爵を呼ぶことはないと決めてあったでしょう!? 挙げ句に王太子の座を譲るなどと!」
「ああ、完全に私の独断だ。これも……王太子から降ろされるきっかけの一つになるかな……ははは……」
「そんな……殿下……」
コアトルは絶句した。トライセラが王太子になってから前にもまして大変な思いをしていたことは分かっていたつもりだった。だがまさか、失脚した兄を独断で呼び出して王太子の座を明け渡そうとするなど考えるとまでは思ってもいなかった。
「なりませぬ! なりませぬぞ! 今更、兄君を王太子に戻すなどあってはなりませぬ! そもそも、兄君は王位継承権を剥奪されて王家から除籍されておりまする!」
「それならば私の権限で王家に戻し、王位継承権を復活させればいいのだよ。兄上と弟のわたしの立場をまるごと入れ替えるんだ!」
「何を馬鹿なことをおっしゃるのですか! 正気に戻ってください!」
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