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第104話 普通って何をすれば……
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ミロアとバーグの話し合いは最終的にミロアの計画通りということになった。そのことでミロアはエイルにも自身の口で伝えている。
「――というわけで、私の学園復帰の日はそのまま。お父様は早速イーノック家と話し合うことにしたのよ」
「……そうなりましたか」
「不意打ちのように学園に復帰してやれなかったのはちょっと残念だけど、お父様の言う通り少しでも長く家族と一緒にいたいのも分かるからそこはいのよ。でも、ちょっと違和感があったのよね。お父様が家族思いだという他になにか理由があるような気がするんだけど、エイルは何か知らない?」
「……存じません」
嘘だ。専属騎士となったゴウルの不調と密かに進めている計画のことをエイルは知っていた。だが、元『陰』として公爵家の侍女として重要機密を口にするわけにはいかなかった。
(ゴウルのことは最悪話してもいい……だが、旦那様の計画までは駄目だ。そもそも私も詳しいことは知らないのだから……)
「エイル?」
「いえ、何でもありません。ところで、学園ではどう過ごされるおつもりで?」
「え? オルフェと過ごすに決まってるけど?」
「いくらオルフェ様が婚約者になっても四六時中一緒とは限りません。ミロア様は具体的にどのように過ごすおつもりですか?」
「それは……普通に…………普通……」
普通という言葉を口にしてミロアはハッとした。あることに気づいてしまったのだ。
(……あれ? 『普通』って何をすればいいんだっけ?)
それは、今のミロアに、学園で『普通』に過ごすことが何なのかよく分からないことだった。
「…………」
「お嬢様、何故そこで黙るのですか?」
「え~と……」
「もしや、お嬢様ご自身も分からないのではありませんか? 差し出がましいことを言うようですが、ガンマ殿下の婚約者だった頃の過ごし方はもうできないと存じますが?」
「……うん、そうよね」
ミロアはガックリと項垂れる。エイルの言う通り、学園にいた頃のミロアは常にガンマに執着することばかり。勉学を始めとする普通の生徒のようなことは二の次だった。つまり、ガンマへの恋慕の心が一切なくなったミロアは以前のような学園生活はできないししたくもないはずなのだ。
(今思えば本当に恥ずかしい黒歴史……それを繰り返す気なんかサラサラないけど……だとすればどう過ごす? 不味い……どうしよう……今更不安になってきた……! エイルに言われるまで気づかなかったなんて……!)
(やはり、私が言わないと気づかなかったか。まあ、お嬢様はそれ以外のことで頭がいっぱいだったし仕方がないと言えばそうなのだろう。そういう意味では……)
この時、貴族の令嬢と侍女が身分の関係を超えて全く同じことを思った。
((学園に早期復帰なんかしなくてよかった……))
そしてミロアは、今になって学園の過ごし方という新たな悩みに直面するのであった。
「――というわけで、私の学園復帰の日はそのまま。お父様は早速イーノック家と話し合うことにしたのよ」
「……そうなりましたか」
「不意打ちのように学園に復帰してやれなかったのはちょっと残念だけど、お父様の言う通り少しでも長く家族と一緒にいたいのも分かるからそこはいのよ。でも、ちょっと違和感があったのよね。お父様が家族思いだという他になにか理由があるような気がするんだけど、エイルは何か知らない?」
「……存じません」
嘘だ。専属騎士となったゴウルの不調と密かに進めている計画のことをエイルは知っていた。だが、元『陰』として公爵家の侍女として重要機密を口にするわけにはいかなかった。
(ゴウルのことは最悪話してもいい……だが、旦那様の計画までは駄目だ。そもそも私も詳しいことは知らないのだから……)
「エイル?」
「いえ、何でもありません。ところで、学園ではどう過ごされるおつもりで?」
「え? オルフェと過ごすに決まってるけど?」
「いくらオルフェ様が婚約者になっても四六時中一緒とは限りません。ミロア様は具体的にどのように過ごすおつもりですか?」
「それは……普通に…………普通……」
普通という言葉を口にしてミロアはハッとした。あることに気づいてしまったのだ。
(……あれ? 『普通』って何をすればいいんだっけ?)
それは、今のミロアに、学園で『普通』に過ごすことが何なのかよく分からないことだった。
「…………」
「お嬢様、何故そこで黙るのですか?」
「え~と……」
「もしや、お嬢様ご自身も分からないのではありませんか? 差し出がましいことを言うようですが、ガンマ殿下の婚約者だった頃の過ごし方はもうできないと存じますが?」
「……うん、そうよね」
ミロアはガックリと項垂れる。エイルの言う通り、学園にいた頃のミロアは常にガンマに執着することばかり。勉学を始めとする普通の生徒のようなことは二の次だった。つまり、ガンマへの恋慕の心が一切なくなったミロアは以前のような学園生活はできないししたくもないはずなのだ。
(今思えば本当に恥ずかしい黒歴史……それを繰り返す気なんかサラサラないけど……だとすればどう過ごす? 不味い……どうしよう……今更不安になってきた……! エイルに言われるまで気づかなかったなんて……!)
(やはり、私が言わないと気づかなかったか。まあ、お嬢様はそれ以外のことで頭がいっぱいだったし仕方がないと言えばそうなのだろう。そういう意味では……)
この時、貴族の令嬢と侍女が身分の関係を超えて全く同じことを思った。
((学園に早期復帰なんかしなくてよかった……))
そしてミロアは、今になって学園の過ごし方という新たな悩みに直面するのであった。
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