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フィッシュナツミ

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第4部:「揺れる未来」

第4部:「揺れる未来」

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1. 
 ベーシックインカム導入から10年。新たな世代である若者たちの間では、「生活のために働く」という概念が急速に薄れつつあった。大学生のうち約2割が就職を選ばず、ベーシックインカムに頼る道を選んでいた。かつては「未来に希望を抱き、社会に貢献する」という価値観が主流だったが、今の若者の多くは「最低限の生活ができれば十分」と考えている。
 社会には、無気力で生きる意欲を失ったような若者たちが増加していた。彼らは職に就かず、日々の生活費はベーシックインカムに依存し、時間をSNSやゲームに費やすことが多くなっている。外出や人との交流を避ける者も多く、社会的な繋がりや意欲が欠如していた。

2. 
 街に出ると、かつて当たり前だった「公共の場での礼儀」や「思いやり」が薄れつつあることを、陽太は肌で感じていた。電車やバスに座ってスマートフォンに没頭し、周囲への気遣いを忘れた若者たち。かつては互いに配慮し合う空気があったが、今では誰もが周りに無関心で、見知らぬ人との接触を避けている。
「お互いを思いやる」という意識が徐々に失われ、社会全体に自己中心的な行動が目立つようになっていた。陽太も時折、ふとした拍子に周囲の若者たちから投げられる無関心な視線に、言いようのない孤独感を感じるようになった。公共施設ではゴミが増え、ルール違反が目立つ一方で、誰もそれを指摘しようとしない。ベーシックインカムがもたらした「生活の保障」が、逆に人々から社会性を奪っているのかもしれないと陽太は思わずにはいられなかった。

3. 
 労働人口の減少に歯止めがかからず、政府は海外からの移民労働者の受け入れを開始していた。日本国内での生産力を維持するために、製造業やサービス業などの労働力として彼らが招かれ、国内のさまざまな業種で働くようになっていた。彼らの多くは、日本人が選ばないフルタイムの仕事に従事しており、主に都市部や工業地域に定住している。
 移民労働者は新たなコミュニティを形成し、彼ら自身の文化を保持しつつ、日本社会の一部として生活していた。日本語や日本の習慣に馴染んでいく一方で、彼らと日本人の間にはどこか壁が存在していた。地域によっては移民労働者が増え、街の様相が変わりつつあるが、ベーシックインカムに頼り労働から離れた若者たちは、彼らとの交流を避ける傾向があった。

4. 
 陽太もまた、職場で移民労働者と接する機会が増えた。彼らは仕事に熱心で、厳しい環境にもかかわらず明るさを失わない姿勢に、陽太は心の中で敬意を抱いていた。しかし、同じ職場の若い社員たちは、移民労働者との関わりを避け、あからさまに距離を置くことが多かった。
 ある日、若手社員の一人が移民労働者に対して無礼な態度を取っている場面を目撃し、陽太はその態度に深い違和感を覚えた。「どうして彼らはこうまでして他者を拒絶するのだろうか?」と、自分の中で問いかけずにはいられなかった。

5. 
 社会のあちこちで「働くこと」に対する価値観の違いが表面化し始めた。無気力な若者層は、ベーシックインカムによって最低限の生活が保障される一方で、社会への責任感や自己成長への意欲を失っているように見えた。一方で、移民労働者たちは日本での生活基盤を築こうと懸命に働き、彼らの存在は社会を支えるための貴重な労働力となっていた。
 しかし、移民労働者が日常生活の中に溶け込み始めると、彼らへの偏見や疎外感も同時に表面化していた。無関心で無気力な若者層と、外から来た異文化の労働者との間には、目には見えない緊張が生まれ、社会の不協和音が少しずつ広がっていた。

6. 
 陽太は、家族と一緒に暮らしているにもかかわらず、日常に漂う孤立感と不安を感じるようになっていた。街には、他人との関係を避け、内向的に暮らす人々が増えており、互いに心を開くことの少ない無言の社会が形成されている。会話をしない、目を合わせない、挨拶もしないという風潮が、ベーシックインカム導入後の新しい「日常」として根付いていた。
 子どもたちの学校でも、「社会性を育む活動」が減りつつあると聞き、陽太は一抹の不安を感じていた。若い世代が「人と関わること」を避けて生きる社会が、これからどうなってしまうのか。その行く先を想像するたびに、陽太の胸に暗い影が落ちるのだった。

7. 
 陽太は、これからの社会に不安を抱きながらも、家族のために何か行動を起こさなければと強く感じていた。社会の変化に振り回されるだけでなく、自らの手で未来を切り開くために、再びフルタイムに戻ることや、スキルを磨いて新しい仕事に挑戦することを真剣に検討し始めた。
「家族を支えるのは、もう自分しかいない」。かつて失われていた「支え合う」感覚が、家族を通して陽太の中に蘇り、彼は新しい生活のための決意を固める。社会が混乱に陥る中でも、彼は家族と共に未来を守り抜くための一歩を踏み出そうとしていた。
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