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フィッシュナツミ

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第1部:「導入期 - 希望に満ちた未来」

第1部:「導入期 - 希望に満ちた未来」

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1. 
 日本でのベーシックインカム導入が正式に決まったその日、全国は熱狂の渦に包まれた。ニュースキャスターが「ついに新しい社会の幕開けです!」と、まるでお祝いのように報道する中、多くの人がテレビやスマートフォンの画面に釘付けになっていた。
 夜の街に出ると、居酒屋やカフェには人があふれ、至るところで喜びの声が飛び交っていた。「これで生活が少しは楽になる」「もう残業しなくてもいいかもしれない」と、夢を語る人々の表情は明るく、誰もが未来に期待を抱いていた。国民全員に月額11万円が支給されるこの制度は、生活の安心を保証し、働かずとも最低限の生活が送れる世界への第一歩となるはずだった。

2. 
 30代の主人公、陽太もその恩恵を実感していた。これまで生活のために必死に働いていたが、ベーシックインカムの支給によって、心の中に余裕が生まれた。毎日遅くまで働き詰めだった彼は、職場の人手不足を理由に、なんとか休みを取ることもできずにいたが、11万円の支給は思いがけない「自由」だった。
 会社でも徐々に変化が起こり始める。会社が導入を進めていたAIが、いくつかの単純業務を肩代わりするようになり、職場の空気が少しずつ穏やかになった。陽太の仕事も少しずつ減り、今まで終電近くまで働いていた時間が短くなった。週に一度は早く帰宅できるようになり、久々に家族との夕食を楽しむことができた。
「パパ、今日は早いんだね!」
 娘の笑顔に迎えられながら、陽太は心の底から安堵していた。

3. 
 街を歩けば、以前よりも人々の表情が明るく見えた。飲食店や商店街では新しいビジネスが始まり、アーティストや手作りの雑貨を販売する人々が増えた。少しずつ生活に余裕ができたことで、自分の好きなことややりたいことに挑戦する人が増えていたのだ。SNSでも、「ベーシックインカムで夢を追う」というタグが広まり、人々が自分の夢を語る場が増えていった。
 陽太もその空気に背中を押され、長年夢見ていた資格取得を目指し、学び直すことを決意した。仕事の合間に勉強を始めることで、今まで抱いていた生活の不安が少しずつ薄れ、自分の人生を豊かにする一歩を踏み出せたような気がした。

4. 
 企業でもベーシックインカムの影響を受けて大きな変化が起こり始めた。長時間労働に依存する体制を見直し、AIを導入することで効率を上げ、従業員の負担を減らそうという動きが進んだ。陽太の会社でも、単純なデータ入力作業や資料作成などの仕事は、次第にAIに任されるようになり、人間が行うのはクリエイティブな業務や判断を要する仕事が中心になっていった。
 社員たちは次第に「働くこと」への考え方を変え始めた。ベーシックインカムがあるからといって、必ずしもフルタイムで働く必要はない。会社は選択肢を広げ、プロジェクト単位での参加や時短勤務など、柔軟な働き方が実現されつつあった。陽太もプロジェクト単位での働き方を選び、必要な時だけ会社に行くという新しい生活スタイルに挑戦するようになる。

5. 
「週に三日だけ働く」。それが陽太の新しい働き方となった。ベーシックインカムで最低限の生活費は確保できるため、家族との時間を増やすためにあえて働く日数を減らすことにしたのだ。
 週末には家族で旅行に出かけたり、近所の公園でピクニックをしたりと、以前よりも家族と過ごす時間が格段に増えた。今までほとんど顔を合わせることもなかった妻や子どもたちと、ゆっくりと話す機会も増え、陽太は今まで知らなかった家族の表情や一面に気づくようになる。久々に見る家族の笑顔は、彼にとって何よりの安らぎだった。

6. 姿
 SNSでは、「夢を追う」人々の姿が話題となっていた。ベーシックインカムによって生活の心配が減ったため、アートや音楽、起業など、個人の好きなことを追求する人が増えていた。特に若い世代は、バイトに追われる生活から解放され、人生の選択肢が増えたことで、クリエイティブな活動に没頭する姿が多く見られた。
 陽太の友人である裕樹も、その一人だった。もともと趣味で絵を描いていた彼は、会社を辞めてフリーランスのイラストレーターに転身した。SNSに投稿した作品が注目を集め、ついには地元のギャラリーで個展を開くまでになったのだ。
「ベーシックインカムがなかったら、夢を追うなんてできなかったよ」と笑う裕樹の姿は、陽太にとって眩しかった。

7. 
 ベーシックインカムが導入されて数か月、社会には今までとは違う活気が満ち始めていた。地域のコミュニティ活動が活発になり、ボランティアやチャリティ活動に参加する人が増え、誰もが「自分のために生きる」ことの喜びを感じていた。
 多くの人々が、自分自身の生き方を見直し始めていた。労働から解放され、豊かな生活を実感する中で、国民全体が「新しい社会」を築き上げているかのようだった。街の風景も、どこか穏やかで、温かさが漂っていた。

8. 
 陽太は、ふと未来に思いを馳せる。ベーシックインカムによって得た自由な生活は、今までの人生では想像もつかなかったもので、彼の生き方を大きく変えていた。長年抱えていた不安が消え、家族や自分のために生きるという喜びが、彼の心に広がっていた。
 日本全体が「新しい時代」の到来に胸を膨らませ、希望に満ちた未来を信じ始めていた。
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