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わたくしは純潔の乙女で、処女に間違いありませんわよ!

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「あー、久々にぐっすり眠れたわ。ふふふ、なんて素敵な朝なのかしら」

ようやく太陽が昇ってきた早朝。鳥の鳴き声で目が覚めたサラディーナは、真面目な顔をしようと思っても、自然にこぼれ出る笑みに自分でも可笑しくなった。

(どれだけ嬉しいのかしら、わたし)

ずっと自由になりたかった。自分には目もくれないエリックとの婚約を破棄して、もし、万が一、自分だけを好いてくれる人が見つかればその人の妻に、例え傷物令嬢として一生独身で過ごしす羽目になったとしても、エリックのお飾りの妻となるよりは後悔しない と、ずっと思っていた。

「ようやく、自由になれるのね、帰ったら、ジャスリンやラルフに報告して、お祝いのパーティーよ」



昨夜の、婚約破棄を賭けてのエリックとの閨勝負。ラルフに教わった天下一品の口淫で、天狗になっていたエリックの鼻っ柱を清々しくなる位、ポッキリと折ってやった。
サラディーナのはしゃぎ様に、何か憎まれ口でも叩くのではないかと思ったものの、エリックは何も言わず、熱の篭った目で黙ってサラディーナを見つめるだけだった。
その淫靡な雰囲気を漂わせたエリックの姿に、何故か急に背中に悪寒が走って、サラディーナは自身の部屋に慌てて戻り、内鍵をしっかりかけて湯あみをしてから眠った。
その後は何事も無く朝を迎え、昨夜の悪寒は知らないうちに汗をかいて身体が冷えたせいだったのだと思い直した。


昨夜は婚約破棄の取決めもせず、そのまま部屋に戻ってしまった為、朝食を摂った後でエリックと話し合いを持ちたいとメッセージを認め、執事にエリックに渡してくれるように頼んだ。
部屋でメイド長が用意した朝食を摂っている間に、エリックからのメッセージが執事によって届けられた。

『わかった。わたしも確認したいことがある。朝食後にガセボで』

流れる様に美しい文字で書かれたメッセージを読んで、サラディーナは眉を潜めた。

「エリックが確認したいこと?一体なんなんでしょう?婚約を破棄するのに、なにか私の知らない手続でもあるのかしら?」

エリックの『確認したいこと』その一言が引っかかったものの、サラディーナは勝利と目の前の自由に浮かれていてそれ以上深くは考えなかった.....。



サラディーナが身支度を整えてガセボに向かうと、エリックが先にきて庭園のバラを眺めていた。けだるそうなエリックの横顔。淫蕩な雰囲気が滲み出ていて、サラディーナに付き添ってきたメイド長は顔を赤らめた。
「お待たせいたしましたエリック様。今日も良い一日になりそうですね」

カーテシーをしてエリックに挨拶をする。昨夜、散々快楽に蕩けたエリックの表情をみたサラディーナは全然平気だった。

「あぁ、おはよう、サラディーナ。わたしも今来たところだよ。さぁ、座って」

ガセボにあるテーブルの椅子に、エリックがサラディーナをエスコートする。思わす構えるサラディーナ。
他人の目のないところでは、これまでこんな事はエリックに一度もされたことがなかったからだ。

(どうなっているのかしら、今日のエリックは。なんだかちょっと怖いわ)

椅子を引いてもらい、腰掛けてエリックに礼をのべる。

「食事を摂ったばかりだけど、一杯くらいは飲めるだろう?アールグレイのいい葉を手に入れたんだ」

エリックの手ずから入れられる紅茶に、サラディーナはますます恐怖した。プライドの高いエリックが、たかだか婚約を破棄する予定の元婚約者にお茶を入れるなんて。悪い予感がして、サラディーナの鼓動が人知れず早くなる。

「まぁ、エリック様。ありがとうございます。でも、お気になさらずに。今後の事を取決めしたら、早々にお暇しますから」

サラディーナが笑顔で話しかけると、エリックもまた笑顔で答えた。

「その事なんだけどね、サラディーナ。2~3、確認したい事が出来たんだよ」

「確認でございますか?一体どんな事でしょう?婚約破棄については、両家で書面を取り交わし、教会と国王陛下に承認をいただけば宜しかったと記憶していたのですが、違ったのでしょうか?」

不安そうになるサラディーナの顔を見て、エリックが答える。

「いや、サラディーナの言う通りで間違いはないよ」

「そうでしたか、良かったです」

サラディーナはホッと息をついた。

「では、エリック様、一体何をお聞きになりたいのですか?」

「それは、サラディーナの処女性についてかな」

「..............は?え、え?エリック様、今なんとおっしゃいました?わたくし、何か聞き間違いでもしたかもしれません」
(今、処女性っていった?エリックが処女性って、言ったよね??)

思い掛けない言葉を聞かされて、サラディーナは驚愕した。高位令嬢として、胸の内を悟られる事のない様いつも微笑みを崩さない様にと淑女教育を受けてきているが、流石にエリックの口から出た処女性という言葉には驚きを隠せなかった。

「サラディーナが婚約破棄を望んだのは、わたしが婦人達との浮名を流したのが不満だったからだよね?」

「えぇ、そうですわ。エリック様の不誠実さに耐えられなくなったのです」
(エリックは一体なにをいいたいのかしら?)

言いようのない不安に、サラディーナはエリックを見た。

「ベルライド侯爵夫妻からも、わたしの両親からも、婚約者として素晴らしい令嬢のサラディーナを傷つける様な不誠実な人間と散々お叱りを受けたよ」

「それは.......」

「確かに、将来結婚するのは変わりないのだからと、婚約者をないがしろにして、他の女性との時間を持っていたわたしが有責で婚約破棄をされるのも致し方ないとは思っていたよ、昨日までは」

「昨日までは、ですか?」

「あぁ。正確には昨夜までだが。未婚の令嬢、男女の関係なども分らない処女に、閨の事で勝負を挑まれたとて、話しにもならないのであろうと高をくくってた。サラディーナの言うところの「奥深さ」とやらも大した事もないだろうと思っていた。でも、昨夜、その「奥深さ」を体験して、目からうろこが落ちたよ。
男女の関係を色々と知り尽くしたつもりでいたが、まだまだ自分にも知らない「奥深さ」があったのだと」

エリックが何をいいたいのか、全然想像がつかない。ただ、このまま話し合いを続けるのは危険なのではないかと、サラディーナは嫌な予感に駆られた。

「で、そこで不思議に思ったんだ。このわたしでも体験したことの無いような「奥深さ」を体現してくれたサラディーナ。正直、王都の娼館で一番の売れっ子の娼婦でもあれまでの技巧は出来ないと思う。男性経験の無い処女である令嬢が出来る事ではないとね」

サラディーナは顔面蒼白になった。エリック自慢の鼻をへし折ったことに浮かれて、婚約破棄の手続きを早急に進めなかった事を。

「貴方へのわたしの不誠実さが婚約破棄の一番の要因であるが、万が一、貴方が処女ではなく既に純潔を失っていたとしたら、あの技巧を相手の男から教授されていたとしたら。そもそもにわたしの不誠実を落ち度とする事は出来ないと思ってね」

「卑怯ですわ、エリック様!!閨の勝負に勝てば、婚約破棄に応じて下さるとのお約束だったはずではありませんか!!」

「約束はしたが、それはあくまでも貴方が高位令嬢として純潔を失っていない処女である事が前提だ」

「わたくしは処女です!!!」

エリックの余りの言い様にカッとして、サラディーナは叫んでしまった。

「それはどう証明を?昨夜あれだけの体験をさせてくれた貴方が処女だと叫んでも、わたしには俄かには信じがたいからね」

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