48 / 68
第8話③ バレちまった
しおりを挟む
ゴッ太郎のみならず零春まで迎えた屋上は、もはや学校の一部分というにはふさわしくないほど暑苦しい修練所と化していた。そして教えるイーグルとしても、ゴッ太郎一人を相手するよりも熱が入る。それは教官として軍属していた頃の肉体の記憶が甦っているからで、その教鞭は鋭く振るわれる。まずイーグルの指示でゴッ太郎と零春のスパーが行われ、その最中、イーグルはゴッ太郎の立ち回りにある違和感を覚えて止めた。
「待て、ゴッ太郎」
「んあ? んだよ、いいとこだぞ!」
零春との距離を図りながら、その一瞬の隙を見計らい、じりじりと前進していたゴッ太郎は急に毒気を抜かれて肉体がしぼんだ。筋肉は心の持ちように比例するのだ。
「なぜ無意味に跳んで距離を詰める」
「は?」
零春の眉間に皺が寄る。零春としても奇妙に感じていたのだ。ゴッ太郎は正面から間合いに踏み込む時、ちょうどそのギリギリで跳躍しようとする。零春はそれを合図に間合いを取り直すため後退する、今度はこちらが踏み込むと、ゴッ太郎は見えない力に押されるように後退していく。いたちごっこである。
「跳ばなければ、今頃お前は自分の間合いで戦えている。跳びを合図に零春は下がっている。俺はお前の戦い方を見て、無駄に跳んでいるとは思わない。なにか考えがあるはずだ。言ってみろ」
でもよォ、とゴッ太郎。不満そうなゴッ太郎が何を言いたいのかはわかる。自分の手の内を見せたくないのだ。目の前に敵がいる、その上で考えていることを離すのは嫌だ――イーグルとしてもその心理はわかる。
「安心しろ。まともに戦略を組む段になれば、どうせ連携も何もない単発の隠し手などバレる。それよりも現にある立ち回りの弱点についての整理をした方がいい。零春、今のゴッ太郎はどう感じた?」
「……正直な話をすれば、最初は不気味な距離で立ち回りを強要される感じで嫌だったけど今はそうでもないです。ゴッ太郎の踏み込みに合わせて下がればこちらの間合いで戦える。後は間合いの外からちょっとずつ触っていけば勝手に相手は疲弊する――もう暫くしてゴッ太郎の集中力が切れた辺りで仕掛けようと考えていました」
零春の言葉に、ゴッ太郎は苦い顔である。イーグルは相変わらず厳しい顔で頷いたまま、ゴッ太郎に視線を返す。
「わかるか? 今までのお前は同じ相手と二回以上戦うことはなかったのだろうが、これからのお前はサンプルボーイともう一度戦わなければならない。当然俺とも、零春ともだ」
その言葉に、ゴッ太郎ははっとする。なんとか吸い込んでパイルバンカーを決める、なんとか全力のストレートを一撃決める……今まではそれで良かったのだ。けれどこれからはそうも行かない。一度距離を見せたイーグルと本気でもう一度やるならば、その距離まで近付かせてくれるわけがない。今の零春と同じか、それ以上にうまく間合いを管理されて触れないままジリ貧で負ける――当然考えつく帰結である。はぁ、と息をつく。
「イーグル、俺がちょっと遠くにいる相手を瞬間的に引き寄せて掴むっていうのは……」
「御鈴波嬢から聞いている」
「それなんだよ。問題は。実は、アレって体重をぐるっと、円を描くみたいに動かさないと出ないんだよ。だから途中で跳んじまうんだ。上に体重を持っていくってことは、途中でジャンプを挟むってことなんだ」
ほう、と興味深そうに頷くイーグルに、口の端を少々揺らしてなにか思うところがあるような表情の零春、微妙な空気が暑苦しい屋上を支配する。
「Alright.お前の弱点を消してやる」
「あァ!? そんなことできんのかよ!」
「できる」
イーグルは断言した。零春は表情を崩さない。
「もちろん、君にも教えるから安心したまえ。零春」
「かっ」
見透かされたように、零春の表情は崩れた。図星である。
「待て、ゴッ太郎」
「んあ? んだよ、いいとこだぞ!」
零春との距離を図りながら、その一瞬の隙を見計らい、じりじりと前進していたゴッ太郎は急に毒気を抜かれて肉体がしぼんだ。筋肉は心の持ちように比例するのだ。
「なぜ無意味に跳んで距離を詰める」
「は?」
零春の眉間に皺が寄る。零春としても奇妙に感じていたのだ。ゴッ太郎は正面から間合いに踏み込む時、ちょうどそのギリギリで跳躍しようとする。零春はそれを合図に間合いを取り直すため後退する、今度はこちらが踏み込むと、ゴッ太郎は見えない力に押されるように後退していく。いたちごっこである。
「跳ばなければ、今頃お前は自分の間合いで戦えている。跳びを合図に零春は下がっている。俺はお前の戦い方を見て、無駄に跳んでいるとは思わない。なにか考えがあるはずだ。言ってみろ」
でもよォ、とゴッ太郎。不満そうなゴッ太郎が何を言いたいのかはわかる。自分の手の内を見せたくないのだ。目の前に敵がいる、その上で考えていることを離すのは嫌だ――イーグルとしてもその心理はわかる。
「安心しろ。まともに戦略を組む段になれば、どうせ連携も何もない単発の隠し手などバレる。それよりも現にある立ち回りの弱点についての整理をした方がいい。零春、今のゴッ太郎はどう感じた?」
「……正直な話をすれば、最初は不気味な距離で立ち回りを強要される感じで嫌だったけど今はそうでもないです。ゴッ太郎の踏み込みに合わせて下がればこちらの間合いで戦える。後は間合いの外からちょっとずつ触っていけば勝手に相手は疲弊する――もう暫くしてゴッ太郎の集中力が切れた辺りで仕掛けようと考えていました」
零春の言葉に、ゴッ太郎は苦い顔である。イーグルは相変わらず厳しい顔で頷いたまま、ゴッ太郎に視線を返す。
「わかるか? 今までのお前は同じ相手と二回以上戦うことはなかったのだろうが、これからのお前はサンプルボーイともう一度戦わなければならない。当然俺とも、零春ともだ」
その言葉に、ゴッ太郎ははっとする。なんとか吸い込んでパイルバンカーを決める、なんとか全力のストレートを一撃決める……今まではそれで良かったのだ。けれどこれからはそうも行かない。一度距離を見せたイーグルと本気でもう一度やるならば、その距離まで近付かせてくれるわけがない。今の零春と同じか、それ以上にうまく間合いを管理されて触れないままジリ貧で負ける――当然考えつく帰結である。はぁ、と息をつく。
「イーグル、俺がちょっと遠くにいる相手を瞬間的に引き寄せて掴むっていうのは……」
「御鈴波嬢から聞いている」
「それなんだよ。問題は。実は、アレって体重をぐるっと、円を描くみたいに動かさないと出ないんだよ。だから途中で跳んじまうんだ。上に体重を持っていくってことは、途中でジャンプを挟むってことなんだ」
ほう、と興味深そうに頷くイーグルに、口の端を少々揺らしてなにか思うところがあるような表情の零春、微妙な空気が暑苦しい屋上を支配する。
「Alright.お前の弱点を消してやる」
「あァ!? そんなことできんのかよ!」
「できる」
イーグルは断言した。零春は表情を崩さない。
「もちろん、君にも教えるから安心したまえ。零春」
「かっ」
見透かされたように、零春の表情は崩れた。図星である。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました
フルーツパフェ
大衆娯楽
とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。
曰く、全校生徒はパンツを履くこと。
生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?
史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
性的イジメ
ポコたん
BL
この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。
作品説明:いじめの性的部分を取り上げて現代風にアレンジして作成。
全二話 毎週日曜日正午にUPされます。
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
AIアイドル活動日誌
ジャン・幸田
キャラ文芸
AIアイドル「めかぎゃるず」はレトロフューチャーなデザインの女の子型ロボットで構成されたアイドルグループである。だからメンバーは全てカスタマーされた機械人形である!
そういう設定であったが、実際は「中の人」が存在した。その「中の人」にされたある少女の体験談である。
ずっと女の子になりたかった 男の娘の私
ムーワ
BL
幼少期からどことなく男の服装をして学校に通っているのに違和感を感じていた主人公のヒデキ。
ヒデキは同級生の女の子が履いているスカートが自分でも履きたくて仕方がなかったが、母親はいつもズボンばかりでスカートは買ってくれなかった。
そんなヒデキの幼少期から大人になるまでの成長を描いたLGBT(ジェンダーレス作品)です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる