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第8話③ バレちまった

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 ゴッ太郎のみならず零春まで迎えた屋上は、もはや学校の一部分というにはふさわしくないほど暑苦しい修練所と化していた。そして教えるイーグルとしても、ゴッ太郎一人を相手するよりも熱が入る。それは教官として軍属していた頃の肉体の記憶が甦っているからで、その教鞭は鋭く振るわれる。まずイーグルの指示でゴッ太郎と零春のスパーが行われ、その最中、イーグルはゴッ太郎の立ち回りにある違和感を覚えて止めた。
「待て、ゴッ太郎」
「んあ? んだよ、いいとこだぞ!」
 零春との距離を図りながら、その一瞬の隙を見計らい、じりじりと前進していたゴッ太郎は急に毒気を抜かれて肉体がしぼんだ。筋肉は心の持ちように比例するのだ。
「なぜ無意味に跳んで距離を詰める」
「は?」
 零春の眉間に皺が寄る。零春としても奇妙に感じていたのだ。ゴッ太郎は正面から間合いに踏み込む時、ちょうどそのギリギリで跳躍しようとする。零春はそれを合図に間合いを取り直すため後退する、今度はこちらが踏み込むと、ゴッ太郎は見えない力に押されるように後退していく。いたちごっこである。
「跳ばなければ、今頃お前は自分の間合いで戦えている。跳びを合図に零春は下がっている。俺はお前の戦い方を見て、無駄に跳んでいるとは思わない。なにか考えがあるはずだ。言ってみろ」
 でもよォ、とゴッ太郎。不満そうなゴッ太郎が何を言いたいのかはわかる。自分の手の内を見せたくないのだ。目の前に敵がいる、その上で考えていることを離すのは嫌だ――イーグルとしてもその心理はわかる。
「安心しろ。まともに戦略を組む段になれば、どうせ連携も何もない単発の隠し手などバレる。それよりも現にある立ち回りの弱点についての整理をした方がいい。零春、今のゴッ太郎はどう感じた?」
「……正直な話をすれば、最初は不気味な距離で立ち回りを強要される感じで嫌だったけど今はそうでもないです。ゴッ太郎の踏み込みに合わせて下がればこちらの間合いで戦える。後は間合いの外からちょっとずつ触っていけば勝手に相手は疲弊する――もう暫くしてゴッ太郎の集中力が切れた辺りで仕掛けようと考えていました」 
 零春の言葉に、ゴッ太郎は苦い顔である。イーグルは相変わらず厳しい顔で頷いたまま、ゴッ太郎に視線を返す。
「わかるか? 今までのお前は同じ相手と二回以上戦うことはなかったのだろうが、これからのお前はサンプルボーイともう一度戦わなければならない。当然俺とも、零春ともだ」
 その言葉に、ゴッ太郎ははっとする。なんとか吸い込んでパイルバンカーを決める、なんとか全力のストレートを一撃決める……今まではそれで良かったのだ。けれどこれからはそうも行かない。一度距離を見せたイーグルと本気でもう一度やるならば、その距離まで近付かせてくれるわけがない。今の零春と同じか、それ以上にうまく間合いを管理されて触れないままジリ貧で負ける――当然考えつく帰結である。はぁ、と息をつく。
「イーグル、俺がちょっと遠くにいる相手を瞬間的に引き寄せて掴むっていうのは……」
「御鈴波嬢から聞いている」
。問題は。実は、アレって体重をぐるっと、円を描くみたいに動かさないと出ないんだよ。だから。上に体重を持っていくってことは、途中でジャンプを挟むってことなんだ」
 ほう、と興味深そうに頷くイーグルに、口の端を少々揺らしてなにか思うところがあるような表情の零春、微妙な空気が暑苦しい屋上を支配する。
Alrightオーライ.お前の弱点を消してやる」
「あァ!? そんなことできんのかよ!」
「できる」
 イーグルは断言した。零春は表情を崩さない。
「もちろん、君にも教えるから安心したまえ。零春」
「かっ」
 見透かされたように、零春の表情は崩れた。図星である。
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