上 下
36 / 68

第6話② カーテン越しの羞恥

しおりを挟む
「オアーーーッ!!! おい! ぜってえなんか違うことしようとしてる!」
「昨日よりいい身体~……雄の身体だわ~☆ 芸術的……これを触っていいなんて、やっぱり医者になってよかった……」

「後に予定つかえてる! 閊えてるよ!」
「確かに筋肉がデカすぎてストレッチャーに閊えてるわね~」
「そっちじゃねえ~」

 濡れたタオルで丹念に身体を拭き上げた洋華は、真新しい傷を消毒しつつ筋肉の塊をほぐすように触診しはじめた。指の腹押したり撫でたり、今度はつねってみたり――何度も何度も触られるうちに、ゴッ太郎の身体は掻痒感そうようかんを発するようになり、身体は芯から熱くなり始めていた。

「ちょ、くふはっ。おまっ……せんせっやばこれ……めっちゃくすぐったい! びりびりするんだけど!」

 腫れ上がった両腕から始まり、胸筋、広背筋、上腕と進んでいく内に、ゴッ太郎は肉体の奥から湧き上がってくる微かな快感が徐々に高まっているのを感じていた。洋華の手技が肉体を癒やしているのはわかるのだが、あまりにもわかりやすい快楽が肉体の奥をプッシュしてくるせいで、気が変になりそうなのだ。

 指圧は何度も下腹部に甘い刺激を送り、気が付けばゴッ太郎は声が漏れそうになっていた。

「ふんっ、ふんっ。いい感じにほぐれてきたわね。気持ちいい?」

 洋華の顔がゴッ太郎の眼の前に近付いた。派手すぎないながらに整った顔に、女を見せつけるような豊かな胸。触れられるだけで甘い刺激が脳を焼くゴッ太郎にとって、ほんのり香るムスクのオトナのヴェールは、大自然の理をプッシュするのに十分だった。

「先生、正面はいいんで、そろそろ背中やってもらっていいすか――」

 ゴッ太郎は身を捩ってうつ伏せになろうとしたところを、洋華はそっと首元を撫でた。瞬間、ゴッ太郎の意識は宇宙まで飛んだ。ゴッ太郎アライブインスペース。

「ひぁっ」

 意識を宇宙まで飛ばされた肉体は制御を失って、ゴッ太郎は情けなくストレッチャーに落ちた。

「ん~? どうしたの、☆ もうギブアップ?」

 耳元で呟いた洋華は豊満な身体をゴッ太郎に押し付けながら、蠱惑こわく的に耳元で囁いた。

「ギブ! ギブ! あかん! あかん! 年齢制限がかかる!」
「大丈夫、これはマッサージだもん☆」
「おおおおおおおん! おおん! おおおおおおん!」

 首、耳、うなじ、既にゴッ太郎の感度はどこまでも上り詰めて、空気の流れでさえ敏感に感じ取っている。何気なく洋華の白衣が擦れただけで、ゴッ太郎は意識を失いそうになった。

「あかん! 快感の三店方式! 怖い! これ俺知らない! 知らんやつ! やばい! 先生! これ以上は死を覚悟する!」
「うふふ……ふふ……」

 ゴッ太郎が懇願し続けても、洋華の手は止まらない。意識の点滅が始まったゴッ太郎は、命乞いをするように必死の形相で洋華と視線を合わせようと目を追っていた。洋華の眼球が真っ直ぐとこちらをむいた時、ゴッ太郎は必死に視線で限界を訴えた。
 一秒、二秒――目線が合い続ける。しかし手は止まらない。心臓の動悸音はどんどん早くなっていく。

「せん、せんせ……せ……! おおおおおおおん! なんか目ェ座ってんだけど! なんでこんな顔眼の前にあるのに目線合わないんだよ! 何見てんの!?」

 洋華の瞳は、もう既に何も映していなかった。美しい筋肉に魅せられて、筋肉との対話だけに意識が割かれたトランス状態に近かった。今彼女に聞こえるのは、筋肉の歓喜の声だけだ。

「……いいわね。最高。若いっていいな……こんな被験体いっぱいほしいな……☆」
「ウワアーッ! 死ぬゥ! マジで死んじゃう! 先生! 気持ち良すぎて死ぬ! これ以上は俺テクノブレイクしちゃう! やめて! あーッ!!! 逝ってまう!!! すんません逝く!!! オアアアアアアアアーーーッ」

 ゴッ太郎の意識が徐々に靄がかって消え始める。脳から出力される快楽が肉体の許容量を上回り、脳を焼き尽くして爆発する。既にあちら側はすぐそこに迫っていた。  

 眼の前には猫の目のように広がる、原初の渦――すなわちブラックホールが見える。徐々に引き寄せられていく。こんな事切れ、誰が想像しただろう。しかし――これもまた一つの芸術なのかもしれない。ありがとう世界、ありがとう……今までの、全て。
 ゴッ太郎の冒険は、ここで終わってしま――

「二人共、なにしてんだァーーーーーーッ゙!!!」

 隣のベッドのカーテンが勢いよく開く。

「あ?」
「は?」

 ゴッ太郎と洋華はその音で急激に熱が下がっていくのを感じて、視線は一箇所に集まった。ベッドの上には、鼻血を垂らしながらこちらを見つめる零春が居た。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました

フルーツパフェ
大衆娯楽
 とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。  曰く、全校生徒はパンツを履くこと。  生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?  史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

性的イジメ

ポコたん
BL
この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。 作品説明:いじめの性的部分を取り上げて現代風にアレンジして作成。 全二話 毎週日曜日正午にUPされます。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

AIアイドル活動日誌

ジャン・幸田
キャラ文芸
 AIアイドル「めかぎゃるず」はレトロフューチャーなデザインの女の子型ロボットで構成されたアイドルグループである。だからメンバーは全てカスタマーされた機械人形である!  そういう設定であったが、実際は「中の人」が存在した。その「中の人」にされたある少女の体験談である。

ずっと女の子になりたかった 男の娘の私

ムーワ
BL
幼少期からどことなく男の服装をして学校に通っているのに違和感を感じていた主人公のヒデキ。 ヒデキは同級生の女の子が履いているスカートが自分でも履きたくて仕方がなかったが、母親はいつもズボンばかりでスカートは買ってくれなかった。 そんなヒデキの幼少期から大人になるまでの成長を描いたLGBT(ジェンダーレス作品)です。

処理中です...