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第1話⑨ 必殺の一撃
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ゴッ太郎は徐ろに筋肉を構えた。諸手を振り上げて、棍棒でも振り回すみたいに肉体に筋肉の橋を架けたのである。筋肉のトラス構造がゴッ太郎の腕を棍棒から金棒に変えていく時、どこか爽やかな汗の香りが鼻孔をついた。
そう、筋肉は完成したのである。
上空から襲いかかる狂気の爪を跳ね返すため、貧弱な肉体は筋肉の鎧を纏い、今、回り始める。
「フルメタル・ラリアットぉおおおおおおおおおッ」
強大な筋肉のトルクが生存本能をプッシュする。ゴッ太郎はプロペラのように体を回して迎撃の態勢を完成させていた。その様はまるで巨大な金床が突如急激に空中に建設されたようだ。
磨き上げられた筋肉の床が、攻め立てる侵略者を破壊するため、攻防一体の構えとなって、雷鳴のようにその存在を在らしめているのだ。
「な、何ィーーーーーーーーッ゙!!!」
驚くも、既に落下の勢いは止まらない。爪は既に振り下ろされつつあった。
「あああああああああああああああ――――――――ッ!!!」
慟哭、咆哮、筋肉の鼓動が花開く。飛来する男もまた呼応して吠えた。これは一族の誇りを背負った爪術である。自らの負けは即ち一族の歴史の敗北を意味する。意地のぶつかり合いは既に個人の戦いを超越している。
筋肉の要塞を暗殺の爪が引き裂くか、それとも、その壁は無惨にもくず鉄を土に還すのか――戦いは一瞬で決まる。
爪は月明かりを祝福のように受けて、最大限に冴えていた。偉大なる祖父もまた、人ならざる獣に爪だけを装って戦いを挑んだという。
では、この男にとって人ならざる獣とはなんだ――?
脳裏によぎる筋肉の肥大、人体とは思えない圧倒的肉量。これこそ正に、超えるべき獣。祖父が獣を打倒したのならば、自らは鉄さえも切り裂こう。それこそが、一族の、進化――覚悟は完了している。
「うおおおッ゙」
「どりゃあああああああッ!!!」
爪と筋肉が触れ合った。強靭な筋繊維と爪が互いの強さを競い合い、高め合う。白熱した接触面からは戦いの火花が散った。心臓の鼓動から繰り出される筋肉のジェネレーターの甘美な調。
大きく、見せつけるようにダイナミックに回す腕の回りには、砂塵が巻き上がり、突き立てる爪の先端を逆にえぐりこむように筋肉は更に膨張した。
「ぐっ、そんな――」
火花の上がる接触面から炎が立ち上がった瞬間だった。落下の熱量を全てぶつけられた爪は、その熱量に耐えきれず崩壊を起こした。爪が四散し、手から剥がれるように跳ね返って後方に飛んで地面に突き刺さる。そして落ち行く体の顔面に、ラリアットの拳が砲丸のような衝撃を以て激突した。
「ぶ、へぇあッ゙」
隕石にでも、ぶつかった――そうとしか思えない程の爆発的破壊力が下顎を揺らした頃には、男はそのまま爪の方に向かって吹き飛んでいた。爪を失い、面の割れた男はなおもまだ立ち上がろうと蹌踉めく。
だが、隙を逃すほどゴッ太郎もバカではない。まるで重戦車が進むように鈍重に、圧を掛けながらキャラタピラのような歩みが地面を均しながら進んでいく。そして二、三メートルの地点に立った時、筋肉を、肉体全体を揺らして、一度跳躍した。
「今なら――まだ……!」
男はなんとか立ち上がり、飛び上がろうと試みた。まだこの闇に再び紛れ込み襲いかかれば、勝てるかもしれない。フルメタル・ラリアットと言ったか、あの技もただ直上に強いだけだ。タイミングをずらせば、背面から襲いかかれば――看破できぬわけではない。その為には、まず、飛び上がり、闇の中へ身を隠――
「は。ァ……?」
ゴッ太郎が地面に着地した瞬間、男は互い違いになるように空中に飛び上がった――つもりだった。
「捕まえたァ!」
飛び上がろうとした足が地面から離れる前、その一瞬、まるで自分の体がワープでもしたみたいにゴッ太郎の腕の中に吸い込まれていた。飛び上がる直前に前傾したせいで、体は頭を下にして掴み取られている。
「今、何が――」
困惑のまま、男はそのままアイアンメイデンにでも閉じ込められたみたいに抱き込まれると、次の瞬間には空を飛んでいた。比喩でもなんでもない。本当に飛んでいたのだ。街頭の明かりが蛍の光のように映る。まるで飛行船にでも乗ったみたいだ――だが飛び上がった筋肉の遊覧飛行は、風を切る音と共に自由落下を始めている。
「まずい――このままでは!」
埋まる――!
本能に語りかける恐怖が身を凍らせる。一秒でも、一呼吸でも早くこの船から降りなければ! 身を捩り、力を込め、叫ぶ。けれど万力で締められたような筋肉の拘束具は、ジェットコースターに乗せられたように冷徹に、その事実を受け容れるように囁く。落下の速度は文字通り加速度的に高まり、既に降りることすら許されない。
「い、嫌だ、俺は、負けたくないいいいいいい!!!」
「行くぞぉッ!!! フリーフォールド・パイルバンカーッ!!!」
「うわああああああああッ゙」
どずん、と地震でも起こったような地鳴りが響くと、細やかな砂の靄がスモークのように公園を満たした。やがて塵が収まった頃、公園中にあった砂山は、真っ平らに均されていた。
「……」
砂場には、物言わぬ人体が一つ。まるで石に突き刺さった剣のように、まっすぐとつま先を立てて砂の海に沈んでいた。勝敗は決した。最後に立っていたのは、ゴッ太郎だ。
「決着ぅーーーッ!!!」
両手を振り上げ、ゴッ太郎の筋肉は輝きを増した。ゴッ太郎の脳内に駆け巡る勝利の脳内麻薬が美酒となって血中を筋肉を巡る。アドレナリンが、ドパミンが、βエンドルフィンが、全身が勝利を噛み締め、余韻がまた月の光と共に体を癒やしていく。
大きな溜め息に十分な余韻を堪能したゴッ太郎は、勢いよく粋な場に埋まった足を引きずり出した。着地場所を選べる余裕はなかったというのに、この男は運がいい。
「ぬっ……くふううぅぅ……ぷしゅー……」
尊大な程に肥大させた筋肉が熱を持ち、限界を告げる。膨らんだ風船が徐々に萎んでいくように、吐いた息と共に筋肉は収縮して、異様に発達した筋肉は内側へ格納されていった。
そう、筋肉は完成したのである。
上空から襲いかかる狂気の爪を跳ね返すため、貧弱な肉体は筋肉の鎧を纏い、今、回り始める。
「フルメタル・ラリアットぉおおおおおおおおおッ」
強大な筋肉のトルクが生存本能をプッシュする。ゴッ太郎はプロペラのように体を回して迎撃の態勢を完成させていた。その様はまるで巨大な金床が突如急激に空中に建設されたようだ。
磨き上げられた筋肉の床が、攻め立てる侵略者を破壊するため、攻防一体の構えとなって、雷鳴のようにその存在を在らしめているのだ。
「な、何ィーーーーーーーーッ゙!!!」
驚くも、既に落下の勢いは止まらない。爪は既に振り下ろされつつあった。
「あああああああああああああああ――――――――ッ!!!」
慟哭、咆哮、筋肉の鼓動が花開く。飛来する男もまた呼応して吠えた。これは一族の誇りを背負った爪術である。自らの負けは即ち一族の歴史の敗北を意味する。意地のぶつかり合いは既に個人の戦いを超越している。
筋肉の要塞を暗殺の爪が引き裂くか、それとも、その壁は無惨にもくず鉄を土に還すのか――戦いは一瞬で決まる。
爪は月明かりを祝福のように受けて、最大限に冴えていた。偉大なる祖父もまた、人ならざる獣に爪だけを装って戦いを挑んだという。
では、この男にとって人ならざる獣とはなんだ――?
脳裏によぎる筋肉の肥大、人体とは思えない圧倒的肉量。これこそ正に、超えるべき獣。祖父が獣を打倒したのならば、自らは鉄さえも切り裂こう。それこそが、一族の、進化――覚悟は完了している。
「うおおおッ゙」
「どりゃあああああああッ!!!」
爪と筋肉が触れ合った。強靭な筋繊維と爪が互いの強さを競い合い、高め合う。白熱した接触面からは戦いの火花が散った。心臓の鼓動から繰り出される筋肉のジェネレーターの甘美な調。
大きく、見せつけるようにダイナミックに回す腕の回りには、砂塵が巻き上がり、突き立てる爪の先端を逆にえぐりこむように筋肉は更に膨張した。
「ぐっ、そんな――」
火花の上がる接触面から炎が立ち上がった瞬間だった。落下の熱量を全てぶつけられた爪は、その熱量に耐えきれず崩壊を起こした。爪が四散し、手から剥がれるように跳ね返って後方に飛んで地面に突き刺さる。そして落ち行く体の顔面に、ラリアットの拳が砲丸のような衝撃を以て激突した。
「ぶ、へぇあッ゙」
隕石にでも、ぶつかった――そうとしか思えない程の爆発的破壊力が下顎を揺らした頃には、男はそのまま爪の方に向かって吹き飛んでいた。爪を失い、面の割れた男はなおもまだ立ち上がろうと蹌踉めく。
だが、隙を逃すほどゴッ太郎もバカではない。まるで重戦車が進むように鈍重に、圧を掛けながらキャラタピラのような歩みが地面を均しながら進んでいく。そして二、三メートルの地点に立った時、筋肉を、肉体全体を揺らして、一度跳躍した。
「今なら――まだ……!」
男はなんとか立ち上がり、飛び上がろうと試みた。まだこの闇に再び紛れ込み襲いかかれば、勝てるかもしれない。フルメタル・ラリアットと言ったか、あの技もただ直上に強いだけだ。タイミングをずらせば、背面から襲いかかれば――看破できぬわけではない。その為には、まず、飛び上がり、闇の中へ身を隠――
「は。ァ……?」
ゴッ太郎が地面に着地した瞬間、男は互い違いになるように空中に飛び上がった――つもりだった。
「捕まえたァ!」
飛び上がろうとした足が地面から離れる前、その一瞬、まるで自分の体がワープでもしたみたいにゴッ太郎の腕の中に吸い込まれていた。飛び上がる直前に前傾したせいで、体は頭を下にして掴み取られている。
「今、何が――」
困惑のまま、男はそのままアイアンメイデンにでも閉じ込められたみたいに抱き込まれると、次の瞬間には空を飛んでいた。比喩でもなんでもない。本当に飛んでいたのだ。街頭の明かりが蛍の光のように映る。まるで飛行船にでも乗ったみたいだ――だが飛び上がった筋肉の遊覧飛行は、風を切る音と共に自由落下を始めている。
「まずい――このままでは!」
埋まる――!
本能に語りかける恐怖が身を凍らせる。一秒でも、一呼吸でも早くこの船から降りなければ! 身を捩り、力を込め、叫ぶ。けれど万力で締められたような筋肉の拘束具は、ジェットコースターに乗せられたように冷徹に、その事実を受け容れるように囁く。落下の速度は文字通り加速度的に高まり、既に降りることすら許されない。
「い、嫌だ、俺は、負けたくないいいいいいい!!!」
「行くぞぉッ!!! フリーフォールド・パイルバンカーッ!!!」
「うわああああああああッ゙」
どずん、と地震でも起こったような地鳴りが響くと、細やかな砂の靄がスモークのように公園を満たした。やがて塵が収まった頃、公園中にあった砂山は、真っ平らに均されていた。
「……」
砂場には、物言わぬ人体が一つ。まるで石に突き刺さった剣のように、まっすぐとつま先を立てて砂の海に沈んでいた。勝敗は決した。最後に立っていたのは、ゴッ太郎だ。
「決着ぅーーーッ!!!」
両手を振り上げ、ゴッ太郎の筋肉は輝きを増した。ゴッ太郎の脳内に駆け巡る勝利の脳内麻薬が美酒となって血中を筋肉を巡る。アドレナリンが、ドパミンが、βエンドルフィンが、全身が勝利を噛み締め、余韻がまた月の光と共に体を癒やしていく。
大きな溜め息に十分な余韻を堪能したゴッ太郎は、勢いよく粋な場に埋まった足を引きずり出した。着地場所を選べる余裕はなかったというのに、この男は運がいい。
「ぬっ……くふううぅぅ……ぷしゅー……」
尊大な程に肥大させた筋肉が熱を持ち、限界を告げる。膨らんだ風船が徐々に萎んでいくように、吐いた息と共に筋肉は収縮して、異様に発達した筋肉は内側へ格納されていった。
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