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第1話⑦ 熟年のサンドバッグ
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「言い訳? いいわ。言ってみなさい」
「その、ですね。遅れそうで、急いでまして……それで走ってたんすよ。そしたら信号無視されて、その挙げ句、目の前で爆発されまして……」
「あなた、そんな下手な言い訳をするってことは……わたしを怒らせたいのかしら」
御鈴波は怒っている。さっきよりも苛烈に、火が出んばかりに怒っている。ゴッ太郎もそんなつもりはなかったのだ、今朝の情景を上手に説明したかったのだ。しかし怒っている御鈴波の前では余計に口下手になってしまうのであった。
「いや、もう怒ってるもん御鈴波ァ……」
困り果てて半ば弱音のように吐いた一言に、御鈴波ははっとしたように口を抑えて、反論した。
「怒ってないわ!」
「怒ってるじゃァ~~~ンそれェ~~~!」
「……そんなことはいいの! 何があったのか、きちんと説明なさい!」
「いや、それが、ですね。今朝、実は命を救われちゃったんですよ……トラックにぶつかられそうになったんですけど……俺とトラックの間に、もうひとりの転校生が割って入ってくれて。それでなんとか一命とりとめって感じでして……」
ゴッ太郎の説明に、御鈴波は眉間を顰めた。
「あなた、それ、本気で言ってるの?」
「本気も本気っていうか、その転校生が、『勘解由小路丁子』なんだよ、御鈴波――」
「……!」
御鈴波の内心に波乱が広がっていることは、ゴッ太郎にもわかった。そして何度かうまく言葉にできない言葉を口の中で噛み潰した彼女は、ゴッ太郎の頬に手のひらをひた、とくっつけてまっすぐと彼を見た。
「あなた、彼女をやれる?」
「精神的にやれるかやれないか、で言えばやれるッスよ。でも、問題はトラックの直撃すら防いじまうような巨大な彼女を俺が物理的にやれるのか――? そこが焦点かな、って」
「そうね――でも、ゴッ太郎。じゃあ、やりなさい。方法はあなたに任せるわ。できるでしょ。わたしの許嫁なら、それくらい」
『許嫁』。その言葉にゴッ太郎はいつも身震いする。いつか、御鈴波が自分のものになる。彼女は綺麗だ。生まれてから色んな人や色んなものを見てきたけれど、その中でも御鈴波が一番キレイだ。いつか自分は御鈴波に所有され、所有する。
御鈴波はゴッ太郎に『自分を所有するだけに足りるほどの強さ』を求めているのだ。そのためには、『強く在ること』を怠ってはいけない。だからこそ、御鈴波は常に自分を試している。そして、ゴッ太郎もまた、御鈴波の要求に応えていた。
「勿論です、御鈴波お嬢様」
「その返事でいいのよ」
ゴッ太郎の頭を引き寄せた御鈴波は、彼の頬に優しく頬ずりした。それが彼女からの強い命令であることも、ゴッ太郎はわかっている。
「じゃあ、ご飯作るね。何が良い?」
「肉じゃがか、春巻きか、麻婆茄子か、唐揚げか、それか――ぜんざい」
指折り数えてメニューを読み上げたゴッ太郎に、御鈴波は怪訝そうな顔をする。
「ぜんざい……まあ、今度作ってあげるわ。今日はその中だと、肉じゃがでいい?」
「うん、嬉しい、いつもありがと!」
「ふん……上海を呼んできて。お手伝いさせるから」
「は~い」
御鈴波の怒りは収まったらしい。ぐずる上海を抱えたゴッ太郎の脳内には、明日へのプランが浮かび始めていた。勘解由小路丁子の放課後は既にブッキングしている。やはり問題は――彼女のブッ飛んだ能力にある。脳裏に過る、崩壊していく大型トラック、そして、無傷で立ち尽くす黒髪の彼女。
……さて、アレをやるには、どうしたものか。
「いただきます!」
「いただきます」
「いただきます」
三人は机に向かい合って、食事を始めた。食べ盛りの上海は必死に背を伸ばして机の上の食物に手を伸ばし、それを御鈴波が注意する。ぷりぷりと怒りながら上海は御鈴波に従い、いっぱいに頬張って食べていく。
「ゴッ太郎、食べないの?」
「あ、いいや。食べるよ」
「いただき! ゴッ太郎が遅いのが悪いもんね」
「おい、上海、俺はいいけど怒るぞ、御鈴波が」
「怒ってないわ!」
「もう怒ってるじゃん!」
「上海、ちゃんと一人分計算して作ってるんだから人のものを取っちゃだめ。あなた、もう路地裏育ちじゃないのよ」
う、と唸った上海は渋々奪ったじゃがいもを皿の上に戻して、バツの悪そうな顔をする。
「だって、前までそうだったんだもん!」
ぴょんと椅子から飛び降りて、上海は部屋に戻ってしまった。
「……ごめん、御鈴波。後で言っとく」
「いいの。あの子だってその内わかってくるでしょう」
「それならいいんだけどなあ」
「さて、わたしもそろそろ帰るわ。ごちそうさま」
「そうか、駅まで送る」
「すぐそこだから気にしないで」
「駄目だ。いくら明るくなったって言っても、神殿町はやっぱり危ない。一緒に行くよ」
「じゃあ、送ってもらおうかしら」
マンションを出て、ほんの二、三分。生温い夜風が耳の下を通り抜けていく。ジリジリと鳴る電灯は何度も瞬いて、二人の陰をストロボのように映し出していた。
「御鈴波、『マータ』ってなにか知ってるか?」
「『マータ』? 知らない言葉ね。それがなにかあった?」
「実はさ、言いそびれてたんだけど――っていうかそこまで脅威じゃなかったから気にしてなかったんだけど、学内で襲われたんだ。俺のことも知ってたみたいでさ。今朝のトラック激突も、なんか仕組まれてたことらしいぜ。そいつ曰く」
御鈴波の顔色が変わる。なぜそれを先に言わなかったの、というような批難を込めた眼差しだ。
「……上海には、あんまり聞かせたくなくてな。アイツ、こういうの聞くと嗅ぎ回っちまう癖があるから」
「『マータ』……なんでしょうね。こっちで情報を探っておくわ。それに学内にゴッ太郎と同じような力を持っている人がいるなんて知らなかった。ゴッ太郎の話を全部信じるなら――都合三人、学内に能力を持っている人間がいることになる。いや、もしかしたら」
「――もっと居るかもな」
「そう考えるのが、自然ね」
眼の前には、既に改札があった。
「じゃあ、おやすみ。ゴッ太郎。気をつけて」
「そっちこそ。なんかあったらすぐ連絡してくれ。いつでも駆けつける」
「うん。信頼してるわ」
二人は改札前で別れた。ゴッ太郎はいつも通りの帰路に着く。その背後の物陰にあった小さな足音には、気が付かなかった。
「その、ですね。遅れそうで、急いでまして……それで走ってたんすよ。そしたら信号無視されて、その挙げ句、目の前で爆発されまして……」
「あなた、そんな下手な言い訳をするってことは……わたしを怒らせたいのかしら」
御鈴波は怒っている。さっきよりも苛烈に、火が出んばかりに怒っている。ゴッ太郎もそんなつもりはなかったのだ、今朝の情景を上手に説明したかったのだ。しかし怒っている御鈴波の前では余計に口下手になってしまうのであった。
「いや、もう怒ってるもん御鈴波ァ……」
困り果てて半ば弱音のように吐いた一言に、御鈴波ははっとしたように口を抑えて、反論した。
「怒ってないわ!」
「怒ってるじゃァ~~~ンそれェ~~~!」
「……そんなことはいいの! 何があったのか、きちんと説明なさい!」
「いや、それが、ですね。今朝、実は命を救われちゃったんですよ……トラックにぶつかられそうになったんですけど……俺とトラックの間に、もうひとりの転校生が割って入ってくれて。それでなんとか一命とりとめって感じでして……」
ゴッ太郎の説明に、御鈴波は眉間を顰めた。
「あなた、それ、本気で言ってるの?」
「本気も本気っていうか、その転校生が、『勘解由小路丁子』なんだよ、御鈴波――」
「……!」
御鈴波の内心に波乱が広がっていることは、ゴッ太郎にもわかった。そして何度かうまく言葉にできない言葉を口の中で噛み潰した彼女は、ゴッ太郎の頬に手のひらをひた、とくっつけてまっすぐと彼を見た。
「あなた、彼女をやれる?」
「精神的にやれるかやれないか、で言えばやれるッスよ。でも、問題はトラックの直撃すら防いじまうような巨大な彼女を俺が物理的にやれるのか――? そこが焦点かな、って」
「そうね――でも、ゴッ太郎。じゃあ、やりなさい。方法はあなたに任せるわ。できるでしょ。わたしの許嫁なら、それくらい」
『許嫁』。その言葉にゴッ太郎はいつも身震いする。いつか、御鈴波が自分のものになる。彼女は綺麗だ。生まれてから色んな人や色んなものを見てきたけれど、その中でも御鈴波が一番キレイだ。いつか自分は御鈴波に所有され、所有する。
御鈴波はゴッ太郎に『自分を所有するだけに足りるほどの強さ』を求めているのだ。そのためには、『強く在ること』を怠ってはいけない。だからこそ、御鈴波は常に自分を試している。そして、ゴッ太郎もまた、御鈴波の要求に応えていた。
「勿論です、御鈴波お嬢様」
「その返事でいいのよ」
ゴッ太郎の頭を引き寄せた御鈴波は、彼の頬に優しく頬ずりした。それが彼女からの強い命令であることも、ゴッ太郎はわかっている。
「じゃあ、ご飯作るね。何が良い?」
「肉じゃがか、春巻きか、麻婆茄子か、唐揚げか、それか――ぜんざい」
指折り数えてメニューを読み上げたゴッ太郎に、御鈴波は怪訝そうな顔をする。
「ぜんざい……まあ、今度作ってあげるわ。今日はその中だと、肉じゃがでいい?」
「うん、嬉しい、いつもありがと!」
「ふん……上海を呼んできて。お手伝いさせるから」
「は~い」
御鈴波の怒りは収まったらしい。ぐずる上海を抱えたゴッ太郎の脳内には、明日へのプランが浮かび始めていた。勘解由小路丁子の放課後は既にブッキングしている。やはり問題は――彼女のブッ飛んだ能力にある。脳裏に過る、崩壊していく大型トラック、そして、無傷で立ち尽くす黒髪の彼女。
……さて、アレをやるには、どうしたものか。
「いただきます!」
「いただきます」
「いただきます」
三人は机に向かい合って、食事を始めた。食べ盛りの上海は必死に背を伸ばして机の上の食物に手を伸ばし、それを御鈴波が注意する。ぷりぷりと怒りながら上海は御鈴波に従い、いっぱいに頬張って食べていく。
「ゴッ太郎、食べないの?」
「あ、いいや。食べるよ」
「いただき! ゴッ太郎が遅いのが悪いもんね」
「おい、上海、俺はいいけど怒るぞ、御鈴波が」
「怒ってないわ!」
「もう怒ってるじゃん!」
「上海、ちゃんと一人分計算して作ってるんだから人のものを取っちゃだめ。あなた、もう路地裏育ちじゃないのよ」
う、と唸った上海は渋々奪ったじゃがいもを皿の上に戻して、バツの悪そうな顔をする。
「だって、前までそうだったんだもん!」
ぴょんと椅子から飛び降りて、上海は部屋に戻ってしまった。
「……ごめん、御鈴波。後で言っとく」
「いいの。あの子だってその内わかってくるでしょう」
「それならいいんだけどなあ」
「さて、わたしもそろそろ帰るわ。ごちそうさま」
「そうか、駅まで送る」
「すぐそこだから気にしないで」
「駄目だ。いくら明るくなったって言っても、神殿町はやっぱり危ない。一緒に行くよ」
「じゃあ、送ってもらおうかしら」
マンションを出て、ほんの二、三分。生温い夜風が耳の下を通り抜けていく。ジリジリと鳴る電灯は何度も瞬いて、二人の陰をストロボのように映し出していた。
「御鈴波、『マータ』ってなにか知ってるか?」
「『マータ』? 知らない言葉ね。それがなにかあった?」
「実はさ、言いそびれてたんだけど――っていうかそこまで脅威じゃなかったから気にしてなかったんだけど、学内で襲われたんだ。俺のことも知ってたみたいでさ。今朝のトラック激突も、なんか仕組まれてたことらしいぜ。そいつ曰く」
御鈴波の顔色が変わる。なぜそれを先に言わなかったの、というような批難を込めた眼差しだ。
「……上海には、あんまり聞かせたくなくてな。アイツ、こういうの聞くと嗅ぎ回っちまう癖があるから」
「『マータ』……なんでしょうね。こっちで情報を探っておくわ。それに学内にゴッ太郎と同じような力を持っている人がいるなんて知らなかった。ゴッ太郎の話を全部信じるなら――都合三人、学内に能力を持っている人間がいることになる。いや、もしかしたら」
「――もっと居るかもな」
「そう考えるのが、自然ね」
眼の前には、既に改札があった。
「じゃあ、おやすみ。ゴッ太郎。気をつけて」
「そっちこそ。なんかあったらすぐ連絡してくれ。いつでも駆けつける」
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