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第67話 入神
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少年は死を覚悟していた。
吹雪の中、最後の食料を少女に食らわせ、眠りについた。
友人達を想いながら、必ず迎えに行くと誓いながら。
待てども、待てども、吹雪は止まなかった。
止むはずも無かった。
硬く握り込んだ意志だけを胸に、時に自らの腕に齧り付いて少年は耐えた。
そうしてどれほどが経っただろう。
少年は晴れ渡った空を見た。積もった雪が太陽を乱反射している。その眩しさに網膜を灼かれながら、酷い倦怠に襲われながらも仰向けに転がった。
そして、自らを覗き込む真っ白い少女の姿を見た。
「覚めた? 覚めた? 覚めた覚めた。覚めたー!!!」
「君、は。話せたのか。夢かと、思った」
呻き、唇から漏れた泡が外気に晒されて凍り付く。
吹雪は止めども冷気は既に少年の肺胞細胞を破壊していた。
切れがちな口の端からは息が漏れて、同時に黒ずんだ肺からの半固形の出血があった。
「起きて、カリナ。外、晴れてる」
「もう、動けないんだ」
「……?」
少女は理解したかしていないのか、カリナの胴部に腕を回してカリナを引き摺ると、煌びやかな宝石を敷き詰めたような雪の斜面を滑り降りて、獣道の雪の下を掘った。
少年はせせらぐ水音を耳朶に聞いた。けれどそれを口に注ぐことは叶わない。身体が身じろぎも動かない。少女は隣に立ち不思議そうに見守ると、少年の胴を突いたり蹴ったり、視線の前に立って首を傾げてみたりしてようやく意図がわかったようにカリナの身体を引き摺ると、せせらぎの水溜まりに少年の頭をそのままたたき込んだ。
「……? 飲め」
少女はそのまま頭を掴み水面に少年の顔を沈めて上下させると満足げな綻んだ表情をし、だらんと垂れ下がった首を見て真っ赤な頬に手を当て驚くような素振りを見せた。そして頭を引き抜くと、平手で少年の頬を打った。
「死んだ……?」
「死んで、ない! なに、すんだごほっ……火、はないか」
「ある!」
戻った洞穴に転がっていたオイルランプの火が幽かに点った。少年は引き摺られながら集めた枝をくべると、小さな火の前に蹲った。涙が出ていた。温かい、そんな感覚を二度と指先が感じ取るとは、決して思っていなかった。
肉体と、世界が繋がる感動。妙な一体感があった。ようやく報われた。これで友人達を迎えに行ける。
「食べる?」
頭の奥がガンガン痛んでいた。肉体が感覚を取り戻しつつあって、その感覚が傷付いた肉体の感触を次々と呼び起こしていたからだった。
少年は少女に視線を向けていた。少女は裸体になっていた。
「食べる?」
少女は足を差し出した。細かったが、肉の十分乗った足だった。自らの棒きれの腕と比較しても丸みがある。きっとみずみずしい血肉が滴って、舌先でとろけるに違いない――そこまで思い至って、少年は悍ましい誘惑に襲われた。
「ぐっ……ううううっ」
けれど脳内にあったのは、村の大人が秘密に話していた子供を食う計画だった。見るだけで口の中からは異常なほどのどこから溢れてきたのかわからない唾液が溢れて止まらなかった。今なら大人達の言っていることがわかってしまう。人は人を食える――。それも大義名分など要らない。とにかく“腹が減った”ということさえ考えられなくなるほどの空腹、それは人間としての意識を奪うに十分だったのだ。
やがて少年は幽霊のように立ち上がると、少女の身体に抱き付いた。人間の匂いがした。舌先で少女の肢体を舐め、歯でその肉の輪郭を辿った。
この肉体をむしゃぶりつくしたい。
空腹は人間性を奪う。子供だって構うもんか――! 牙が少女の柔肌に食い込もうとした時、少女の腕が少年の胴に回って無邪気にも微笑んで頬ずりした。
「人間は、弱い。大丈夫」
「っ――」
見透かしたような瞳に、少年は毒気を抜かれたように牙を収めて少女の身体を抱いた。
村のゲス共と同じ場所まで墜ちるわけにはゆくものか――。本能だけになって消えかかった精神は、水際で生来の気高さを取り戻さねばならない。なぜなら俺は託された想いを受け継いだからだ、。
少年は歯を食いしばり少女の隣に倒れ込んだ。
「食べないと、動けない。いいよ?」
幼い死体を少年の口に近付ける少女に、少年は静かに首を横に振った。
「俺は、人は食わない――決して」
「……!」
少女はぴくりと髪の毛を逆立てて口を丸く開けると、少年に向かってにこにこと満面の笑みを浮かべて洞穴から跳ね回りながらどこかへ出て行った。
白痴なのだろうか、ただ無邪気なのだろうか。この吹雪はどれくらい続いていたのだろう、わからないけれどだとしても彼女の身体はともかく健康そのものに見えた。肉も十分に付き、しなやかで、未だ女性らしさこそはないもののその姿は例えるなら。
「若い野兎か、それとも妖精か……」
少年は側臥に転がったまま、火で指先を炙ってとにかく待った。奇妙な安心感があった。たった何日かを洞窟の中であの少女と過ごしただけなのに、彼女がもう一度ここに戻ってきてくれる確信があった。
きっと、頼んでもいないことをしでかしてくれる……そんな淡い希望は夕方になって実った。隙間風が気になる程体温が上がった頃、彼女は泥と水浸しの身体でにこにこしながらそこに立っていた。
「食え!」
一抱えの荷物には、毛むくじゃらの生き物たちが大勢いた。けれどそれらはみな、暖かかく柔らかな毛を逆立たせて目を瞑っていた。
小さな生き物達。小鳥に、栗鼠、鼠に山猫の子供、胴の長い犬の顔をした雑種――それらは例外なく氷柱を鼻面に立たせて死んでいた。凍死だった。
数ヶ月に渡る吹雪と、水銀温度計が破裂するほどの異常な氷点下。エスキモー犬は零下二十度でも雪に埋もれて眠るというが、それは餌が食い繋いでいけるだけある場合の話だ。特に眠って過ごすしかないような小動物たちは、体温すら維持できずに目覚めない眠りに落ちていくよりほかなかったのだろう。
少女は笑顔だったが、その表情は悲しげにも見えた。隠れているはずの小動物の寝床を知っていたのだ、きっと生き物たちが暮らしていた森を誰よりも知っていたのだろう。
「ありがとう」
「ん……」
少年は血肉を食らった。肉を食らう度に丹田に見えざる力の渦が沸いてくるのが感ぜられた。そしてそれこそが人間の活力であった。誰かを殺して、或いはその遺骸を食らって生きながらえる、それが生き物であるのだ。
あったのは、神でも人でもなく、食われていく動物たちへの感謝であった。生命との一体化をこれほど感じたことはなかった。栄養失調で出血だらけの口内で、生き物の肉が血が、骨髄が歯に巻き込まれて軋み上げ壊れて咀嚼される。眼球も頭蓋も、その一片でさえ残らない。胃に骨が、肉が、血液が押し込まれて、身体が最後のエネルギーを振り絞ってそれを己の血肉へと還元する。至福の瞬間だ、生命にとっての最大の幸福だ。それだけさえあれば、生命は存続できる。殺害と摂取、それが少年に刻まれた生命の本質であった。
指先の震えが止まりようやく立ち上がれるようになった時、少年は洞穴の開け放たれた口から雪の森を見下ろして叫んだ。勝ち鬨を上げるように、遠吠えを響かせるように。少女はその背中を見上げて何を思っただろう。ただ口の端に、密やかな笑みがあったのは何に向けてだったのか――。
「カリナ!」
「ああ、君か」
少し経って、少年は村へ降りて友人達を救う為にその装備を整えようと小さな掘っ立て小屋を作って、自ら狩りと釣りを行って食い繋いでいた。少なくとも、夜に侵入するとしたって丸腰では侵入できない。そして友人達を救い出してどうする? 村に居られないが、今のままでは全員は養えない。餓死するだけだ。人間がこんな深い未開の森で生きるには蓄えが必要だ。それも子供ばかり。だから悠長ではない。必要な行動なのだ……。
そう言い聞かせて、けれど一抹の不安は残り続けていた。吹雪で倒れている間――村人がもう既に友人達に手を付けてしまっていたのなら……? 恐ろしい想像だった。けれど決して夢物語の話ではない。現実の話として十分にあり得る。例えばその光景を見たとして、空っぽの屋敷を見て、灯の点らない子供部屋を見て……自らを律することができるだろうか。己は怒りの炎で全てを灼き尽くす災禍とは成り得ないだろうか。少年は自らを知っていた。不可能だろう、きっと殺すには飽き足らない。その尊厳を遡ってまで貶めて、過去の勲章でさえも何度も何度も唾棄するものと烙印を押し付ける、そうでなければ己は収まるまい。
だからこそ、自らに枷を掛けた。友人達を迎え入れる為の小屋を作れるまでは、決して山を下りないようにしようと。吹雪はあれから収まり、十分に人間が活動できるまでに暖まっていた。急を要して村に降りる必要が無いのも事実だった。
「今日は、なんび?」
「違うよ、何曜日、だ。でも少しずつ言葉を覚えてきたね。今日は土曜日」
「どおうび! にとうび! げとうび、かおうび!」
「ふふっ……」
あの夜以来、少女と少年はお互いに奔放に動き回りながらも必ず顔を合わせて話していた。少年にとっては命の恩人で、少女にとっては面白い話し相手でもあったのだ。少年は少女に言葉を教え、少女は森の実りある場所を少年に伝えた。少年は森を荒らさないように細心を心掛けていた。彼女が見せた不安や悲歎の表情を忘れたことはなかったからだった。
やがて月日は経って、少年は小さな木造の家を建て少女を家に招き入れて暮らし始めた。少女は言葉を覚え、少年は逞しい青年になっていた。冬を越える蓄えを得るために森に小さな畑を作り、人懐っこい水鳥を囲って餌をやり、その卵を貰って寝床の藁をくれてやった。ある秋の実りの日、青年と少女は大きなベッドを共に作った。分厚い毛皮を敷いて、どのような吹雪にも耐えるように厳重な防寒を施した。金色の月が大きく光る中、二人の巣が完成した。その頃には青年の心に穏やかな時間が満ちて溢れ、村のことは過去のこととなっていた。時間は経ちすぎていた。
もう村に降りる必要は無い――青年は半ばそう感じていた。彼らにとっても、自分が今降りていき、村から引き剥がすことは幸せではないはずだ。彼らには彼らの生活があるに違いない。そう結論付けた時、青年は気が付いた。
違う、自分は隣に居る少女と離れたくないのだ。
無邪気に月に映る魔女を指差して笑う真っ白に無垢なその恩人。
紅い瞳の彼女こそが自分にとっての命そのものだ。
彼女がいない時間を考えることは出来ない。
「結ばれないか。リア」
「うん! カリナとならいいよ」
「俺が先に死んでしまうけれど、いいのかい」
「ううん。その時は一緒に死のうよ」
「……それがいい」
ある金色の秋の日、照らされた美しい湖の畔で二人は結ばれた。
そして二人は美しい棺を作り、石造りの地下室の底に埋めた。
いつかは、ここに戻ってくるように、と。
「……レイカ。君になにがあったかを教える前に、必要なことを伝えておく」
カリナは目線を合わせるために膝を着くと、腕を少女の肩に添えてその瞳を見た。レイカもそれに応えるように頷いた。
「まず初めに、君が愛されて、望まれて生まれたこと。俺と彼女は愛し合って、その上で君を望んだ。決して君が望まれなかったから一人ぼっちにさせたわけじゃない。もし叶うなら、いつでも君に会いたかった。レイカ、君のことを愛している。こんなに一人にしておいて信じられないかもしれないが、本当だ」
「……うん。お父さん、愛してる。知ってるよ、お父さんが私のことを大事にしてくれてたことも。疑ってないよ」
疑っていない、その言葉にカリナの脳は黄金の草原に立つ少女の声を脳裏に浮かべ、その少女の最期を想った。最期まで人が好きだった、最後まで未来を案じていたあの少女は……自らが滅ぼされる段にあってもその力を行使しなかった。それか、そんなこと昔に忘れてしまったのか。
レイカと彼女の姿が被って見える。そう、君なら願ってしまうだろう。目の前に誰かを救える選択肢があると知ったなら――
「レイカ、君の母は妖精だった。正しくは違うが、ここではそう呼ぶ。彼女は存在するだけで全ての生き物に祝福を与え、そして呪いを絶つ力、俺に教えてくれた時間や空間を操る秘術を持っていた。産まれた時から人でなかったようだった。彼女が人の姿を取り始めたのは、村人の少女が森に迷い込んだ時だったらしいから、それ以前は恐らく人の姿もしていなかったのだろう」
俄には信じがたい先蹤のない言葉でも、レイカはすんなりと飲み込めていた。存外しづるにとってもそれは受け容れやすく、肉体の大きな傷に刻まれ残留した痛覚がその言葉を受け容れさせていた。そして湖で起こされた奇跡めいたあの事件は、レイカが人外との接触があるからだ、そう考える方が自然であることは自明であった。
「彼女は時折俺の前でも人である姿を解くことがあった。湖には霊が出ると村に居た頃聞いたことがあったが、それは恐らく妻だと確信していた。だが彼女はある時を境に、霊としての姿を失うことになった。
それが……君を身籠もる時だった。人という物質の世界に生きる俺と、現象という世界に生きる彼女が子を為すには、彼女がこちらの世界の法則に降りてくる必要があった。こちら側の制約を受けて肉体を得ることが必要だった」
「それで肉体を得てしまったからおかあさんは……」
カリナは静かに頭を振るう。
染み付いた炎と灰、そして滂沱する塵芥の影だ。死を追想していた。あの男、イチキと言ったか。その前に立ちはだかった女、あれに手間取りさえしなければ彼女は……。
詮無き記憶がただ擡げる為だけに視界を塞ぐ。
頭痛を伴って現れる記憶が、大きなうねりになって脳を圧迫する。
「……ッ」
「お父さん! あ……」
『カリナ、赤ん坊というのは小さいのね』
『ああ、でもすぐに大きくな――』
『カリナ! 羽根の青い鳥が足を怪我してそこに落ちてたの。寝床を作ってあげないと。それにどこかに子供を置いてきちゃったらしくて』
『わかった■作って――から君は手当をしてやってくれ、■れから子供を探しに■こ――』
『ええ。でもそれだとレイカが寂しいから一緒に連れてってあげないと!』
『――?■■■■■■』
目を見開いてこめかみを殴打したカリナは、無理に口の端を歪めて見せた。
「大丈夫だ、レイカ。聞いてくれ」
「で、でも――」
泣きそうになりながら、レイカは父の表情から目を離すことが出来なかった。目を離せば壊れてしまいそうだった。祈ることしかできなかった。
「違う。それは違う。けれど、彼女はほぼ完全な不死から死の可能性を含むようになった、その代償として俺は幾つかの契約をしなければならなかった。彼女が失った力を補填する必要があったからだ。人間である俺が彼女の力に目がくらんだ時、それを抑える為のもので、直接的に俺を支配する契約だった」
「……おかあさんの持っていた力――その、祝福を与えて呪いを絶つ力、ですか?」
「あ、あああ。っ――大層な表現をしているが、これは見えない力の循環を司っている、という言い換え方をすれば難しくない。ああ、そうだ。そうだろう。彼女は植物が二酸化炭素を光合成で酸素に変換するように、溜まった不運や穢れ、歪みと形容されるような見えないが作用している力を取り込んで、徐々に正常に変換することができた。逆に言えば、彼女がいなければ徐々に歪みは溜まっていく。そしてそれは肥大して現実に作用し始める――」
しづるには、その言葉に呼び起こされたように帝都へ向かった車窓の情景が目に浮かんだ。誰もが目の前にある障害物を認識することなく進み続ける……そして自らの身体がバラバラになっていることにさえ気が付かず、同じ行動を取り続ける――。爆炎が上がり、鼓膜が破れようとも、変わらない。無条件反応が存在していない。デセンシタイズされていくようにあったはずの異物感が弱まっていき、最後は異物に対して反応が出来なくなる――。近い、しづるが抱いたのはそのような印象であった。
「それを防ぐ為に、俺は三つの条件で契約を結んだ。そしてそれは俺と彼女にとっては安全装置でもあった」
苦しそうな眉間に皺が寄っていた。言い倦ねていた。それは父としての葛藤だった。
レイカに告げるべきではない――。
もし聞いてしまえば、彼女は喜んでその身を差し出すのかも知れない。だが、そうさせない為に俺はここまで――。
だが、だが……。
「レイカ、目を瞑ってくれ」
「お父さん……なにを」
「いいから、目を瞑っていてくれ」
カリナはレイカの瞼をそっと下ろすと、骨が軋むような音を立てる程自らの頭蓋を握りしめた。
「う……」
しづるはその様を見ていたが、瞳から溢れ出した鬼気にあてられて動くこともできず、ただその貌を歪ませて何かに耐えている黒い男の影を怯えたように眺めることしかできなかった。
やがてその音を掻き消すように、濁った言葉が呪詛のように滲み出した。
「その条件は――。
1.必ず一人以上子を為すこと。
2.もし妖精が役割を全うできなくなってしまった場合、子供を妖精の代理として役割を負わせること。
3.それが全て叶わなかった場合、降りかかった災厄を契約者が請け負うこと。
この三つだ。それが条件。俺は生前の彼女から何が起こるかを聞かされていた。だから予測して情報を集めることが出来たし何が起こってるかを早めに察知できた。だが、彼女も君も居なくなった今、例え一人でも災厄を止める必要があった。それがレイカ、君の母の望みでもあった。決して君を傷付けさせない。だから、俺一人でも――」
「……!」
レイカは瞼を開けると、怯えるように父の腕を撫でた。きっと奥底に染み付いた痛みは消えないのだろう。蕾を失ったあの日のように。けれど、見ていられなかった。悲しい、痛い、そんな言葉は言葉でしかない。
「やめて、お父さん。痛いよ。見てるだけでも痛いよ」
「……ッ」
カリナの腕の力が緩まり、その腕がレイカに収められた。
「待って、待ってくれカリナさん!」
今と言わんばかりに割り込んだのはしづるだった。
「2の条件、それ、レイカがここにいる今なら、できるんじゃないか……? あなたの苦しみも救える、そうなんじゃないか?」
「……もしそうなれば。もし、そうなれば。救えるだろうさ。ああ――手を尽くして時間を稼ぎ、そして徐々にレイカの力が効き始めれば救えるさ。だがね、その時レイカはもう、ただ浄化装置として生きるだけの装置になってしまう。どこまで行ってもレイカは俺の子だ、人間の子だ。だから彼女の代わりになっても今このままのレイカでは居られない。肉体は死んで、意識も記憶もなくなるだろう。ひょっとしたら、悪い夢を見続けるかも知れない。だから、だから俺はそんなこと、決して、決して選ぶことはできない。父として! 妻に君を護ると誓った――今度こそ守る。だからレイカ、お願いだ、身代わりになるなんていわないでくれ。俺は耐えられる。俺は父親だ……! 君の父なんだ」
「……」
レイカは目を見開いたまま、思案に余ってどうすれば良いかわからなくなっていた。
救いたい――その気持ちがあった。例え闇黒の中に堕ちたとしても、お返しがしたい。それがレイカの望みとしてあった。お父さん、しづる、悠里、そして蕾に一木……全員が自分の為に必死になって助けてくれた。もし、できることがあるとするならば――それはこの身体を捧げてでも災厄を終わらせること。それしかできない。
でもそれで父は満足できないだろう。こんなに憔悴して狼狽して、折角再会できた娘との別れが続くなら――? 自分の力でなんとか出来る可能性があるのに、それを置いて娘が身を捧げると宣ったなら――? きっと父は耐えられない。たった一人でもやり直そうとするだろう。きっと途方もない努力を続けてしまうだろう。
レイカの視線がしづるに向かった。
儚く目を細める礼香を見て、しづるはその先の言葉を予測した。
「……礼香。待ってくれ。まだ何か策はあるかもしれない」
「しづるさん。もう時間も、そして手段もないです。お父さんの話を聞いてわかりました。ここまで私たちが来た意味が」
「違う、礼香! 待ってくれ」
口を突いて否定が出る。しかしそれはしづる自身が一番理由を知っていた。認めたくない、それが心を押し出しているのだ。
世界を救う為に、過去までやってきた。方法があると信じていた。カリナを止めれば達成できると思っていた。しかし俺達の的はカリナを止めることではなかった。雪星そのものだった。今、それを止める手段がある。目の前に願いを叶える引き金がある。
まるで吸い寄せられるようだ――。滝のように汗が流れ落ちる。言葉が湧き出してこない。見えたと思った可能性は、今潰れて消えてしまった。礼香を失って世界を救うのか、それとも諦めて十年後に戻りカリナの助けを待つのか――。
極限の二択だった。カリナの言葉を反芻すると、災厄はこれからも続くのだろう。例え一つの災厄を取り除いたところで、その先にも根本の解決が望めない限り災厄は止まない。だが、もし礼香が妖精となって問題を解決してくれたとして、それからカリナはどうなる? それこそ、おじさんが考えていたように破壊の限りを尽くすのではないか? 妻と娘を奪った世界を壊すために。こんな……こんなくそったれな選択肢しか用意しなかった世界に……。
握り込んだ拳が震える。許せない。許せなかった。しづるの胸の奥からは怒りがふつふつと沸いてそれが涙になって流れていた。
しづるを眺める礼香の瞳が綻んで無理な笑顔を作った。
「ありがとう、しづるさん。私、嬉しい。怒ってくれてありがとう、でも、もう時間、きっとないから。それに、多分悪い夢なんて見ないと思います。きっとみんな笑顔になれる、幸せな夢を見られると思う」
「ぐっ……ううっ」
――誰も、誰も悪くない。なのに、どうしてこうなった。誰もが幸せになろうとしただけなのに。
問うても帰ってこない問いだ。わかっていた。それでも、わかりたくなかった。
「……しーちゃん。ダメだよ。怒っちゃダメ」
胸の中の悠里が呟いた。
「まだ可能性はある、そう信じないと。私は信じてる。きっと私たちがここまでやってきたのはただ絶望するためじゃない。希望を握って、愚かでもいい。前のめりに進むために来た。最初はカリナさんを倒すために、次はあの星を倒すために。時間もない、手段も限られてる。そんな時に私たちみたいなイレギュラーが出来ることは何?」
「イレギュラーが出来る……こと?」
確信めいて、悠里の言葉が胸に響く。
「私たちは当事者だけど、この問題については当事者じゃない。だって今起こってる問題はカリナさんと礼香ちゃんの問題だもの。じゃあ、私たちにできることは?」
「解決、してやること……」
「半分かな」
ふふん、悠里の得意げな鼻息が胸にこそばゆい。
「なんだよ……」
「仕方ないなあ。ちゃんと帰ったら奢ってね」
「――帰れたらなんでも言うこと聞いてやるよ」
「おっ、言ったなぁ?」
「ああ」
「じゃあ教えてあげる。全く違う切り口で第三の選択肢を出してやること」
しづるは頭をかきむしった。ぜんっぜんわかってないじゃないかコイツは……!
「んなことわかってる――! できないから……」
「できるよ。だって私たちはカリナさんも、礼香ちゃんも知らない話をおじさんからいっぱい聞いたはずなんだもん。どこかにヒントがあるはず。それが見つかってないのであれば、探し切れてないだけ」
「……なんでそう思うんだ」
「そう思う方が絶望して思考が止まるよりかずっとずっと有益だから。しーちゃん。できることがある。私たちにはやらなきゃいけないことがある。だって、おじさんと約束したでしょう? 明日を迎えるって。だから、明日を迎えなきゃならない。ここで絶望なんかに飲み込まれちゃ行けない。最後の一秒まで考え抜いてそれでダメだったら、それはおじさんに顔向けできるけど今、ただ条件として無理だって現実を叩きつけられて折れてしまったら、それは玉ナシ骨なしボコボコのチキン野郎ってこと」
「問題をすり替えてるだけじゃないか……?」
「バカね、しーちゃん。勝ってる時は問題をすり替えられたら鬱陶しくて嫌だけど負けてる時に問題をすり替えるのは益でしかないわ」
「たし……かに。そうかもな。少なくとも今は」
「足りてねえんだよガッツがぁ。しっかりせんかい! このロリコン野郎」
「……んだよ」
震えが止まった。空を見上げる。
やろう。怖くない。しづるは悠里をしっかりと抱きしめた。
悠里の顔が上がった。泣き腫らした瞳に、まだ少し青い唇。
へへっ、強気な言葉が信じられないくらいに儚く悠里は笑った。
しづるは微笑みかけた。そう望まれている気がした。
「ありがと。悠里。そうだな。もう一度、俺達に出来ることを」
「うん。しーちゃん。私たちにできることを。私たちにしかしてやれないことを」
「そして、俺達のおじさんの為に」
「うん。おじさんの作ってくれた明日のために」
「第三の選択肢――。可能性の為に」
丸い月と、悍ましく剥がれる叢雲が空を覆い始めていた。
白銀を照り返して少女が美しく映える。
「お父さん。私、お母さんの代わりになります」
「レイ……カ」
「お父さん、ごめんなさい。きっと辛かったと思います。私を失ってからずっとずっと、一人ぼっちで戦ってきたんですもん」
娘は父の頭を、子供を抱くように胸に寄せた。
「けど、お父さんはこれ以上耐えきれません。もうこんなにぼろぼろなのに」
「そんなことは、」
「ある。でしょう。だから、お父さんを救わせてください。私、幸せでしたから。お父さんとお母さんのこと、思い出せました。色んな楽しい思い出がありました。きっと、お父さんは私を自分と同じ寂しい思いをさせないように必死になってくれてたんですね」
「――」
「お父さんの知らないところでも、私幸せでした。色んな人に想われて、色んな人が私のことを大切にしようとしてくれたんです。だから、お願いします。お父さんの力を、自分の幸せを大きくすることに使ってください。人が嫌いなら人のコトなんてほっぽちゃって、いいですから」
「い、嫌だ――嫌だ」
カリナの手がレイカの肩を突き放した。体が宙に投げ出されて倒れこむ。
あ――漏れた言葉が空に浮かんで染みのように消える。
背後に月光を跳ね返す不浄が舞い始めた。
「間に合わなくなっちゃいます、お父さん……!」
「――あの、男か――! あの、女が――! ふざけるなァアーーーッ!!!」
黒い咆哮が天を衝いた。
こうもり傘のような影がしづると悠里に向いた。
「お前達の、せいで、お前達のせいで――!!! お前達も俺から奪うのか、愚かな人間め。ただ自らが生き残りたいというそれだけの思いで! それだけの思いで俺から娘を奪いに来たのか、一度与えてまで!!! 殺してやる、人間共は――」
吹雪の中、最後の食料を少女に食らわせ、眠りについた。
友人達を想いながら、必ず迎えに行くと誓いながら。
待てども、待てども、吹雪は止まなかった。
止むはずも無かった。
硬く握り込んだ意志だけを胸に、時に自らの腕に齧り付いて少年は耐えた。
そうしてどれほどが経っただろう。
少年は晴れ渡った空を見た。積もった雪が太陽を乱反射している。その眩しさに網膜を灼かれながら、酷い倦怠に襲われながらも仰向けに転がった。
そして、自らを覗き込む真っ白い少女の姿を見た。
「覚めた? 覚めた? 覚めた覚めた。覚めたー!!!」
「君、は。話せたのか。夢かと、思った」
呻き、唇から漏れた泡が外気に晒されて凍り付く。
吹雪は止めども冷気は既に少年の肺胞細胞を破壊していた。
切れがちな口の端からは息が漏れて、同時に黒ずんだ肺からの半固形の出血があった。
「起きて、カリナ。外、晴れてる」
「もう、動けないんだ」
「……?」
少女は理解したかしていないのか、カリナの胴部に腕を回してカリナを引き摺ると、煌びやかな宝石を敷き詰めたような雪の斜面を滑り降りて、獣道の雪の下を掘った。
少年はせせらぐ水音を耳朶に聞いた。けれどそれを口に注ぐことは叶わない。身体が身じろぎも動かない。少女は隣に立ち不思議そうに見守ると、少年の胴を突いたり蹴ったり、視線の前に立って首を傾げてみたりしてようやく意図がわかったようにカリナの身体を引き摺ると、せせらぎの水溜まりに少年の頭をそのままたたき込んだ。
「……? 飲め」
少女はそのまま頭を掴み水面に少年の顔を沈めて上下させると満足げな綻んだ表情をし、だらんと垂れ下がった首を見て真っ赤な頬に手を当て驚くような素振りを見せた。そして頭を引き抜くと、平手で少年の頬を打った。
「死んだ……?」
「死んで、ない! なに、すんだごほっ……火、はないか」
「ある!」
戻った洞穴に転がっていたオイルランプの火が幽かに点った。少年は引き摺られながら集めた枝をくべると、小さな火の前に蹲った。涙が出ていた。温かい、そんな感覚を二度と指先が感じ取るとは、決して思っていなかった。
肉体と、世界が繋がる感動。妙な一体感があった。ようやく報われた。これで友人達を迎えに行ける。
「食べる?」
頭の奥がガンガン痛んでいた。肉体が感覚を取り戻しつつあって、その感覚が傷付いた肉体の感触を次々と呼び起こしていたからだった。
少年は少女に視線を向けていた。少女は裸体になっていた。
「食べる?」
少女は足を差し出した。細かったが、肉の十分乗った足だった。自らの棒きれの腕と比較しても丸みがある。きっとみずみずしい血肉が滴って、舌先でとろけるに違いない――そこまで思い至って、少年は悍ましい誘惑に襲われた。
「ぐっ……ううううっ」
けれど脳内にあったのは、村の大人が秘密に話していた子供を食う計画だった。見るだけで口の中からは異常なほどのどこから溢れてきたのかわからない唾液が溢れて止まらなかった。今なら大人達の言っていることがわかってしまう。人は人を食える――。それも大義名分など要らない。とにかく“腹が減った”ということさえ考えられなくなるほどの空腹、それは人間としての意識を奪うに十分だったのだ。
やがて少年は幽霊のように立ち上がると、少女の身体に抱き付いた。人間の匂いがした。舌先で少女の肢体を舐め、歯でその肉の輪郭を辿った。
この肉体をむしゃぶりつくしたい。
空腹は人間性を奪う。子供だって構うもんか――! 牙が少女の柔肌に食い込もうとした時、少女の腕が少年の胴に回って無邪気にも微笑んで頬ずりした。
「人間は、弱い。大丈夫」
「っ――」
見透かしたような瞳に、少年は毒気を抜かれたように牙を収めて少女の身体を抱いた。
村のゲス共と同じ場所まで墜ちるわけにはゆくものか――。本能だけになって消えかかった精神は、水際で生来の気高さを取り戻さねばならない。なぜなら俺は託された想いを受け継いだからだ、。
少年は歯を食いしばり少女の隣に倒れ込んだ。
「食べないと、動けない。いいよ?」
幼い死体を少年の口に近付ける少女に、少年は静かに首を横に振った。
「俺は、人は食わない――決して」
「……!」
少女はぴくりと髪の毛を逆立てて口を丸く開けると、少年に向かってにこにこと満面の笑みを浮かべて洞穴から跳ね回りながらどこかへ出て行った。
白痴なのだろうか、ただ無邪気なのだろうか。この吹雪はどれくらい続いていたのだろう、わからないけれどだとしても彼女の身体はともかく健康そのものに見えた。肉も十分に付き、しなやかで、未だ女性らしさこそはないもののその姿は例えるなら。
「若い野兎か、それとも妖精か……」
少年は側臥に転がったまま、火で指先を炙ってとにかく待った。奇妙な安心感があった。たった何日かを洞窟の中であの少女と過ごしただけなのに、彼女がもう一度ここに戻ってきてくれる確信があった。
きっと、頼んでもいないことをしでかしてくれる……そんな淡い希望は夕方になって実った。隙間風が気になる程体温が上がった頃、彼女は泥と水浸しの身体でにこにこしながらそこに立っていた。
「食え!」
一抱えの荷物には、毛むくじゃらの生き物たちが大勢いた。けれどそれらはみな、暖かかく柔らかな毛を逆立たせて目を瞑っていた。
小さな生き物達。小鳥に、栗鼠、鼠に山猫の子供、胴の長い犬の顔をした雑種――それらは例外なく氷柱を鼻面に立たせて死んでいた。凍死だった。
数ヶ月に渡る吹雪と、水銀温度計が破裂するほどの異常な氷点下。エスキモー犬は零下二十度でも雪に埋もれて眠るというが、それは餌が食い繋いでいけるだけある場合の話だ。特に眠って過ごすしかないような小動物たちは、体温すら維持できずに目覚めない眠りに落ちていくよりほかなかったのだろう。
少女は笑顔だったが、その表情は悲しげにも見えた。隠れているはずの小動物の寝床を知っていたのだ、きっと生き物たちが暮らしていた森を誰よりも知っていたのだろう。
「ありがとう」
「ん……」
少年は血肉を食らった。肉を食らう度に丹田に見えざる力の渦が沸いてくるのが感ぜられた。そしてそれこそが人間の活力であった。誰かを殺して、或いはその遺骸を食らって生きながらえる、それが生き物であるのだ。
あったのは、神でも人でもなく、食われていく動物たちへの感謝であった。生命との一体化をこれほど感じたことはなかった。栄養失調で出血だらけの口内で、生き物の肉が血が、骨髄が歯に巻き込まれて軋み上げ壊れて咀嚼される。眼球も頭蓋も、その一片でさえ残らない。胃に骨が、肉が、血液が押し込まれて、身体が最後のエネルギーを振り絞ってそれを己の血肉へと還元する。至福の瞬間だ、生命にとっての最大の幸福だ。それだけさえあれば、生命は存続できる。殺害と摂取、それが少年に刻まれた生命の本質であった。
指先の震えが止まりようやく立ち上がれるようになった時、少年は洞穴の開け放たれた口から雪の森を見下ろして叫んだ。勝ち鬨を上げるように、遠吠えを響かせるように。少女はその背中を見上げて何を思っただろう。ただ口の端に、密やかな笑みがあったのは何に向けてだったのか――。
「カリナ!」
「ああ、君か」
少し経って、少年は村へ降りて友人達を救う為にその装備を整えようと小さな掘っ立て小屋を作って、自ら狩りと釣りを行って食い繋いでいた。少なくとも、夜に侵入するとしたって丸腰では侵入できない。そして友人達を救い出してどうする? 村に居られないが、今のままでは全員は養えない。餓死するだけだ。人間がこんな深い未開の森で生きるには蓄えが必要だ。それも子供ばかり。だから悠長ではない。必要な行動なのだ……。
そう言い聞かせて、けれど一抹の不安は残り続けていた。吹雪で倒れている間――村人がもう既に友人達に手を付けてしまっていたのなら……? 恐ろしい想像だった。けれど決して夢物語の話ではない。現実の話として十分にあり得る。例えばその光景を見たとして、空っぽの屋敷を見て、灯の点らない子供部屋を見て……自らを律することができるだろうか。己は怒りの炎で全てを灼き尽くす災禍とは成り得ないだろうか。少年は自らを知っていた。不可能だろう、きっと殺すには飽き足らない。その尊厳を遡ってまで貶めて、過去の勲章でさえも何度も何度も唾棄するものと烙印を押し付ける、そうでなければ己は収まるまい。
だからこそ、自らに枷を掛けた。友人達を迎え入れる為の小屋を作れるまでは、決して山を下りないようにしようと。吹雪はあれから収まり、十分に人間が活動できるまでに暖まっていた。急を要して村に降りる必要が無いのも事実だった。
「今日は、なんび?」
「違うよ、何曜日、だ。でも少しずつ言葉を覚えてきたね。今日は土曜日」
「どおうび! にとうび! げとうび、かおうび!」
「ふふっ……」
あの夜以来、少女と少年はお互いに奔放に動き回りながらも必ず顔を合わせて話していた。少年にとっては命の恩人で、少女にとっては面白い話し相手でもあったのだ。少年は少女に言葉を教え、少女は森の実りある場所を少年に伝えた。少年は森を荒らさないように細心を心掛けていた。彼女が見せた不安や悲歎の表情を忘れたことはなかったからだった。
やがて月日は経って、少年は小さな木造の家を建て少女を家に招き入れて暮らし始めた。少女は言葉を覚え、少年は逞しい青年になっていた。冬を越える蓄えを得るために森に小さな畑を作り、人懐っこい水鳥を囲って餌をやり、その卵を貰って寝床の藁をくれてやった。ある秋の実りの日、青年と少女は大きなベッドを共に作った。分厚い毛皮を敷いて、どのような吹雪にも耐えるように厳重な防寒を施した。金色の月が大きく光る中、二人の巣が完成した。その頃には青年の心に穏やかな時間が満ちて溢れ、村のことは過去のこととなっていた。時間は経ちすぎていた。
もう村に降りる必要は無い――青年は半ばそう感じていた。彼らにとっても、自分が今降りていき、村から引き剥がすことは幸せではないはずだ。彼らには彼らの生活があるに違いない。そう結論付けた時、青年は気が付いた。
違う、自分は隣に居る少女と離れたくないのだ。
無邪気に月に映る魔女を指差して笑う真っ白に無垢なその恩人。
紅い瞳の彼女こそが自分にとっての命そのものだ。
彼女がいない時間を考えることは出来ない。
「結ばれないか。リア」
「うん! カリナとならいいよ」
「俺が先に死んでしまうけれど、いいのかい」
「ううん。その時は一緒に死のうよ」
「……それがいい」
ある金色の秋の日、照らされた美しい湖の畔で二人は結ばれた。
そして二人は美しい棺を作り、石造りの地下室の底に埋めた。
いつかは、ここに戻ってくるように、と。
「……レイカ。君になにがあったかを教える前に、必要なことを伝えておく」
カリナは目線を合わせるために膝を着くと、腕を少女の肩に添えてその瞳を見た。レイカもそれに応えるように頷いた。
「まず初めに、君が愛されて、望まれて生まれたこと。俺と彼女は愛し合って、その上で君を望んだ。決して君が望まれなかったから一人ぼっちにさせたわけじゃない。もし叶うなら、いつでも君に会いたかった。レイカ、君のことを愛している。こんなに一人にしておいて信じられないかもしれないが、本当だ」
「……うん。お父さん、愛してる。知ってるよ、お父さんが私のことを大事にしてくれてたことも。疑ってないよ」
疑っていない、その言葉にカリナの脳は黄金の草原に立つ少女の声を脳裏に浮かべ、その少女の最期を想った。最期まで人が好きだった、最後まで未来を案じていたあの少女は……自らが滅ぼされる段にあってもその力を行使しなかった。それか、そんなこと昔に忘れてしまったのか。
レイカと彼女の姿が被って見える。そう、君なら願ってしまうだろう。目の前に誰かを救える選択肢があると知ったなら――
「レイカ、君の母は妖精だった。正しくは違うが、ここではそう呼ぶ。彼女は存在するだけで全ての生き物に祝福を与え、そして呪いを絶つ力、俺に教えてくれた時間や空間を操る秘術を持っていた。産まれた時から人でなかったようだった。彼女が人の姿を取り始めたのは、村人の少女が森に迷い込んだ時だったらしいから、それ以前は恐らく人の姿もしていなかったのだろう」
俄には信じがたい先蹤のない言葉でも、レイカはすんなりと飲み込めていた。存外しづるにとってもそれは受け容れやすく、肉体の大きな傷に刻まれ残留した痛覚がその言葉を受け容れさせていた。そして湖で起こされた奇跡めいたあの事件は、レイカが人外との接触があるからだ、そう考える方が自然であることは自明であった。
「彼女は時折俺の前でも人である姿を解くことがあった。湖には霊が出ると村に居た頃聞いたことがあったが、それは恐らく妻だと確信していた。だが彼女はある時を境に、霊としての姿を失うことになった。
それが……君を身籠もる時だった。人という物質の世界に生きる俺と、現象という世界に生きる彼女が子を為すには、彼女がこちらの世界の法則に降りてくる必要があった。こちら側の制約を受けて肉体を得ることが必要だった」
「それで肉体を得てしまったからおかあさんは……」
カリナは静かに頭を振るう。
染み付いた炎と灰、そして滂沱する塵芥の影だ。死を追想していた。あの男、イチキと言ったか。その前に立ちはだかった女、あれに手間取りさえしなければ彼女は……。
詮無き記憶がただ擡げる為だけに視界を塞ぐ。
頭痛を伴って現れる記憶が、大きなうねりになって脳を圧迫する。
「……ッ」
「お父さん! あ……」
『カリナ、赤ん坊というのは小さいのね』
『ああ、でもすぐに大きくな――』
『カリナ! 羽根の青い鳥が足を怪我してそこに落ちてたの。寝床を作ってあげないと。それにどこかに子供を置いてきちゃったらしくて』
『わかった■作って――から君は手当をしてやってくれ、■れから子供を探しに■こ――』
『ええ。でもそれだとレイカが寂しいから一緒に連れてってあげないと!』
『――?■■■■■■』
目を見開いてこめかみを殴打したカリナは、無理に口の端を歪めて見せた。
「大丈夫だ、レイカ。聞いてくれ」
「で、でも――」
泣きそうになりながら、レイカは父の表情から目を離すことが出来なかった。目を離せば壊れてしまいそうだった。祈ることしかできなかった。
「違う。それは違う。けれど、彼女はほぼ完全な不死から死の可能性を含むようになった、その代償として俺は幾つかの契約をしなければならなかった。彼女が失った力を補填する必要があったからだ。人間である俺が彼女の力に目がくらんだ時、それを抑える為のもので、直接的に俺を支配する契約だった」
「……おかあさんの持っていた力――その、祝福を与えて呪いを絶つ力、ですか?」
「あ、あああ。っ――大層な表現をしているが、これは見えない力の循環を司っている、という言い換え方をすれば難しくない。ああ、そうだ。そうだろう。彼女は植物が二酸化炭素を光合成で酸素に変換するように、溜まった不運や穢れ、歪みと形容されるような見えないが作用している力を取り込んで、徐々に正常に変換することができた。逆に言えば、彼女がいなければ徐々に歪みは溜まっていく。そしてそれは肥大して現実に作用し始める――」
しづるには、その言葉に呼び起こされたように帝都へ向かった車窓の情景が目に浮かんだ。誰もが目の前にある障害物を認識することなく進み続ける……そして自らの身体がバラバラになっていることにさえ気が付かず、同じ行動を取り続ける――。爆炎が上がり、鼓膜が破れようとも、変わらない。無条件反応が存在していない。デセンシタイズされていくようにあったはずの異物感が弱まっていき、最後は異物に対して反応が出来なくなる――。近い、しづるが抱いたのはそのような印象であった。
「それを防ぐ為に、俺は三つの条件で契約を結んだ。そしてそれは俺と彼女にとっては安全装置でもあった」
苦しそうな眉間に皺が寄っていた。言い倦ねていた。それは父としての葛藤だった。
レイカに告げるべきではない――。
もし聞いてしまえば、彼女は喜んでその身を差し出すのかも知れない。だが、そうさせない為に俺はここまで――。
だが、だが……。
「レイカ、目を瞑ってくれ」
「お父さん……なにを」
「いいから、目を瞑っていてくれ」
カリナはレイカの瞼をそっと下ろすと、骨が軋むような音を立てる程自らの頭蓋を握りしめた。
「う……」
しづるはその様を見ていたが、瞳から溢れ出した鬼気にあてられて動くこともできず、ただその貌を歪ませて何かに耐えている黒い男の影を怯えたように眺めることしかできなかった。
やがてその音を掻き消すように、濁った言葉が呪詛のように滲み出した。
「その条件は――。
1.必ず一人以上子を為すこと。
2.もし妖精が役割を全うできなくなってしまった場合、子供を妖精の代理として役割を負わせること。
3.それが全て叶わなかった場合、降りかかった災厄を契約者が請け負うこと。
この三つだ。それが条件。俺は生前の彼女から何が起こるかを聞かされていた。だから予測して情報を集めることが出来たし何が起こってるかを早めに察知できた。だが、彼女も君も居なくなった今、例え一人でも災厄を止める必要があった。それがレイカ、君の母の望みでもあった。決して君を傷付けさせない。だから、俺一人でも――」
「……!」
レイカは瞼を開けると、怯えるように父の腕を撫でた。きっと奥底に染み付いた痛みは消えないのだろう。蕾を失ったあの日のように。けれど、見ていられなかった。悲しい、痛い、そんな言葉は言葉でしかない。
「やめて、お父さん。痛いよ。見てるだけでも痛いよ」
「……ッ」
カリナの腕の力が緩まり、その腕がレイカに収められた。
「待って、待ってくれカリナさん!」
今と言わんばかりに割り込んだのはしづるだった。
「2の条件、それ、レイカがここにいる今なら、できるんじゃないか……? あなたの苦しみも救える、そうなんじゃないか?」
「……もしそうなれば。もし、そうなれば。救えるだろうさ。ああ――手を尽くして時間を稼ぎ、そして徐々にレイカの力が効き始めれば救えるさ。だがね、その時レイカはもう、ただ浄化装置として生きるだけの装置になってしまう。どこまで行ってもレイカは俺の子だ、人間の子だ。だから彼女の代わりになっても今このままのレイカでは居られない。肉体は死んで、意識も記憶もなくなるだろう。ひょっとしたら、悪い夢を見続けるかも知れない。だから、だから俺はそんなこと、決して、決して選ぶことはできない。父として! 妻に君を護ると誓った――今度こそ守る。だからレイカ、お願いだ、身代わりになるなんていわないでくれ。俺は耐えられる。俺は父親だ……! 君の父なんだ」
「……」
レイカは目を見開いたまま、思案に余ってどうすれば良いかわからなくなっていた。
救いたい――その気持ちがあった。例え闇黒の中に堕ちたとしても、お返しがしたい。それがレイカの望みとしてあった。お父さん、しづる、悠里、そして蕾に一木……全員が自分の為に必死になって助けてくれた。もし、できることがあるとするならば――それはこの身体を捧げてでも災厄を終わらせること。それしかできない。
でもそれで父は満足できないだろう。こんなに憔悴して狼狽して、折角再会できた娘との別れが続くなら――? 自分の力でなんとか出来る可能性があるのに、それを置いて娘が身を捧げると宣ったなら――? きっと父は耐えられない。たった一人でもやり直そうとするだろう。きっと途方もない努力を続けてしまうだろう。
レイカの視線がしづるに向かった。
儚く目を細める礼香を見て、しづるはその先の言葉を予測した。
「……礼香。待ってくれ。まだ何か策はあるかもしれない」
「しづるさん。もう時間も、そして手段もないです。お父さんの話を聞いてわかりました。ここまで私たちが来た意味が」
「違う、礼香! 待ってくれ」
口を突いて否定が出る。しかしそれはしづる自身が一番理由を知っていた。認めたくない、それが心を押し出しているのだ。
世界を救う為に、過去までやってきた。方法があると信じていた。カリナを止めれば達成できると思っていた。しかし俺達の的はカリナを止めることではなかった。雪星そのものだった。今、それを止める手段がある。目の前に願いを叶える引き金がある。
まるで吸い寄せられるようだ――。滝のように汗が流れ落ちる。言葉が湧き出してこない。見えたと思った可能性は、今潰れて消えてしまった。礼香を失って世界を救うのか、それとも諦めて十年後に戻りカリナの助けを待つのか――。
極限の二択だった。カリナの言葉を反芻すると、災厄はこれからも続くのだろう。例え一つの災厄を取り除いたところで、その先にも根本の解決が望めない限り災厄は止まない。だが、もし礼香が妖精となって問題を解決してくれたとして、それからカリナはどうなる? それこそ、おじさんが考えていたように破壊の限りを尽くすのではないか? 妻と娘を奪った世界を壊すために。こんな……こんなくそったれな選択肢しか用意しなかった世界に……。
握り込んだ拳が震える。許せない。許せなかった。しづるの胸の奥からは怒りがふつふつと沸いてそれが涙になって流れていた。
しづるを眺める礼香の瞳が綻んで無理な笑顔を作った。
「ありがとう、しづるさん。私、嬉しい。怒ってくれてありがとう、でも、もう時間、きっとないから。それに、多分悪い夢なんて見ないと思います。きっとみんな笑顔になれる、幸せな夢を見られると思う」
「ぐっ……ううっ」
――誰も、誰も悪くない。なのに、どうしてこうなった。誰もが幸せになろうとしただけなのに。
問うても帰ってこない問いだ。わかっていた。それでも、わかりたくなかった。
「……しーちゃん。ダメだよ。怒っちゃダメ」
胸の中の悠里が呟いた。
「まだ可能性はある、そう信じないと。私は信じてる。きっと私たちがここまでやってきたのはただ絶望するためじゃない。希望を握って、愚かでもいい。前のめりに進むために来た。最初はカリナさんを倒すために、次はあの星を倒すために。時間もない、手段も限られてる。そんな時に私たちみたいなイレギュラーが出来ることは何?」
「イレギュラーが出来る……こと?」
確信めいて、悠里の言葉が胸に響く。
「私たちは当事者だけど、この問題については当事者じゃない。だって今起こってる問題はカリナさんと礼香ちゃんの問題だもの。じゃあ、私たちにできることは?」
「解決、してやること……」
「半分かな」
ふふん、悠里の得意げな鼻息が胸にこそばゆい。
「なんだよ……」
「仕方ないなあ。ちゃんと帰ったら奢ってね」
「――帰れたらなんでも言うこと聞いてやるよ」
「おっ、言ったなぁ?」
「ああ」
「じゃあ教えてあげる。全く違う切り口で第三の選択肢を出してやること」
しづるは頭をかきむしった。ぜんっぜんわかってないじゃないかコイツは……!
「んなことわかってる――! できないから……」
「できるよ。だって私たちはカリナさんも、礼香ちゃんも知らない話をおじさんからいっぱい聞いたはずなんだもん。どこかにヒントがあるはず。それが見つかってないのであれば、探し切れてないだけ」
「……なんでそう思うんだ」
「そう思う方が絶望して思考が止まるよりかずっとずっと有益だから。しーちゃん。できることがある。私たちにはやらなきゃいけないことがある。だって、おじさんと約束したでしょう? 明日を迎えるって。だから、明日を迎えなきゃならない。ここで絶望なんかに飲み込まれちゃ行けない。最後の一秒まで考え抜いてそれでダメだったら、それはおじさんに顔向けできるけど今、ただ条件として無理だって現実を叩きつけられて折れてしまったら、それは玉ナシ骨なしボコボコのチキン野郎ってこと」
「問題をすり替えてるだけじゃないか……?」
「バカね、しーちゃん。勝ってる時は問題をすり替えられたら鬱陶しくて嫌だけど負けてる時に問題をすり替えるのは益でしかないわ」
「たし……かに。そうかもな。少なくとも今は」
「足りてねえんだよガッツがぁ。しっかりせんかい! このロリコン野郎」
「……んだよ」
震えが止まった。空を見上げる。
やろう。怖くない。しづるは悠里をしっかりと抱きしめた。
悠里の顔が上がった。泣き腫らした瞳に、まだ少し青い唇。
へへっ、強気な言葉が信じられないくらいに儚く悠里は笑った。
しづるは微笑みかけた。そう望まれている気がした。
「ありがと。悠里。そうだな。もう一度、俺達に出来ることを」
「うん。しーちゃん。私たちにできることを。私たちにしかしてやれないことを」
「そして、俺達のおじさんの為に」
「うん。おじさんの作ってくれた明日のために」
「第三の選択肢――。可能性の為に」
丸い月と、悍ましく剥がれる叢雲が空を覆い始めていた。
白銀を照り返して少女が美しく映える。
「お父さん。私、お母さんの代わりになります」
「レイ……カ」
「お父さん、ごめんなさい。きっと辛かったと思います。私を失ってからずっとずっと、一人ぼっちで戦ってきたんですもん」
娘は父の頭を、子供を抱くように胸に寄せた。
「けど、お父さんはこれ以上耐えきれません。もうこんなにぼろぼろなのに」
「そんなことは、」
「ある。でしょう。だから、お父さんを救わせてください。私、幸せでしたから。お父さんとお母さんのこと、思い出せました。色んな楽しい思い出がありました。きっと、お父さんは私を自分と同じ寂しい思いをさせないように必死になってくれてたんですね」
「――」
「お父さんの知らないところでも、私幸せでした。色んな人に想われて、色んな人が私のことを大切にしようとしてくれたんです。だから、お願いします。お父さんの力を、自分の幸せを大きくすることに使ってください。人が嫌いなら人のコトなんてほっぽちゃって、いいですから」
「い、嫌だ――嫌だ」
カリナの手がレイカの肩を突き放した。体が宙に投げ出されて倒れこむ。
あ――漏れた言葉が空に浮かんで染みのように消える。
背後に月光を跳ね返す不浄が舞い始めた。
「間に合わなくなっちゃいます、お父さん……!」
「――あの、男か――! あの、女が――! ふざけるなァアーーーッ!!!」
黒い咆哮が天を衝いた。
こうもり傘のような影がしづると悠里に向いた。
「お前達の、せいで、お前達のせいで――!!! お前達も俺から奪うのか、愚かな人間め。ただ自らが生き残りたいというそれだけの思いで! それだけの思いで俺から娘を奪いに来たのか、一度与えてまで!!! 殺してやる、人間共は――」
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