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第57話 約束
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『「どうぞ後生ですから! 恩赦が来るのを待つため一分ください! さもなければ私は抵抗します! 咬みつきますよ!」
判事と死刑執行人が出て行った。私はひとり残された。──ほかにいるのは二人の憲兵だけだ。 おお! ハイエナのような叫び声を上げているおぞましい民衆! ──私は彼らから逃れられるかもしれないではないか? 私の命は助かるかもしれないではないか? 恩赦が……。恩赦を得られないなんて、ありえない! ああ!』
……いや、僕にはもう恩赦も、そして抵抗も時間も必要ない――。
わかっていたんだ。望んだんだ。
ありがとう、僕の青春のタナトスと共に在ってくれて。
けれどもう必要ない。
僕には誰かに託せる未来があるから。
さよなら。
僕の過去全て。
さよなら、『死刑囚最後の日』。
「絵を描いてくれてありがとう。君の描く星空が、どの名画よりもぼくは好きだ」
「――うん。私も、星空が、好き」
「持っていってもいいかい。悠里」
「なくさないで、ね」
「絶対になくさない。悠里とぼくの約束だから」
「うん、約束――おじさんと、私、の約束」
「ああ、約束。ぼくらが遠くに離れても、決して消えはしない約束」
「約束、だよ」
「愛してる」
「愛してる」
「さよなら」
「……」
判事と死刑執行人が出て行った。私はひとり残された。──ほかにいるのは二人の憲兵だけだ。 おお! ハイエナのような叫び声を上げているおぞましい民衆! ──私は彼らから逃れられるかもしれないではないか? 私の命は助かるかもしれないではないか? 恩赦が……。恩赦を得られないなんて、ありえない! ああ!』
……いや、僕にはもう恩赦も、そして抵抗も時間も必要ない――。
わかっていたんだ。望んだんだ。
ありがとう、僕の青春のタナトスと共に在ってくれて。
けれどもう必要ない。
僕には誰かに託せる未来があるから。
さよなら。
僕の過去全て。
さよなら、『死刑囚最後の日』。
「絵を描いてくれてありがとう。君の描く星空が、どの名画よりもぼくは好きだ」
「――うん。私も、星空が、好き」
「持っていってもいいかい。悠里」
「なくさないで、ね」
「絶対になくさない。悠里とぼくの約束だから」
「うん、約束――おじさんと、私、の約束」
「ああ、約束。ぼくらが遠くに離れても、決して消えはしない約束」
「約束、だよ」
「愛してる」
「愛してる」
「さよなら」
「……」
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