白い夏に雪が降る【完結済】

安条序那

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第39話 相対

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「いただきます」

翌朝、同じように旧駅舎で集まった僕らはとりあえず、と言わんばかりに地べたの上に薄皮一枚敷いて飯を食らっていた。
昨日とはうってかわって、気温は妙に低く湿っぽい空気が海からこみ上げていた。ここ二日降らなかった雨の気配が辺りを支配して、重く空を覆っていた。

「ライ、よく眠れたかァ?」
「うん、おかげさまで」
「そりゃよかった。それでこそ俺たちも報われるってもんよ」

二人は随分ぼくの保護者といった面構えになっていて、昨日会ったばかりよりもずっと逞しく見えた。

「なあ、ライ、今日もその“人捜し”に行くのか? 天気予報だと大気の状態が不安定で、どうやらいつ頃からか酷い雨になるって予報だぜ。やめといたらどうだ? 風邪引いちまうかもしれないぜ」
「うん。でもやっぱりアテがなくても探さないと。進展がなくても、何かしなきゃ進展もないよ」
「あァ、やらなきゃできねェ。なんでもそういうモンだ。あったけェ米が食いたきゃ冷たい水で米を洗わなきゃならねェ。その努力を怠ったら飯は食えねェ、そういうモンだ。ライはよくわかってらァ」

わしわしと乱雑に頭を撫でるコスガの手はいつも温かい。

「ん。ありがとう……でもどうしよう。今日も会議はあるんだよね」
「あるにはあるけどお前がそういうならかまわねえ。俺から言っといてやる」
「あァ、それに今日は多分昨日の話を受けての装備と補給品の話だろうからな。ライの出る幕ァねェよ」
「それより、お前の方が随分大変だ。まだ何もわかってないんだろ? こっちは大丈夫だから気兼ねなく行ってきな」
「世話をかけるね……。ごちそうさま、今日もおいしかった。じゃあ行ってくる。ボスによろしく」
「ほい、もってけ」

踵を返したぼくに、オオスカは黒い棒状のものを投げ渡した。

「折りたたみ傘だ、天面を流れ着いた帆布で作ってある。酷い雨が降ってもそこらのビニ傘なんかにゃ負けねえし、骨も丈夫だぜ。それにリールも付いてるからこれでいつ降っても、いつ腹が減っても大丈夫だ」
「ばァか。ただの竿の改造品だっていいなィ。お前だけだぜ、傘を捨て竿で作っちまうのは」
「独創的だろ?」
「あァ、端的に言って、“サイコーにクール”ってヤツだ。ギャハハ!」
「だろ! ギャハハハハ!」
「……」

蕾はそれを胸に受け止めると、とても温かく感じた。二人の心意気が、強がってもひとりぼっちだった蕾を励ましてくれていた。

「行ってきます!」
「おう! 今日こそなんか持って、終わったら帰ってこい!」

蕾が大きな声で返事したのを更に返すように二人の声が鼓膜に響いた。
曇り空の下を走り出す。足取りは軽い。のしかかる空模様も全然気にならなかった。
線路を越えて旧駅舎を出た頃振り返ると、旧駅舎の最上階の破れた窓にはボスが立って、どこともなく眺めており、すぐに奥へ引っ込んでいった。
けれど蕾は感じていた。ボスも見守ってくれていることを。

「ぼく、ここに来たばっかりなのに――ありがとう……みんな」

ぼくも早く、誰かを見つけなければならない。
新駅舎の方へ足を急がせる。かつてぼくは御園家に帰る時、どこを通っただろう。
坂を越えて、遠くへ――向こう側に山が見える。乱反射する水分の弾け降り注ぐ、膜が張ったような白く濁った坂道を睥睨する。
背の高い新ビル群の合間には雲の楼閣が頭を擡げていた、雨の香りは水分と共に地面を舐めてぶつかりぬるい気分の悪くなるような風を運んでいる。
朧げな記憶のまま、重たい積乱雲から逃れるように空の狭い場所に足を踏み入れていく。
海から遠ざかっている……人の作る廃液の匂いが風に混じる。
新駅には滞りなく電車が発着を繰り返している。ビルに群がる蟻のような微細な人々は滂沱となって流れている。
皆して巣穴に戻るように歩く、求める場所はきっと決まっているのだろう。
大人たちの目線がこちらへ振れる度、彼らの瞳の色はないことを知る。
興味を惹かれるのだろう、けれど視線を向ける以上の眼球の動作はない。こちらへ向き直ることも、振り返ることもない。
きっと無意識では、こんな場所をアテもなく彷徨い歩いているぼくは異形なのだ。
みなここに来る人々はすべて目的とその場所が決まっていて、ぼくだけが一人ふらついている。
ビルの合間を見えない太陽の光を追って歩いていく。やがて時針が目視にずれていると見えるようになった頃には人の姿はみな建物に消えていた。
そして手掛かりもなく空はまた広がり始め、重い雲が限界を越えて地面に雨垂れを落としているのが見えた。
空を望んだ額に生温い雫が垂れて、貰った傘を思い出したが手は開こうとする素振りがなかった。

「……」

大粒の雨が額に落ちた。本降りが始まり雷鳴がするりするりと雲の合間を切り裂くように光を放つ。

「……あ」

蕾は人形のように空を見上げて固まった。思考は止まっていた。呼吸もやめていた。
――追想、そういう言葉が正しいだろうか。
かつてこの場所で見た空の色、雲一つない碧の穹に飛行機雲がかかっている。背中には荷物の重みと、左指に残った地図の掠れ。
「ぼくはここを……」
運命の扉を叩く音……蕾には雷鳴がそう聞こえていた――理由はわからない。けれどそんな気がした。
市街地外れの人々は、急激な雨に体を覆って逃げていく。道が蕾のために開けられるように広くなっていく。
雨粒のティアドロップがコンクリートに落ちては砕けて繋がって、地面を湿潤で満たしていく。

「――」

空が瞬いたと同時に爆裂するような雷轟が世界を覆った。
人々が誰も居なくなる。最後の一人までもが車の中に逃げ込んだ時、視界の端がその運転手を捉えた。
大きなビニール袋、彼岸花の花弁のように影のある髪色。知的なめがねをしたその女。
――なぜだろう、蕾自身も理由が分からなかった。その女に注意が割かれたことが全くの想定外であった。

「ぐっ」

どうしてなのだろう。脳を支配するのは金属音だった。頭蓋を裏から圧迫されるような、眼球が視床下部に張り付いていくような奇怪な感覚に襲われて、肉体は勝手に動き始めた。
雨はいよいよもって豪雨へと変わり始めた。目の前が白く塗りつぶされて消え入りそうになる。

「――見たこと、ある……気がする」

どこで見たのだろう。わからない、けれどあの人は何か知っている。知っている――。
走るのだ、追いかけなければならない――!
蕾は本能が叫ぶままに走り始めた。第六感、世の人が彼の行動を評価すればそうなるかもしれない。けれど直感はどこまでも記憶していることから呼び出されている以上、雷にとってこれを見捨てることはできない相談だった。

「ま、まって!」

いよいよもって豪雨となった雨は、叫び声をもかき消して無限に反響していた。
振り返って追いかけようと、決して加速には追いつけない。
息せき切って走っても、背中は遠くなるばかりで近付くことはできないのだ。わかっていても、止まるのは無理だった。
それでも足が地面を踏む度に心臓は高鳴っていく。アレが探し続けた何かを知っている誰かであるはずなんだ。どうして、どうしてぼくの手は届かないんだ――?
閃光が走り、追って轟音……耳鳴が響いて否応なしに足が止まった。焼け付くほど息が荒れて動けない。けれどそのおかげか、目の前の光景はやけに冷静に瞳に映っていた。
セダンタイプの灰色の車だ――。番号は『三咲 み4465』。
蕾は霞むギリギリで走り去るその車のナンバーを暗記すると、豪雨にすら厭わず両手膝を付いて息を整えた。

「はーっはっ……」

追いつけ、なかった。
なんとか調息しきり立ち上がると、何者かの気配が背後にあった。

「――蕾、傘は持ってないのか」
「!」

驚きに飛び上がった蕾が振り向くと、ボスが立っていた。

「ボス、どうして」
「風邪引くぞ、傘に入れ」

傘の半分を開けたボスは、ぼくを傘にすっぽりと入れると、ぶっきらぼうに歩き始めた。彼はそれ以上何も言おうとしなかった。

「どうしてボスがここに……?」

恐る恐る、といった感じで上目がちに質問する。

「きまぐれだよ。わざわざこんなとこにお前を探しに来るワケがないだろう」
「……そうだね、確かにそうだ」
「どうして濡れてた。傘、持ってるじゃねえか」
「……何か知ってる気がする人がいたんだ。その人は車に乗ってどこかに行っちゃってさ。それで追い始めた……から傘開く余裕なくて。でも、やっぱり車は早過ぎるや」
「……ふん、つくづく変なガキだ。でも、進展があったみたいだな」
「ほんのわずか、だけどね……っぷしゅん」
「――僅かでもいいだろう。そういうものだ。それよりライ、一旦隠れ家に帰るぞ。そのままじゃいつ風邪引いても文句言えねえ」

 そのままボスとは無言のまま、隠れ家に向かって歩き始めた。錆び付いた鉄筋の高架沿いを歩きながら、雨で真っ白に染まった世界の中を二人がただ歩いていた。
「……ライ、お前に頼みたいことがある」
「なにかな」

彼は言いかけてやや押し黙った後、ゆっくりと口を開いた。

「いや、アジトに着いたら話す。ここでする話でもない」
「そっか。わかった」
 
ボスはやや驚いた顔をしながら、傘の先の方で雨に向かって手を伸ばすこの無垢な少年を眺めた。
不思議な子供だった。やや大人びていることもそうだが、それ以上に素直すぎる。旧駅舎へ家出してきた子供は何度も見たことがある。けれど誰だって基本的には旧駅舎に長居はしたがらない。あの不潔で、夜半には化け物とも人とも取れぬ者に会えばなおさらだ。長くても一日、早ければ三時間ほどで頭が冷えて帰っていく。
ライはもう既に家を脱してから二日以上が経過しているのだろうに、この少年は初志を貫徹すると言わんばかりに頑として帰ろうとはしなかった。それよりも適応しようと俺達の生活を観察し、入り込んでいる――。
そして何より、どの言葉にも圧力があった。思考と行動から“逃げ”がない。その点だけでもこの少年は特殊だった。 

「上がれ。そのまま脱衣所だ」
「ありがとう、ボス」

蕾がシャワーを浴びて暖まった、昼刻の終わりほどのことだった。

「……みんな」
「ただいまよォ」
「ああ、またずぶ濡れだったんだってな」
「うん……ごめん」
「いいンだ。それよりボス」
「わかっている。まあ、座れ」

ただならぬ様子で三人はライを見遣っていた。それを受けて蕾も既に彼らの中で計画が進展したことを感じた。この先は、きっと重大な話になるだろう。

「まずは宣言する。ここに“旧駅舎掃討作戦”の参加メンバーは全員揃っている。計画、開始だ――」
「俺たちは二日後、あの殺人鬼のバケモノを掃討する。未明から早朝にかけて現れたヤツを――破壊する。その為にライ、お前の力を借りたい」
「そんな……ぼくが?」

 二人はこちらを見た。

「すまん、俺たちからも頼みたい」
「作戦上、必要なんだァ。ヤツにはある習性がある――」
「ボス、ぼくは何をする必要があるんだ?」

 緘黙した彼らは顔色を失くしていた。それは何かを脳裏に追想しているようだった。それも……あるいは決して許されないことを見破られたような子供のような雰囲気をまとわせていた。

「ライ、ヤツには習性がある。それは……一度襲った者が近くにいるのがわかると特に注意してその人間を追跡し――それを補足、及び攻撃することだ」
「つまり、ぼくの役目は――」

 恐ろしい追想が脳裏を過ぎった――振り下ろされる瓶、割れて飛び散るガラス片、あの不気味な笑み――ぼくは再び、『アレ』と?

「敢えて言葉を濁さずに言おう。囮だ。俺たちは顔が割れてるし中西の仲間であることもわかられているだろうからな」

 ボスはぼくにノートを開いて差し出した。
 それは彼が深夜に必死に何かを書き込んでいたそれだった。

「これは俺たちの仲間が遺した――最後の調査簿だ。中西、というんだがな。アイツはかねてより率先して殺人鬼の調査を行っていた。何度も一人で夜に調査に行っては細かくその行動を記述していた――殺人鬼の存在を俺たちに教えてくれたのも、アイツだった。中西が殺されてから……俺たちは旧駅舎の中でも一部しか使わなくなっていた……。お前が来るまではな」
「ああ……近寄れなかったっていうか……怖かった、っていうかさ。なんかよ、苦しくてよ。忘れたかったのかもしれねえ。それで、見つけたのはよ、ライ、お前が心配になって探してた時だったんだ。木製の鍵の奥に大事そうに仕舞ってあった。雨に当たったり破れたりしねえように」
「ライがいなけりゃァ、きっと気付くこともなかった場所だァ」

 彼らはうつむいて、畳には点々とシミがついた。

「それには、遺言書が残されてた。中西がもしもの時の為に俺たちに手掛かりが残るように……」
「書いてあったんだ。そして――俺たちは今日、今日……」
「水道パイプの奥の方でよ、中西の、死体を見つけたんだ」
「……首に嚙まれたような跡があった、それが致命傷だったんだろう。馬鹿野郎……色んなものを最後まで持っていやがった。きっと実験をしたんだろう。自らの身を襲わせて――」
「死体の上に鍵が転がってた。きっとポケットにでも入れてたんだろうな……そして攻撃されて動けなくなった後に転がって、死体は襲われずに済んだんだろう」
「く……ううう」
「……」

 雨垂れの音と、涙の落ちる音だけが満ちていた。

「手に届く場所にあったのに、気が付いてやれなかったァ――俺たちは、なんてバカをしたんだ……まったくよ、ホントにバカだ……!」
「くそっ……くそ。畜生ォ!」
「……明日の朝、雨が止んだら俺たちだけで葬儀をする――その夜に掃討作戦は決行する。今日はヤツの居場所だけでも特定したい……その為にライの力が要る」
「中西の仇を討ちてェんだよォ」
「あァ、その手伝いをしてほしい――ライ、絶対に危険な状況にはしねェ! 俺たちが体張ってでもぜってェ守る。だから力を貸してくれェ!」
「今生の頼みだ。中西もこのままじゃ浮かばれねえ。アイツの姉ちゃんもだ……! 俺たちが、なんとかするんだ!」
「ライ、手伝ってくれ。この通りだ」

 ボスは両手をついて頭を下げた。嗚咽に咽びながら二人もそれに倣った。
 蕾は二人だけならまだしも、ボスが率先して頭を下げたことに驚いていた。決して頭を下げることなど常よしとしないであろうあの高圧的なボスが、それも一番にぼくへ頭を下げていたのだった。

「……頼む!」

 恐怖がないといえば嘘になる。それは間違いのないことだった。あのバケモノに受けた傷は今だって痛む――水が滴る度に鋭角のガラスの破片が肉にめり込んだ肉が幻肢痛じみた痛みを神経に投げるのだから。
 けれどそれ以上に、ある気持ちがあった。
 嬉しかった。
 ぼくを頼りにしてくれる彼らと、ようやく対等になれた気がしたのだ。本当の意味で心が近くなったような、そんな気がしたのだ。守られるだけじゃなく、今度はぼく自身が彼らを助けることができる――初めての気持ちだった。家族や同居人という枠を超えて、一人の人間として見てくれたことが嬉しいというのは。

「ぼくは――手伝うよ! 助けてもらった恩もあるし、それにさ、助けたいんだ! なんだかあったかくてさ、君たちといられてよかった。そんな風に思うんだよ……それに、それにさ、ぼくも仲間だから」
「本当か!ライ」

 顔をあげると、コスガとオオスカの二人は目を大きく丸く開けて顔を綻ばせた。

「ァ……ァりがとよォ……」
「巻き込んでしまってすまない。お前の体には傷一つ付けさせない。俺が、俺たちが約束する」

 ボスは頭をあげると手をひし、と握り目を見た。
 二人はぼくを痛いくらいに抱きしめて泣いていた。
 けれど表情は複雑で、時折噛みしめるように俯いては動けなくなり、ただ嬉しくて泣いているわけではないのが見て取れた。
 友人の死体を見つけてやれなかったこと、心のどこかで見つけることさえ怯えていたこと――自責と呵責に押しつぶされそうになりなっていたのかもしれない。

「バケモンに勝ったらよォ、ライの人探しも手伝うぜェ! 俺たちがかかれば一瞬よ。安心しなァ。ぜってェ見つけてやる」
「ああ。間違いないぜ! すぐ家に返してやるよォ! 二度とこんなとこ来なくていいようにな! ギャハハハハ!」
「そーだそォだ! こんなとこ二度と来なくていいよォにしてやるゥ! ギャハハハハ!!!」

 泣き笑い忙しい彼らは表情の向こう側で、どこか安堵していたのが声色でわかった。

「こんなとこって……そんな風に言わないでよ。ここってとってもいいとこだよ。ぼくはここに来れてよかった」

 そういうと、彼らは笑顔の眦を崩してまた涙を浮かべた。

「バァカヤロォそういうとこなんだよ、ライ」
「ありがとな、ライ。嬉しいよ俺は」

「浮かれるな。まだ何も終わってない」

 ボスは静かに二人の声を遮った、それは嚆矢濫觴《こうしらんしょう》となって四人の胸に通じた。

「始まったばかりだ」
「ああ――ボス。そうだな、やろうぜ」
「準備ァ、できてますぜボス。いつでも始められます!」
「キマリだな、行くぞ。ライ」
「――うん!」
「よし、じゃあライ、お前に渡しておくモノがある。手を出してくれ」

 そう言って、オオスカは手のひらに金属製の鍵とタグを渡した。タグには『5:RAI』と刻まれていた。

「アジトの鍵で、俺達の仲間の証だ。お前専用に作ったんだ! 失くすんじゃねえぞ」
「……なくさないよ。絶対ずっと持ってる。約束するよ」

 手のひらで小さなタグと銀色の鍵が踊った。それが妙に嬉しくて指で弄びたくなった。けれど今はポケットにしまいこむと、ぐっと視線を前に戻した。

「おう。そうでなくっちゃな!」
「作戦を説明する――ライ、お前の役割はヤツを誘導し、指定のポイントまで誘き出すことだ」
 
 夜は空を染めた、反撃の刻が迫っていた。
 青年たちは夜に繰り出し、かの決戦の場所へと向かう。既にこの場には誰一人孤独の恐怖はなかった。向かうべき場所は一箇である、迷うことも、寄り道することもない。
 そこに勝利があると心から信じているのだ。

 その夜は割れるほどの雨が降りしきる、不気味に静かな夜だった。
 こんな豪雨では誰も彼もが眠っていただろう。どうしたって外の景色は見えはしない、戸口に立つ人の足音だって気配だってしないに違いなかった。途絶された、静かな世界が広がっていた。
 旧駅舎は古びた鉄骨であって立地は少しだけ街々の灯よりも高い位置にあった。
 かつては水害に強いようにとほんの小高い丘に建てられていたのだ。
 新駅舎が街の真ん中の海抜よりも低い位置に建てられたのは、小高い立地を旧駅舎が占領してしまっていたこと――あるいは本来見込まれていたほど三咲町の予算が付かなかったこともあって、今も旧駅舎はその形骸を残したまま廃墟のように今もさざ波の音を低く反響し、呼吸するように構内に自然の音を満ちさせていた。
 しかしこれにはもう一つ理由があった。それは長年のインフラ整備によって、水量過多になりがちな三咲町をある程度地下排水、地下空洞によって水害を抑えることに成功していたのである。目に見えて減った水害による被害は、安全な街を装うに十分な外套として既に機能していた。
 そう、今現在降りしきり叩きつけるような豪雨にも、街は十分に耐え得るのである。

『ライ、お前には幾つか渡しておくものがある。作戦で必須になる。お前の身体の保護の為、そして今晩の作戦目的の遂行にも必須だ』

 天井には黒く歪んで一定のリズムでひび割れたさび模様と、雨漏りの音がどこかで響いていた。冷静に考えれば、こんな夜にこんな場所に自分以外の誰かがいるなど考え難いことだ。しかし蕾は既に感じ取っていた。息遣い、体温、衣擦れの音、そのどれとも違う。
 五感に基づいたものではない、けれど言葉にし得ない第六感が告げていた。この暗闇のどこかに必ずや存在しているだろう――あのバケモノは。

『先に言ったが、作戦目標はヤツの寝床を探すことだ――今までは接近することがそもそも難しく、同時にその為の方法を確立できていなかった。けれど今夜は違う』
『ライ、まずは三階の印を付けた地点で寝たふりをしていてくれ。そしてこのゴーグルを付けて待つンだ』

 ぱち、と一つ瞬きをする。
 蒸し暑い空気の渦が閉鎖されたコンクリートの影を伝う。規則正しく並んだ雨漏りのリズムが刻一刻とその時の訪れが違いことを告げていた。

『中西のノートから、あることがわかっている。ヤツは必ず現れる時最短距離の階段口から現れる。これについては実験をしたようで信頼性が高い。今回印を付けた箇所もその為に調整した場所だ、つまり、ライの見るべきポイントは一方向でいい。そう、この東向きA階段だ。それにこの場所は他のどの階段からも遠い――万が一別の場所から進行があった場合でも音や気配で気付ける可能性が高くなっている』

 教えられた作戦を反芻してその瞬間を待つ。時間は無限に感じるが、不思議と恐怖はどこにも湧いては来なかった。何かあれば仲間が助けに来てくれる。絶対に見捨てたりはしない。ライはそう信じていた。それが彼らでありボスへの信頼だった。
 ぴた、ひた、一定のリズムを刻んでいた水滴の音が薄くくぐもって聞こえた。眼球が階段を追う。――いない。視線は外していない、けれど何か音が――。

「へァ……」
「……!」

 視界に映ったのは足だった。頭側に気配が一つ……既に一足一刀の間合いは詰まっていた。まだこちらは地面に寝そべったままだというのに。
 どうしてだ――!? 気は一瞬たりとも抜いていなかったはずなのに――!
 脳裏に過る一撃は瓶による叩きつけだ――知っている。今度こそ幸運な反撃は通用しないだろう、間合いを詰められた……これが既に致命傷なのだ。

「不味い――!」

 脳に一気に血流が集まり、反射であるのか肉体は軸を空に移し背筋の収縮を解放――刹那に飛び上がった。
 体勢は空中を前転するように捻られ、目の前を銀に煌めく切っ先が通過している。
 対空しながら、蕾の脳裏にはある思考が巡ってあった。
 なぜ足音がしなかったのだろう……まるでこちらの呼吸音でも聞こえているように、相手だって真っ暗なはずなのに――視線だって外していない。まるで魔法だ、煙が立ち上るようにヤツはぼくの頭元に音もなく立ち出でたとでも言うのか?
 通過する天井の模様に濡れて光っている場所があった。見ていた階段側の天井だ、けれど、どうしてだ――?

「……まさか」

 着地と同時に天井を注視する。

「そんな――こいつまさか」

 天井には濡れた足跡が点々と付いていた。しかも蹄のような形をしている。

「ケケ……ハァォ!」
「天井をゴキブリみたいに這いまわってここまでやってきたっていうのか!?」

 背筋におぞ気が上ってくるのを堪える。ヤツが持っているものは瓶ではない、刃渡り十センチはあろうかというドスだ。

「本気で殺すつもりなんだな……今度こそ仕留める気なんだな」

 唾を飲み込んだ、頬に伝う汗が気味悪いほどに冷たく感じる。
 ライとバケモノは対峙して少しずつライは後ずさりしていた。このまま計画通りに進められるだろうか……だって相手は今全く予見もしていなかった能力を持っていたのだし、きっとアタマだって思っていたより賢いのだ。
 けれど、このまま計画を捨て本能のまま逃げおおせること――それこそ最も危険であることを蕾は誰よりも理解していた。この度見積もられた計画は蕾を保護し、逃がしつつ相手の行動を制限し追い立てていくように計画されているのだ。
 そう設計されている以上、ここで冷静を失い諸手を挙げて逃げ出すことはむしろ火の中に突っ込んでいくようなものである。

『ライ、ゴーグルには特殊な偏光を施してある。お前はそのゴーグルを通してのみ見
えている地面に引かれた線の上を走るわけだ。東向きA階段から西南西C階段前までを地面のライン通りに走りきる――かなり広いフロアを縦横に走ることになるが、絶対にラインを踏み外すな。それが第一段階。決して振り向かずに走ること』

 バケモノと少年が向かい合い、そして少年は背を向けて走り始めた。ラインは部屋の中を複雑に引かれている――一筋縄ではいかないことは既にこの時予見できていた。
 目的の階段前までは直線距離にして約五十メートルあるかないか。蕾は少年の駆体と同学年の中ではかなり低身長であるが壮健である。学校で計ったタイムならほぼ十秒で走り切ることができたし、それは県でも数人いるかいないか絶妙なタイムであった。
 今回はどちらかといえば障害物走に近いが、それでもこの少年、走ることには結構な自信を持っていた。


――同刻、ホールに仕掛けた赤外線カメラから蕾の影がなくなったと同時に大きなため息をついた人間がいた。向こう正面に仮設された作戦基地内のことである。

「ボス、ライがホールから抜けました」

 声を震わせながらオオスカは右手に入った力を抜いていた。その手に握っているのは小さなスイッチのついたハンドルである。見た目はかなりお粗末でホフマン式ピンチコックの滑車部分の溝をすんなりと通したような形で、長いコードが地面を這って向こう側の旧駅舎三階まで繋がっているのが見て取れる。

「……よし、よく押さなかったな。お前ならギリギリまでは耐えられると思っていた」

 ノイズ混じりの声は、机下のトランシーバーから雨音と共に再生されている。

「これは……切り札なんですもんね、ボス。絶対に簡単に使っちゃならないワケですもんね……でも、危なかった。後数秒ライが動けなきゃ押さなきゃいけなかった――」

 オオスカの奥歯がギリギリと鳴っていた、ゆっくりと、ほんの少しずつその力は弱まって、ようやく口元は皺だらけの力んだ状態から解放された。

「ああ、もし危険だと思ったらお前に全権を預ける。絶対に何かが起きる前に押すんだ、それだけは心に決めておけ」
「はい……絶対にその時は、必ず」
「お前に俺達の、そしてライの命も預けている。頼んだぞ。次のポイントの監視に急げ。次はポイントマルニからマルヨンまでのパターンがある。どれが来ても決して遅れるな」
「はい!」
「コスガに伝達、お前は監視に戻れ」


 廊下に差し掛かった蕾は沈み込む加速で最初の直線ラインを走り抜けると、踊るように足下のラインを踏み抜けて滑るように進んでいく。
 当然バケモノもそれをおいそれと承諾はしない――加速を始め、直線のラインを抜け少年を引き裂かんが為に飛び上がる、顔に走った亀裂の恨みを忘れたわけではない。痛みの復讐、狂乱の喜劇――この手の中に生意気なガキを葬り去るだけの威力はある一振りだ、自信はあるといわんばかりの跳躍――そう、蕾の予想は正しかった。このバケモノは確かに天井を進み侵入したのだ。けれどそれはただ天井を進めるという事実が付随しただけではない――その脚力、腕力、体感、加速力、持久力、及び肉体のその全てがそれに十分耐えうる能力を持つ器であるということを表しているのである。そして眼下に広がるそのうなじに今その鋒を突き立てることも容――?

「ィ゛ッ!?」

 確かに捉えたはずの空に、壁が出来たように何かがあった。そしてそれに引き裂かれるように、身体がギリギリと帆を張ったマストのように軋み音を立てる。
 バケモノには今自分に何が起こったのか想像も付かなかった。
 そして完全に失速し自らの肉体が空に投げ出されコンクリートに打ち付けられたとき、ようやくその意味を理解した。
 まるで鋭利な刃物が掠めたように身体が斜めに切り裂かれている――。

「アアアアアア!!!」

 喚き立てる姿を尻目に、小さな加減速を繰り返し繰り返し、目標の少年は遠ざかっていく。
 蕾といえば、ようやくバケモノが叫び声を上げたことを理解した瞬間であった。
 けれど蕾はほとんど間もなく、その真意を理解していた。
 『ワイヤートラップ』!
 ボス達がこのゴーグルを渡したのは、ワイヤーがない安全な場所をぼくに教えるためだった。だがあえて説明しなかったのはこの空間自体がかなり危険であったから、ぼくの緊張がかえってミスを生むと考えていたからだろう。実際、今は暗くて見えないがもし今ゴーグルを外し、バケモノを見たとしよう――その姿がもしぼくの思うとおりなら、間違いなくぼくは今現在のように冷静ではあれなくなるだろう――。
 場は大いに蕾の優位へと傾いていた。
 だが、このバケモノが少年がふらふらと奇妙な軌道を描きつつ遠ざかる姿を見守るだけか、いや、そんなはずはない。ないのである。どこまでもこのトラップが『続いているわけがない』のであることは間違いないのだから。瞬時、バケモノは直感で飛び上がり天井に張り付いた。
 地上を進むことが出来ないのであれば、天井を進む。いかにワイヤートラップを張り巡らせたからといって、それは対地用のトラップなのであって、空を浮いたり、天井を這いずったりするものにはそれほど効果がないはずである。知ってか知らずか、バケモノはビタリと天井に張り付き、汚らしい鳴き声を上げながら四つ足になり進行を始めた。
 ゴーグルをしている蕾はそれに気がつくことは出来ない。けれど違和感だけは感じていた。
 足音の方向が変わって数秒、明らかに近付いてくる速度が違う。
 けれどもう既に通路に入って十数秒――あと二秒もあれば十分にこのフロアを抜けきり目的の階段までたどり着けるのは間違いない……ここで足を止めるのか――?
 蕾の思考の中では、それでも決して振り向かずに走りきるべきだという考えが脳を支配し始めていた。それは何よりも彼らの信頼に裏打ちされたものであり、仲間へのそれだった。
 しかし、現実は非情である。現在蕾の頭上には運良くワイヤーが斜に一本かかっていた。もしここで蕾が足を止めれば飛びかかったバケモノはもう一度顔を引き裂かれ、落ち際に足下の別のワイヤーの上に落下、致命的なダメージを与えることは可能だったに違いない。


――同刻、別室のことである。
 コスガの焦った声は別室内を反響して耳に響くほどに跳ね返っていた。

「ボス! どうしよう、ワイヤーが対応できてない。やっこさん天井伝って移動してやがる後数秒で直上まで移動してくる!」
「ライの位置は!?」
「最悪だ! 後数秒でちょうどワイヤーの切れ目に到達! マルニを通過した先大体二メートルまで進行する目算になる!」
「こっちも持ち場を投げて走ってるが間に合わない! 切り札は!?」
「ダメだ! ここで使えばライも危ない! ここじゃ使えねえ――!」」
「構わん、押せ――!」

 二人の言葉が行き詰まった瞬間、コスガがボタンに指をかけた瞬間のことだった。劈く叫び声がトランシーバーを裂いた。

「オオスカァーーーー!!! 俺ァもうマルニまできてらァ! トリは預ける! 後は――頼んだァ! 鍵は使わねェ! だから! だから絶対ェ後は頼まァ!」


 足下のラインが消えた――。
 ここがゴールだ。ゴーグルを投げ捨てて、階段の踊り場に飛びつこうとした一瞬――背中に指がかかった。

「はぁっ――」

 刹那、理解していた。豪雨の音が消える。振り向こうにも、回避しようにも、鍵を出そうにも時間が足りない……背筋に走る悪寒は数秒後に激しい痛みに変換されるだろう、運命はこのように扉を叩くのだ――こんな風に、諦める暇も抵抗する瞬間も決して与えず、奪うだけの瞬間の為に。

「行きねェ、そのまま直進。窓から飛ぶンだ。捜し物しなきゃなんねェんだろ?」

 背中に気配を感じた瞬間だった。身体が乱暴に投げ飛ばされる。鈍い音と、回転する視界。
 耳には風切り音が聞こえ、目には雨粒が染みた。

「あうっ」

 そのまま蕾は予定のポイントへと落下した。一瞬のことであったが、蕾にとっては長い長い一瞬だった。
 落下した先は帆布を張ったハンモック状のクッションである――本来はここに着地するまでが仕事だった。誰にも手助けされずに。

「へへっ――悪かねェ」

 コスガの右胸部には、深々と刃物が突き刺さっていた。
 けれどオオスカは、怯まずに切り札のピンを抜き、間合いを詰めて両手は顔を鷲づかんだ。
 バケモノは振りほどこうともせず、引き抜いた刃物を振りかぶった。表情は至福ににやけて口角は上がり、目は爛々と狂気に光っていた。

「あんなァ、しんねェだろうけどよ、おめェはぜってェゆるさねェ。俺から『親友』を奪ったおめェだけは」

 蕾の落ちてきた三階の窓からは、目を覆いたくなるほど激しい光の柱、そして鼓膜が破れそうな程の轟音が立ち上った。

「オ、オオスカさん――っ……」

 受け身に失敗したのか、蕾の意識はゆっくりとぼやけて手の届かない闇に落ちていった。

 



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