銀色の雲

火曜日の風

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6章 異世界冒険譚?

8話 ピクニック 3

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 馬車に戻った瑠偉。そのまま馬車は進み、一度休憩をはさみ昼過ぎに現地に到着した。瑠偉は移動中に襲われない様に、常に周囲を警戒していた。その為か精神的な疲労感が、彼女にのしかかっていた。

 瑠偉は緑毛の小動物を抱えながら、馬車降り周囲を見渡した。

 馬車の止まった馬車は、小規模な丘陵地帯で、足首辺りの高さの草が一面に生えていた。その先には30m程の崖があり、そこから少量の水が複数落ちてた。それは滝と言うより、コップから水を注いだかのように細く落ちていた。落ちる途中の水しぶきで、滝には虹が常にかかっており、幻想的な光景であった。

「わー、綺麗なところでですねー」

 瑠偉はレッグに背中を見せながら、ワザとらしく言った。少し振り返り、目線だけでレッグを見た。レッグは、笑顔を見せながら瑠偉近づいてきた。

「ルイさん、少し時間が遅れましたが、昼食にしましょうか?」

 レッグに声をかけられ瑠偉は、街での食事内容を思い描いだ。肉の入ったスープに、硬いパン。とても期待できなかった。

「あのー… お弁当とかですか?」

 瑠偉は振り返り、恐らく知らないと思いつつ訪ねた。

「お弁当とは?」
「(やっぱり知らないか…)えーっと、パンにハムやチーズを挟んだものとか、おにぎりとか… を作って持ってくるんです」

 レッグは瑠偉の言葉を聞いて考え込む。家で食事作り、出かけ先に持っていくという概念がない世界。出先の食事と言えば、木の実や動物や魚を取り、その場で調理して食べるのが常識であった。

「なるほど… 家で作って持ってくるのですか。新しい発想ですね! それで、おにぎり? と言うのは?」
「えー… このくらいの粒で」と瑠偉は手を出し指し、その大きさをレッグに見せる「白くて、粘りがあって… えー小麦の親戚みたいな物です」

 レッグは右手をアゴに当て考え始める「聞いたことは無いですねー」
「ですよね! (確か稲は大量の水が必要でしたね。内陸では生息してないかな? )」

 瑠偉は両手を出し、レッグに手のひらを見せるとヒラヒラと動かした。

「知らないならいいです、忘れてください」
「いえいえ、ルイさんの知識は我々より、進んでいる様です。改めて今度、お話でも聞かせてください」
「そうですね、いずれまたの機会に… はい… いずれ… それで、何を食べるんですか?」

 レッグは、何かを隠しているような素振りの瑠偉に、疑問を感じた。しかし今日は、彼女の気を引くために誘った日。そんな事は、考えない様にしようと思った。

 レッグは瑠偉の抱えている、小動物を指さした。

「それ、捌きましょうか? 新鮮な肉なら、柔らかくておいしいですよ?」
「ええええぇ!」

 瑠偉は抱えている小動物を、胸部まで持ち上げさら守る様に抱きなおした。

「これは、駄目です! 持って帰ります」
「そうでしたね! うっかりです!」

 レッグは苦笑いを見せ、瑠偉から少し離れる。そして小走りで馬車まで行くと、荷台から革袋を取り出し再び瑠偉の所に戻って来た。

「とりあえず、火を起こして飲み物を作りましょう」
「今からですか?」
「ええ、おかしいですか?」
「そんなことは無いですよ… 水は、あの滝から?」
「はい、街の井戸とはまた違った味がします。新鮮で、美味しいですよ」
「そうですか…」

 レッグは革袋を広げると、1枚の布を取り出した。その布を広げると、瑠偉の近くの地面に置いた。1m四方の厚手の茶色い布で、かなり使い古した雰囲気が出ていた。

「こちらにどうぞ」
「はい、ありがとうございます」

 瑠偉はレッグが敷いた布の上に座り込む、それを見届けるとレッグは瑠偉の横を通り過ぎようとした。

「少し待っててください。汲んできます」
「はい、待ってますね」

 瑠偉は笑顔で答える。レッグも瑠偉の顔を見て、先程の失言は気にしてないんだと考え、少し安堵した。そして革袋から、筒状の物を取り出すと、滝の方に向かって歩き始めた。瑠偉は振り返り、レッグの後姿を確かめると、一息ついた。抱えている小動物を自身の前に置くと、その小動物は、何事もなかったように周囲の草を食べ始めた。

「ずーと食べてますね… 草だし栄養が少ないんでしょうね…」

 瑠偉は右手で小動物を愛で始める、頭から胴体に向かって何度も往復させた。ぼんやりと眺め、手に伝わる柔らかい感触を堪能していると、自然と口元が緩んでいた。

「はぁー、これが噂のモフモフかぁー… 癒えるわー」

 瑠偉は食べ続ける小動物を見て、おかしな点気付いた。

 (あれ? 同じ草ばかり食べている気がします… この草、どこかで見たような? )

「まさか!」

 何かに閃いた瑠偉は、小動物の食べている草をもぎ取ると、徐に立ち上がった。

「ちょっと、待っててくださいね!」

 と瑠偉は、言葉が通じるはずのない小動物に向かって言うと、馬車の方へ走っていった。嬉しいのか顔から、笑みがこぼれ落ちていた。馬車に戻ると、ポーチからスマホを取り出し電源を入れた。よし、画像検索だ! と考えながら、手に持っている草を検索に掛けた。

「これは… ステビア※1きたぁぁぁぁ!」

 スマホの画面に表示された検索結果に、思わずガッツポーズまで取り瑠偉は歓喜した。そして、ララに見られている事を思い出しゆっくりと、ガッツポーズ姿勢を解くのであった。

 (見られたかな? まぁ、いいか… これで、飲み物は水! から解放されるわね。草食動物の食べる草は、人間も食べれると説いた先人たちに感謝だわ)

 瑠偉はポーチにスマホをしまい込むと、ポーチを持って元の位置へ歩き始めた。

ーーーーーーーーー
※1 ハーブの一種、甘い草
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