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6章 異世界冒険譚?
7話 ピクニック 2
しおりを挟む瑠偉とレッグを乗せた馬車は、小刻みな振動を両者に伝えながら、森林地帯をゆっくりと進んでいた。瑠偉は、先ほど捕まえた小動物を膝に乗せていた。彼女は右手で小動物の背を優しく撫ぜながら、左手で先程むしり取った草を与えていた。
(全然怖がってないですね。天敵がいなかったからかな? この小さな口、モグモグ動いていて可愛いぃー。えへへ、地球に持って帰れないかなー? )
隣から見ていたレッグは、動物を可愛がる瑠偉を見ていて、どういう状況なのか理解できなかった。レッグたちの住む世界では、ペットはおろか家畜と言う概念が無かった。ごく一部の限られた人だけに移動用として、アルパを飼っているだけだった。
「先ほど言った、ペットとはどんなものですか?」
深追いしない、と決めていたレッグだが、我慢しきれず瑠偉に聞いた。
「ん-、なんて説明すればいいですかね・・・ レッグさんの街には家畜とかは?」
「家畜とは?」
「動物の乳を搾って飲んだり、肉として頂いたり‥‥ 鳥に卵を産ませて食べたり、または肉を食べたり。その為に人の手で繁殖させて、育てるんですよ。いくら管理していると言っても、自然繁殖には限界がありますからね。いずれ数が少なくなって・・・」
瑠偉は学校で習ったことや、テレビなどで得た情報を頼りにレッグに話した。
「なるほど… 新しい発想ですね。人の手で繁殖させるのですか。よかったら、今度詳しく教えてくれませんか? 実は言うと、動物たちの数も減ってきて、困っていたところです。遥か東の街では、クッド族の領域に攻め入って、その恵みを奪おうとしているところですし…」
「そうですか」
瑠偉はレッグの話を聞いて、思い描いた。その現状を…
(なるほどね、資源の奪い合いから、戦争って始まるんですね)
「今度機会があれば、教えてあげますよ」
「瑠偉さんの国は、我々より進んでいるんですね」
「そうです、暮らしは豊かですよ」
「へー、凄いですね」
瑠偉は自慢の表情をレッグに見せた。レッグは尊敬の眼差しで、瑠偉を見返す。
(ふふふ、恐れ入ったか愚民どもめ! あっ、そういえば・・・・ 教団とか、大丈夫かな? 意図的に文明を進めてしまうし)
「大丈夫ですよ」
と、突然に瑠偉の耳元でララの声がした。
「ヒィィ! ドコヨ!」と奇声を上げる瑠偉。瑠偉は腕を振り回し、ララの存在を追うが腕は空を切るだけで、ララの体には当たらなかった。
「どうしたんですか? 突然声を…」
「あっ、いえ。何でもありません、気にしないでください(ララさん、どこにいる? )」
瑠偉はレッグに疑問に返答しつつ、辺りを丹念に見渡すがララの存在を見る事が出来なかった。
「あのー、大丈夫ですか?」
「ははは、大丈夫です。だいじょーぶです」
瑠偉は誤魔化す様に、膝の動物を撫で始めた。
「モクテキチハ、マダカナァー」
ぎこちなく、独り言をつぶやく瑠偉。
(しまったー、棒読みになった。わざとらしかったかな? )
「昼頃に着きますよ」
「そうですか… (よかったー、気にしてないみたい、のかな? )」
おかしな態度の瑠偉に、レッグは気になった。
「馬車とか慣れませんか? もう一度、休憩をはさみましょう」
「そうですね、ありがとうございます」
レッグは前を向くと、アルパからの手綱を握りしめ、馬車の操作に集中し始めた。2人の間に、また沈黙が訪れた。
(また沈黙、キツイ… レッグさん、何かプリーズ! 私の会話知識は、この世界には合わないんですよ! 何か振ってよー)
瑠偉は、レッグの顔色をうかがう。
(やっぱり、このままでいいか? 仲良くなる必要ないし、いやでも。仲が悪くなりすぎると、街に居ずらいし。難しい問題ですね)
進行方向を向き前を見ている瑠偉、目線だけを移動して隣のレッグをチラチラと確認し始めた。
(なにか緊張している表情? これは… まさか! 告白前の緊張か! )
「正解です」
再び瑠偉の耳元で、ララの小声が聞こえた「ヒィィ」と言う声が漏れ、体を震わせ驚く瑠偉。そして声のした方角を素早く向くと、目を凝らし注意深く観察した。
(マジですか… 全く分からない… 光学迷彩って凄いんですね)
2人を乗せた馬車、暫らく無言のまま進んでいった。沈黙が耐えれなくなったのか瑠偉は、レッグの事を気にする様子もなく、景色ばかりを眺めていた。その時、瑠偉の持っていたポーチから、軽快な音楽が聞こえ始めた。
「なんですか! この音は?」
レッグは聞いたことのない音楽に驚き、音のする方を探し始めた。
「止まってください、すいません(しまったー、マナーモードにしてない! )」
瑠偉は慌てて、レッグに言った。
「この音は、私の持ち物です。危険ではありません。とにかく止まってください」
「わ、分かりました」
疑問を持ちながらもレッグは、馬車を止めた。瑠偉はレッグの視線を気にしつつ、馬車を降りるとレッグの視界に入らない場所へ移動した。人ひとり隠れれる太い木を背にし、そのままもたれ掛かる。深呼吸をしポートからスマホを取り出した。
その画面には、<着信 麻衣>と表示されていた。瑠偉は、その画面を見ると眉を顰めた「こんな時に…」と独り言を言うと、スマホの画面をタップし耳にあてた。
「もしもし、麻衣。今立て込んでいるんですがぁ」
『おーす瑠偉ちゃん。デートはどう?』
「だから… なんで知ってるのよ?」
『ふっ、情報を制する者は、世界を制すよ! で、聞いてよー。犬耳イケメンハーレムよ! 最高だわー』
「そ、そう… よかったですね。で、何か用ですか?」
『兼次ちゃんから伝言なんだけど。記憶の復元は難しいから、頭は守れって。なるべく手とか足から食べられろ、って』
「なっ、たべ… って、やっぱり仕組んでいたんですね! そこのセクハラバカに、いつか必ず刺す! と言ってください」
『おっけー、ちょっと待ってね』
電話口の麻衣が離れ、暫らく無言になった。
「もしもーし! 聞こえてる? いちいち言わなくていいんだけど…」
『ねぇ瑠偉ちゃん。卑猥な単語の羅列が、かえってきたけど聞く?』
「結構です!」
『そっか… じゃあ、デート頑張ってねー』
「なにを頑張るの! なにを?」
麻衣からの返事を待つ瑠偉。暫くして、スマホを耳から外し画面を見た。
「切れてるし… まったく…」
瑠偉は考え込みながら、スマホを操作しマナーモードに切り替えた。そしてポーチにしまい込んだ。
(これで、襲われることが確定したわね。地球に帰ったら、激しく抗議ね)
「ララさん、大丈夫ですよね? 護衛してくれますよね?」
瑠偉は、何気なく右を見た。周囲に居るであろうと思われる、ララに向かって話しかけた。だが返答は無く、瑠偉は辺りを注意深く見渡す。
「反応なし… まぁ、いいです」
瑠偉はレッグの待つ馬車に向かって、ゆっくりと歩き始めた。少し歩いたところで、右手を振り払い、勢いよく振り返った。
「そこかぁー!」
瑠偉は一人でおかしな動きをしている自分の姿に、恥かしくなってきたのか、伸ばした右手を、ゆっくりと戻すと。お腹のあたりで腕を組んだ。
(背後じゃなかったか… てか独りで、何してるんだろ… 戻るか…)
瑠偉はレッグの待つ馬車へ、ゆっくりと歩き出した。
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