銀色の雲

火曜日の風

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6章 異世界冒険譚?

4話 出発

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 瑠偉がベッドに横になり、数十分が経過した。

「ルイさーん! レッグちゃんが来ましたよー!」

 ノックをする事を、さっぱり忘れたファルキアが勢いよくドアを開けた。ドアから半身を出し瑠偉の方を笑顔で、呼びに来た。早く早くと言いたいのか、右手で手招きを忙しくしていた。瑠偉は頭だけファルキアの方を向き、愛想笑いでそれに答えた。

 (はは、もうノックのこと忘れてる。先が思いやられるわね…)

 瑠偉はポーチを手に取るとベッドから降り、立ち上がるとファルキアに向かって歩き始めた。

「お嬢様、行ってらっしゃいませ」

 瑠偉は途中でララに声を掛けられ、ララの方を見た。何時もの無表情だが、なぜか今回だけは、目が笑っているように瑠偉は感じた。瑠偉は、その感覚に不安を感じた。そして、先程貰った小指があるか確かめる様に、スカートのポケットに手をねじ込み、その小指を握りしめた。瑠偉の手に冷たくスベスベした金属質の感触が、手一杯に広がった。その時、その小指が動くと瑠偉の親指にそっと巻き付いた。

 (うぁぁ… 動いたよー、キモいよー…)

 微妙な表情を見せる瑠偉。それを見たファルキアが、心配そうに声をかけた。

「どうかしましたか?」
「な、何でもないです。気にしないでください」

 ファルキアの後を追い、宿屋の入口へ向かう瑠偉。嬉しそうな仕草で、鼻歌交じりにファルキアを瑠偉は、ぼんやりと眺めて歩いていた。

 (なぜ、こんなに嬉しそうなんだろう? これは、昔地球に居たと言われる、お節介お見合い斡旋おばさんか? と言うか、ファルキアさん年齢不詳過すぎです。今度聞いてみようかな…)

 階段を降りると、宿屋の受付の先にレッグが立っていた。何時も着ている高級そうな、領主の衣装ではなく、かなりラフな姿をしていた。簡素なズボンに、上着は布を羽織っただけの着こなしである。染色はされておらず、麻で様な素材そのもの色であった。その服を腰辺りで紐で縛り、そこには剣が刺さっていた。背中には弓と矢筒を背負っていた。

「おはようございます、ルイさん」
「おはようございます」

 レッグは右ひざを床に付けると、右手を瑠偉の方に差し出した。瑠偉より背の高いレッグの顔が、瑠偉の正面に現れた。

「今日の服は、とてもお似合いですよ。その綺麗な髪、そして肌、とても輝います」
「ありがとうございます」

 背中が痒くなりそうなキザなセリフ… と思いつつ瑠偉は、愛想笑いでレッグに答えた。
 レッグは立ち上がると、瑠偉の右横に並ぶと左手を前に出し、前に進むように促した。
 瑠偉はゆっくりと出口に向かって歩き始めた。

 宿屋の出入り口を抜けると、宿屋の前に馬車らしき見た目の物が止まっていた。それを引いているのは、先日瑠偉が乗ったアルパと言う生き物だった。そのアルパからロープで、馬車に繋がっていた。馬車は2人乗りで、人の座る場所の後ろには簡素な荷物を置くスペースがある。とても簡素な2人乗りの馬車である。

「クレハから、アルパに直接乗れないと聞いたので、座れるものを用意しました。移動速度は落ちますが、乗りやすいですよ。若干揺れますが、すぐに慣れます」
「そ、そうですか…」

 瑠偉は、その馬車の車輪を見た。その車輪は、荷台に直に付いており、とても簡素な作りだった。

 (この車輪、木ですね… そして直付け… クッション性が一切ないわね。それに座る部分の背もたれが腰までしかないです。さらに座る部分も木その物、これもクッション性無しですね。これは、乗り心地は最悪でしょうね。私の体は、耐えれるかな? )

 馬車を見て固まっていた瑠偉を見て、レッグは声をかけた。

「どうかしましたか?」
「な、何でもありません。乗りましょう」

 瑠偉はレッグを振り払うように、馬車の乗車部分に駆け上がり腰かけた。膝にポーチを置くと、その上に手を置いた。レッグは瑠偉が乗るのを見ると、自身も馬車に乗り込んだ。

「それじゃあ、行きましょう」

 レッグは手綱を握ると、それを操作するとアルパは歩き出した。馬車もアルパの動きに合わせ動き出す。アルパは、よく調教されているようで、地球の飼いならされた馬の様に静かに歩き馬車を引いていた。

「こういった物を乗るのは、初めてですか?」
「はい、初めてです」
「そうですか、ルイさんの国では、どのような乗り物があるのですか?」
「自動車とかですかね… あっ」
「え? 自動車とは?」
「これに似たような物です。まぁ、忘れてください。(はは、ミスった)」
「そうですか… まあ、深くは追及しませんよ」
「そうしてください」

 馬車は、街中をゆっくり走っている。瑠偉は移動速度の遅さに困惑していた。道を歩いている人を見る、その歩いている人より若干早い程度であった。

「あのー… この速度で現地まで?」
「ご心配なく、街を抜けたら速度を上げますよ」
「そうですよね」

 それから、沈黙がつづく2人。瑠偉はこの地に来て、まだ数日である為。この世界の現状が、詳しく分からず何を話していいか分からなかった。

 (映画の話? 小説の話? 音楽の話? この世界にはない物ばかり、私の知識が全て役に立たないよー。沈黙がつらい…)

 瑠偉は、何気なく隣のレッグを見た。レッグの腰の剣、そして矢に矢筒。それを見て違和感を感じ取った。

「あのー、なんでそんなに武器を?」
「ああ、これですか。一応安全な場所ですが、念の為ですよ」
! だ、大丈夫ですよね?」
「大丈夫です、何も起きませんよ」
「ですよね、ははは… (でた! 呪われしセリフ! )」

 2人を乗せた馬車は、街を抜けると北の森へ向かって進んでいくのであった。

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