銀色の雲

火曜日の風

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6章 異世界冒険譚?

3話 [定型文]何も起きません

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 ───ファルキア亭翌日

「お嬢様、おはようございます」

 ベッドで目を覚ました瑠偉は、朝一番にララに声をかけられた。瑠偉は上半身を起こしたが、疲れが抜けないのか体が重く感じていた。

「おはよ… なんか、疲れが抜けないです。ベッドも固いし、精神的な疲れもあるし」
「今日の楽しいデートで、療養するといいですよ」
「楽しくないです!」

 瑠偉はベッドから立ち上がると、乱れた服を整えながら考え始めた…(昨日貰った服、結構生地がいいわね。最初の服より、柔らかくて寝やすいですね。でも、柔らかい生地のパジャマが欲しいですね)

「今日はララさんも、一緒にきてくれるんですよね?」
「デートは、2人きりでするものでしょう。楽しんできてください」

 服を整え終えた瑠偉は、ララの方を向き強い口調で言った。

「ララさんは、私の護衛ですよね? ついてきますよね?」

 ララは右手を上げると、瑠偉の目の前に差し出した。その右手の皮膚が、周りの景色と同化しはじめると、肘から先が完全に見えなくなった。それを見ていた瑠偉は、目を丸くしながらその光景を眺めていた。

「光学迷彩です。姿を隠して、遠くから見守っています」
「ああぁ… そうですか。2人きりですか…(迫られたら、どうしよう? )」
「さあ、朝食に行きましょうか」

 瑠偉は重い足取りで、1階の食堂へ向かった。
 1階に降りるとヨルグに食事を頼み、席についた。両肘をテーブルに置くと、正面のララに話し始めた。

「ところで、トイレの臭いの件ですが?」
「私が一緒に入る事が出来れば、オゾンを発生させて消臭します」
「(こ、これは… 録画される可能性があるわね)一緒に入るのは駄目です」
「なら、我慢してください」
「お風呂とかは? 濡れた布で体を拭くだけとか、髪がゴワゴワだし、シャンプーで洗いたいし。臭いも気になるし」

 瑠偉は自身の腕を、鼻の近くに持ってくると腕の臭いを確かめた。さらに上着の襟の部分をつかむと、その部分の臭いも確かめた。

「残念ですが、入浴の風習はありません」
「麻衣達… お風呂に入ってそうな気がするけど?」
「マスターに『お風呂に、一緒に入りたいです』とお願いすれば、入れますよ?」
「えぇー、それは嫌ですね」
「なら、諦めてください」

 瑠偉は諦めの溜息を吐くと、手を顔のあたりまで上げ指を組んだ。その上にアゴをのせると、首をわずかに横に振りながら考え始めた。

 (最低でもシャワーを浴びたい。レッグさんの家にあるかな? 領主でお金持ちだし。でも、これ以上親密になりたくないし… どうしよう?? そうだ、クレハさんに相談してみようかな? )

「レッグさんの家にはシャワーはありません。クレハさんに聞くと、街の外に連れていかれて、川で水浴びになります」
!」

 まさか顔に出ているの? …と思った瑠偉は、手を頬にあて触り始めた。

「ミクロ単位の表情の変化と、膨大な行動解析ビッグデータから読んでいます」
「そうですか…(さすが、自称銀河最強AI)」

 会話をはじめ数分、瑠偉の真横にヨルグが現れた。右手に四角い板を乗せ、その上に朝食が1人前分置かれていた。

「はい、どうぞぉー 
「ありがとうございます。(なぜ一人分を強調するの! )」

 瑠偉は、デーブルに置かれた食事を見た。そこには昨日と同じ、スープとパンのみだった。瑠偉はパンを手に取ると、スープに浸し口に運び始めた。

「また同じ食事、飽きた。まずいです」
「地球人も、毎日同じ朝食を取っている人が、大勢いますが?」
「いちいち、揚げ足取らないでください。そんな事より、なにか面白い話題は無いですか? 下ネタ以外で!」
「たとえば?」
「最近地球で、バズってる事は?」
「最近と言っても、地球から離れて5日しかたっていないですが? それに、スマホでバズりネタは見れますよね?」
「まぁ、そうですが。ならば、ララさんのマイブームは?」
「そうですね。最近は、私の本体にハッキングしている地球人達を、お仕置きするのがマイブームです。所在を特定し、痴態をSNSに晒し、所有資産をゼロにします。そして、国民番号を抹消して、社会的に撲殺します。とても爽快ですね」
「へェー、エグイですね… (AIって、爽快の感情を理解できるのかなぁ? )」

 パンを食べ終えた瑠偉は、残ったスープの汁と具材をスプーンで突きながら聞いていた。瑠偉の口の中は、先ほど入れた肉の切れ端の臭いが、纏わりついていた。

「今日の肉は、いっそう生臭いですね」
「今日は、爬虫類の肉です。その為でしょう」
「はっ、はちゅうぅぅるぃー (聞きたくなかったよー)」

 瑠偉は頭の中でトカゲの姿を思い浮かべると、嫌悪の表情でスプーンを置いた。そして立ち上がると、食事が載っている板を持ち上げた。

「残すのですか?」
「聞いたら、余計に食べられなくなりました。部屋に戻ります」

 食器をカウンターに戻した瑠偉は、階段を上り自室に戻った。瑠偉は、そのままデートに出発するまで、横になろうとベッドに向かおうとした。

「お待ちください、お嬢様」

 ララに呼び止めあられた瑠偉は、歩みを止め振り返るとララを見た。

「なんですか?」
「これをお持ちください」

 瑠偉に近寄ったらララは、瑠偉に細い棒状の物を渡した。受け取った瑠偉は、受け取った物を顔の前で確認し始めた。その形状を見て、嫌悪な顔を見せた。それは、人の指であった。

「ゆ、指?」
「はい、私の小指です」
「意味わかんないんですけど?」
「それを敵に向かって投げて頂ければ、私が操作して必ず命中します」
「て、敵? 昨日、事件の予定はないって言いましたよね?」
「はい。ですが… 万が一の為です。私の救護が、間に合わない時の為です」
「えぇぇー… なにが起きるんですか? 山賊でも出るんですか?」

 ララは瑠偉に近寄って、両肩に手を置いた。そして、瑠偉に顔を近づけた。

「大丈夫です、何も起きません」
「ははは… (あぁー、何か起きるんだ。余計に行きたくなくなったわ)」

 大きな溜息をした瑠偉は、持っていたララの小指をポケットにしまいこんだ。肩を落とし、ゆっくりと歩き始めると、ベッドに腰かけ横になる。瑠偉はそのまま、デートの時間になるまで待っていることにした。

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