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5章 寄せ集めの村
15話 出たぁー
しおりを挟む両脇に並ぶ牢屋、各牢の上部から朝日が差し込み、線状になった光が通路に差し込んでいた。兼次は、その光を遮りながら通路を奥に進んでいった。犬耳男子たちが、収容された牢を過ぎると、人族の男囚人たちが収容されている区間があった。彼らは、虚ろな目で牢の外を歩いている、兼次を見ていた。
(かなり疲れているようだが、強制労働か? まあ犯罪者だろうし、助けないけどな…)
男囚人区間が過ぎると、女囚人が捕らわれている区間に差し掛かった。彼女達も、男囚人と同じように、健康状態が悪いようで、痩せ気味の体つきをしていた。
(健康体なら、可愛い女だろう… だが、手癖の悪い奴は側に置けないな。それに人族なら、地球に居るしな)
兼次は女囚人達を見まわした。彼女達も兼次を見るが、特に反応することもなく、兼次を一瞬見るだけで、反応は薄かった。そして先程聞こえていた小さな声が、大きく聞こえてきた。
「こっち、こっち! こっちだよー!」
兼次は声の主を見た、格子の牢を両手で叩き叫んでいるトッキア族の女性が居た。兼次は、その牢の前まで移動する。そして、彼女と向かい合った。
「私も、だしてよぉー!」
彼女は兼次が前に来ると、牢を叩くのをやめた。自身より背の高い兼次を見上げ「えへへ」と、優しい笑顔を見せた。兼次は、そんな彼女を頭の三角耳から、順番に目線を下し観察した。
(ふむ、髪は手入れがされてないが、綺麗な茶色ロングか。眉毛は、長めのハッキリ。瞳は大きめで、湿りウルウル系か… 胸はB強ってとこか… ウエスト、ヒップラインよし… 顔、体とも俺の好みだな。お持ち帰りするとして、問題は性格だが…)
「ねえ、黙ってないで出してよ!」
「犯罪者を、出すわけにはいかないな。大人しく、刑期を全うするんだな」
「うにゅー! 私、悪いことしてないもん!」
「なるほど、行動に自覚無しか。やっかいだな… メンヘラか?」
「メンヘラって、なに? とにかく、出してよ!」
「本当に、何もやってないのか? 何もやってないなら、なぜここにいる?」
「ちょっと… 落ちていた果物を、拾って食べただけ! 盗んでないもん!」
兼次は目線を彼女の尻尾に移した、彼女の尻尾は上に向かって、真っすぐ伸びていた。
(たしか、尻尾のピン立ては『甘えたい』だったかな? しかし、落ちていた物を拾っただけで、普通捕まるのか? …ん、落ちてた? )
「その、落ちていた果物ってのは、店の前に落ちていたのか?」
「うん、そうだよ。お店の前の大通りに、落ちてたの!」
「その店の棚から落ちた、と言う可能性は?」
「知らない! 私が見た時には、落ちてたの! 落ちている物は、お店の物じゃないよ!」
(まぁ、グレーゾーンだな。その辺は、躾で何とかするか)
「それで俺が、お前を助ける。として、俺に何か得する事があるのか?」
「お前じゃないの! ニアって言うの!」
「じゃあニアよ、どうする? 出たいなら、それなりの返礼を要求するぞ?」
ニアは腕組をして、目を閉じ尻尾を左右に揺らし「うぅーん、おかえしかぁ…」と小声を出しながら考え始めた。そして勢いよく目を開くと、右手を牢から突き出し人差し指を、兼次に向けた。
「じゃぁー、彼女になってあげる! どうかなー?」
「ほぅー、彼女にねー」
ニアは肩に掛かっている、長い髪を両手でかき上げる。そして両手を膝に当てると、後方に尻を突き出し、二の腕で胸を挟み込んだ。そして下から覗きこむと、笑顔を見せた。
「どうかなー、かわいいでしょ? ごうかくかなぁ?」
「よし、合格だ! (自分で言うなよ… まぁ、かわいいけど)」
兼次は、牢の出入り口の柵に手を掛けた。そして、力任せに引くと乾いた割れる音共に、柵を閉ざしていた南京錠が砕け散った。扉が開くと、ニアが駆け寄り兼次に抱き着いた。
「しゅごい、しゅごい。強い、強いの?」
「おお、強いぞ。ぶっとんで強いぞ」
「おおおー、しゅごいー」
ニアは抱き着いた状態で、兼次を見上げた。兼次は、ニアの顎の下に手を当てると、優しく擦り始めた。
「はぅはぅ… なに、なにー、きもちいぃよぉー」
ゴロゴロ、ゴロゴロ… と、ニアは喉を鳴らし始めた。
その一方、麻衣達は…
リディと捕らわれた男達と再会を喜んでいるはずだった。
「リディ、奴らとつるむとは、どういう事だ?」
「お前達、落ち着いてくれ!」
リディは、取り囲まれた男達を、必死に説得していた。その近くには、動画撮影を終えた麻衣が、微妙は表情で遠巻きで静観していた。
「あ… あのー… おちつこーよー…」
麻衣自身、大きめの声を出したつもりだった。だが彼らには聞こえていないのか、騒ぎは止まることは無かった。
「きいてねー」
麻衣は溜息と共に、通路の奥を見ると、兼次が歩いてきたのが見えた。そして、その横にニアが、兼次の腕に抱き着いて横を歩いていた。
麻衣は腕を出し、ニアに向かって指を指し叫んだ。
「あぁぁぁーーーー!!!」
歩いていた兼次とニアは、麻衣の近くで止まった。ニアは麻衣を見ると、手を上げた。
「おーっす、ニアだよ。かっちゃんの彼氏だよー、よろしくねー」
麻衣がニアを指している指先が、細かく震え始めた。
「で、出たぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
それを見た兼次は、鼻を摘まんだ。
「おいおい、こんな所で漏らすなよなー」
「ちゃうわー! チョロインよ! チョロインが出たのよ!」
「チョロイン? なんだそれ?」
「チョロインとは、出会ってすぐに好意的になる、チョロいヒロインのことよ! そんなすぐに『貴方が好きなのー、彼女になってあげるー』とか、ありえなんだから!」
「そうか? 弱気をくじき、強きになびく。猫の本能だろ?」
「えーー… なんか違う気がするんだけど… 」
「それより、その揉め事は、いつ収集するんだ?」
「さあ? はは… リディちゃん、押され気味だぁ…」
麻衣と兼次は、リディ達を見た。相変わらず、リディと男達は、騒がしく揉めていた。
「しゃーねなー… ニア、そこのベッドに上がって待ってろ」
「うん」
兼次は呼吸を整えると、右手を握りしめに力を集中した。手を広げると同時に、直径20cmほどの光球が出現した。そして、光球は勢いよく天井めがけて上がっていった。
ドゴーーーーン!!!
という大きな音と主に、天井で爆発が起きた。天井には大きな穴が開き、木造の屋根の細かい破片が、雨の様に兼次に降り注いでいた。リディと男達は、その大きな音と主に一斉に、その音がした場所を見上げた。
「なんだ、なんだ…」
男達は、各々に何が起きたか分からず、驚きの声を上げていた。
「よし、お前ら詳細は村長に聞け。帰るぞ!」
と兼次は大声で言うと、十数人の男達は一斉に浮かび上がった。男達は何が起きているか分からず、手足をバタバタさせながら、「なんだ、なんだ」と叫び始めた。
「麻衣はリディを運んでくれ。俺はベッドで、ニアとイチャイチャする」
「おっけぇいー! 私も早く帰って、ルディちゃんとイチャイチャしないと…」
「いいか、落とすなよ、絶対に落とすなよ?」
「えっ、フリ?」
「まかせた」
リディは前日の落下事件を思い出し、不安な表情で麻衣を見た。
「お… 落とす?」
「ヤダなー、そんな事しないって! 大丈夫だよ、大丈夫!」
麻衣はリディの肩を軽く数回たたくと、彼女を抱え飛び上がった。
「まて! 落とすのか?」
「しないって! 安心して… たぶん…」
「たぶんだとぉー!」
兼次は麻衣達が、飛び上がるのを確認すると、ニアの待つベッドに飛び乗った。
「よし、わが村に帰るぞ!」
「おぉぉぉぉー!」
ニアが嬉しそうに右手を上げると、ベッドは浮かび上がった。近くにあった、もう一個のベッドも浮かび上がる。
「おぉぉー、浮いてる浮いてるよー」
「ニア、落ちるなよ」
「うん」
ニアは兼次に抱き付いた。そしてベッドは、さらに上昇し天井の穴から飛び出し、大空へ駆けあがった。その日、クトスオジラウ街では浮かび上がるベッド2つと、手足をもがきながら空を飛んでいる、十数人の人型の影が多数目撃されたと言う。
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